魔界王立幼稚園ひまわり組

まりの

文字の大きさ
49 / 96
続・魔界王立幼稚園ひまわり組

14:お出かけとお留守番

しおりを挟む
 今日は休園日。
 いつもわいわいがやがや賑やかなお城は静か……でもなかった。
「まてー!」
 てちてちどかどか。相変わらず子供の足音は大きい。朝から元気MAXのリノちゃんは、最近飼いはじめた蛇ネズミのポルちゃんを追い回している。
 蛇ネズミはその名の通り蛇みたいに長くて手足の無いネズミだ。害虫を食べてくれて手も掛からないし、大人しくて人によく懐く。生き物を飼うのも情操教育にいいかなと思ってお城勤めの厨房係さんに一匹もらったのだ。リノちゃんは抱っこしたくて仕方が無いのだが、子供は抱き方が荒いからかポルちゃんはうねうね逃げ回る。そんなわけで自然と鬼ごっこが始まってしまうのです。
「リノちゃんもう少し静かにしましょうか」
 朝食後、食卓で書類仕事をしているウリちゃんが堪りかねてやんわり注意。さっきから二枚ほど書き損じているものね。
「おちごと、よしょれしゅればいいんれしょ?」
「……そうですけどね」
 パパお気の毒さま。たまの休みくらい自分の部屋にゆっくりいたいよね。リノちゃんの顔も見ていたいだろうし。まあ仕事を持ち帰ってやってる地点でゆっくりでは無いけどさ。魔王様も今日は執務室においでで無いからここでやるのはわかるし。なんか日本のサラリーマンの休日みたいだ。
「リノちゃん、ポルちゃんをあまり追いかけると可哀相だよ。それにパパにもう少し優しく言ってあげてよ。パパも忙しいんだから」
「……ココナさん、わたくしの事はついでのように聞えましたけど」
「そんなこと無いよ」
 仕事をしているせいか、外用の言葉遣いになってるけども気にしないでおこう。とにかく、通常の日は幼稚園の先生、それ以外は国の方のお仕事も忙しい旦那様を少しでもまったりさせてあげたい。よく考えたら私だって結構お疲れなのだが、母親家業に休みなどないのだ。
 というわけでリノちゃんを連れ出すことにした。と言っても、お城の中ではあるのだが。
「パパおるしゅばんにぇー」
「仕事を早く片付けて、たまにはゴロゴロしてれば?」
「……なんかそれも寂しい」
 過労で倒れられても困るので休んでください。さて、何をしましょうかね?

 リノちゃんととりあえずサロンに向かう。玩具や本もあるし、誰かが構いに来てくれるので退屈はしない。
「あー、ペルちゃん」
 サロンには先客がいた。ペルちゃんがママに本を読んでもらっている。横ではユーリちゃんがお茶を飲んでいた。
「リノちゃん、ココナさん、おはよう」
「おはようございます王子。魔王様はお仕事ですか?」
「父上は今日はダラダラする日みたいです。まだ寝てますよ」
「朝食も召し上がらずにお休みなので心配ですが……」
 さっちゃんは気になるようだが、私もユーリちゃんももう慣れている。
 平素は朝城の周りを走ったり指一本で逆立ちをしたりとやたらに鍛えてらっしゃるが、たまにこうやって朝寝坊の日がある。どうも魔王様はまとめて休む方みたいだ。
「今日はサリエノーアさんはお休みでしょ? 気にしなくていいよ。最近貴女がよく働いてくれるから暇だってギリムさんも言ってたし。彼が見ててくれるから」
 うむ。猫耳執事さんは最近すっかりお仕事が無くなり寂しそうだ。結構歳なんでハードな仕事は可哀相だが、少しくらいはお仕事をさせてあげないと。
「へえ、さっちゃんは今日はお休みなんだ」
「はい。魔王様が幼稚園がお休みの日は子供と居てやれと。本当にお優しい方ですよね。感動して泣いてしまいました」
 魔王様ナイスです! 好感度がぐぐんと上がっておりますよ。
「まてーぇ!」
 子供達はじっとしていない。ここでも鬼ごっこが始まってしまった。ポルちゃんがペルちゃんに変っただけだが。
「リノちゃん達は元気だね。いいね、小さい子は」
 王子、どこぞのおじいさんみたいなことを言わないでください。まだ十五でしょう。私から見たらついこの前まであなたもあんなもんでした。というか更にパワフルでしたよ。
「そうだ。この前リノちゃんとペルちゃんがルウラに乗りたいと言ってたよね。折角のお休みだし街にでも行ってみようか。僕も買い物に行きたいし」
「え? いいんですか?」

 ユーリちゃんは執事のギリムさんに魔王様に渡してと手紙を預け、私とさっちゃん家の母子、護衛代わりのエイジくんも誘っての大移動です。魔王様の許しを得なくともフリーパスの面々だしね。
「ウリちゃんに言ってないけど……」
「父上から伝わるよ。大丈夫ですよ、そんなに長い時間じゃないですし」
 わーい、久しぶりの街だよ。ペルちゃんのところも一緒なのでママは来るなとリノちゃんも言わなかったし。エイジ君は町でてんちゃんと待ち合わせかな?
「ふかふかー! はやーい!」
 リノちゃんはルウラの乗り心地に喜んでいる。ちゃっかり王子にしがみつき、後ろにはペルちゃんというお姫様ポジションだ。我が娘ながら将来が心配な面食いである。
 ペルちゃんは少しの間だったけど通園に乗っていたので、久しぶりって感じだね。一方、お母さんはというと……。
「早いです! 落ちたりしませんか?」
「あの……天使じゃありませんでしたっけ?」
「ああ、そういえばそうですね。私も飛べるんでした」
 真っ白の綺麗な羽根があるんですよね、さっちゃんも。この前見せてもらいました。リノちゃんもペルちゃんも小さいですが羽根が出せます。エイジ君は普通に生身で飛ぶし、今気がついたけど、この中で飛べないのは私だけだよね。そして何だかんだで私も何年ぶりかのルウラですよ。
 街までゆっくり飛んでもあっという間。
 考えてみたら王子、幾ら最近治安がよいとはいえ護衛の兵も連れずに街に来てますけど……まあ、エイジ君も本人も異常に強いのでぞろぞろ連れて歩かなくてもいいんですけど。いざとなったら私も転移陣使えますし。ふふふ、飛べなくともこの中で使えるのは私だけですよ。そんなわけでルウラに乗らなくてもいいんですよね、実は。
「住んではいましたけど、滅多に外出しなかったもので……」
 賑やかな街に、ちょっとさっちゃんはビビッてます。思いきり私の腕にしがみついてます。うーん、なんか微妙に力を吸い取られてるような気もしなくもないが、仕方あるまい。

 ユーリちゃんは本屋さんで参考書だという怪しげな図形の並んだ本を買って、早くも目的は終わってしまった。その後は何となく皆で街をぶらぶら。
「お洋服でも見に行く?」
「リノ、おかちがいい」
「オレ、野菜の種を見てきたいです」
「あれ? てんちゃんとデートしないの?」
「毎日顔合わせてるんですから、たまには……ねぇ」
 そうですか。それはそれは。
 とりあえず広場の真っ赤な噴水の近くのカフェで休憩を……と思ったが、チビ共はじっとしていない。
 さっちゃんはあまりに多くの魔族がいる中だからか、少し疲れた様子。そこでエイジ君とユーリちゃんが提案してくれた。
「オレ達おチビさん達と遊んでますから、たまにはお母さん達同士でゆっくりお茶でもしててください」
「わあ、いいの? ありがとう。リノちゃん、お兄さん達の言う事ちゃんと聞くのよ。迷子にならないでね」
「あーい!」
 ペルちゃんは同じ事をお母さんに言われて素直に頷いている。きっとこの子は気を使って何も欲しいとか言わないだろうから、こっそりエイジ君に小銭を渡して、お菓子でも買ってやってとお願いしておいた。
 ふふふ。さて、ママ会ですね~。
 虹色のいい香りのするお茶と、蜂蜜の匂いの焼き菓子でまったり。子供抜きで女同士でお喋りなんて久しぶりなので、リラックスタイムです。
 幼稚園の話、育児の話、気がつけば結婚のなれ初めのお話になっていた。
「まあ、魔王様の求婚を!」
「うん……まあフッちゃったというか、こればっかりは縁というか。そういうさっちゃんは?」
 と、訊いておいてしまったと思った。ペルちゃんのお父さんは……。
「前に少しお話したように魔界に降りて来たのは、その……私の片思いなのですけど、どうしても会いたい方がいて。でもどうしても叶わない相手だったので、途方に暮れている時に助けてくれたのが、ペルの父です」
「あれ、じゃあペルちゃんのお父さんじゃないんだ、その好きだった人」
「ペルの父親は優しい人でした。もう叶わぬ恋など捨てて、この人と生きて行こうと心に決めていたのに。なのに私の目を覗いたあの人は……」
 俯いてしまったさっちゃん。ゴメンね、辛い事を思い出させて。
「でも、今こんなに幸せで……だから余計に亡くなったあの人に申し訳なくて」
「そんな事言わないで。きっとあんな可愛い子供を残せたんだもの。旦那さんも幸せだよ」
 気休めにもならないような安っぽい事しかいえないけど、でも……。
 盛下がった空気を戻すように、普通の話を始めた。魔王様がユーリちゃんをどれだけ可愛がっていたかとか、去年の運動会でどんな事があったかとか、先日の絵のモデルをした後、足が攣った魔王様が変な格好で廊下を歩いていたとか。大人しいペルちゃんだけど、実は夜寝るときには変な寝言をいうんだとか。笑いながらお茶を飲んで過ごした。
 結構長い時間一緒に喋ってた。やっぱり女同士だと気兼ねなく話せるのが楽しくて。気がつくと、街を見て回っていたユーリちゃんとエイジ君がそれぞれ子供を抱っこして帰ってきた。
「少しはゆっくり出来ましたか?」
「うん。子守ありがとう」
 王子と大臣に子守させる保育士と侍女って私達だけだよね。
「多分ご機嫌斜めの父上にお土産も買ってきました」
「リノもパパにケーキ買ったぉ!」
 ユーリちゃんとリノちゃんはそれぞれパパにお土産を持って帰ってきた。
「僕、これ買ってもらったの」
 あ、ペルちゃんは竜の飴細工。わあ、懐かしいな。ユーリちゃんと初めて街に来た時に買ったよね。まだやってるんだね。
「あの、お金は……ちゃんとお礼を言ったの?」
「言ったよな。えらいな、ちゃんと言えるもんな」
 お兄ちゃんの顔になってるね、エイジ君。
「お金は気にしなくていいよ。ペルちゃんだって何か欲しいよね」
 宝物のように大事に飴細工を握り締めたペルちゃんはすごく嬉しそう。
「楽しかったですね! こんなに楽しいお休みは初めてです」
 さっちゃんは何かを誤魔化す様にニッコリ笑って、ペルちゃんを抱きしめた。
 うーん、でも気になるな。長い間想い続けて、天界から降りて来ちゃうくらい誰を好きになったんだろうか。
 いつかは話してくれるかな? ね、さっちゃん。


 何だかんだでお城に帰ったのはもう夕方。
「たっだいまー! 遅くなってゴメンね」
 部屋にご機嫌で帰ると、灯りも点けずに薄暗い部屋でウリちゃんがポルちゃんを抱きしめて泣きそうな顔で床に座り込んでいた。
「ひょっとして、ずっと一人で?」
「はい。魔王様にお聞きしたら、皆で出かけたとだけ……」
「ゴメン。ちゃんと言ってから行けばよかったね」
「……寂しくて……死にそうでした」
 ウサギですかあなたは。たかだか数時間ですけど?
 その後、リノちゃんのお土産のフルーツタルトを泣きながら食べて、リノちゃんと二人でベタベタ意味も無くパパにくっつきまくって、やっとご機嫌がなおりました。全く、お留守番だけで泣いちゃう大きな子供みたいなパパです。そこがいいんだけどね~。
 ちなみにもう一人の置いてけぼりの魔王様もかなりいじけていたご様子。城の壁のあちこちに啜り泣く顔が現れたのは多分魔王様の仕業です。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。