僕に翼があったなら

まりの

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巣立ち

人間ってケダモノ?

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 放課後、帰る準備をしてたら後ろから声を掛けられた。
「 あきら、テストどうだった?」
 隣のクラスの小早川匠こばやかわたくみ君だ。いつ見てもカッコイイね。
「まあまあかな。やっと中間終わったから、読みたかった本も読める」
「お前、本好きだな。ちょっとは女の子と遊ぶとか無いの?」
「だって僕、匠君みたいにモテ無いから」
 同じ歳なのに、背がすらっと高くて顔も良くて頭だっていいこの友人の横に立つと、小さくて取り立てていいところのない僕なんて、空気のように霞んでみえるだろう。なのに彼は何故かいつも僕を構ってくれて、仲良くしてくれるんだ。
「お前さあ……もうちょい自分に自信持てよ。周りがどんな目で自分を見てるかわかってないだろ? そんなだから放っておけないんだ」
「何? ソレ?」
 変なの。周りからどんな目で見られてるかなんて考えたくもないよ。どうせ|匠君(メインディシュ)の横のパセリにぐらいしか……。
「ま、晶のそういう所が可愛いんだけどな」
「可愛いって言われても……男がさぁ」
「でも可愛い。だから守ってやりたいの。何かあったら俺に言えよ」
 大きな手で頭を乱暴に撫でられる。同じ歳なのにすっごい子供扱い。
 両親にお受験させられて、地元公立中学じゃなくて小中高一貫の私学に入ったもんだから、ほんの二駅だけだけど僕は電車通学。もうすでに小学校からだから慣れてるのに、匠君はいつも駅まで一緒に来る。家、方向違うのに。
 今日は可愛いなんて言われたもんだから変に意識しちゃって、ちょっと離れ気味に歩く。守ってやりたいって、女の子に言う台詞でしょうが。
「気をつけて帰れよ」
「うん、君もね」
 バイバイってして、ホームに向かう。
「変なの……」
 何だかもやもやした気持ちが抜けなくて、落ち着こうとカバンに入れてた小説を広げた。試験勉強で読めなかったから続きが気になってたんだ。
 今日は試験日課で早いからいつもと時間が違う。空いてるけど、もうすぐ来るから前の方で待ってよう。
 小説が思ったよりつまらなくて、急に匠君の顔が思い出されて、明日会ってマトモに顔見られるかなとか思ってたら、辺りが賑やかになった。高校も今試験中だったみたい。カバン振り回して遊んでるちょっと悪そうなのが何人か。もう、うるさいな、走ったら迷惑だろ……って思ったけど、目を合わせたら怖そうなんで本に目を落として、無視してた。
 どん! と何かに思いきり背中を押された気がした。
「え……」
 さっきの高校生が僕にぶつかったんだとわかった瞬間には、僕は宙に浮いていた。耳に響くのは電車の到着を告げるベル。
 思いきり落ちて、痛さで立ち上がれなくて逃げる暇なんか無かった。
 僕は最後の瞬間、叫んだ気がする。

『何かあったら俺に言えよ』

 お父さんでもお母さんでも無く……匠君、君の名前を。

『皆、お前の事は本気で愛してるし可愛いんだよ』

『何かあったら大きな声で鳴いて呼ぶんだよ。離れていても俺、すぐに助けに行くからな』

 ルイド。お兄ちゃん……。
 ふかふかの真っ白な羽毛。金色の瞳。優しくて、大きくてカッコイイ。
 かしかしって頭を嘴でするのと、大きな手で乱暴にナデナデ。
 ルイドと匠君は似てる――――。


 がしがし。ぺたぺた。
 うう~ん、これはお母さんの朝の身づくろい? なんかちょっと違う気もするけど……。
 目を開けると、誰かに覗き込まれていた。なんだか見てて落ち着く黒い髪に青い目。
「あら起きた? 大丈夫?」
 森で会ったメスの方の人間だった。
 僕はなんだかサラサラでふかふかしたモノの上に寝てる。
「ここは?」
「テントの中」
 テント。布で作った簡易の家だと、頭の中で理解してる。頭の中のもやもやがちょっとすっきりしたみたい。
「急に倒れたから心配したのよ。体を綺麗にしてるんだけど痛かった?」
「いつももっとがしがし舐められてるから平気」
「……」
 僕、変な事言っただろうか。思いきり眉を顰められた。
「そうだ、まだ名前言ってなかったわね。私はフレネイア。これでもトトイ王家の末っ子なのよ」
「お姫様?」
「ま、一応」
 何だか今日は言葉や物の名前が良くわかる。思い出したのかな、忘れてた事を色々と。でも多分全部じゃないけど、お姫様というのは偉い人だ。そんな人に体を拭いてもらうなんてマズイと思い、起き上がってみて、うっ、となった。
 出てます、お股のアレがっ。素っ裸ですっ。
 今更だが慌てて隠すと、お姫様はけらけらと笑った。
「体を拭くのに着たままじゃマズイじゃない。大丈夫、見慣れてるから」
「フレ……お姫様はメスですよね?」
 言い難い名前だ。お姫様でいこう。見慣れてるっていう問題発言はこの際置いておいたほうがいいみたいだ。
「メスって……そう、女よ?」
「なんだか恥ずかしいです。リンドさんは?」
 男の人がいるんだから、どうせなら彼がやってくれたら良かったのに。同じオスなら少しは恥ずかしくない……気がする。それにお姫様の方が偉いみたいなのに何でこんな事させてるんだ。
「あんなケダモノに任せたら大変な事になっちゃうわよ」
「え? ケダモノ? リンドさんは人間じゃないんですか?」
 人間に見えたのになぁ。自分もそうだって言ったと思ったけど?
「……人間だわよ。そういう意味じゃなくて。彼はね、女には全く興味ないの。私の裸を見たって勃ちもしないくせに、若い男の子が大好きなの。あなたみたいに綺麗なコ、あっという間にご馳走様されちゃうわよ」
 ご馳走様! 男の子を食べるっ? 肉を食べる獣っ!?
「あんなに優しそうなのに……」
「普段は優しいわよ。床の中ではかなりなもんらしいけど。まあ人それぞれ色んな趣味があるから私は気にしてないけど」
 気にしてっ! 食べるんだよ?
 わあ、どうしよう。僕、食べられちゃうかも!

 ルイド……怖いよ。お兄ちゃん助けて~!
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