僕に翼があったなら

まりの

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籠の鳥

そんな覚悟できてない

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「えっ!? 今夜フェドル王の所に?」
 仕事あけのリンドさんが部屋に来てくれたけど、僕はお世話係のおばさんに綺麗な服を着せてもらってる真っ最中。さっきはお風呂で隅々までピカピカに磨かれて髪も梳いてもらった。
「うん。優しいんだよぉ王様。僕が王様のものになったら、ルイドの魔法を解いてくれるって約束してくれたもん」
「……シス、意味がわかってるのか?」
 あ、リンドさんの顔が怖い。
「意味って、王様が僕を飼うって事でしょ? ルイドの代りに」
 はああっ、とリンドさんが溜息をついた。何? 何か間違ってる?
「私も知らずに襲うところだったが……まだまっさらなのにっ!」
 がしっと抱きしめられた。折角結んでもらった服の紐が解けちゃう。
 おばさんの咳払いで、リンドさんが慌てて離れた。
「さあシス様。王様がお待ちですよ」
「メナ、お世話係のくせによく平気でシスを王の所に行かせられるな」
「目出度い事ではございませんか。王のご寵愛を受けられれば、シス様は誰よりも幸せにおなりですよ。それとも臣下の身で嫉妬ですか?」
「くっ!」
 何かおばさんとリンドさんが言い合ってるが、早く行こうっと……あ。
「王様のお部屋って何処?」


 結局、リンドさんが王様の部屋の近くまで連れて行ってくれる事になった。お世話係のおばさんはその階に上がれないんだそうだ。
「ああ、心配だ……」
 リンドさんは階段を昇る間ずっと言ってる。
「僕、王様に気に入ってもらえるよう頑張る。心配しないで」
「ううっ。そんな無邪気に言われると余計……」
 何で涙目になってるんだろうな。
「私はここまでだ。この突き当りが王の寝室だから」
 そう言い残して、泣きながらリンドさんが走って行った。だから何で泣いてるの?
 一際大きな扉。色も飾りも他の部屋と違う。
 とんとんってしてみた。
「シスです」
「お入り」
 低い良く響く声が聞こえた。
 扉を開けると、ふわっといい匂いがした。ランプだけでそんなに明るくは無いが、花の飾りの柱や台、椅子も何か豪華。奥に何人寝られるんだろうっていうベッドが見える。上からひらひらした布がぶら下がってるし、床にはふかふかした敷物が敷いてある。裸足で歩くと気持ち良さそう。
 王様は、ソファーみたいなのに座ってたが、僕が部屋に入ると立ち上がった。夕方見たズルズルの服じゃ無く、膝下くらいの飾り気の無い白いストンとした上に足首くらいまでのズボンという楽そうな格好。寝間着なんだろうか。
「こちらにおいで」
 言われるまま近くに行くと、王様は僕を一緒に座らせた。この部屋のいい匂いは王様からしてるみたい。
「王様、とてもいい匂いです」
「そなたも。ああ、よく顔を見せておくれ」
 またじぃっと見つめられた。この目は苦手。青い鋭い目で真っ直ぐに見るこの王様の目は、狩りをする獣のよう。つい、目を逸らしてしまう。
「あ、あの……」
「恥らっておるのか? なんとも可愛らしい」
 恥ずかしいと言うより、食べられる獲物の気持ちになったなんて言えない。とりあえず首だけ振っとく。
「腹は空いておらぬか?」
「ちゃんと食べて来ました」
 手をぺしってされながらね。美味しいのかどうなのかわからない。
「では何か飲み物を持って来させよう」
 王様、とっても優しい。そんなに気を遣ってくれなくてもいいのに。
 パンパンって王様が手を叩くと、何も言ってないのにしばらくして白い器に入った飲み物が運ばれて来た。使用人らしき人は置くだけ置いて、顔も見ずにさっさと出て行った。
 しーんと静かで落ち着かない。王様に気に入ってもらうにはどうすればいいんだろう。僕にはあの篭の鳥のような綺麗な声は出ない。怖くてまだ鏡を見てはいないけど、マルクさん達が言うように僕が本当に綺麗なのだとしたら、ただこうして側にいればいいのかな。
 勧められるままに飲み物を口にした。甘くて果物の匂いのするとても美味しいものだったが、しばらくするとお腹がほかほかした。顔も熱い。
「酒ではないか。間違えおったな。大丈夫か?」
「なんだかぽかぽかして気持ち良くなってきましたぁ」
 王様が僕の肩を抱き寄せた。人間は人とくっつくの好きだね。
「頬が紅に染まってまた何とも……」
 大きな手が僕の頬を包んで、王様の方に顔を向けられた。また、真っ直ぐな目が僕をじっと見てる。近くで見ると、口の端と目尻に微かにしわが刻まれている。やっぱりお姫様とよく似た顔。でも黒い髪は見ていて落ち着く。僕のぼんやりした記憶の中で、顔は思い出せなくても大事な人は皆黒髪だったと思う。だからかな?
 王様の目が閉じられたと思うと、近づいてきて僕の頬にちゅってした。
「まるで果物の様に柔らかくて美味しそうだ」
 美味しそう? うっ、ひょ、ひょっとしてっ……!
「王様も男の子をご馳走様しちゃう人ですか?」
「面白い言い回しをする。リンドの事か? あれはもうそなたに手をつけおったのか?」
「い、いえ。食べられてません」
 口の中味見はされたけど……。
「そうか。ではフレネイアは?」
「ちゅってされただけ」
 僕が揉み揉みさせてもらったのは黙っておこう。
 王様はにっこり笑った。何だろう、笑ってるのに何だか怖い。
「では、まだ誰も手を付けてはおらぬのだな? よろしい、ワシが始めてそなたを頂くのか。ここに来たという事は覚悟は出来ておるのだな?」
 え? いただく?
「か、覚悟っ……」
 王様のものになるって、食べられちゃうって事だったのか! 意味わかってるのかってリンドさんが心配してたのはこういう事だったのか! わーん、そんな覚悟出来てないよぅ。初めても何も食べられちゃったら終わりだよぅ。
 でも約束しちゃったし。ルイドのためだし……。
「おや、目に涙が溜まっておるが……大丈夫だ、優しくするから」
 優しくも何も……。
 僕が何かいう前に、強く抱き寄せられて、今度は唇にちゅってされた。さっきの甘い飲み物の匂いと、王様の花みたいな匂いが混じり合って、頭がくらくらっとした。
「ここへおいで」
 王様は自分の腿の上にとんとん、と手をやった。上に乗っちゃっていいのかなぁと戸惑ってると、引き寄せられて座ったまま抱っこされる形になった。僕の手をとって自分の肩に乗せると、王様はまた顔を近づけてきた。
 顔を傾けた王様の唇がもっと深く重なって、歯をこじ開けるように舌が入ってきた。
 王様も僕を味見するんだ……息が苦しくて、すこし口を開けると、更に舌が入ってきた。中を舐められて、僕の舌に吸い付くように絡まってくる王様の長い舌。上顎の裏側を舐められた時、何だかちょっと変な気持ちになった。
「んっ……」
 飲み物のせいで体がぽかぽかしてたのが、もっと熱くなった気がする。頬も。
 これ……何? なんかむずむずする。
 やっと王様の口が離れた。味見がすんだのかな?
 でも……何でだろう。もっとして欲しいような、変な気持ち。
「場所を変えよう」
 膝の後ろに手をいれて、僕を抱いたまま王様は立ち上がった。わあ、力強いんだ。ふわっと体が浮くと、飛んでるみたいで気持ちいい。ぽかぽかは全身に広がって、ちょっとぼうっとしてきた。
 抱っこされたまま着いたのはベッド。すごく丁寧に降ろされて、ふわんと体が沈む。このまま寝たら気持ち良さそうだな……。
 勿論寝かせてはもらえなかった。僕の上に王様が被さってきて、もう一度深く口を重ねられた。くちゅくちゅってする王様の舌、僕、やっぱり変。やめないでって思える。あ、でも離れちゃう……。
「……見てもよいか?」
 ぼうっとしてると、王様が聞いた。何を? そう思ったけど、黙ってると服の紐がするっと解かれた。前で簡単に合わせただけの服だから、簡単に脱げちゃう。かなり恥ずかしい。
「綺麗な肌だ……」
 するっと王様の手が胸を撫でた。途端にぞくぞくっと背中に何かが走り抜けた。
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