僕に翼があったなら

まりの

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巣立ち

森の中ひとりぼっち

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「いたたた……」
 やっぱり飛べなかった。
 当たり前だろ……と頭の中で声がした様だが、きっと気のせいだ。
 崖の下は森になってるので、木に引っかかって無事だったけどあちこち擦り傷になって相当痛い。
「大丈夫か?」
 見上げると、白い立派な羽根を広げてルイドがくるくる回ってた。上手に風に乗って、初めて飛んだと思えないほどゆったりと。
「……僕、やっぱり鳥じゃないんだ……」
 今までで一番落ち込んだ。

 僕は人間という生き物なんだ、やっぱり。
 ルイドに引っかかった木から助けてもらい、下に降りた。
「どうする? 巣に戻してやろうか? 母さん心配してるぞきっと」
「ううん、いい。だって僕は鳥じゃないんだもん。人間っていうの? 僕と同じ生き物を探しに行く」
 鳥でも無い僕をこんなに大きくなるまで育ててくれたお母さんには本当に感謝するし、大好きだ。でも、大好きだからこれ以上迷惑を掛けたくない。
「お母さんの所に挨拶に行ったら、いままでありがとうって伝えてね。ずっとずっと大好きだよ、って」
「もう二度と会えないみたいな言い方だな」
「会えないかもしれない。僕は飛べないからこっちからは行けないもん」
 いつもの毛繕いの時みたいに、ルイドの嘴が僕の頭をかしかしした。気持ちいいよ、これ。
「……お兄ちゃん大好き」
 真っ白なふかふかの首を抱きしめた。
「俺も好きだよ。可愛い弟。何かあったら大きな声で鳴いて呼ぶんだよ。離れていても俺、すぐに助けに行くからな」
「うん。元気でね。立派に狩りをしてね」
 木がいっぱい生えてる森の中。僕は二本の足で歩き始めた。

 ルイドと別れてから、僕は自分の頭の中に鳥の巣の思い出だけじゃなく、もっと違う色んな記憶がぐるぐるしてるのに気がついた。
 それらはまだはっきりはしないけど、ルイドが僕が一度巣から落ちた時から何もかも忘れたって言ってたから、さっきもう一度落ちたので思い出したのかもしれない。
 でも何処に行ったら人間っていうのに会えるのかな?
 森の中には肉を食べる獣もいっぱいいるから危ないよって、お母さんに言われてたしね。飛んで逃げるにも飛べないし。色々大変そうだな。
 とりあえず真っ直ぐに進む。木の葉の間から遠くに見えてた巣のある崖はいつの間にか見えなくなって、随分と遠くに来たみたいだ。ルイドに目は負けるけど鼻は僕の方がいいもの。今のところ危ないニオイはしない。
 うう~ん、ひらひら木にひっかけちゃって無くなっちゃったから、出ててはいけないモノが丸出しなんですけど。どっかで何かみつけなきゃな。とりあえず頭の毛は足首近くまであるから前に回してみる。慰め程度にしかならないけど微妙に隠れた。
 でも僕の毛はなんでこんなにピカピカしてるんだろう。お母さんはこの毛が好きだった。きっと光るものが好きだからそれと同じ理由なんだろうな。朝のお日様と同じ色だねって、ルイドは言ってたけど、僕はお母さんみたいな綺麗な灰色かルイドみたいに真っ白が良かった。
 ぐううう。
 ああ、お腹すいたなぁ。
 一応巣立ったワケだから、自分で食べ物や水も探さなきゃ。もう待ってたら持って来てくれるお母さんもいないんだから。
 果物を見つけた。でも高くて届かない。飛べないけど登るのは得意だよ。巣の横の崖でいつも練習してたから。羽根よりこういう時はこの手と足が便利なんだよね。おサルみたいだな、僕。
 ん? 手? 羽根じゃなくて? おサルって何だ? まあいいや。
「初めて自分で餌を採ったよ」
 へへ、お母さんに見せてあげたい。
 木の枝にとまって果物を食べた。ちょっと酸っぱかったけど美味しかった。
 お腹も一杯になって、多分ここは安全だよね、そう思うと何だか眠くなって来た。こんなに歩いたの初めてだもんな。疲れちゃった……。
 しばらくウトウトしてただろうか。気がつくと何か嫌な気配がした。
 木の下に黒い大きな獣が三匹ウロウロしてる。スゴイ歯。こっちみてうーって唸ってる。きっと肉を食べる動物なんだ。僕の事狙ってるよね?
「どうしよう、降りられない……」
 とりあえずもう少し上に上ってどっか行くのを待ってたけど、一向に怖そうな黒いのは去って行かない。
「……怖いよぉ、あっち行ってよ」
 涙出てきた。ちょっとチビっちゃいそう。ガウガウ言って上って来ようとしてる。でも木登りは苦手みたいだ。
「こら、チビ降りて来い。旨そうだなお前。ちょっと舐めさせろ」
 一番でっかい黒いのが言う。あれ、鳥以外の言葉もわかるんだ、僕。
「チビじゃないもん。もう巣立ったんだから大人だもん」
「おお? 人間のくせに言葉通じるのか、お前」
「うん、わかるよ。僕を食べても美味しくないよ」
「いやぁ、柔らかくて旨そうだ。鳥みたいないい匂いするし」
 ……美味しそうなんだ、僕。舌なめずりされてもなぁ。獲る側と獲られる側が会話してるってのも変だよねぇ。でも言葉がわかるとちょっと怖くなくなった。
「そうだ、果物採ってあげるから僕を食べないで」
「悪いなチビ。オレ達は肉しか食えんのだわ。腹壊すからよ」
 そうですかぁ。それは困ったな……そう思ってたら、突然黒いのがぎゃうんと声をあげて飛びのいた。足元に羽根のついた棒みたいなのが刺さってる。
「どうしたの?」
「ちっ、武器を持ったのが来やがった。じゃあな、チビ。命拾いしたな。今度あったら舐めさせろよ」
 黒いのは森の奥に走って行った。命が助かったというのに、何だかちょっと寂しい気もした。
「ふん、撃ち損じたか」
 低い声がした。どきっと胸が鳴ったのがわかった。
 今度の動物は……。
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