魔界王立幼稚園ひまわり組

まりの

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続・魔界王立幼稚園ひまわり組

37:もういっぱいいっぱいです

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 結婚式とは人生において一大転機ともいえる重要かつ厳粛な行事のはずである。一方、運動会は確かに思い出の行事でも、雨天中止とかありのものだ。
 そもそも並べて考えること自体、何か間違ってる気もしなくもない。その上同時開催するってもうありえないじゃ無いですか。
 大体だ……。
「ねぇ、ウリちゃん、魔王様は何で私達に任されるのだろうか?」
「毎度の如く丸投げですね」
 思わずウリちゃんと同時に大きく溜息をつく。
 魔王様は、私達夫婦を含む幼稚園の教員にどういう風に進行させるかの案を考えてくれと頼まれたのだ。企画構成のいっさいがっさいをである。
 しかもだ。ノリノリのメルヒノア様が役員をやっておいでの天協(天族協同組合)さんを通じて、こっそり天界のさっちゃんの家族に連絡を入れちゃったからもう大変。
 速攻返事が来ましたとも!
 やっぱり来るそうですよ、ザラキエルノ様達!
 あああぁ……幼稚園の先生をこなしつつ、園児やお客様の安全を確保しないといけない私はどうすればよいのですか……。
 更にしかもだ。微妙に仲人っぽい事までしないといけないなんて!
「頭白紙でもう何にも考えられないんだけど?」
「わたくしもですよ」
 また同時に溜息をついた私達に救いの声が掛かった。
「まあまあ。お式のほうはともかくとして、私達は運動会の方だけを考えればよいのでは無いでしょうか? 幼稚園の事ですし」
 あ~! マーム先生がいてくれて本当によかったぁ! そう言われるとちょっと気は楽にはなったが……。
「そうですよね! 私達は幼稚園の先生ですものね!」
 喜んだのも束の間、
「でも絶対にペルちゃんのおばあ様は競技に参加したいとおっしゃるでしょうね。可愛い孫が出るのですから」
 メイア先生の一言で現実に引き戻され、一同机に突っ伏す。
 お給食の後、自由時間を少し置き子供達はてんちゃん達補助の先生にお任せして、好きなものを描いてと言う事でお絵描きをさせています。絵を描いてる時は子供達は真剣そのものなので、その間教室の隅っこの方でマーム先生、ウリちゃん、メイア先生、私の古株教員で会議中。
「と、とにかく運動会の競技の方を決めましょうか」
「そうですね」
 このままでは埒があかないので少しくらいは話を進めよう。
 毎度お馴染みのかけっこに玉いれ、綱引きは鉄板として、毎年異常に盛り上がる障害物競走は外せない。園児数が多くなって来た近年は一つ一つの競技が長いので大人競技は綱引きと親子競技で園児と共に参加する障害物だけになっているのだが……。
 なんかもう私は今いっぱいいっぱいで頭が回らないので、他の皆さんで活発に意見を交わしてください的な投げやり状態になってますけどね。
「今年は観客が多いらしいので大人玉いれも復活させます?」
「玉いれは準備時間が退屈ですからねぇ」
「園児の応援の踊りは入れたいですね。可愛いですから」
「この頃子供達の間でなわとびが流行っているので、それも取り入れましょうか。こう、保護者も参加するとか」
 三人が意見を出しているのを黙って聞いていると、突然三人の視線が一度に私に集まった。
「ココナ先生の意見は? 何かすごい事でも思いつきませんか」
「はあ? 特別何も思いつきは……」
 そういいかけた時、リノちゃんとさんちゃんがお絵描きしてた紙を持って勢いよく走ってきた。
「マ……せんせー! みちぇー!」
「オレ、もう描けたよぉ」
 見せてくれたのはクレヨンで大胆に描かれた、リノちゃんはお遊戯会の時のお姫様になった時らしいドレス姿の絵、さんちゃんはお花や蝶々、鳥が一面に描いてあるものだった。きっと町にさっちゃんのお兄さんが来た時の絵だろう。インパクトあったもんなぁ。
「すごいねー、上手に描けたね」
 褒めたもんだから、他のひまわり組さんの年少さん達が、自分も自分もと紙を手に走ってくる。
 年中さんのバラ組と年長さんのスミレ組は絵の具も使っているが、年少のひまわりさん達はクレヨンだから早いのね。
 会議どころじゃないなこれは。
「もう少ししたら戻ってゆっくり見せてもらいますから、ちょっと大人だけでお話させてくださいね」
 ウリちゃんに優しく言われて、子供達はぶーと文句を言いながらも戻って行った。そうよね、今は幼稚園の保育の時間だし……。
 ちょっと大人だけでか……なんかウリちゃんの一言が妙に気になった。
 ん? 今、何かが閃いた気がする。
 三日間。天界からのお客様……大人だけで。
「そうだ。いっそのこと、運動会を二つに分ければいいんじゃないですかね? もうこの際幼稚園の運動会は大人参加競技一切なし、幼稚園の運動会は大人は見て応援するだけ。別枠で大人だけでやっちゃえば。そうすれば天界からのお客様がどうとか、考えなくて済むし」
 我ながらとんでもない事を言ったものである。ハッキリ言って極力大人絡みの面倒事を避けて、幼稚園の先生業に専念したかったという逃げである。
「ココナさん?」
「ココナ先生……」
 ウリちゃん、マーム先生、メイア先生は案の定ぽかーんだ。
 あーやっぱり駄目ですよね。スミマセン、可笑しな事を口走ったと軽くスルーしていただいて結構ですよ。いや、マジで。
「えっと、無理ですよね、やっぱりそれは」
「……」
 しばしの沈黙の後、三人の先生達は満面の笑みを浮かべた。まるでジラソレみたいに。
「いいじゃないですか、それ。凄いですよココナ先生」
「はいいぃ?」
 なんっすか、その笑みは。マーム先生、何が凄いんですか? ええっ、通しちゃうんですかその意見?
「流石はココナさん。それで行きましょう!」
 行きましょうって、ウリちゃん? 流石も何も自分で言っといて何ですがものすごーくいい加減な意見ですけど?
「そうと決まれば、わたくしは早速魔王様にご相談して、式の方との兼ね合いを見てきますので、皆さんは園児の方に戻ってやってください。詳しい競技などは後で詰めましょう!」
 ウリちゃんもう立ち上ってるし。そいでもってマーム先生とメイア先生はお願いしまーすとか言って送り出してるんですか。
 今度は私がぽかーんです。
「さあ子供達の所へまいりましょう。あまり放っておくのも可哀相ですわ」
「そ、それもそうですね」
 競技も決まって無いし、根本的に何も解決していないどころか、私的な面倒事をただ単に後回しにしただけでは無いのかとも思わなくも無いが……まあ子供に専念出来るのは良いことかな。


 子供達の絵はほぼ完成していた。
「みんな上手に描けたねぇ! これ壁に貼って飾っていいかな?」
「あーい!」
 描けた絵を壁に貼っていく。人数が多くなったので最近はバラさんとスミレさんの教室は違うお部屋なのでそっちに。といっても隣なだけで続いてるんだけど。創設時からの幼稚園スペースは今は皆でお給食を食べる時や共同の園庭での体操や自由遊び、先日の様にお遊戯会などの行事に使う以外はひまわりさんだけ。だからお兄さんお姉さんが教室に帰っちゃうとがらーんとだだっ広い。
 全員の絵を壁に貼ると、少し賑やかになりました。
 明日は午後ひまわりさんが畑に行って運動会の後に収穫するお芋などの育ち具合を確かめに行く番だが、今日はバラ組さんの日だし、何をするかな。
 あー、もうなんかすっきりしないなぁ。色々考えることが多すぎて全然仕事に集中出来無い。いつもは大体プログラムを前日までに決めているのだが、今日は全くの白紙。お帰りの時間までそんなに長く無いしね。
「畑は駄目だけど、何して遊びたい?」
 お子様達にきいてみよう。
「かけっこー!」
「よーいどんしゅるぅ」
「もうしゅぐ運動会らから」
 ……子供達はノリノリだ。今年入って来たひまわり組さんといえどこの時期に毎年運動会をやるのを知ってるからね。
「よーし、じゃあみんなでかけっこよーいどんしよう!」
「わーい」
 みんな笑顔だね。うん、こういう時は思いっきり体を動かすのがいいよね。
「先生がいちばーん!」
 だーっと思いきりダッシュしていつもスタートラインにしているブランコの方に走る。久しぶりに全力疾走したから心臓バクバクするけど気持ちいい。
「あーせんせーズルイ!」
「まちぇー!」
 全員ついて来てわーわーきゃーきゃー楽しい時間になりました。


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