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アナザールート その96 ありがとう。
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今回も・・・エロはございません。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
レシピ本のページの間から、はらり、と一枚の紙が滑り落ちた。
何かメモでも挟んでおいたっけ?
その紙を摘み上げて、その上に視線を落とすと・・・
A5用紙くらいの紙にびっしりと手書きの文字が並んでいる。
これは、ハルカからの僕への手紙だ。
“カオル君、元気?
この手紙をカオル君が読んでくれると嬉しいな。
本当は身請けされた子と連絡を取るのは禁止されているそうなんだけれど、こっそり荷物にこの手紙を紛れ込ませたんだ・・・”
そんな書き出しの手紙だった。
挟んだ手紙でこの本が不自然に膨らんでしまえば、万一荷物を調べられた時に見つかる可能性がある。
だから、こんな小さな字で、紙一枚にびっしりと手紙を書いたのだろう。
“酷いことをされていないかな。
カオル君と友達になれて良かった。
あの夜は・・・クスリのせいとはいえ、カオル君を裏切って、カオル君を虐めるような真似をして本当にごめんなさい。
それでも、変わらず僕に接してくれて本当に嬉しかった。
また会いたいな、いつか絶対に会おうよ。”
何度も何度も書き直した跡のある手紙を要約すると、そんなハルカの思いが綴られていた。
「あ・・・ぁ・・・」
手紙を読み進める内に僕の口から嗚咽が溢れる。
「ハルカ・・・ハル・・・カぁ」
無意識にハルカの名を呼ぶと、大粒の涙がボロボロと溢れ、手紙を濡らす。
なんで僕は今までハルカのことを・・・こんなにも優しい友達のことを思い出しもしなかったのだろう?
胸が、息が、苦しくなって眩暈がしてきたけれど、それでも小さな紙の上の小さな文字を追うことは止められなかった
"そういえば、カオル君が身請けされた後、織田さんに会ったよ。
最後のLINEのメッセージも見せてもらった。”
ドキン!
不意に織田さんの名前が出て来た瞬間、心拍数が跳ね上がり、身体が震え出す。
その先を読むのが怖い・・・だけど・・・読まなくちゃ・・・
“笑っちゃったよ。
カオル君が織田さんにあんなメッセージを送るはずない。
文章の癖も全然違うよね。
どうせ、誰かがカオル君のスマホで勝手に送ったんでしょう?
織田さんもそう言って笑い飛ばしていたよ。
そんなことよりも、織田さんは「何で身請けの話のことを打ち明けてくれなかったんだ」と言って悔しがって、ちょっと怒っていた。
打ち明けてくれれば全財産を投げうっても自分がカオル君を買ったのにって。
相談してくれなかったことが悔しいって。
でも織田さんは言っていたよ「18歳になって解放されたら拙者のところに嫁に来て欲しい」って。
今でもカオル君・・・時雨ちゃんのことが大好きだって。
だから、それまで負けないで、僕も織田さんもカオル君のことが大好きなんだ。
忘れないでね。”
後頭部を殴られたようなショックが身体を駆け抜けた。
頭が・・・痛い。世界が回る・・・。
気持ちが悪くなって頭を抱えてうずくまった。
なんで・・・僕はこんなに大切な人達のことを忘れていた。
なぜ・・・思い出しもしなかった。
なんで・・・なんで・・・
「ああああああぁ!!!!!」
手紙を床に落として、僕は頭を抱えたまま号泣した。
そして泣きながら少しづつ、自分がされたことを思い出してゆく。
僕はご主人様に“躾”と称して、終わりの無い快感の地獄を味あわされ、屈辱の果てにマゾヒスティックな快感の牢獄に閉じ込められて・・・心を砕かれた。
そして、この世界に僕を愛してくれる人はご主人様だけだと、そう思い込まされて、僕はご主人様への都合の良い奴隷としての心を再構築されたんだ。
今ならはっきり分かる。
僕は不眠不休の拷問同然の洗脳でご主人様への偽りの愛情以外の全てを奪われていたんだ。
ああ、ハルカ、ありがとう。
君の手紙のおかげで僕は自分を取り戻せた。
もしこの手紙が見つかれば、きっとハルカはお店から・・・あのインテリヤクザの店長から、めちゃくちゃ怒られたのだろう。
もしかしたら殴られるのかもしれない。
それでも君は僕に手紙を書いて、届けてくれた。
ハルカの、そして織田さんの想いを伝えてくれた。
おかげで僕は自分自身を、織田さんのへの想いを取り戻せた。
今まで僕を包んでいた、どこか空虚な多幸感が霧散してゆく。
偽りの幸福が消えた後には、この厳しい世界に翻弄され続ける僕の、絶望的な小ささと、弱さだけが際立っている。
だけど、それでも、大切な人達・・・織田さん・・・ハルカ・・・を忘れたままでいるよりずっといい。
だから僕は手のひらをの握り絞めてゆっくりと立ち上がる。
そして、床に落ちていた手紙を宝物のように丁寧に拾い上げる。
ありがとうハルカ。
絶対にもう一度会ってそう言おう。
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レシピ本のページの間から、はらり、と一枚の紙が滑り落ちた。
何かメモでも挟んでおいたっけ?
その紙を摘み上げて、その上に視線を落とすと・・・
A5用紙くらいの紙にびっしりと手書きの文字が並んでいる。
これは、ハルカからの僕への手紙だ。
“カオル君、元気?
この手紙をカオル君が読んでくれると嬉しいな。
本当は身請けされた子と連絡を取るのは禁止されているそうなんだけれど、こっそり荷物にこの手紙を紛れ込ませたんだ・・・”
そんな書き出しの手紙だった。
挟んだ手紙でこの本が不自然に膨らんでしまえば、万一荷物を調べられた時に見つかる可能性がある。
だから、こんな小さな字で、紙一枚にびっしりと手紙を書いたのだろう。
“酷いことをされていないかな。
カオル君と友達になれて良かった。
あの夜は・・・クスリのせいとはいえ、カオル君を裏切って、カオル君を虐めるような真似をして本当にごめんなさい。
それでも、変わらず僕に接してくれて本当に嬉しかった。
また会いたいな、いつか絶対に会おうよ。”
何度も何度も書き直した跡のある手紙を要約すると、そんなハルカの思いが綴られていた。
「あ・・・ぁ・・・」
手紙を読み進める内に僕の口から嗚咽が溢れる。
「ハルカ・・・ハル・・・カぁ」
無意識にハルカの名を呼ぶと、大粒の涙がボロボロと溢れ、手紙を濡らす。
なんで僕は今までハルカのことを・・・こんなにも優しい友達のことを思い出しもしなかったのだろう?
胸が、息が、苦しくなって眩暈がしてきたけれど、それでも小さな紙の上の小さな文字を追うことは止められなかった
"そういえば、カオル君が身請けされた後、織田さんに会ったよ。
最後のLINEのメッセージも見せてもらった。”
ドキン!
不意に織田さんの名前が出て来た瞬間、心拍数が跳ね上がり、身体が震え出す。
その先を読むのが怖い・・・だけど・・・読まなくちゃ・・・
“笑っちゃったよ。
カオル君が織田さんにあんなメッセージを送るはずない。
文章の癖も全然違うよね。
どうせ、誰かがカオル君のスマホで勝手に送ったんでしょう?
織田さんもそう言って笑い飛ばしていたよ。
そんなことよりも、織田さんは「何で身請けの話のことを打ち明けてくれなかったんだ」と言って悔しがって、ちょっと怒っていた。
打ち明けてくれれば全財産を投げうっても自分がカオル君を買ったのにって。
相談してくれなかったことが悔しいって。
でも織田さんは言っていたよ「18歳になって解放されたら拙者のところに嫁に来て欲しい」って。
今でもカオル君・・・時雨ちゃんのことが大好きだって。
だから、それまで負けないで、僕も織田さんもカオル君のことが大好きなんだ。
忘れないでね。”
後頭部を殴られたようなショックが身体を駆け抜けた。
頭が・・・痛い。世界が回る・・・。
気持ちが悪くなって頭を抱えてうずくまった。
なんで・・・僕はこんなに大切な人達のことを忘れていた。
なぜ・・・思い出しもしなかった。
なんで・・・なんで・・・
「ああああああぁ!!!!!」
手紙を床に落として、僕は頭を抱えたまま号泣した。
そして泣きながら少しづつ、自分がされたことを思い出してゆく。
僕はご主人様に“躾”と称して、終わりの無い快感の地獄を味あわされ、屈辱の果てにマゾヒスティックな快感の牢獄に閉じ込められて・・・心を砕かれた。
そして、この世界に僕を愛してくれる人はご主人様だけだと、そう思い込まされて、僕はご主人様への都合の良い奴隷としての心を再構築されたんだ。
今ならはっきり分かる。
僕は不眠不休の拷問同然の洗脳でご主人様への偽りの愛情以外の全てを奪われていたんだ。
ああ、ハルカ、ありがとう。
君の手紙のおかげで僕は自分を取り戻せた。
もしこの手紙が見つかれば、きっとハルカはお店から・・・あのインテリヤクザの店長から、めちゃくちゃ怒られたのだろう。
もしかしたら殴られるのかもしれない。
それでも君は僕に手紙を書いて、届けてくれた。
ハルカの、そして織田さんの想いを伝えてくれた。
おかげで僕は自分自身を、織田さんのへの想いを取り戻せた。
今まで僕を包んでいた、どこか空虚な多幸感が霧散してゆく。
偽りの幸福が消えた後には、この厳しい世界に翻弄され続ける僕の、絶望的な小ささと、弱さだけが際立っている。
だけど、それでも、大切な人達・・・織田さん・・・ハルカ・・・を忘れたままでいるよりずっといい。
だから僕は手のひらをの握り絞めてゆっくりと立ち上がる。
そして、床に落ちていた手紙を宝物のように丁寧に拾い上げる。
ありがとうハルカ。
絶対にもう一度会ってそう言おう。
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