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アナザールート その83 愛

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メスイキしながらの首絞め失神が、何度も何度も繰り返される。

脳髄を掻き回される快感の中で、
次に生きて目覚める保証などない闇の中に意識が引き摺り込まれる恐怖の中で、
僕の身体と精神は疲弊し、摩耗し切ってゆく。

最初は“やめろ”だった抵抗と拒絶の言葉は、“やめて”に変わり、やがて“ゆるして”という哀願に変わり、“助けて”というありもしない救いを求め、ついには声にもならない啜り泣きしかできなくなってゆく。

救いも赦しもない絶頂失神の無限地獄の中で、僕の中の矜持も、反抗心も、粉々に砕け散り、ただマゾヒスティックな快感に翻弄され続ける。

僕は、大人のペニスにいやというほど絶頂させられて、自分が雄に支配さるだけの、幼くてひ弱な雌でしかないことをわからされる。

もう・・・何も考えられない。

もう・・・どうなったっていい・・・

ただ、苦痛と恐怖とそれを塗りつぶすほどの快感だけが僕の全てだった。

「ぅ・・・ぁ・・・ぁ・・・」

そして、僕は今、萎え切った身体をぐらぐらと揺らし、微かな呻き声をあげながら、素裸で冷たいフローリングの床の上に正座させられていた。

そして、目の前の男は酷薄な笑みを浮かべながら、そんな僕を見下ろしている。

その冷たい視線が僕の心臓を貫き、心を麻痺させてゆく。

これは、僕と夕立が大人達に嬲りものにされた挙げ句、雌犬の格好で地べたに這いつくばって、自分自身が大人達のおもちゃであると、宣言させられたあの夜の再現なのだろう。

僕の心のなかでは、あの夜の恐怖と、恥辱と・・・どうしようもなく僕の中に生まれることを止められなかった、被虐快感の悪夢がフラッシュバックしていた。

もう、逆らう意思などとっくに失って、僕の口からは、いつの間にか、うわ言のような言葉が自然に流れだしていた。

その言葉は、昨日嫌というほど繰り返して言わされた言葉、そしてヘッドホンで一晩中聞かされて精神の奥に刷り込まれたあの言葉。

「僕は・・・ゴミクズです・・・生まれてきてごめんなさい。
僕は・・・生まれつきの・・・マゾメスです。
ご主人様に虐めてもらうために・・・生まれてきました。
僕には・・・生きる価値なんてありません。
ぼくは・・・・・・・・・」

僕は、俯きながら、虚ろな目で・・・
きっとあの夜のようなガラス玉みたいな目でブツブツと自分自身を辱める言葉を繰り返し続ける。

男はそんな僕を暫く見つめ続けていたけれど、やがて僕に向かって一歩踏み出して・・・ゆっくりと右手を振り上げる。

僕はその姿を見て

“殴られる”

そう思って。

「ひっ・・・やぁっ!」

と小さく悲鳴を上げて身体を固くした。

バシンッ!!

僕が身構える間もなく、男の右手のひらが思い切り振り下ろされ、僕の頬を撃ち抜く。

「ああっ!!!」

圧倒的な体格差のある大人の男の人の平手打ちに、僕は2メートル近く吹っ飛ばされて、固い床に叩きつけられる。

口の中が切れたのだろう。

少し塩辛い鉄の味が口の中に広がった。
そして鼻の奥に微かに血の匂いが漂よう。

身体ごと殴り飛ばされた衝撃で、軽い脳震盪を起こしたのか、世界が揺れて身体を起こすことが出来ない。

男は床の上に無様に倒れ込んでもがく僕の前髪を鷲掴みに掴む。

「あぁッ!!」
 
僕はそのまま腕一本で、ご主人様に持ち上げられた。

爪先が床を離れ、力の入らない手足がだらんと床に向かって真っ直ぐに伸びる。
そのままの姿勢で、身体が男の目の高さに持ち上げられてゆく・・・

「痛・・・ぁ・・・、やめ・・・て・・・、も、ゆるし・・・て、下さ・・・ぃ・・・・・・」

敗北と屈辱と被虐の果てに、赦しを求める僕。
他には何もできることなどなかった。

男はただ、そんな僕をあざ笑って、僕を更にいたぶり続ける。

「本当に、お前は男のオナホになるしか能のないゴミクズだよ・・・」

それは、冷たい・・・凍りつくような口調と言葉だった。

さんざん自分で言った、言わされた言葉だったけれど、他人から浴びせられるその言葉に、心臓を冷た手で握り潰されるような気がした。

そして、唐突に僕を宙吊りに持ち上げた手を離す。
僕は受け身も取れず、冷たい床に崩れ落ちた。

「お前みたいエロガキを産まなけりゃ、お前の母親は男を寝取られず、幸せになれたんだ。」

更に続く言葉の刃が僕の心を切り刻む。

睡眠も休憩も碌に与えられず、まともに思考することもできない心の奥を凍った言葉の刃が貫く。

「嫌だ・・・やめて・・・言わな・・・いで・・・」

僕は震え、おののいた。

身体だけじゃなく、心まで言葉の暴力でめちゃめちゃにされる、そんな予感がした。

だけど、悪意に満ちた言葉は止まってはくれない。

「お前なんて生まれなきゃ良かったんだよ。」

「う、ぅ・・・もう・・・やめて・・・下さい・・・お願いします・・・」

僕は背中を丸め、耳を塞ぎ、貝になってご主人様から逃避する。

「女装して、情け無ないチンポを勃たせながら、男を誘うのは楽しかったんだろ?
それ以外に他人に構って貰う方法が無いんだからな・・・」

だけど、男は無慈悲に僕の両手首を取り、片手にまとめて掴み、僕の頭の上に持ち上げ、そして、僕のアゴを掴んで無理矢理視線を合わせる。

「だけど、結局のところ、お前は母親に捨てられて、ミカとかいうオカマにも捨てられて・・・もうキモオタの織田にも会えないんだよ・・・」

「や・・・やぁ・・・」

蛇に睨まれたカエルのように、萎縮して身動きが取れない。
ただ、身体が凍えるようにガタガタと震え続ける。

「お前は・・・誰にも愛されず、必要とされず・・・オナホとして使い潰されて・・・捨てられて、死んでゆくんだよ!!」

それが、トドメの一撃の言葉。
僕の中で何かが粉々に砕け散る音がした、それが僕の精神崩壊の合図だった。

「うぁああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

僕は首輪をはめられた首を逸らして上を向き、焦点の合わない視線を虚空に彷徨わせながら、魂を吐き出すように絶叫する。

僕が心の奥底で渇望し続けた本当の願い。

そのためなら、なんだってできる、なんだって耐えられる小さな願い、それは

“誰かに愛されたい、そしてそれ以上に自分を愛してくれる人を愛したい”

ただそれだけだった。

母に、ミカさんに捨てられ、ようやく織田さんに満たしてもらえそうになって、だけど、奪われた何より大切だった願い。

男はそれを見抜いて、僕の目の前で踏み躙って見せたのだ。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛・・・・・・・・・!!!!!」

肺が空っぽになって叫ぶ事ができなくなっても、無言の、声にならない絶叫を吐き出し続ける。

やがて、泣き叫び続ける体力さえ失い、過呼吸を起こして喘ぐ僕に、男が静かに語りかけた。

「だけどな・・・俺が時雨を愛してやるよ。」
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