魔界王立幼稚園ひまわり組

まりの

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続・魔界王立幼稚園ひまわり組

24:なんとか終わった

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 な、なんか怖い……。
 ざわざわと声が上がる客席の中央を、きらきらと金色に輝きながらこちらに歩いてくるザラキエルノ様。
 何か異様な空気を感じてか、ぱかっと二手に別れて道を開ける魔族の皆さんの周りに傘を広げたみたいに薄ピンクに光るシールドが次々と展開する。それが一層派手に天使様を彩っていた。
 孫の熱演に興奮しちゃいましたか、おばあちゃん……って!
 思いきりお美しいお顔に滝の様に流れる涙が見えてるって事は、アイマスクが無い! 慌てて駆け寄って、何とか舞台の少し手前で踏みとどまっていただいた。シールドがあっても、小さな子達にはこの神力ダダ漏れの状態で近寄られたら大変だ。
「ザラキエルノ様、あの……目隠しは?」
「あまりに感動して泣いてしまったら、ぐっしょり濡れたので取ってしまいました」
「目は開けないでくださいませね」
「勿論ですわ。ああ、この打ち震える胸の内をどうしても伝えたくて!」
 がっしり握手する形で両手を掴まれてしまいました。そのままぶんぶんと上下に振るザラキエルノ様。そうですか、感動していただいて何よりですが……人様にはシールドが出せる私ですが、自分の身は守れないのかもしれません。思いきり魔力が吸い取られていくような気がするよ。
「こ、子供達も喜びます……あの、まだもう一つお歌が残ってますので、そこにもペルちゃんも出ますし……」
 駄目だ。なんか意識が遠くなって来た。貧血みたいに目の前が暗くなって自分が傾いていくのがわかった。あー、魔力が吸い取られるってこんな感じなんだなぁ。
「ココナさん!」
 誰かが支えてくれたので倒れずに済んだ。
「お母様! なんて事を! 大丈夫ですか、ココナさん」
「な、何とか……」
 さっちゃんが来てザラキエルノ様の手を解いてくれたので助かった。それに、この後ろから支えてくれてる大きな腕から、じんわりと魔力を感じてとても心地よい。ウリちゃんじゃない。魔王様?
「無事かな? ココナさん」
 少し目の前が明るくなった。どっと疲れた感じはあるが、立てないほどではない。きっと魔王様が少しお力を下さったおかげだ。
「無事です。あの、お母様はどうしていただきましょう?」
「私と一緒に向こうで見ていてもらう。心配はいらない」
 助かります魔王様。でもよく考えたら魔王様も流石に掴まれたりしたら危険なのでは……。
「わははは~、えーと、次のお歌の準備に入っていいかな~?」
 珍しく少し遠慮したような司会ジラソレの声でその場は救われた。
 既にマファルの人間の子供達も舞台に上がり、この幼稚園の子達と一緒にウリちゃんはじめ他の先生達が並べてくれたみたいだ。
「さあ、こちらで娘さんと私と一緒に歌を聴きましょう」
 ザラキエルノ様を案内して魔王様んが会場端の席に移動された。
「すごく顔色が悪いですが、本当に大丈夫ですか? ココナさん」
 さっちゃんが心配そうに手を貸してくれたが……正直キツイ。それに気持ちはありがたいが、魔王様に分けてもらって少し戻った魔力がまた吸い取られる気がするので、離してくれると嬉しいんだけども。ゴメンね、心配してくれてるのに。
「大丈夫だよ。さっちゃんも魔王様の所へ。お願い、魔王様をお守りして」
「わかりましたっ!」
 ものすごく気合を入れてさっちゃんが走って行った。ふう。憎めない天使親子だが、悪気が無い分怖いな。
「ココナさん、抱っこしますか?」
 迎えに来てくれたのはウリちゃんだった。
「流石に抱っこは遠慮しておくわ。すごいギャラリーだし」
「準備は出来てますが、オルガンは弾けそうですか? マーム先生に代わってもらいますか?」
 あー、そうだった。私が伴奏の係だったんだ。
「ん、弾ける。最後までがんばるわ」
「無理しないで下さいよ。ほら」
 ぎゅっと握った手からじんわりと力が送り込まれて来るのがわかる。へへへ、旦那様なので遠慮なくいただきますよ。あー気持ちいい。
 舞台の袖から私とウリちゃんが手を繋いだまま幕の中に入ると、すでにお行儀良く並んでいた子供の、主に女の子達から声が上がった。
「あー、おてて繋いで仲良しさんだ」
「らって、ココナせんせとウリたんせんせ、ふーふーだち?」
「リノちゃんち、パパとママ仲良しでいいね」
「あい。ラブラブでしゅぉ」
 ……うむ。女の子はオマセさんなのだ。ふーふーは夫婦ってことなんだろうね、きぃちゃん。冷まさないでね。
 客席も落ち着きを取り戻したみたい。幕はマジックミラーみたいになってるから、向こうからは見えなくてもこっちからは見える。
 今までお客さん側だった人間の子供達は少し緊張したような顔をしているが、同じ年長のスミレ組の子供達の間に交互に並んで手を繋いでいる。先生達も二手に別れて、段で二列に並んでいる子供達の横につく。私は隅っこのオルガンの前にスタンバイ。まだ若干ふわふわするが、何とかいけそうだ。
「マファルのみんなも準備いいかな?」
「はーい」
「いいよ、ジラソレ」
 合図をすると、拡声草を持ったジラソレが司会をはじめた。
「わはははは~! 次はこのドドイル王立幼稚園の全園児とマファルから来てくれた中央幼稚園の年長さんが一緒にお歌を唄うぞ~ははっ。魔族と人間、仲良く歌えるかな?」
 お遊戯会最後の演目『お花が笑った』の幕が開いた。
 前奏のあと、大きな声で唄い始めた子供達。
 繋いだ手をぶんぶん振りながら、元気に唄う子供達は笑顔。人間の子供達もだんだん笑顔になってきた。
 ふふ、またマファル王は泣いてるね。そうだよね、人間と魔族がまさか一緒にお遊戯会でお歌を唄う日が来るなんてね。しかも魔王城で。攻め込んできた元勇者様は特に感慨深いだろう。
「みーんなわーらった♪」
 いつも笑顔のお花は司会を頑張ったね。この歌はあんたのためにあるような歌だよね。スミレ組さんの歌劇も素敵だったね。バラ組さんの民謡も楽器演奏も上手だったね。そしてひまわり組さんはお歌も劇もすごく頑張ったね。ユーリちゃんは明後日から学校の寮に戻らないといけないのによく手伝ってくれたね。すごく頼りになるお兄さん先生だったよ。てんちゃんもナレーション上手だったね。
「げーんきにわーらった!」
 そして、客席もみんなが笑顔になった。お忙しい中来てくれたお父さん、お母さん、皆さんありがとうございました。
「れい!」
 スミレ組のもん君の号令で子供達、先生がお辞儀。
 スタンディングオベーションの客席。割れんばかりの拍手。
 よしっ、色々と不安はあったがお遊戯会が無事に終わった~! 倒れずにすんだ~と安心したのも束の間。
「わははは、最後に終わりの言葉をひまわり組担任、ココナ先生からいただいて、お遊戯会を締めよう! わははは~」
 ……そうだった、忘れていた。最後の言葉って私じゃないのよ~~!
 ううっ、何とかオルガンを弾き終えたが、実は非常にヤバイ。まだくらくらしてるのに立って真ん中で喋れるだろうか。というか、色々ありすぎて挨拶の言葉がすっとんでしまったんですがっ。
「行きましょうか」
「よいしょ」
 およ? 両側から脇に手が入って、ひょいと立たされた。ユーリちゃんとウリちゃんだった。そのまま手を繋いで行きます。背が高いのに挟まれて連行される宇宙人みたいになってますが。エイジ君、マーム先生、メイア先生、他の補助の先生達も一緒にぞろぞろと舞台の真ん中へ。
「辛いでしょうがもう一頑張りお願いしますよ。保護者の方々を安心させてあげてください」
 耳元でウリちゃんが囁いた。
 そうだね、バッヂは渡したけど、魔族にとってこのお遊戯会は命懸けとも言える状況だったのだ。それを知らない保護者や子供達を安心させないと。私がへばってたら、実は危険だったんだとわかってしまう。
 他の先生達が一緒に出て来たくれたのは、あのひまわり組の劇の時にいく君が転んだ時のリノちゃん達と同じなんだ。全員出てしまえばこういうものだと皆が納得できるだろうから。
 ジラソレに拡声草を渡され、客席を見渡す。何度かザラキエルノ様が出ておいでになったが、彼女が天界の天使であると気がついている人はいないようだ。無事で良かった。
 うー、挨拶の言葉が思い出せないが……。
「みなさん、今日はお忙しい中この発表会にお越しいただき、本当にありがとうございました。子供達の可愛らしい一生懸命な姿をご覧いただき、成長ぶりを実感いただけたのではないかと思います」
 うーん、魔王様の事を言えないくらい硬いなぁ。
「お家に帰ったら、お父さん、お母さんは子供達をいっぱい、いーっぱい褒めてあげてください。ぎゅーっと抱きしめてあげてください。とっても元気にがんばりました」
 ぺこり。他の先生方もぺこり。
 拍手が響いた瞬間、胸に下げてるメルヒノア様のペンダントがほんわかと温かく感じた。魔王様も安堵したようなお顔だね。
「終わった……」
 お遊戯会はね。
 さて、この後皆が帰った後が大変なんですけどもね。
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