魔界王立幼稚園ひまわり組

まりの

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続・魔界王立幼稚園ひまわり組

8:危機はチャンス

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 ぞわぞわとした嫌な気配が和らいだ。
 魔王様が羽根を、両腕を広げ視線を遮っているからだろうか。
 ただ黙って宙に浮いているだけにも見えるが、何かを語りかけておいでのようだ。その言葉は私には聞えないが、空の目玉には聞こえているのだろうか。
「魔王様!」
「父上!」
 羽根を広げたウリちゃんとユーリちゃん、エイジ君が魔王様の元に飛ぶ。
「危険です、一人でお出になるなど!」
「構わぬ。ここは魔界、魔王の我が守らないでどうする」
 こんな時ですが、今のはものすごくカッコよかったです魔王様!
 リノちゃん達と一緒に抱き寄せていたペルちゃんが身をよじって抜け出し、私の手を離れた。マーム先生が皆を結界で守っているが、ペルちゃんはすんなりその結界をすり抜けた。
「お母さん、お母さん!」
 抱きついた我子を抱きしめたお母さん。
 でも、もしもあの目玉がお母さんを迎えに来たのだったら、ペルちゃんも危ないじゃない。あの子は半分とはいえちゃんとした魔族。天界の力に晒されたら、小さな子供など簡単に……。
 怖くて他の子も心配だが、ペルちゃんも大事な園児。リノちゃん達を他の先生達に預け、私も出してもらって後を追った。
 サリエノーアさんは跪いてペルちゃんを抱きしめたまま動かない。私はそんな彼らに被さるようにして一緒に身を寄せるしかない。
 見上げると、空の目玉が瞬きをした。
 魔王様が手を翳して、紫に光る大きな槍を出された。ウリちゃんも剣を、ユーリちゃんも光る剣を出した。あれらは実体の無い魔力の結晶。以前に勇者の腕輪に吸い込まれたのを見た。
 どう見ても切迫した事態だ。折角の夏祭り、どうなってしまうんだろう?
 だが、そんな緊張した時間は突然終わりを告げた。

『……また来る』

 そんな声が聞こえた気がした。声と言うよりも頭に直接響くような思念。
 すぅと瞼が閉じてゆく。そして空の目玉は消えた。
 同時に満ちていた緊張や不安も消えていく。
 魔王様達もそれぞれ武器を納めて降りてこられた。
「もう大丈夫です」
 ほっとしたがものすごい脱力感がある。目には見えなくてもやはりあの腕輪と同じく魔力以外の力に晒されると消耗するのだろうか。
 提灯や蝋燭の光も戻りあちらこちらで安堵の声が上がる。
「皆、驚かせてすまぬ。ここの祭りが賑やかだったゆえ、気になっただけの客だ。さあ、夜は長い。祭りを続けようではないか」
 大きい姿のままで魔王様が、少し明るい口調で皆に声を掛けられた。
「なんだー」
「良かったぁ」
「こわかったじょ」
 あちこちで声が上がり、集まった人々や園児達にも笑顔が戻った。
「わ、わはははは、じゃあまた楽しくやってくれ~!」
 楽団の音楽も再び始まり、お祭りの平和な雰囲気が戻って来た。
 だが私にもわかった。魔王様は皆を安心させるためにああやって軽く言われたが、実は恐ろしい危機が訪れていたのだと。
 ウリちゃんが駆け寄って来て無言で頷くと、まだ蹲ったままのペルちゃんのお母さんに付いていてあげてと目で合図をした。多分行って来いと魔王様に言われたんだろう。
「さあ、わたくしはリノちゃんと屋台で楽しんできますゆえ。そうだ、ペルルリル君も一緒に行きましょうか」
「でも、お母さん……」
「お母さんはちょっとお疲れのようだから、お城の方で休んでいただきましょうね。大丈夫よペルちゃん、リノちゃんと遊んでてね」
 私が言うと、まだ不安げな顔だったが小さく頷いたペルちゃん。
「ウリちゃん、もうカキ氷は食べたからあまり冷たいものは駄目よ」
「わかりました。さ、向こうで風船を見てきましょう」
 ウリちゃんと手を繋いだペルちゃんは振り返りつつ向こうで手を振ってるリノちゃん達のほうへ行った。

「立てますか? 少し座って休みましょうか?」
 サリエノーアさんの肩に手を置くと、彼女はふらふらと立ち上がった。
「大、丈夫です……すみません、本当に……」
 涙声だ。布の下で顔は見えないが、泣いてるみたい。
 震えてる細い肩。私もそう大きいほうではないけど、痩せた細い肩の感触に胸が痛くなった。あんなに綺麗なのにこんな風に隠さないといけないなんて大変だな。息苦しかったりしないのかな。そうだ、私達に天界の力が危険なように、彼女にとっては魔の力は危険なのでは無いだろうか。まだ普通の人間だった頃、エイジ君もよく魔気にあてられて疲れると言ってた。今日は魔族が沢山いるから堪えるんじゃないのかな。
「これだけの人がいると疲れるでしょう?」
「は、はい……」
「天界の方には、反する魔族の魔力は厳しいでしょう」
「……どうしてそれを?」
 こっそり調べさせていただいたとは言いませんけども。
「わかりますよ。あ、大丈夫ですよ。別にだからといって差別したりはしませんから。ここだけの話ですけど、私も元は違う世界の人間なんです。今は魔王様のおかげで魔族の一員ですけどね」
「まあ。そうでしたの。王族の黒髪で、てっきり魔王様のご息女でいらっしゃるとばかり。メルヒノア様は何も仰らなかったので」
 ……魔王様、本当のお父さんだと思われていたようですよ! 内緒にしておきましょうね~。絶対に落ち込むよね~。
 とか思ってたら、魔王様がこちらに歩いて来られた。意味も無くビクッとした。サリエノーアさんも驚いてる。
 相変わらず表情を押し殺したような硬いお顔。
「お話を聞かせてもらってもよいだろうか? これはもう貴女だけの問題では無い。この魔界の危機にも繋がる事なのだ」
 怖い怖い、言い方も表情も。
 魔王様、いきなりそんなにキツイ言い方したらめちゃくちゃ怯えておられますよ、サリエノーアさん。まるで職務質問する警察官のようじゃないですか。そう視線に乗せつつ魔王様の顔を見ると、しまったというのがわかる顔で、少し表情を緩められた。
「お城の中でお話をなさったほうが? 彼女は少し疲れてらっしゃるので」
「そうだな」
 うん、私なんか仲人おばさんな気分。ほら、魔王様、もう一押し。
「出来ればその、二人きりで」
 良く言った! では後は任せましたよ魔王様。上手く彼女の気を引いてください。ちょっと切欠は予想外な感じになってしまいましたけど、これはチャンスなんですよ!
 すっごく打ち合わせしましたよね。覚えておいででしょうか。

 一、お祭りに乗じてさり気なく二人っきりで話す機会を作る。
 二、自分が優しいパパであることをアピールする。
 三、絶対顔、特に目を見ないように我慢する。
 四、次回会う約束をする。出来ればデートの約束なんぞ。

 ……一番目は微妙に趣旨が変わってしまいましたけど、結果オーライです。話す内容もなんかものすごく切羽つまってますけど、それでも無いよりマシです。頑張れ、魔王様。
「じゃあ、私は幼稚園の子供達のところに」
 と、後はお二人で~と去ろうとした時に、がっしり手首を掴れた。
「あの……先生、出来ればご一緒に……」
 縋り付くように、私の腕を掴むサリエノーアさんの細い指。
「え? 私も?」
 えーん、魔王様がコッチ睨んでるよぉ。これでは打ち合わせと違うじゃないのよぉ。
 耳打ちするようにこっそりとサリエノーアさんは言った。
「ま、魔王様と二人きりは……お、恐ろしくて気を失ってしまいそうで」
「……」

 魔王様、すでに怖がられてますよっ! これは困りましたね。
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