魔界王立幼稚園ひまわり組

まりの

文字の大きさ
上 下
53 / 96
続・魔界王立幼稚園ひまわり組

17:なるようになる

しおりを挟む
 お遊戯会の中止は無くなったものの、気分はどんよりだ。
「そんな怖い顔しないで」
 いつもは大好きな旦那様の笑顔ですら恨めしく思う。色々考えたらベッドに入ってもなかなか眠れない。
「がんばるよ? うん、私に正直そんな大それた力があるんなら。なんであんなシールドが出せるか全くもって仕組みもわからないし、もし失敗したらどうするのよ?」
「失敗しません。だってココナさんだから」
「……」
 説明にもなってません。なんですか、その根拠の無い自信は。
「他の魔族に比べて元が違う世界の人間だというところに力の源があるのだと思います。天でも魔でもない、中立の存在。それが中の世界の人間。そこに魔王様の血をいただいた事で強くなったのかも」
「わかったような、わからないような。でもそれだったらほぼ同じ条件のエイジ君にだって出来るんじゃないの?」
「試してみない事には。いや、でも……試すのも……絵面的にも、うーん」
「……ダダ漏れてるよ」
 一部ご婦人は大喜びだろうが、ジラソレにも拒否されそうな気がする。
「でも方法がねぇ……」
 ひょっとして私はお城に来る人全員、子供達はともかく保護者の方々にもお城にお勤めの皆さんにも、そして国賓の方々にも全員にキスをしなければいけないんじゃないの? 唇が磨り減りそう……というか、正直なところ私にだって相手を選ぶ権利があると思うのだ。
「俺だって面白く無いよ、本当は」
 あ、なんかその唇尖らせてほっぺ膨らますの可愛い。最近だんだんやることが子供に影響されてかわかりやすくなってるね、ウリちゃん。歳考えたらどうなのよって思うけど。
「ちょっとは妬いてくれるんだ?」
「当たり前。考えたら狂いそうなくらい。その唇は俺だけのでいい」
 くあああ。何ですか、そのくっちゃい台詞は。照れるよぉ~!
 ま、何か方法はあるはずだからそこは後でゆっくり考えるとして。
「後は魔王様よね。早くさっちゃんを堕天させてくれない事には」
 まあ、方法が方法だけにねぇ……。
「それですけどね、いっそ母上の同意を得てからの方がいいんじゃないかと思うんですよね」
「え? ここまで来て? あんだけ推してたのに」
「どうも御母上は気性の激しい方のようだし、孫の親でもない結婚の約束もしていない相手と……わかったら、たとえ魔王様が相手でも怒りませんか?」
 う。まあ……確かに。
「サリエノーアさんご本人が望まれてだったらよいのですが」
「うん……」
 さっちゃんの本当に好きな人が誰なのかわかったらいいのにな。そこが一番問題なのよね。魔王様の事を好きになってくれたら……やはり心と体は切り離したくはないから。
 横で頬杖をついていたウリちゃんがにやっと笑った。あ、黒い。
「もしこれがリノちゃんだったら……いやいや、そんな事を考えるのも嫌ですけど。たとえ同意の上でも相手は微塵も残さず消し去ってやりますけどね」
 リノちゃん……貴女の将来に母は涙するよ。このパパなら本気でやりそうで怖いよ。でもさっちゃんのパパも内心穏やかでは無いだろうが、大人しい方で良かったよ。
「魔王様、なんだかお気の毒。おあずけって」
 ふいにくるんと身を返したウリちゃんが上から覗きこんでる。落ちてくる銀色の髪が薄明かりに照らされてキラキラしてる。そのうるうるした目、何。
「俺はおあずけ無しでお願いしたいですけど」
「もう。甘えんぼさん」
 ……リノちゃんは向こうのベッドでぐっすりだし……ね。
 そんな感じで夜も更けていくのでした。


「どぉ? にやう?」
 くるくるとリノちゃんがご機嫌で回っている。うん、似合う。
 お姫様の格好だね。色紙製のティアラに端布やリボンで作った腰ミノみたいなひらひら巻いただけなんだけどね。何となくドレスっぽく見えるね。
 それぞれ家やお城にあったものを寄せ集めて劇の手作り衣装の完成です。今日はみんなで試着してみました。
「わぁ、きぃちゃんの騎士の鎧カッコいいね」
「あい。パパがヨロイカエルの皮にえにょぐ塗ってくれたぉ」
 ……何匹カエルが使われているのかは考えないでおこう。
「ジュン君のおじいさんのヒゲもいいね。ふわふわ」
「ちょっとお家の双首犬寒そうになっちゃったけど」
「ま、また毛が伸びるよ……」
 なんだか生モノ率が高いですが、素材はこの際考えないでおこう。
 お姫様三人、竜の格好は二人と同じ役の変身した王子様一人、竜を狩る黒騎士一人、コウモリさん二人、森の木さん四人、石さん三人、謎のおじいさん一人の合わせて十七人全員がそれぞれの格好で揃いました。

 森の近くで竜狩りの黒騎士にやられて怪我をした飛竜をみつけたお姫様は、可哀相に思い助けてあげました。
 竜は飛んでいきましたが、しばらくしてカッコいい王子様がやってきました。王子様はお姫様に綺麗なお花を渡すと、消えてしまいました。
 でもお姫様は王子様にもう一度会いたくて、森で一番の物知りのコウモリさんに相談しました。コウモリさんは王子様のところに連れて行ってあげると言いました。でも一つだけお約束があります。
 何を見ても驚かないこと。
 お姫様は王子様に会いたくて、うねうね動く木や間違った道を教える石のいる森を抜けて、王子様の元に行きます。
 そして辿り着いた先にいたのは、あの助けてあげた竜でした。竜は謎のおじいさんに魔法で王子様に姿を変えてもらっていたのです。
 お姫様が驚いてしまったので、もう二度と竜は王子様に変ることが出来なくなってしまいました。竜は泣きながら空に消えていきました。

 ……というよく考えたらバッドエンドなお話なのだが、この国では絵本になるほどポピュラーな昔話である。日本で言うところの鶴の恩返しみたいな感じだ。約束を破ると悲しい事が起こるよ、みたいな。
 本当はもうちょっと明るい話でもいいじゃないのと思ったのだが、子供達がこれを選んだ。年少さんなのになかなか渋いチョイスだ。
「きっとお客さん皆感動して泣きますよ、最後」
 てんちゃんがうんうんやってるが、見た目はドタバタ喜劇である。さて、ひまわり組さん達は悲劇を演じきる事ができるのでしょうか。
 一変して、お歌は明るい感じに毎度おなじみ『ぶんぶんぶん』だ。他のクラスも全員で唄うのはこちらも毎度お馴染み『お花が笑った』である。もうこれはほとんどこの幼稚園のテーマソングみたいになっちゃってます。
 笑う花、ホントにいるし。
 こんな感じで、園ではお遊戯会の準備は着々と進んでいるのですが……。
「し、招待状を届けて……まいり……ました」
 天界への招待状をどうするか方法を色々考えていたところ、天族協同組合の方が協力してくれて、なんとか天界のさっちゃんのお父さんお母さんに届いた模様。異界への穴は沢山ある魔界ですが、一方通行のためこちらからはなかなか行けないのが現状。でもそこは元天界の住人だった堕天使だけに伝わる秘法があるそうで。
「お招きありがとう……との事です」
「来て下さると?」
「はい。流石に下級神とはいえど、お父上は天界を離れるわけにはいかないので、今回は母君のみお越しになるとの事です」
 本当はウリちゃんが行くと言ってたのだが、そこは一応国の重鎮ですから、何かあったら困ると言う事で、純度の高い天族である天協の組合長さん自ら頑張ってくださったのですが、なんかもうボロボロに草臥れておいでですね。黒い素敵な羽根が艶を失ってます。
「今は天協の会員も全員生まれも育ちも魔界ですからね。きつかったでしょう、天界は」
「はあ。しかし、宰相閣下の奥方様の護符のおかげで随分と助かりました」
 奥方……あー、私の事か。
 みんなにキスするのも何なので、考えてみましたよ、方法。
 お札です。子供達の名札に簡易結界が貼ってあるのをヒントに、一枚一枚心を籠めて口付けたココナ先生キスマーク入りのお札を作ってみました。
 これだとメルヒノア様のペンダントと同じくらいの効果しか無いかとも危惧しましたが、実験の結果案外効力ありでした。そもそもペンダントにはキスしてませんでしたし。ごめんなさい、メルヒノア様。
 さっちゃんより強力かもしれないお母様ですが、目を開けてさえいただかなければ、その神力くらいは防げるでしょう。
 ちなみに、何故かエイジ君には同じ力はありませんでした。実験台になった野生の魔物の皆さんのご冥福をお祈りします。
 さあ、泣いても笑ってもお遊戯会まであと三日。
 なるようになる、としか言えません。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。