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二章・領主・ナナ
ただの優しい男
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「もう将軍ではない。」
「え?それは一体どういう…。」
「……つまらん話さ。
私は国外追放された。」
それから将軍はその衝撃的な経緯を少しずつ話してくれた。
敵軍兵士を助けた事で自国貴族の不興を買ったこと。
アイギス砦への侵攻は実質的な処刑だったこと。
その後国へ戻り死罪になる所を多数の助命嘆願の結果国外追放になったこと。
「もう私は軍人、ましてはタニア人ですらない。
しかし母国に弓引くような真似もしたくない。
それでなるべく戦火から離れた所でひっそりと生きようと思ってな。」
「…。」
「つまらん話だっただろう。
私はただの死に損ないだ。」
「…そんなこと…。」
「お前とも、もう戦う必要もなくなったな。
少し寂しい気もするが、殺し合いなんてしないにこしたことはない。」
確かにそうなんだけど、私にもあの瞬間が黄金色に感じていたのでそこはやはり寂しい。
でもそうか、将軍はもうそんな不毛な戦いをしなくて良くなったんだ。
横暴な貴族達に身も心も擦り減らす事をしなくて良くなったんだ。
それは紛れもなく喜ばしい事だと思う。
「将軍、私はー」
「トラバルトでよい」
「う…トラバルト…さん。」
「さんはいらん。
私だってお前を不躾にナナと呼んでいるのだ。」
「トラ…バルト…。」
「ああ、それでいい。」
なんだろうか、この得体の知れないむず痒さは。
「話の腰を折ってしまったな。
何か言いたい事があったのだろう。」
「あ、はい。
私はその…。
………。」
なんだろう、何を言いたいんだろう。
彼が自分のことを話した以上、私の事も話さなきゃと思ったのだけど、自分の事の話し方が分からない。
「無理はせずとも良い。
言いたくない事を聞きたいとも思わん。」
「違うんです。
…トラバルト…。
あの、私は人と接するのが苦手、なんです。」
しまったと思った。
人と接するのが苦手なんて言ってあなたと話したくない、なんてとられたらどうしようと思った。
「あっ、でも接するのが苦手と言っても、話したい。
話したいんです、あなたに。
トラバルトに私の事。」
私の今までの人生で、きっと今が1番ひどい。
何故こうなんだろうか。
自分の事もよく分からないから、相手に伝えたい気持ちもうまくまとめられない。
私はついおもむろに置いてあった剣を手に取りギュッと抱きしめた。
その行動にトラバルトは一瞬ギョッとした表情を浮かべたが、私に他意がない事を悟るとまた元の落ち着いた表情に戻った。
「その剣は心の拠り所なのか?」
「…はい。」
「そうか。
…私はただ時間を持て余す身。
お前の時間が許す限り、少しずつでもいいからお前の事を話してくれないか?」
「…!」
この人は、逸話通りの優しい人だ。
「はい!」
「え?それは一体どういう…。」
「……つまらん話さ。
私は国外追放された。」
それから将軍はその衝撃的な経緯を少しずつ話してくれた。
敵軍兵士を助けた事で自国貴族の不興を買ったこと。
アイギス砦への侵攻は実質的な処刑だったこと。
その後国へ戻り死罪になる所を多数の助命嘆願の結果国外追放になったこと。
「もう私は軍人、ましてはタニア人ですらない。
しかし母国に弓引くような真似もしたくない。
それでなるべく戦火から離れた所でひっそりと生きようと思ってな。」
「…。」
「つまらん話だっただろう。
私はただの死に損ないだ。」
「…そんなこと…。」
「お前とも、もう戦う必要もなくなったな。
少し寂しい気もするが、殺し合いなんてしないにこしたことはない。」
確かにそうなんだけど、私にもあの瞬間が黄金色に感じていたのでそこはやはり寂しい。
でもそうか、将軍はもうそんな不毛な戦いをしなくて良くなったんだ。
横暴な貴族達に身も心も擦り減らす事をしなくて良くなったんだ。
それは紛れもなく喜ばしい事だと思う。
「将軍、私はー」
「トラバルトでよい」
「う…トラバルト…さん。」
「さんはいらん。
私だってお前を不躾にナナと呼んでいるのだ。」
「トラ…バルト…。」
「ああ、それでいい。」
なんだろうか、この得体の知れないむず痒さは。
「話の腰を折ってしまったな。
何か言いたい事があったのだろう。」
「あ、はい。
私はその…。
………。」
なんだろう、何を言いたいんだろう。
彼が自分のことを話した以上、私の事も話さなきゃと思ったのだけど、自分の事の話し方が分からない。
「無理はせずとも良い。
言いたくない事を聞きたいとも思わん。」
「違うんです。
…トラバルト…。
あの、私は人と接するのが苦手、なんです。」
しまったと思った。
人と接するのが苦手なんて言ってあなたと話したくない、なんてとられたらどうしようと思った。
「あっ、でも接するのが苦手と言っても、話したい。
話したいんです、あなたに。
トラバルトに私の事。」
私の今までの人生で、きっと今が1番ひどい。
何故こうなんだろうか。
自分の事もよく分からないから、相手に伝えたい気持ちもうまくまとめられない。
私はついおもむろに置いてあった剣を手に取りギュッと抱きしめた。
その行動にトラバルトは一瞬ギョッとした表情を浮かべたが、私に他意がない事を悟るとまた元の落ち着いた表情に戻った。
「その剣は心の拠り所なのか?」
「…はい。」
「そうか。
…私はただ時間を持て余す身。
お前の時間が許す限り、少しずつでもいいからお前の事を話してくれないか?」
「…!」
この人は、逸話通りの優しい人だ。
「はい!」
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