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続・魔界王立幼稚園ひまわり組
46:みんなに金メダル
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飛び入り参加もあった大玉転がしも終わり、運動会も午前の部は残すところあと一つ。紅白対抗リレーだけ。
リレーといえば運動会の花形! 超メインイベントです。各学年紅白二人ずつ代表をたてての六組だけのリレー。小さい子達なので棒では無く、握りやすい輪投げ用のわっかを渡します。
会場も少しだけ張り詰めた空気が流れる中、紅白の代表がそれぞれの位置に別れてスタンバイ。最初は学年で距離を変えていたのだけど練習で混乱する子続出だったので、三歳であろうと六歳であろうとトラック一周。小さなひまわり組さんは最後まで走れるかな?
ひまわり組代表は赤組は火竜のさんちゃん、犬獣人のいく君、白はサテュロスのカンちゃん、狼族のきぃちゃん。どの子も俊足揃いです。バラ組とスミレ組もそれぞれ足の早い子が揃ってますよ。
『孫は出んのか?』
「ペルちゃんは出ませんの?」
先代もザラキエルノ様もかなりがっかりのご様子ですが、得意不得意がありますからね。選ばれなかった子は応援を頑張りますから見守ってやってくださいね。
まずは各組の応援です!
「ガンバレガンバレあーかーぐーみっ!」
「あーかーぐーみー!」
応援団長スミレ組のトト君の声に、小さなぽんぽんを手にした他の子供達がパタパタ振って踊りながら続きます。ペルちゃんも満面の笑顔で嬉しそうに跳ねてますよ。
『あの顔……!』
「ああっ、ペルちゃん! やっぱり可愛い!」
その笑顔にじぃじもばぁばもメロメロ。くまちゃん神様もザラキエルノ様の頭の上で手をぴこぴこ振っておいでです。
対する白組も負けてません。
「ちろぐみぃー! ファイトぉーっ!」
「おう!」
何故か掛け声はリノちゃん。初めは代表であるスミレ組のビュルネちゃんだったはずだが、優しい彼女が代わってくれたのだ。
「ガンバレし・ろ・ぐ・み!」
こちらは小さな旗を振っての応援。これもなかなか味わい深い。。
「リノちゃん張り切ってますね。やはり一番可愛いです」
超親馬鹿パパが悶てます。うん、やっぱ自分の子は可愛いけどさ。
「……あれだけ選手に選ばれなかったってゴネて泣いてたのにね」
自分も出たかったリノちゃんは代表に選ばれなかった時に床にひっくり返って泣きながら駄々をこねた。まさに人間界で見た「これ欲しいの~!」っておもちゃ屋などでたまに見かけた足をジタバタさせて寝っ転がるアレだ。決して足が遅くは無いし、仲良しのきぃちゃんが選ばれただけに悔しかったのだろう。でもそんな事を忘れさせる堂々とした応援っぷりに、我が子ながらちょっと呆れる。
紅白の応援合戦が終わり、第一走者が輪を手にスタートラインに立った。
「わはははは~! 泣いても笑ってもこれで最後。紅白リレーだ! 皆力いっぱい応援してくれよっ、わははっ!」
笑いジラソレの司会も力が篭もる。
「よーい」
パーン! 第一走者、赤さんちゃん、白きぃちゃんがいいスタートを切った。年少、年中、年長の順にバトンを繋ぐこのリレー。年少のチビちゃんたちはかけっこの時の四倍近く走るのだ。頑張れ!
やはり男の子だけあって赤のさんちゃんが大きくリード。だがきぃちゃんはスタミナタイプ。長い距離を走ってさんちゃんが疲れてきた頃にじわじわと追いつき、その差を縮めた。流石は狩猟民族!
次のいく君とカンちゃんに輪っかを渡したのはほぼ同時。僅かにまだ赤のほうがリードだが、白の第二走者カンちゃんはひまわりさんで、いや幼稚園屈指の俊足。バトンタッチとともにさんちゃんは力尽きたように地面に伏せた。
「大丈夫?」
慌てて駆け寄って抱き起こし、次のバトンタッチに邪魔にならないようにコースから移動させると、さんちゃんはニコーッと何ともいえない笑みを浮かべた。疲れてるのがわかるけど、とってもやりきったいい顔。
「せんせ、オレがんばったにょ!」
「うん。すごかったよ。よくあんなにいっぱい走れたね」
本当によく頑張ったね。時々イタズラもしちゃうやんちゃさんだけど、人一倍頑張りやさんだもんね。きぃちゃんも女の子なのにすごかったね。
第二走者は二人共ものすごい勢いを維持したまま走ってきた。今度はカンちゃんがやはりぶっちぎりで早かったので、白が大きくリードしている。だが早さだけで決まらないのがリレーの怖いところ。
勢いがありすぎてカンちゃんが渡した輪を受け取れなかったバラ組の半魚人ヒロ君。コロコロと転がってしまった輪を慌てて拾いに行く間に、いく君が次のウサギ獣人のみみちゃんに輪っかを上手く渡せてまた逆転。そう遅れはしなかったが、ヒロくんは泣きながら走っていった。
「どーしよ、僕が下手くちょだったから……」
カンちゃんがすごく気にしているが、これは仕方ないよね。年中年長さんのリレーも気になるけど、私は自分のクラスのひまわり組の子を集めて、少し横に移動した。
「カンちゃん、いく君もよくやったね! さんちゃんもきぃちゃんも本当に頑張ったよ!」
四人を抱き寄せると、みんないいお顔で笑ってくれた。四人まとめてでも腕の中に収まるようなこんな小さい子達……やっぱり愛しいな。
「えへへ、ちゅかれたぉ」
生まれて初めての運動会、代表という責務をよく頑張りました。
その後も抜きつ抜かれつの白熱したリレーに、会場は声援に包まれ、応援の子供達も手が千切れそうなほど旗やぽんぽんを振って応援。中には本当に外れちゃったスケルトンの子もいたけど……やはりリレーはフィナーレに相応しく盛り上がる。
年長さんともなると迫力が違う。アンカーのスミレ組ケンタウロスのたっ君と風竜のくみちゃんの競り合いはすごいを通り越して美しくすらあった。ほんの僅かな差で白のたっ君がゴールテープを切った。
パーンという終了の合図。半瞬の間の後、わあっと上がった大歓声。
「わはははは~!リレーは白の勝利だ~!」
こうして、運動会幼稚園の部の全競技が終了した。
いつの間にやら魔王様に代わって仕切りを引き受けているユーリちゃんが堂々と段の上に上がる。マーム先生に手渡された集計の紙を手に、小さく咳払いをするところなんかすでに魔王の貫禄があるようにも見える。
「では集計結果を発表します。勝ったのは……」
ごくり。息を飲んで結果を待つ、シーンと静まった会場。
「どっちもです! 途中までは赤組が優勢でしたが、最後のリレーの結果を合わせると丁度同点になりましたので、勝者は紅白両組です」
わーっと子供たちが声を上げた。みんな頑張ったから実質毎年勝敗無いのだけれど、本当に同点なのは珍しい。これは嬉しい結果だね。
そんな素敵な結果に会場が惜しみない拍手を送る中、箱を持った魔王様と障害物競争の後ひっそりと静かに貴賓席で見ていたさっちゃんが整列する園児たちの前に姿を表した。緊張しているのか、さっちゃんは手と足が一緒に出ている気もする。
「あっ、あ、あの。わっ、私達から、頑張ったお友達に、こっ、これを」
魔王様の抱えておられる箱から、さっちゃんが取り出して示したのは、綺麗なリボンに金色の丸い円盤のついたもの。あれは金メダル!
「ぴかぴか~!」
魔王様とさっちゃんに首にかけてもらった子供達は大喜びだ。職員の列に一緒に並んでいるエイジくんとウリちゃんがニコニコ笑ってるので、きっと彼等が人間界ではこうするんだと教えたんだろう。
「勝敗関係無く、全員の分用意してあったので引き分けで良かったです」
「子供達、とっても嬉しそう。すごく素敵なご褒美ね」
「魔王様ご夫婦の初の共同作業の意味もあるのですよ」
あ~、なるほど。それは粋な計らいだな。
きゃっきゃと喜んでいる子供達と、穏やかな笑顔で子供達にメダルを渡す魔王様達を微笑ましく見ていたら、突然ジラソレの司会に呼ばれた。
「わははは、ではおしまいの言葉はひまわり組担任ココナ先生だ~!」
あ。そうだった! 午前の部の締めの言葉は私だったんだ。忘れてた。
大慌てでダッシュで段に上がる……つもりがステップに足を掛けた途端に滑って、転びはしなかったが思い切りつんのめって向こう脛を打った。うわ、ドジ! イテテ。
「大丈夫ですか? ココナさん」
「う、うん」
議事進行に横にいたユーリちゃんに支えられて何とか体勢を立て直したが、大勢のギャラリーの前で恥ずかしい所をお見せしました……ああ、今自分がリノちゃんの母親だとすごく実感した。
壇上から会場を見渡すと、改めてものすごい観客の数に膝が震えそうになった。こうやって先生として人前に立つようになってから慣れたものの、昔はさっちゃんほどでないにせよあがり症だった。今日は保護者の方々だけでなく特別なお客さんもいっぱいだし、お恥ずかしいところもお見せしたから余計緊張する。
極力大人を視界に入れないように、子供達を見る。
リノちゃんが手を振ってるのを、ペルちゃんがニコニコしてるのを見ると緊張はすぅっと飛んで行った気がする。
「えー、みんな頑張ったね! 楽しかった?」
「あーいっ!」
子供達が元気にお返事してくれる。
「お父さん、お母さんも今日はお疲れ様でした。走るのがゆっくりな子も、転んじゃった子もみんな一等賞です。お家ではいっぱいいっぱい褒めてあげてください。そして皆様、応援をありがとうございました」
ぺこり。以上。なんか挨拶になってないような気もするが、これが幼稚園の先生としての精一杯の言葉。そして私らしいと思うからこれでいいよね。
大きな大きな拍手に包まれて、段を降りるとユーリちゃんが今度は本当に締めてくれた。
「ここで休憩です。ご来賓の皆様には城内大広間にてお食事などごよういしてございます。午後の部の開始まで今しばらくお寛ぎください」
あー……まだ半分なんだぁ……。
とっても頑張った一人一人を順番にぎゅーっと抱きしめる。他の先生方、補助職員もみんなでぎゅー。それと給食の「ピカピカ賞」スタンプと同じように、手の甲にご褒美の魔法の印をあげた。子供達は得意気にそれと首に光る金メダルを見比べてご満悦。
ここでお疲れの子供達はそれぞれの保護者と共に一旦幼稚園の教室で特別なご馳走でお昼ごはん。ご褒美のお菓子も厨房のおじさん達が用意してくれました。
私も子供達と一緒に食事にしたかったけど、お城の仕事に戻らねば。今日は運動会だけど魔王様の結婚式でもあるのだから仲人はそうそう抜けてはいられない。これまたスミレ組と離れるのが名残惜しそうなウリちゃんと共に、大急ぎで魔王様達の元へ。
国賓級のお客様のお相手と食事は正直休憩にならないのだが、魔王様、さっちゃん、ユーリちゃんと私達だけでなんとか別室に篭もることが出来たので、少しはホッとした。
「お疲れだったな、ココナさん」
「いえいえ、魔王様も大変でございましたね」
……あの障害物競争は壮絶だったからな。
「ザラキエルノ様達は?」
「魔界の食事は出来ないので、別室でくつろいで頂いてます」
あー、そういえばそんな事を仰ってたな。
「で? 何故まだ父上がおいでなのだろうか」
魔王様は困ったお顔だ。ええ、私も正直困っております。リレーあたりから随分大人しくしておいでだったが、まだおいでですしね。
『折角呼び出されたのじゃ、最後までおっても良いだろう?』
「いてくださるのは良い。せめてココナさんから離れろと申しておるのです」
「そうですよお祖父様。せめて僕に……」
『嫌じゃ。女の子の肩が居心地が良いのじゃ』
「……」
ユーリちゃん、魔王様、もういいです。諦めました……。
ご馳走もいただき、まったりとお茶を頂いて歓談していて、そろそろ用意をと思った頃、休憩の終わりを告げる角笛が城に響いた。
「勝負は午後の部だなウリエノイル」
「ふふふ、負けませんよ、魔王様」
……まだやってるよ、この人達……。
「おほほほ、皆様~、それでは午後の部を開始いたしましてよ!」
……司会、大人の部は誰か聞いてなかったので、そのままジラソレかと思ってたらまさかの交代は歓喜ヴェレット! いいんですか、畑の番人達まで総動員で来ちゃってますけど。というか、なぜ植物魔人達に任せる?
でもヴェレットちゃんはちょっとだけお上品なのでいいかもしれない。
「ほほほ、宰相ウリエノイル閣下より大人の部の開会宣言ですわ」
司会の声にウリちゃんがにこやかに壇上に上がる。
「まずは皆様、午前の園児による可愛らしい運動会にご声援ありがとうございました。ここからは大人による運動会を開催したいと思います。魔王様の結婚式に捧げるにふさわしく、各国代表、天界よりお越しの皆様もご参加頂けるとのことで、歴史に残る催しとなるでありましょう」
え?
「それでは皆さん、共に体を動かして、幼稚園の子供達に負けぬ清々しい勝負をいたしましょう」
ちょっ……! 聞いてないんですけど。マジですか、保護者や職員、一部のお客人だけじゃないんですか? 各国王族、それに天界からの方々も参加なさるなんて今はじめて聞きましたよっ?!
そういえば……いつのまにやらザラキエルノ様が体操着に! 赤い鉢巻までつけておいでじゃないですか。いつ来たのかあのまん丸お兄ちゃんもいるしっ! それにメルヒノア様もツツル国王も白い鉢巻。更に更に人間の国マファルのキール国王……つまり元勇者様まで白い鉢巻をっ!
『何故じゃ? 何故ワシだけ出られんのじゃ?』
体のない先代はまあそもそも無理として。
「これって本当に大丈夫なの?」
もう嫌な予感しかしない……。
大混乱必至の運動会第二部、大人の部が始まった。
リレーといえば運動会の花形! 超メインイベントです。各学年紅白二人ずつ代表をたてての六組だけのリレー。小さい子達なので棒では無く、握りやすい輪投げ用のわっかを渡します。
会場も少しだけ張り詰めた空気が流れる中、紅白の代表がそれぞれの位置に別れてスタンバイ。最初は学年で距離を変えていたのだけど練習で混乱する子続出だったので、三歳であろうと六歳であろうとトラック一周。小さなひまわり組さんは最後まで走れるかな?
ひまわり組代表は赤組は火竜のさんちゃん、犬獣人のいく君、白はサテュロスのカンちゃん、狼族のきぃちゃん。どの子も俊足揃いです。バラ組とスミレ組もそれぞれ足の早い子が揃ってますよ。
『孫は出んのか?』
「ペルちゃんは出ませんの?」
先代もザラキエルノ様もかなりがっかりのご様子ですが、得意不得意がありますからね。選ばれなかった子は応援を頑張りますから見守ってやってくださいね。
まずは各組の応援です!
「ガンバレガンバレあーかーぐーみっ!」
「あーかーぐーみー!」
応援団長スミレ組のトト君の声に、小さなぽんぽんを手にした他の子供達がパタパタ振って踊りながら続きます。ペルちゃんも満面の笑顔で嬉しそうに跳ねてますよ。
『あの顔……!』
「ああっ、ペルちゃん! やっぱり可愛い!」
その笑顔にじぃじもばぁばもメロメロ。くまちゃん神様もザラキエルノ様の頭の上で手をぴこぴこ振っておいでです。
対する白組も負けてません。
「ちろぐみぃー! ファイトぉーっ!」
「おう!」
何故か掛け声はリノちゃん。初めは代表であるスミレ組のビュルネちゃんだったはずだが、優しい彼女が代わってくれたのだ。
「ガンバレし・ろ・ぐ・み!」
こちらは小さな旗を振っての応援。これもなかなか味わい深い。。
「リノちゃん張り切ってますね。やはり一番可愛いです」
超親馬鹿パパが悶てます。うん、やっぱ自分の子は可愛いけどさ。
「……あれだけ選手に選ばれなかったってゴネて泣いてたのにね」
自分も出たかったリノちゃんは代表に選ばれなかった時に床にひっくり返って泣きながら駄々をこねた。まさに人間界で見た「これ欲しいの~!」っておもちゃ屋などでたまに見かけた足をジタバタさせて寝っ転がるアレだ。決して足が遅くは無いし、仲良しのきぃちゃんが選ばれただけに悔しかったのだろう。でもそんな事を忘れさせる堂々とした応援っぷりに、我が子ながらちょっと呆れる。
紅白の応援合戦が終わり、第一走者が輪を手にスタートラインに立った。
「わはははは~! 泣いても笑ってもこれで最後。紅白リレーだ! 皆力いっぱい応援してくれよっ、わははっ!」
笑いジラソレの司会も力が篭もる。
「よーい」
パーン! 第一走者、赤さんちゃん、白きぃちゃんがいいスタートを切った。年少、年中、年長の順にバトンを繋ぐこのリレー。年少のチビちゃんたちはかけっこの時の四倍近く走るのだ。頑張れ!
やはり男の子だけあって赤のさんちゃんが大きくリード。だがきぃちゃんはスタミナタイプ。長い距離を走ってさんちゃんが疲れてきた頃にじわじわと追いつき、その差を縮めた。流石は狩猟民族!
次のいく君とカンちゃんに輪っかを渡したのはほぼ同時。僅かにまだ赤のほうがリードだが、白の第二走者カンちゃんはひまわりさんで、いや幼稚園屈指の俊足。バトンタッチとともにさんちゃんは力尽きたように地面に伏せた。
「大丈夫?」
慌てて駆け寄って抱き起こし、次のバトンタッチに邪魔にならないようにコースから移動させると、さんちゃんはニコーッと何ともいえない笑みを浮かべた。疲れてるのがわかるけど、とってもやりきったいい顔。
「せんせ、オレがんばったにょ!」
「うん。すごかったよ。よくあんなにいっぱい走れたね」
本当によく頑張ったね。時々イタズラもしちゃうやんちゃさんだけど、人一倍頑張りやさんだもんね。きぃちゃんも女の子なのにすごかったね。
第二走者は二人共ものすごい勢いを維持したまま走ってきた。今度はカンちゃんがやはりぶっちぎりで早かったので、白が大きくリードしている。だが早さだけで決まらないのがリレーの怖いところ。
勢いがありすぎてカンちゃんが渡した輪を受け取れなかったバラ組の半魚人ヒロ君。コロコロと転がってしまった輪を慌てて拾いに行く間に、いく君が次のウサギ獣人のみみちゃんに輪っかを上手く渡せてまた逆転。そう遅れはしなかったが、ヒロくんは泣きながら走っていった。
「どーしよ、僕が下手くちょだったから……」
カンちゃんがすごく気にしているが、これは仕方ないよね。年中年長さんのリレーも気になるけど、私は自分のクラスのひまわり組の子を集めて、少し横に移動した。
「カンちゃん、いく君もよくやったね! さんちゃんもきぃちゃんも本当に頑張ったよ!」
四人を抱き寄せると、みんないいお顔で笑ってくれた。四人まとめてでも腕の中に収まるようなこんな小さい子達……やっぱり愛しいな。
「えへへ、ちゅかれたぉ」
生まれて初めての運動会、代表という責務をよく頑張りました。
その後も抜きつ抜かれつの白熱したリレーに、会場は声援に包まれ、応援の子供達も手が千切れそうなほど旗やぽんぽんを振って応援。中には本当に外れちゃったスケルトンの子もいたけど……やはりリレーはフィナーレに相応しく盛り上がる。
年長さんともなると迫力が違う。アンカーのスミレ組ケンタウロスのたっ君と風竜のくみちゃんの競り合いはすごいを通り越して美しくすらあった。ほんの僅かな差で白のたっ君がゴールテープを切った。
パーンという終了の合図。半瞬の間の後、わあっと上がった大歓声。
「わはははは~!リレーは白の勝利だ~!」
こうして、運動会幼稚園の部の全競技が終了した。
いつの間にやら魔王様に代わって仕切りを引き受けているユーリちゃんが堂々と段の上に上がる。マーム先生に手渡された集計の紙を手に、小さく咳払いをするところなんかすでに魔王の貫禄があるようにも見える。
「では集計結果を発表します。勝ったのは……」
ごくり。息を飲んで結果を待つ、シーンと静まった会場。
「どっちもです! 途中までは赤組が優勢でしたが、最後のリレーの結果を合わせると丁度同点になりましたので、勝者は紅白両組です」
わーっと子供たちが声を上げた。みんな頑張ったから実質毎年勝敗無いのだけれど、本当に同点なのは珍しい。これは嬉しい結果だね。
そんな素敵な結果に会場が惜しみない拍手を送る中、箱を持った魔王様と障害物競争の後ひっそりと静かに貴賓席で見ていたさっちゃんが整列する園児たちの前に姿を表した。緊張しているのか、さっちゃんは手と足が一緒に出ている気もする。
「あっ、あ、あの。わっ、私達から、頑張ったお友達に、こっ、これを」
魔王様の抱えておられる箱から、さっちゃんが取り出して示したのは、綺麗なリボンに金色の丸い円盤のついたもの。あれは金メダル!
「ぴかぴか~!」
魔王様とさっちゃんに首にかけてもらった子供達は大喜びだ。職員の列に一緒に並んでいるエイジくんとウリちゃんがニコニコ笑ってるので、きっと彼等が人間界ではこうするんだと教えたんだろう。
「勝敗関係無く、全員の分用意してあったので引き分けで良かったです」
「子供達、とっても嬉しそう。すごく素敵なご褒美ね」
「魔王様ご夫婦の初の共同作業の意味もあるのですよ」
あ~、なるほど。それは粋な計らいだな。
きゃっきゃと喜んでいる子供達と、穏やかな笑顔で子供達にメダルを渡す魔王様達を微笑ましく見ていたら、突然ジラソレの司会に呼ばれた。
「わははは、ではおしまいの言葉はひまわり組担任ココナ先生だ~!」
あ。そうだった! 午前の部の締めの言葉は私だったんだ。忘れてた。
大慌てでダッシュで段に上がる……つもりがステップに足を掛けた途端に滑って、転びはしなかったが思い切りつんのめって向こう脛を打った。うわ、ドジ! イテテ。
「大丈夫ですか? ココナさん」
「う、うん」
議事進行に横にいたユーリちゃんに支えられて何とか体勢を立て直したが、大勢のギャラリーの前で恥ずかしい所をお見せしました……ああ、今自分がリノちゃんの母親だとすごく実感した。
壇上から会場を見渡すと、改めてものすごい観客の数に膝が震えそうになった。こうやって先生として人前に立つようになってから慣れたものの、昔はさっちゃんほどでないにせよあがり症だった。今日は保護者の方々だけでなく特別なお客さんもいっぱいだし、お恥ずかしいところもお見せしたから余計緊張する。
極力大人を視界に入れないように、子供達を見る。
リノちゃんが手を振ってるのを、ペルちゃんがニコニコしてるのを見ると緊張はすぅっと飛んで行った気がする。
「えー、みんな頑張ったね! 楽しかった?」
「あーいっ!」
子供達が元気にお返事してくれる。
「お父さん、お母さんも今日はお疲れ様でした。走るのがゆっくりな子も、転んじゃった子もみんな一等賞です。お家ではいっぱいいっぱい褒めてあげてください。そして皆様、応援をありがとうございました」
ぺこり。以上。なんか挨拶になってないような気もするが、これが幼稚園の先生としての精一杯の言葉。そして私らしいと思うからこれでいいよね。
大きな大きな拍手に包まれて、段を降りるとユーリちゃんが今度は本当に締めてくれた。
「ここで休憩です。ご来賓の皆様には城内大広間にてお食事などごよういしてございます。午後の部の開始まで今しばらくお寛ぎください」
あー……まだ半分なんだぁ……。
とっても頑張った一人一人を順番にぎゅーっと抱きしめる。他の先生方、補助職員もみんなでぎゅー。それと給食の「ピカピカ賞」スタンプと同じように、手の甲にご褒美の魔法の印をあげた。子供達は得意気にそれと首に光る金メダルを見比べてご満悦。
ここでお疲れの子供達はそれぞれの保護者と共に一旦幼稚園の教室で特別なご馳走でお昼ごはん。ご褒美のお菓子も厨房のおじさん達が用意してくれました。
私も子供達と一緒に食事にしたかったけど、お城の仕事に戻らねば。今日は運動会だけど魔王様の結婚式でもあるのだから仲人はそうそう抜けてはいられない。これまたスミレ組と離れるのが名残惜しそうなウリちゃんと共に、大急ぎで魔王様達の元へ。
国賓級のお客様のお相手と食事は正直休憩にならないのだが、魔王様、さっちゃん、ユーリちゃんと私達だけでなんとか別室に篭もることが出来たので、少しはホッとした。
「お疲れだったな、ココナさん」
「いえいえ、魔王様も大変でございましたね」
……あの障害物競争は壮絶だったからな。
「ザラキエルノ様達は?」
「魔界の食事は出来ないので、別室でくつろいで頂いてます」
あー、そういえばそんな事を仰ってたな。
「で? 何故まだ父上がおいでなのだろうか」
魔王様は困ったお顔だ。ええ、私も正直困っております。リレーあたりから随分大人しくしておいでだったが、まだおいでですしね。
『折角呼び出されたのじゃ、最後までおっても良いだろう?』
「いてくださるのは良い。せめてココナさんから離れろと申しておるのです」
「そうですよお祖父様。せめて僕に……」
『嫌じゃ。女の子の肩が居心地が良いのじゃ』
「……」
ユーリちゃん、魔王様、もういいです。諦めました……。
ご馳走もいただき、まったりとお茶を頂いて歓談していて、そろそろ用意をと思った頃、休憩の終わりを告げる角笛が城に響いた。
「勝負は午後の部だなウリエノイル」
「ふふふ、負けませんよ、魔王様」
……まだやってるよ、この人達……。
「おほほほ、皆様~、それでは午後の部を開始いたしましてよ!」
……司会、大人の部は誰か聞いてなかったので、そのままジラソレかと思ってたらまさかの交代は歓喜ヴェレット! いいんですか、畑の番人達まで総動員で来ちゃってますけど。というか、なぜ植物魔人達に任せる?
でもヴェレットちゃんはちょっとだけお上品なのでいいかもしれない。
「ほほほ、宰相ウリエノイル閣下より大人の部の開会宣言ですわ」
司会の声にウリちゃんがにこやかに壇上に上がる。
「まずは皆様、午前の園児による可愛らしい運動会にご声援ありがとうございました。ここからは大人による運動会を開催したいと思います。魔王様の結婚式に捧げるにふさわしく、各国代表、天界よりお越しの皆様もご参加頂けるとのことで、歴史に残る催しとなるでありましょう」
え?
「それでは皆さん、共に体を動かして、幼稚園の子供達に負けぬ清々しい勝負をいたしましょう」
ちょっ……! 聞いてないんですけど。マジですか、保護者や職員、一部のお客人だけじゃないんですか? 各国王族、それに天界からの方々も参加なさるなんて今はじめて聞きましたよっ?!
そういえば……いつのまにやらザラキエルノ様が体操着に! 赤い鉢巻までつけておいでじゃないですか。いつ来たのかあのまん丸お兄ちゃんもいるしっ! それにメルヒノア様もツツル国王も白い鉢巻。更に更に人間の国マファルのキール国王……つまり元勇者様まで白い鉢巻をっ!
『何故じゃ? 何故ワシだけ出られんのじゃ?』
体のない先代はまあそもそも無理として。
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私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
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※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
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追加文
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