魔界王立幼稚園ひまわり組

まりの

文字の大きさ
上 下
64 / 96
続・魔界王立幼稚園ひまわり組

27:変貌した町

しおりを挟む


 大慌てのエイジ君の声に、魔王様とウリちゃんがじーっと目を開けたまま固まったかと思うと、神妙な表情で顔を合わせた。
「なになに? 何なの?」
「街の様子を千里眼で見たんですよ。確かに大変な事になってます。今すぐ行かないと」
「大変って?」
「何と言ってよいやら……」
 ウリちゃんが魔王様とザラキエルノ様を交互に見て言葉に詰まっている。その間にエイジ君は既に部屋から出て行ってしまった。
「何ですの? 街がどうかいたしましたの?」
 ザラキエルノ様が不思議そうに首を傾げておいでだ。
「襲われているというか、変ってしまっているというか、何というか」
「ちょっ……!」
 それは大変じゃないのよ! ひょっとしてまた魔王様のやっちゃったのせいで?! 思わす魔王様を見たが、難しい顔をしておいでだ。
「私も少し様子を見て来よう。すみません、折角お越し頂いたのに」
 魔王様も立ち上ってザラキエルノ様に軽く会釈をしてドアのほうに向かわれた。
「僕も行く!」
 ユーリちゃんも何処から出したのか剣を用意して魔王様に続こうとしたが、魔王様に片手で押しとどめられた。
「ユーリは待っていなさい。お前は私の代わりに城を守れ」
「でも……!」
「そうですよ、王子。もし魔王様に何かあった時は継いでもらわねばならない大事な身ですので。ここで城を守るのも立派な務めです」
 ウリちゃん、まあそれは正しいのだがそれ、フォローになってないから。すっごい不吉なこと言わないでよ。ユーリちゃんは何とか納得してくれたようだが。
「あのっ、私も!」
 私もついて行こうとしたが、既に部屋を出て行かれた魔王様の後を追おうとしていたウリちゃんにまたしても止められた。
「ココナさんもここで待っていてください。王子やリノちゃん達をお願いします」
「駄目、私も行く。幼稚園の子供達も街に帰ったんだもの。何かあったら……幼稚園の先生としては責任があるの!」
「……」
 もうウリちゃんは何も言わずに、くるりと身を翻して魔王様の後に続いた。気がつけばその後姿にはいつの間にか腰に剣があった。
「ザラキエルノ様、失礼いたします! ユーリちゃん、さっちゃん、後お願い!」
 お客人を置いて、私もみんなの後を追った。


 流石に魔王様自らが街のど真中に転移するのも危険かもしれないと言う事で、空から様子を見に行く事にした私達。
 エイジ君、羽根を広げたウリちゃんと共に空の上。私は羽根と角ありバージョンのでっかい魔王様の掌に乗せてもらっております。ウリちゃんが抱っこすると言ってごねてましたが、万が一のために剣を持っているので魔王様にお世話になっております。
「ココナさん、落ちないように気をつけなさい」
 はい。太―い指にコアラの様に掴っておりますよ。一応覆っては下さってますが、すっごい早いので指の隙間からの風がハンパ無いです。
 蠢く森を越えたら街が見えて来た。
「なに……? あれ」
 ドドイルの城下の街はいつもと全然違っていた。
 既に薄暗い時間のはずなのに、街が仄かに光に包まれていた。予想外に混乱した様子も悲鳴も聞えてこない。
 でも……危ないというか、なんだろうか、これ。
 沢山のものが降ってるし飛んでいるが、襲い掛かって来るような感じでも無かったので、皆で街の中央の噴水広場に降り立った。
「キレーイ!」
「はぁ……」
 エイジ君も溜息だ。
 街は確かに大変な事になっていた。
 あちこちに光輝く美しい花々が咲き乱れ、美しい声で鳴く鳥や青や黄色の美しい蝶が舞っているではないか。質素な建物を純白の蔓薔薇が覆い、地面にも花が咲き乱れている。色が変だったりやたらと強暴だったりする魔界の生き物ではない、美しいが私も良く知っている様な色彩や形の花や蝶や鳥達。降って来るのは芳香を放つ花びら。ただ、それは少し大きすぎるが。
 街は破壊どころか、美しく変貌を遂げていた。楽園というのがあるとしたらこんな感じなのだろうか。
 だが、じわりじわりと命を吸い取られるような、空気に混じる違和感。これはいつもの街じゃない。
 何より、気味が悪いほど街が静まり返っている。この時間は夕飯時で店も市場も賑やかな時なのに。
「これだけの異変があったというのに、私も何も感じなかった。それが不気味だな」
「皆怯えて家に篭ってしまっているようです」
 ひらひらと真っ青な美しい蝶が私達の目の前を過ぎった。宝石のように輝く美しい蝶。こういうの、昔図鑑で見たことあるな。それを見ながらウリちゃんが目を細めた。
「これは、魔王様の仕業では無いですね。魔界に有得ないものばかりです」
「ちょっと待てウリエノイル、私を疑っていたのか?」
 すみません、魔王様。私も絶対また無意識に何か出されたのだと思ってました。多分エイジ君も、お城で待ってるユーリちゃんもそうだと思いますよ。
「魔王様は城に剣を降らせたり、草を生やしたりという前科があるので」
「……」
 にっこりとハッキリ言いますね、ウリちゃん。思っても言いませんでしたよ、私達。
「じゃあ何なのかしら、これは。別に襲ってくる感じでもないけど怖い」
 大きな雪のように舞う花びらは地面に触れる前にすうっと消えてゆく。
「息苦しいですね。力が抜けて行くというか……」
 エイジ君がきつそうだ。私も実は結構来てる。何なんだろうこれ。
「まあ察しはつきましたが」
 ウリちゃんがワザと花びらに触れるように手を伸ばした。その腕の周りにあのピンクのシールドが広がった。
 ……ということは天界の力!?
「魔王様の降らせちゃうものより街の人達に危険じゃない?」
「危険ですよね。お遊戯会に来ていた者はバッジを外していなければ大丈夫でしょうが、他の者はじわじわと弱ってしまいます」
「私の降らせる物って……とにかく誰も家から出ないようにしないとマズイな」
「オレ、ちょっと街の人達の様子を見てきます!」
「わたくしも、注意を呼びかけてきます。天界の力に耐性のあるココナさんはここで魔王様をお守りしてください」
 エイジ君とウリちゃんが身軽に走って行った。
 魔王様が何やら呪文っぽいものを呟き始められたので、何か策があるのだろうかと思い、少しでもお守りしようと身を寄せるしかなかった時だった。
「わー、にゃんらこえー?」
 丁度近くに住むさんちゃんが家のドアから顔を出した。
「こら、出ちゃ駄目だ!」
 後ろからお父さんだろうか、声がするが子供は聞きはしない。
「あー、せんせー! まおうたまも!」
 心配していた子供達は無事みたい。気がついたさんちゃんが駆け寄ってきたが、出たら危ない!
「来ちゃダメ!」
 小さな体に花びらが触れる瞬間にシールドが広がった。良かった、直接キスした子供達にはまだよく効いてるみたい。
「さんちゃん、今お外は危ないの。お家の人にもそう言って」
「あぶにゃい? ヒラヒラ、キレイだぉ?」
 うーん、難しいなぁ、好奇心旺盛な子供に言って聞かせるのは。
 魔王様がしゃがみ込んで子供の目の高さに合わせて、さんちゃんに言って聞かせてくださった。
「これは美しいが悪いものなのだ。さんちゃんは勇敢な竜だ。お家の中でお父さんやお母さんを守ってあげてくれるかな?」
「あいっ!」
 目をキラキラさせてさんちゃんが元気に返事した。おお、流石は男の子のお父さん。魔王様お上手です。
 ばいばーいと手を振って去っていくさんちゃん。他の人達も心配だけどとりあえず幼稚園の園児とその家族は無事のようだ。
「でも……これは、まさかザラキエルノ様の仕業でしょうか?」
「いや、それは違うと思うが……」
 魔王様が空を見上げられた時、何処からかすごい風が吹いて来て私達の黒い髪を靡かせた。
「心配で来てしまいましたわ」
 上空に六枚の羽根を広げたザラキエルノ様が浮かんでおられた。そのでっかいお母様の肩にちょこんと乗っかっているのはさっちゃん。
 しゅるると小さくなって、私達の前に立った天使親子は辺りを見渡して難しい顔をした。
「これは大変な事になっておりますね」
「ええと……これってザラキエルノ様がおやりになったのではないですよね? 綺麗ですけど魔族にとっては命に関わる脅威です」
「私では無いです。魔界の方々を傷付けるつもりなどございませんもの。でも天界の者の仕業ではあるようですわ。即刻消し去らないと」
 良かった。ザラキエルノ様では無いのですね。
「これは……ゾフィ兄さんの絵だわ」
 さっちゃんが手を上げると、一頭の蝶がその掌にとまった。
「そうね。ゾフィエさんの絵筆から生まれた生き物達に違いないわ」
「絵?」
「私の異母兄で芸術の天使です。空に描いた絵を本物にして、世界に美しい生き物を増やす仕事をしているのですが……」
「って事はお兄さんも来ちゃってる?」
「そうかも……」
 お母さんの次はお兄ちゃんですか!? さっちゃんの家の家族、ぞくぞくと魔界にやってきてますけど。超ヤバくないですか、これ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。