僕に翼があったなら

まりの

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巣立ち

二つの綺麗な顔

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「これが小屋ですか?」
 小屋。人間の巣に屋根があると言う事はすでに思い出している。僕は知らない間に言葉や物の名前についてはそう困らない程度にはわかるみたい。
 ただ、もう一つ思い出したことがある。恐らくここは僕が知っている国じゃないって事。他の国どころか、違う星か、或いは違う世界ではないのだろうか。いつも何とも思っていなかったが、昨夜空を見上げて思った。月って一つじゃなかっただろうか? ここでは夜、空には二つ月が昇る。違う世界の言葉なのになぜ普通にわかるんだろう。頭の中で勝手に翻訳されているのかな。
 ……いや、そんな事はどうでもいいや。
 小屋だよ、小屋。木で作られた小さな家を想像していたのに、立派な石造りでかなり大きいよ? 意味も無く模様とかあるし、花とか咲いてるし。
「マルク、ラルク、フレネイアよ」
 お姫様が扉についてる輪っかをトントンして、大きな声を出した。
 しばらくして、扉は中から開いた。外はもう薄暗いのに建物の中は明るいのか、光が漏れてきた。人間の手と一緒に。
 ここにも人間がいるんだ! わあ、これで三人目だね。
「お帰りなさいませ、姫様」
 春に鳴く小鳥の様な綺麗な声。そして現れたのは……。
 最初は逆光でよく顔が見えなかった。でもお姫様を招き入れるのにその人が一歩下がったら……見えた。
 多分僕、ぼけ~っと顔を見て固まってたと思う。
 綺麗……。
 い、いや、まだそんなに沢山の人を知らないし、どういうのが人間の基準で美しいかとか、魅力的なのかとかわからないんだけど、お姫様もリンドさんも多分相当綺麗でカッコイイんだろう。芸能人という言葉が浮かぶ。でも今出てきた人を見て感じたぞくぞくっとするような感じは二人に無い。
 人間だよね? 崖に咲くお花みたいな紫の髪と濃い色の肌。沈む寸前のお日様みたいな赤い目。そんなに大きくない。僕より少し背が高いくらい。
「どうした? 入りなさいシス」
「は……はいっ」
 リンドさんに肩を軽く押されて中に入る。
「そちらのお嬢さんは?」
 綺麗な人が僕を真っ直ぐに見た。お嬢さんって……メスの事でしょ?
 僕が口を開く前に、お姫様が説明してくれた。
「シスよ。森で拾ってきたの。可愛いけど男の子だから」
「そ、そう……なんですか?」
 何、僕ってそんなにオスに見えないのかな? きっとこのひらひらの服のせいだと思うんだけど。
「シス様ですね。わたくしはラルク。姫様の使用人でございます」
 お辞儀をする仕草さえ素敵だと思った。この綺麗な人はラルクさんと言うんだな。覚えておこう。綺麗だけど胸の膨らみ無いからオスみたい。
 奥に通されて、ふかふかしたものにお姫さまが座った。僕とリンドさんもその横に座るように言われたので従う。
 何か両方からぐいぐい押されてて潰されそうなんだけど……。
「ラルク、マルクは?」
「姫様のお帰りを感じて、今食事の用意を」
「さすがね。一人分増やすように言っておいて。あとお湯を用意して。久しぶりに温かいお風呂に入りたいわ」
「かしこまりました。湯はすでに用意してございます」
「気が利くわね、相変わらず」
 ……何だか会話の内容は「?」だったが、なんだか気の毒な気がする。ここにはもう一人いるんだな。わあ、人間が四人も……。
 ラルクさんが行ってしまうと、お姫様は僕を抱き寄せて言った。
「今日はここで休んで、明日王都に帰りましょう。そうだ。シス、一緒にお風呂に入りましょうか? 隅々まで洗ってあげるわよ」
 ほえ? お風呂……えっと体を綺麗にするところの事だね。洗うって事は素っ裸になるって事で……。
「姫様、シスは男の子ですよ。ここは私が一緒に入っ……」
 リンドさんは最後まで言わせてもらえなかった。口を押さえられて。
「ケダモノに変身するからダメ」
「自分だって同じでしょうが」
 笑いながらものすごく見つめ合ってるね。仲いいんだね二人は。
 さっきの綺麗な人が戻って来た。ラルクさんだね。
「へえ、こりゃ確かに……」
 何だかさっきとほんの少し雰囲気が違うような。もっと大人しそうな感じだったんだけど……僕の思い違いかな?
「お食事の用意が出来ました。それとも先にお湯になさいますか?」
 僕の顔を見てた視線をお姫様に移して、微笑んだ顔はお花みたい。
「先にお風呂に行くわ。シスも来る?」
 僕がぶんぶん首を振ると、今度はリンドさんに抱き寄せられた。
「ご婦人はお一人でごゆっくりと」
「リンド、あんたも一人でね。そうだマルク、シスはあなたに任せるわ」
 そういい残して姫様が行ってしまった。
 ん? マルク? ラルクさんじゃないの?
「では私が綺麗にして差し上げますね」
 リンドさんの手を解いて、僕の手を握った綺麗な顔がにっこり笑った。
「……マルク、この子に意地悪するなよ」
「リンド様ったら嫌ですねぇ、私がその様な事をすると?」
 あ、この二人も見つめあってるよ。皆仲いいんだねぇ。なんか微妙にちくちくした空気なのは気のせいなのかな……。

「は、裸になるんですよね?」
「勿論です。脱がないと洗えませんよ?」
 お風呂場。ドアの向こうからホカホカした湯気が漏れてくる。
「同じ男ですよ。恥ずかしがる事は無い。脱がしてあげましょうか?」
「い、いえ自分で脱げます……」
 覚悟を決めて服を脱ぎ始めた。うう、こんな綺麗な人にアレを見られてしまう。髪を切ってしまったので手で隠すしか無いじゃないか……。
「……これは上玉だ……ほら、手をのけて」
 何て言ったの? いやん、手は退けたくない。でも何で手首持って引っ張るの? 見ても面白くなんか無いよ?
 恥ずかしがってると、ドアが開いた。うわ、結局来ちゃったのお姫様?
「マルク一人でずるいじゃない!」
 あれ、お姫様じゃない……って、えええええっ?!
「ちっ、ラルクまで来たのか」
「だってあのフレネイア様とリンド様が、揃って取り合いする子だよ? どんな体してるのか見たいじゃない」
 お、同じ顔が二つ。同じ顔が喋ってるっ。
「見てみな、ラルク。この真っ白な体。顔だけじゃなくて体も可愛いぞ」
「わあ、本当だね。ふふ、怯えちゃってるよ? 大丈夫だよ、小鳥ちゃん。お兄さん達がキレイキレイしてあげるだけだから。いきなり手を出すと姫様達に殺されそうだからね。あ・ら・う・だ・け」
 綺麗な同じ顔が二つ、満面の笑みで近づいてきた。

 ……なんか怖い。
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