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続・魔界王立幼稚園ひまわり組
14:お出かけとお留守番
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今日は休園日。
いつもわいわいがやがや賑やかなお城は静か……でもなかった。
「まてー!」
てちてちどかどか。相変わらず子供の足音は大きい。朝から元気MAXのリノちゃんは、最近飼いはじめた蛇ネズミのポルちゃんを追い回している。
蛇ネズミはその名の通り蛇みたいに長くて手足の無いネズミだ。害虫を食べてくれて手も掛からないし、大人しくて人によく懐く。生き物を飼うのも情操教育にいいかなと思ってお城勤めの厨房係さんに一匹もらったのだ。リノちゃんは抱っこしたくて仕方が無いのだが、子供は抱き方が荒いからかポルちゃんはうねうね逃げ回る。そんなわけで自然と鬼ごっこが始まってしまうのです。
「リノちゃんもう少し静かにしましょうか」
朝食後、食卓で書類仕事をしているウリちゃんが堪りかねてやんわり注意。さっきから二枚ほど書き損じているものね。
「おちごと、よしょれしゅればいいんれしょ?」
「……そうですけどね」
パパお気の毒さま。たまの休みくらい自分の部屋にゆっくりいたいよね。リノちゃんの顔も見ていたいだろうし。まあ仕事を持ち帰ってやってる地点でゆっくりでは無いけどさ。魔王様も今日は執務室においでで無いからここでやるのはわかるし。なんか日本のサラリーマンの休日みたいだ。
「リノちゃん、ポルちゃんをあまり追いかけると可哀相だよ。それにパパにもう少し優しく言ってあげてよ。パパも忙しいんだから」
「……ココナさん、わたくしの事はついでのように聞えましたけど」
「そんなこと無いよ」
仕事をしているせいか、外用の言葉遣いになってるけども気にしないでおこう。とにかく、通常の日は幼稚園の先生、それ以外は国の方のお仕事も忙しい旦那様を少しでもまったりさせてあげたい。よく考えたら私だって結構お疲れなのだが、母親家業に休みなどないのだ。
というわけでリノちゃんを連れ出すことにした。と言っても、お城の中ではあるのだが。
「パパおるしゅばんにぇー」
「仕事を早く片付けて、たまにはゴロゴロしてれば?」
「……なんかそれも寂しい」
過労で倒れられても困るので休んでください。さて、何をしましょうかね?
リノちゃんととりあえずサロンに向かう。玩具や本もあるし、誰かが構いに来てくれるので退屈はしない。
「あー、ペルちゃん」
サロンには先客がいた。ペルちゃんがママに本を読んでもらっている。横ではユーリちゃんがお茶を飲んでいた。
「リノちゃん、ココナさん、おはよう」
「おはようございます王子。魔王様はお仕事ですか?」
「父上は今日はダラダラする日みたいです。まだ寝てますよ」
「朝食も召し上がらずにお休みなので心配ですが……」
さっちゃんは気になるようだが、私もユーリちゃんももう慣れている。
平素は朝城の周りを走ったり指一本で逆立ちをしたりとやたらに鍛えてらっしゃるが、たまにこうやって朝寝坊の日がある。どうも魔王様はまとめて休む方みたいだ。
「今日はサリエノーアさんはお休みでしょ? 気にしなくていいよ。最近貴女がよく働いてくれるから暇だってギリムさんも言ってたし。彼が見ててくれるから」
うむ。猫耳執事さんは最近すっかりお仕事が無くなり寂しそうだ。結構歳なんでハードな仕事は可哀相だが、少しくらいはお仕事をさせてあげないと。
「へえ、さっちゃんは今日はお休みなんだ」
「はい。魔王様が幼稚園がお休みの日は子供と居てやれと。本当にお優しい方ですよね。感動して泣いてしまいました」
魔王様ナイスです! 好感度がぐぐんと上がっておりますよ。
「まてーぇ!」
子供達はじっとしていない。ここでも鬼ごっこが始まってしまった。ポルちゃんがペルちゃんに変っただけだが。
「リノちゃん達は元気だね。いいね、小さい子は」
王子、どこぞのおじいさんみたいなことを言わないでください。まだ十五でしょう。私から見たらついこの前まであなたもあんなもんでした。というか更にパワフルでしたよ。
「そうだ。この前リノちゃんとペルちゃんがルウラに乗りたいと言ってたよね。折角のお休みだし街にでも行ってみようか。僕も買い物に行きたいし」
「え? いいんですか?」
ユーリちゃんは執事のギリムさんに魔王様に渡してと手紙を預け、私とさっちゃん家の母子、護衛代わりのエイジくんも誘っての大移動です。魔王様の許しを得なくともフリーパスの面々だしね。
「ウリちゃんに言ってないけど……」
「父上から伝わるよ。大丈夫ですよ、そんなに長い時間じゃないですし」
わーい、久しぶりの街だよ。ペルちゃんのところも一緒なのでママは来るなとリノちゃんも言わなかったし。エイジ君は町でてんちゃんと待ち合わせかな?
「ふかふかー! はやーい!」
リノちゃんはルウラの乗り心地に喜んでいる。ちゃっかり王子にしがみつき、後ろにはペルちゃんというお姫様ポジションだ。我が娘ながら将来が心配な面食いである。
ペルちゃんは少しの間だったけど通園に乗っていたので、久しぶりって感じだね。一方、お母さんはというと……。
「早いです! 落ちたりしませんか?」
「あの……天使じゃありませんでしたっけ?」
「ああ、そういえばそうですね。私も飛べるんでした」
真っ白の綺麗な羽根があるんですよね、さっちゃんも。この前見せてもらいました。リノちゃんもペルちゃんも小さいですが羽根が出せます。エイジ君は普通に生身で飛ぶし、今気がついたけど、この中で飛べないのは私だけだよね。そして何だかんだで私も何年ぶりかのルウラですよ。
街までゆっくり飛んでもあっという間。
考えてみたら王子、幾ら最近治安がよいとはいえ護衛の兵も連れずに街に来てますけど……まあ、エイジ君も本人も異常に強いのでぞろぞろ連れて歩かなくてもいいんですけど。いざとなったら私も転移陣使えますし。ふふふ、飛べなくともこの中で使えるのは私だけですよ。そんなわけでルウラに乗らなくてもいいんですよね、実は。
「住んではいましたけど、滅多に外出しなかったもので……」
賑やかな街に、ちょっとさっちゃんはビビッてます。思いきり私の腕にしがみついてます。うーん、なんか微妙に力を吸い取られてるような気もしなくもないが、仕方あるまい。
ユーリちゃんは本屋さんで参考書だという怪しげな図形の並んだ本を買って、早くも目的は終わってしまった。その後は何となく皆で街をぶらぶら。
「お洋服でも見に行く?」
「リノ、おかちがいい」
「オレ、野菜の種を見てきたいです」
「あれ? てんちゃんとデートしないの?」
「毎日顔合わせてるんですから、たまには……ねぇ」
そうですか。それはそれは。
とりあえず広場の真っ赤な噴水の近くのカフェで休憩を……と思ったが、チビ共はじっとしていない。
さっちゃんはあまりに多くの魔族がいる中だからか、少し疲れた様子。そこでエイジ君とユーリちゃんが提案してくれた。
「オレ達おチビさん達と遊んでますから、たまにはお母さん達同士でゆっくりお茶でもしててください」
「わあ、いいの? ありがとう。リノちゃん、お兄さん達の言う事ちゃんと聞くのよ。迷子にならないでね」
「あーい!」
ペルちゃんは同じ事をお母さんに言われて素直に頷いている。きっとこの子は気を使って何も欲しいとか言わないだろうから、こっそりエイジ君に小銭を渡して、お菓子でも買ってやってとお願いしておいた。
ふふふ。さて、ママ会ですね~。
虹色のいい香りのするお茶と、蜂蜜の匂いの焼き菓子でまったり。子供抜きで女同士でお喋りなんて久しぶりなので、リラックスタイムです。
幼稚園の話、育児の話、気がつけば結婚のなれ初めのお話になっていた。
「まあ、魔王様の求婚を!」
「うん……まあフッちゃったというか、こればっかりは縁というか。そういうさっちゃんは?」
と、訊いておいてしまったと思った。ペルちゃんのお父さんは……。
「前に少しお話したように魔界に降りて来たのは、その……私の片思いなのですけど、どうしても会いたい方がいて。でもどうしても叶わない相手だったので、途方に暮れている時に助けてくれたのが、ペルの父です」
「あれ、じゃあペルちゃんのお父さんじゃないんだ、その好きだった人」
「ペルの父親は優しい人でした。もう叶わぬ恋など捨てて、この人と生きて行こうと心に決めていたのに。なのに私の目を覗いたあの人は……」
俯いてしまったさっちゃん。ゴメンね、辛い事を思い出させて。
「でも、今こんなに幸せで……だから余計に亡くなったあの人に申し訳なくて」
「そんな事言わないで。きっとあんな可愛い子供を残せたんだもの。旦那さんも幸せだよ」
気休めにもならないような安っぽい事しかいえないけど、でも……。
盛下がった空気を戻すように、普通の話を始めた。魔王様がユーリちゃんをどれだけ可愛がっていたかとか、去年の運動会でどんな事があったかとか、先日の絵のモデルをした後、足が攣った魔王様が変な格好で廊下を歩いていたとか。大人しいペルちゃんだけど、実は夜寝るときには変な寝言をいうんだとか。笑いながらお茶を飲んで過ごした。
結構長い時間一緒に喋ってた。やっぱり女同士だと気兼ねなく話せるのが楽しくて。気がつくと、街を見て回っていたユーリちゃんとエイジ君がそれぞれ子供を抱っこして帰ってきた。
「少しはゆっくり出来ましたか?」
「うん。子守ありがとう」
王子と大臣に子守させる保育士と侍女って私達だけだよね。
「多分ご機嫌斜めの父上にお土産も買ってきました」
「リノもパパにケーキ買ったぉ!」
ユーリちゃんとリノちゃんはそれぞれパパにお土産を持って帰ってきた。
「僕、これ買ってもらったの」
あ、ペルちゃんは竜の飴細工。わあ、懐かしいな。ユーリちゃんと初めて街に来た時に買ったよね。まだやってるんだね。
「あの、お金は……ちゃんとお礼を言ったの?」
「言ったよな。えらいな、ちゃんと言えるもんな」
お兄ちゃんの顔になってるね、エイジ君。
「お金は気にしなくていいよ。ペルちゃんだって何か欲しいよね」
宝物のように大事に飴細工を握り締めたペルちゃんはすごく嬉しそう。
「楽しかったですね! こんなに楽しいお休みは初めてです」
さっちゃんは何かを誤魔化す様にニッコリ笑って、ペルちゃんを抱きしめた。
うーん、でも気になるな。長い間想い続けて、天界から降りて来ちゃうくらい誰を好きになったんだろうか。
いつかは話してくれるかな? ね、さっちゃん。
何だかんだでお城に帰ったのはもう夕方。
「たっだいまー! 遅くなってゴメンね」
部屋にご機嫌で帰ると、灯りも点けずに薄暗い部屋でウリちゃんがポルちゃんを抱きしめて泣きそうな顔で床に座り込んでいた。
「ひょっとして、ずっと一人で?」
「はい。魔王様にお聞きしたら、皆で出かけたとだけ……」
「ゴメン。ちゃんと言ってから行けばよかったね」
「……寂しくて……死にそうでした」
ウサギですかあなたは。たかだか数時間ですけど?
その後、リノちゃんのお土産のフルーツタルトを泣きながら食べて、リノちゃんと二人でベタベタ意味も無くパパにくっつきまくって、やっとご機嫌がなおりました。全く、お留守番だけで泣いちゃう大きな子供みたいなパパです。そこがいいんだけどね~。
ちなみにもう一人の置いてけぼりの魔王様もかなりいじけていたご様子。城の壁のあちこちに啜り泣く顔が現れたのは多分魔王様の仕業です。
いつもわいわいがやがや賑やかなお城は静か……でもなかった。
「まてー!」
てちてちどかどか。相変わらず子供の足音は大きい。朝から元気MAXのリノちゃんは、最近飼いはじめた蛇ネズミのポルちゃんを追い回している。
蛇ネズミはその名の通り蛇みたいに長くて手足の無いネズミだ。害虫を食べてくれて手も掛からないし、大人しくて人によく懐く。生き物を飼うのも情操教育にいいかなと思ってお城勤めの厨房係さんに一匹もらったのだ。リノちゃんは抱っこしたくて仕方が無いのだが、子供は抱き方が荒いからかポルちゃんはうねうね逃げ回る。そんなわけで自然と鬼ごっこが始まってしまうのです。
「リノちゃんもう少し静かにしましょうか」
朝食後、食卓で書類仕事をしているウリちゃんが堪りかねてやんわり注意。さっきから二枚ほど書き損じているものね。
「おちごと、よしょれしゅればいいんれしょ?」
「……そうですけどね」
パパお気の毒さま。たまの休みくらい自分の部屋にゆっくりいたいよね。リノちゃんの顔も見ていたいだろうし。まあ仕事を持ち帰ってやってる地点でゆっくりでは無いけどさ。魔王様も今日は執務室においでで無いからここでやるのはわかるし。なんか日本のサラリーマンの休日みたいだ。
「リノちゃん、ポルちゃんをあまり追いかけると可哀相だよ。それにパパにもう少し優しく言ってあげてよ。パパも忙しいんだから」
「……ココナさん、わたくしの事はついでのように聞えましたけど」
「そんなこと無いよ」
仕事をしているせいか、外用の言葉遣いになってるけども気にしないでおこう。とにかく、通常の日は幼稚園の先生、それ以外は国の方のお仕事も忙しい旦那様を少しでもまったりさせてあげたい。よく考えたら私だって結構お疲れなのだが、母親家業に休みなどないのだ。
というわけでリノちゃんを連れ出すことにした。と言っても、お城の中ではあるのだが。
「パパおるしゅばんにぇー」
「仕事を早く片付けて、たまにはゴロゴロしてれば?」
「……なんかそれも寂しい」
過労で倒れられても困るので休んでください。さて、何をしましょうかね?
リノちゃんととりあえずサロンに向かう。玩具や本もあるし、誰かが構いに来てくれるので退屈はしない。
「あー、ペルちゃん」
サロンには先客がいた。ペルちゃんがママに本を読んでもらっている。横ではユーリちゃんがお茶を飲んでいた。
「リノちゃん、ココナさん、おはよう」
「おはようございます王子。魔王様はお仕事ですか?」
「父上は今日はダラダラする日みたいです。まだ寝てますよ」
「朝食も召し上がらずにお休みなので心配ですが……」
さっちゃんは気になるようだが、私もユーリちゃんももう慣れている。
平素は朝城の周りを走ったり指一本で逆立ちをしたりとやたらに鍛えてらっしゃるが、たまにこうやって朝寝坊の日がある。どうも魔王様はまとめて休む方みたいだ。
「今日はサリエノーアさんはお休みでしょ? 気にしなくていいよ。最近貴女がよく働いてくれるから暇だってギリムさんも言ってたし。彼が見ててくれるから」
うむ。猫耳執事さんは最近すっかりお仕事が無くなり寂しそうだ。結構歳なんでハードな仕事は可哀相だが、少しくらいはお仕事をさせてあげないと。
「へえ、さっちゃんは今日はお休みなんだ」
「はい。魔王様が幼稚園がお休みの日は子供と居てやれと。本当にお優しい方ですよね。感動して泣いてしまいました」
魔王様ナイスです! 好感度がぐぐんと上がっておりますよ。
「まてーぇ!」
子供達はじっとしていない。ここでも鬼ごっこが始まってしまった。ポルちゃんがペルちゃんに変っただけだが。
「リノちゃん達は元気だね。いいね、小さい子は」
王子、どこぞのおじいさんみたいなことを言わないでください。まだ十五でしょう。私から見たらついこの前まであなたもあんなもんでした。というか更にパワフルでしたよ。
「そうだ。この前リノちゃんとペルちゃんがルウラに乗りたいと言ってたよね。折角のお休みだし街にでも行ってみようか。僕も買い物に行きたいし」
「え? いいんですか?」
ユーリちゃんは執事のギリムさんに魔王様に渡してと手紙を預け、私とさっちゃん家の母子、護衛代わりのエイジくんも誘っての大移動です。魔王様の許しを得なくともフリーパスの面々だしね。
「ウリちゃんに言ってないけど……」
「父上から伝わるよ。大丈夫ですよ、そんなに長い時間じゃないですし」
わーい、久しぶりの街だよ。ペルちゃんのところも一緒なのでママは来るなとリノちゃんも言わなかったし。エイジ君は町でてんちゃんと待ち合わせかな?
「ふかふかー! はやーい!」
リノちゃんはルウラの乗り心地に喜んでいる。ちゃっかり王子にしがみつき、後ろにはペルちゃんというお姫様ポジションだ。我が娘ながら将来が心配な面食いである。
ペルちゃんは少しの間だったけど通園に乗っていたので、久しぶりって感じだね。一方、お母さんはというと……。
「早いです! 落ちたりしませんか?」
「あの……天使じゃありませんでしたっけ?」
「ああ、そういえばそうですね。私も飛べるんでした」
真っ白の綺麗な羽根があるんですよね、さっちゃんも。この前見せてもらいました。リノちゃんもペルちゃんも小さいですが羽根が出せます。エイジ君は普通に生身で飛ぶし、今気がついたけど、この中で飛べないのは私だけだよね。そして何だかんだで私も何年ぶりかのルウラですよ。
街までゆっくり飛んでもあっという間。
考えてみたら王子、幾ら最近治安がよいとはいえ護衛の兵も連れずに街に来てますけど……まあ、エイジ君も本人も異常に強いのでぞろぞろ連れて歩かなくてもいいんですけど。いざとなったら私も転移陣使えますし。ふふふ、飛べなくともこの中で使えるのは私だけですよ。そんなわけでルウラに乗らなくてもいいんですよね、実は。
「住んではいましたけど、滅多に外出しなかったもので……」
賑やかな街に、ちょっとさっちゃんはビビッてます。思いきり私の腕にしがみついてます。うーん、なんか微妙に力を吸い取られてるような気もしなくもないが、仕方あるまい。
ユーリちゃんは本屋さんで参考書だという怪しげな図形の並んだ本を買って、早くも目的は終わってしまった。その後は何となく皆で街をぶらぶら。
「お洋服でも見に行く?」
「リノ、おかちがいい」
「オレ、野菜の種を見てきたいです」
「あれ? てんちゃんとデートしないの?」
「毎日顔合わせてるんですから、たまには……ねぇ」
そうですか。それはそれは。
とりあえず広場の真っ赤な噴水の近くのカフェで休憩を……と思ったが、チビ共はじっとしていない。
さっちゃんはあまりに多くの魔族がいる中だからか、少し疲れた様子。そこでエイジ君とユーリちゃんが提案してくれた。
「オレ達おチビさん達と遊んでますから、たまにはお母さん達同士でゆっくりお茶でもしててください」
「わあ、いいの? ありがとう。リノちゃん、お兄さん達の言う事ちゃんと聞くのよ。迷子にならないでね」
「あーい!」
ペルちゃんは同じ事をお母さんに言われて素直に頷いている。きっとこの子は気を使って何も欲しいとか言わないだろうから、こっそりエイジ君に小銭を渡して、お菓子でも買ってやってとお願いしておいた。
ふふふ。さて、ママ会ですね~。
虹色のいい香りのするお茶と、蜂蜜の匂いの焼き菓子でまったり。子供抜きで女同士でお喋りなんて久しぶりなので、リラックスタイムです。
幼稚園の話、育児の話、気がつけば結婚のなれ初めのお話になっていた。
「まあ、魔王様の求婚を!」
「うん……まあフッちゃったというか、こればっかりは縁というか。そういうさっちゃんは?」
と、訊いておいてしまったと思った。ペルちゃんのお父さんは……。
「前に少しお話したように魔界に降りて来たのは、その……私の片思いなのですけど、どうしても会いたい方がいて。でもどうしても叶わない相手だったので、途方に暮れている時に助けてくれたのが、ペルの父です」
「あれ、じゃあペルちゃんのお父さんじゃないんだ、その好きだった人」
「ペルの父親は優しい人でした。もう叶わぬ恋など捨てて、この人と生きて行こうと心に決めていたのに。なのに私の目を覗いたあの人は……」
俯いてしまったさっちゃん。ゴメンね、辛い事を思い出させて。
「でも、今こんなに幸せで……だから余計に亡くなったあの人に申し訳なくて」
「そんな事言わないで。きっとあんな可愛い子供を残せたんだもの。旦那さんも幸せだよ」
気休めにもならないような安っぽい事しかいえないけど、でも……。
盛下がった空気を戻すように、普通の話を始めた。魔王様がユーリちゃんをどれだけ可愛がっていたかとか、去年の運動会でどんな事があったかとか、先日の絵のモデルをした後、足が攣った魔王様が変な格好で廊下を歩いていたとか。大人しいペルちゃんだけど、実は夜寝るときには変な寝言をいうんだとか。笑いながらお茶を飲んで過ごした。
結構長い時間一緒に喋ってた。やっぱり女同士だと気兼ねなく話せるのが楽しくて。気がつくと、街を見て回っていたユーリちゃんとエイジ君がそれぞれ子供を抱っこして帰ってきた。
「少しはゆっくり出来ましたか?」
「うん。子守ありがとう」
王子と大臣に子守させる保育士と侍女って私達だけだよね。
「多分ご機嫌斜めの父上にお土産も買ってきました」
「リノもパパにケーキ買ったぉ!」
ユーリちゃんとリノちゃんはそれぞれパパにお土産を持って帰ってきた。
「僕、これ買ってもらったの」
あ、ペルちゃんは竜の飴細工。わあ、懐かしいな。ユーリちゃんと初めて街に来た時に買ったよね。まだやってるんだね。
「あの、お金は……ちゃんとお礼を言ったの?」
「言ったよな。えらいな、ちゃんと言えるもんな」
お兄ちゃんの顔になってるね、エイジ君。
「お金は気にしなくていいよ。ペルちゃんだって何か欲しいよね」
宝物のように大事に飴細工を握り締めたペルちゃんはすごく嬉しそう。
「楽しかったですね! こんなに楽しいお休みは初めてです」
さっちゃんは何かを誤魔化す様にニッコリ笑って、ペルちゃんを抱きしめた。
うーん、でも気になるな。長い間想い続けて、天界から降りて来ちゃうくらい誰を好きになったんだろうか。
いつかは話してくれるかな? ね、さっちゃん。
何だかんだでお城に帰ったのはもう夕方。
「たっだいまー! 遅くなってゴメンね」
部屋にご機嫌で帰ると、灯りも点けずに薄暗い部屋でウリちゃんがポルちゃんを抱きしめて泣きそうな顔で床に座り込んでいた。
「ひょっとして、ずっと一人で?」
「はい。魔王様にお聞きしたら、皆で出かけたとだけ……」
「ゴメン。ちゃんと言ってから行けばよかったね」
「……寂しくて……死にそうでした」
ウサギですかあなたは。たかだか数時間ですけど?
その後、リノちゃんのお土産のフルーツタルトを泣きながら食べて、リノちゃんと二人でベタベタ意味も無くパパにくっつきまくって、やっとご機嫌がなおりました。全く、お留守番だけで泣いちゃう大きな子供みたいなパパです。そこがいいんだけどね~。
ちなみにもう一人の置いてけぼりの魔王様もかなりいじけていたご様子。城の壁のあちこちに啜り泣く顔が現れたのは多分魔王様の仕業です。
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