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巣立ち
ケダモノはかく語りき(リンドside)
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ああ……。
小さな人影が木の上から私の胸に飛び込んで来た瞬間、心の蔵を弓矢で貫かれた気がした。
早朝の日の光を溶かしたような明るい金の髪、澄んだ泉を思わせる薄青の瞳。赤い血では無く乳でも流れているのでは無いかと疑うような白い肌。腕に抱いた感触は赤子のように柔らかだった。何だろう、この子は。
今まで誰かを見てこんなに美しいと思った事が無い。
我故郷であるトトイは他国から「美男美女の多い恋の国」と名高い。海の向こうの大陸では忌み嫌われている黒髪の多い地方ではあるが、極稀にこのような金や銀の髪を持つ者もいるし、違う国から来た者の多い王都ですらここまでの美貌を持った者は見た事が無い。もうこの際私の苦手な女でも良いとすら思ったが、体を隠していた髪をのけると女ではなく、男だった。
おおっ、これはきっと姫様とは名ばかりの淫乱女と、何日もこんな人里離れた森の中で仕事などという、酷い悪夢から私を救い出してくれる聖者様の思し召しだ。
そもそもこの子は人間なのだろうか? そうも思ったが、ちゃんと触った感じもあるし、言葉も聞えているようだ。
体中に軽い擦り傷があるのと、着衣が無い事、言動から何か悪い奴に不埒な事でもされて木の上に逃げていたのだろうと推測された。この見た目だ、気持ちはわからなくも無……いやいや、いかん。
まだ子供と言っても良い歳なのに、何かと苦労している様で詳しい身の上を聞く事すら躊躇われた。
可哀想に……そう思った私の憐憫は顔に出ていただろうか?
「ごめんなさい」
その一言がもう一度私の胸を射抜いた。
ああ、何と可愛いのだろうか。
シス……遥か彼方の聖域におられる聖者様の一人と同じ名前。赤子を意味する名だ。
フレネイア姫が現れてすぐに突然気を失ってしまったが、その目を閉じた寝顔は三本目の矢を私に放った。その名の通り幼げで、稚い子を舐めたり齧ったりとどのような鬼畜の所業だ。この私が守ってやろうではないか!
姫様曰く『真面目の皮を被ったケダモノ』などと評され結構な遊びもして来た私ではあるが、見た目にはそこそこの自信があるしまだ二十二で若いし、こちらから動かなくても相手には不自由した事は無い。だが、未だ本気で誰か一人に心を動かされた事は無かった。
私は不覚にも恋に落ちた……。
介抱と称して姫様がテントから私を追い出したが、私に言わせればあんな女と二人きりにするなどその方が恐ろしい。あれは魔女だ。
やはり末の子というのは王も王妃も甚く可愛いらしく、ねだられるままに離宮を与え好きにさせたのが良くなかった。
若く美しい男を集めて淫らに遊びふける日々が、ついに王にバレたのはつい先日の事だ。流石にこれには王もお怒りになり、罰としてこの森へと派遣されたのだ。
口惜しい事に、魔力の強い王家の人間の中でも特に優れているのがフレネイア姫で、かなりの修行を積んだ魔法使いよりも余程高度な魔法を使える。大変難しい課題であったが、姫様に出来ねば誰が出来よう。だが流石に姫様一人では危険もあろうという事で、弓がそこそこ使え、かつ『一緒にいても間違いの無い人間』という事でお供に選ばれたのが私だった。
王にはバレバレだからな、私の性癖は。トトイのフェドル王は六人も子を授かったが男子に恵まれなかった。全員女。そこへ持って来て王妃はかなりの恐妻。女ばかりの姦しい中でついに王も女には辟易したのか、最近はもっぱら同性嗜好であり、私に寄って来た者を紹介した事もある仲だ。
そういうわけで、いい大人の男女が同じテントで寝泊りしていても、間違いは起こらないのだが……互いに拷問だな。そこへ現れたのがシスだ。
何かされてはいないだろうか……そんな心配をしながら夜の火を焚く薪を集めていた所に、外で蹲って泣くあの子を見た時は、年甲斐もなく胸がドキドキした。
「た、食べないで」
何故か酷く怯えている様子。胸がきゅっとなって、抱きしめるとその体は震えていた。ったく、何でちゃんと服を着せてもらって無いんだ。姫様は介抱なんぞしていなかったのではないのか?
「リ、リンドさんは男の子をご馳走様しちゃうんですか?」
……あの淫乱女っ。いらぬ事を吹き込みやがったな。
だが、事態は思わぬ方へ進んだ。
「リンドさん、僕おかしいんだよ? ほら、見て」
見せられたのは明らかに元気になっている局部。小ぶりでまだ陰毛すら生えていない綺麗な色のソレが欲望を湛えて上を向いている。
おい? これはどういう事だ?
「それは……誘ってるのか?」
そんなモノを、この隠匿者の様な清い生活を強いられている私に見せるなど飢えた獣の前に極上の肉を差し出すようなものだぞ。
「僕、病気なんだよ」
「そうだな。そんなに純真無垢な顔をして、悪い病気だ」
そう言ってから、ちょっと反省した。
体とは別に、本心から望んだ事でなかったら?
……以前、王都で悪い奴等に手篭めにされていた青年を助けた事がある。彼は盛られた良からぬ薬で、快楽を与えられないと渇きを感じる体にされていた。体が疼くと苦しげに身を捩り体を求める様は、確かに不治の病とも言えなくも無かった。
この子もそういう道を辿って来たのでは? ならば癒してやらねばなるまい?
目を閉じて口付けを待ってる? あああ、理性が吹き飛んでしまいそうだ。いかんいかん、これは人助けなのだぞ?
唇を重ねると何とも柔らかく、心地よかった。嫌がりはしないのでもう少し深く貪った。舌を入れても返してくるでも無く、逃げるような素振りさえある。慣れていないのか?
乳首も痛がるだけで一向に感じていない様子。一体どんな性急な事をされて来たのだ? 口付けも丹念な愛撫も準備も無しに無理矢理ねじ込むだけの馬鹿者もいるしな。
私はそんな事はしないぞ。愛される事の気持ちよさを教えてやらねば!
いたるところに口付けをして、丁寧に可愛がってやろうではないか。
……すまん、本心を言おう。
もう我慢出来んのだ~!
無理。そんなに頬を染めて可愛く「やめて」なんて声を出されたら、ここん所ご無沙汰で溜まりまくっていた欲求がっ……!
「やめられるか。誘った以上こんなになった責任は取れよ」
正直に言ってしまった。私は大人の風上にもおけん。だがここまで言えばわかってくれるだろうと思っていたのに……テントの様になってしまっている息子を触らせると、シスは首を傾げた。
「何か入れてる?」
「……お前なぁ。怒るぞ、終いには」
おちょくられているのだろうか? だが急に積極的になったと思ったら、奇妙な事を言い出した。
「リンドさんも生殖器が外についてるっ!」
「ついてるに決まってるだろうが。こんなに元気にしやがって」
おい。まさか私を女だと思っていたのではあるまいな? 確かに顔は母親似で良いとは言われるが、体はかなり筋肉質で大きい方だぞ。
「これってこんなにぴんってしてるのが元気なの? 病気じゃないの?」
はああ? やはり私を馬鹿にしているか? だが表情は至って真面目で、初めて見る物の様に私のモノをしげしげと眺めている。
じわじわと違和感がこみ上げてきた。
「お前……ひょっとしてソレ、本気で言ってる?」
「本気だよ?」
本気。もしかしてこの子は本当に性的な経験など皆無で、精通はおろか男性が興奮状態になると勃つ事も知らないのでは無かろうか?
「もしかして何にもわかってないのか?」
「何が?」
そんな無邪気に首を傾げられると……なんか……萎えた。
私はひょっとしてとても罪な事をしている? だが今までの言動はどういう事だ? 誰が噛み噛みしたり舐め舐めしたりしたわけ? ちょっと頭の可哀想な子なのかもしれない。だったら本当に罪だぞ。
「お前、一体どういう生活をしてたんだ?」
そう聞きたかった言葉は途中で遮られた。
ばさばさばさ。突風と共に近づいて来たこの音は……。
「くるるるるっ!」
鳥の声?
「えっ?」
どかん。とんでもない衝撃。
空を凄い勢いで飛んで来たモノに逃げる暇もなく激突され、自分が宙に舞ったのがわかった。
……せめてズボンを履かせてくれ……そんな情け無い事を思いながら、地面に激突した。
小さな人影が木の上から私の胸に飛び込んで来た瞬間、心の蔵を弓矢で貫かれた気がした。
早朝の日の光を溶かしたような明るい金の髪、澄んだ泉を思わせる薄青の瞳。赤い血では無く乳でも流れているのでは無いかと疑うような白い肌。腕に抱いた感触は赤子のように柔らかだった。何だろう、この子は。
今まで誰かを見てこんなに美しいと思った事が無い。
我故郷であるトトイは他国から「美男美女の多い恋の国」と名高い。海の向こうの大陸では忌み嫌われている黒髪の多い地方ではあるが、極稀にこのような金や銀の髪を持つ者もいるし、違う国から来た者の多い王都ですらここまでの美貌を持った者は見た事が無い。もうこの際私の苦手な女でも良いとすら思ったが、体を隠していた髪をのけると女ではなく、男だった。
おおっ、これはきっと姫様とは名ばかりの淫乱女と、何日もこんな人里離れた森の中で仕事などという、酷い悪夢から私を救い出してくれる聖者様の思し召しだ。
そもそもこの子は人間なのだろうか? そうも思ったが、ちゃんと触った感じもあるし、言葉も聞えているようだ。
体中に軽い擦り傷があるのと、着衣が無い事、言動から何か悪い奴に不埒な事でもされて木の上に逃げていたのだろうと推測された。この見た目だ、気持ちはわからなくも無……いやいや、いかん。
まだ子供と言っても良い歳なのに、何かと苦労している様で詳しい身の上を聞く事すら躊躇われた。
可哀想に……そう思った私の憐憫は顔に出ていただろうか?
「ごめんなさい」
その一言がもう一度私の胸を射抜いた。
ああ、何と可愛いのだろうか。
シス……遥か彼方の聖域におられる聖者様の一人と同じ名前。赤子を意味する名だ。
フレネイア姫が現れてすぐに突然気を失ってしまったが、その目を閉じた寝顔は三本目の矢を私に放った。その名の通り幼げで、稚い子を舐めたり齧ったりとどのような鬼畜の所業だ。この私が守ってやろうではないか!
姫様曰く『真面目の皮を被ったケダモノ』などと評され結構な遊びもして来た私ではあるが、見た目にはそこそこの自信があるしまだ二十二で若いし、こちらから動かなくても相手には不自由した事は無い。だが、未だ本気で誰か一人に心を動かされた事は無かった。
私は不覚にも恋に落ちた……。
介抱と称して姫様がテントから私を追い出したが、私に言わせればあんな女と二人きりにするなどその方が恐ろしい。あれは魔女だ。
やはり末の子というのは王も王妃も甚く可愛いらしく、ねだられるままに離宮を与え好きにさせたのが良くなかった。
若く美しい男を集めて淫らに遊びふける日々が、ついに王にバレたのはつい先日の事だ。流石にこれには王もお怒りになり、罰としてこの森へと派遣されたのだ。
口惜しい事に、魔力の強い王家の人間の中でも特に優れているのがフレネイア姫で、かなりの修行を積んだ魔法使いよりも余程高度な魔法を使える。大変難しい課題であったが、姫様に出来ねば誰が出来よう。だが流石に姫様一人では危険もあろうという事で、弓がそこそこ使え、かつ『一緒にいても間違いの無い人間』という事でお供に選ばれたのが私だった。
王にはバレバレだからな、私の性癖は。トトイのフェドル王は六人も子を授かったが男子に恵まれなかった。全員女。そこへ持って来て王妃はかなりの恐妻。女ばかりの姦しい中でついに王も女には辟易したのか、最近はもっぱら同性嗜好であり、私に寄って来た者を紹介した事もある仲だ。
そういうわけで、いい大人の男女が同じテントで寝泊りしていても、間違いは起こらないのだが……互いに拷問だな。そこへ現れたのがシスだ。
何かされてはいないだろうか……そんな心配をしながら夜の火を焚く薪を集めていた所に、外で蹲って泣くあの子を見た時は、年甲斐もなく胸がドキドキした。
「た、食べないで」
何故か酷く怯えている様子。胸がきゅっとなって、抱きしめるとその体は震えていた。ったく、何でちゃんと服を着せてもらって無いんだ。姫様は介抱なんぞしていなかったのではないのか?
「リ、リンドさんは男の子をご馳走様しちゃうんですか?」
……あの淫乱女っ。いらぬ事を吹き込みやがったな。
だが、事態は思わぬ方へ進んだ。
「リンドさん、僕おかしいんだよ? ほら、見て」
見せられたのは明らかに元気になっている局部。小ぶりでまだ陰毛すら生えていない綺麗な色のソレが欲望を湛えて上を向いている。
おい? これはどういう事だ?
「それは……誘ってるのか?」
そんなモノを、この隠匿者の様な清い生活を強いられている私に見せるなど飢えた獣の前に極上の肉を差し出すようなものだぞ。
「僕、病気なんだよ」
「そうだな。そんなに純真無垢な顔をして、悪い病気だ」
そう言ってから、ちょっと反省した。
体とは別に、本心から望んだ事でなかったら?
……以前、王都で悪い奴等に手篭めにされていた青年を助けた事がある。彼は盛られた良からぬ薬で、快楽を与えられないと渇きを感じる体にされていた。体が疼くと苦しげに身を捩り体を求める様は、確かに不治の病とも言えなくも無かった。
この子もそういう道を辿って来たのでは? ならば癒してやらねばなるまい?
目を閉じて口付けを待ってる? あああ、理性が吹き飛んでしまいそうだ。いかんいかん、これは人助けなのだぞ?
唇を重ねると何とも柔らかく、心地よかった。嫌がりはしないのでもう少し深く貪った。舌を入れても返してくるでも無く、逃げるような素振りさえある。慣れていないのか?
乳首も痛がるだけで一向に感じていない様子。一体どんな性急な事をされて来たのだ? 口付けも丹念な愛撫も準備も無しに無理矢理ねじ込むだけの馬鹿者もいるしな。
私はそんな事はしないぞ。愛される事の気持ちよさを教えてやらねば!
いたるところに口付けをして、丁寧に可愛がってやろうではないか。
……すまん、本心を言おう。
もう我慢出来んのだ~!
無理。そんなに頬を染めて可愛く「やめて」なんて声を出されたら、ここん所ご無沙汰で溜まりまくっていた欲求がっ……!
「やめられるか。誘った以上こんなになった責任は取れよ」
正直に言ってしまった。私は大人の風上にもおけん。だがここまで言えばわかってくれるだろうと思っていたのに……テントの様になってしまっている息子を触らせると、シスは首を傾げた。
「何か入れてる?」
「……お前なぁ。怒るぞ、終いには」
おちょくられているのだろうか? だが急に積極的になったと思ったら、奇妙な事を言い出した。
「リンドさんも生殖器が外についてるっ!」
「ついてるに決まってるだろうが。こんなに元気にしやがって」
おい。まさか私を女だと思っていたのではあるまいな? 確かに顔は母親似で良いとは言われるが、体はかなり筋肉質で大きい方だぞ。
「これってこんなにぴんってしてるのが元気なの? 病気じゃないの?」
はああ? やはり私を馬鹿にしているか? だが表情は至って真面目で、初めて見る物の様に私のモノをしげしげと眺めている。
じわじわと違和感がこみ上げてきた。
「お前……ひょっとしてソレ、本気で言ってる?」
「本気だよ?」
本気。もしかしてこの子は本当に性的な経験など皆無で、精通はおろか男性が興奮状態になると勃つ事も知らないのでは無かろうか?
「もしかして何にもわかってないのか?」
「何が?」
そんな無邪気に首を傾げられると……なんか……萎えた。
私はひょっとしてとても罪な事をしている? だが今までの言動はどういう事だ? 誰が噛み噛みしたり舐め舐めしたりしたわけ? ちょっと頭の可哀想な子なのかもしれない。だったら本当に罪だぞ。
「お前、一体どういう生活をしてたんだ?」
そう聞きたかった言葉は途中で遮られた。
ばさばさばさ。突風と共に近づいて来たこの音は……。
「くるるるるっ!」
鳥の声?
「えっ?」
どかん。とんでもない衝撃。
空を凄い勢いで飛んで来たモノに逃げる暇もなく激突され、自分が宙に舞ったのがわかった。
……せめてズボンを履かせてくれ……そんな情け無い事を思いながら、地面に激突した。
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