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アナザールート その37 side 夕立 僕にしかできないことを
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今回もエロはございません…
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カオル君はいつのまにか僕の腕の中で静かになっていた。
だけどそれは眠った・・・といえるような穏やかな状態ではない。
白目を剥き、泣きながら絶叫して、気を失っただけだった。
僕の腕の中のその身体はビクビクと痙攣を繰り返して、止まることはない。
とはいえ、少しでも体力を使わないでくれるなら、それにこしたことはないだろう。
ゆっくりとベッドに寝かせ、汚れてしまったカオル君の顔をタオルで拭う。
僕は息を飲んでカオル君の顔を見つめ、その手を握り、そして、祈る。
どうか・・・このまま穏やかに眠ってくれますように・・・目覚めた時にはいつもの笑顔を見せてくれますようにと・・・
だけど、現実はあまりにも冷酷で残酷だった。
カオル君の目がうっすらと開く、そしてその焦点が僕の顔にあった途端に絶叫する。
「あああああああぁあ!!」
ベッドの上を這いずるようにして、僕から距離を取ろうとしている。
だけど、そのスピードは悲しくなるほど遅い、いや、ただもがいているだけで全く進んでいなかった。
僕はそんなカオル君を背中からそっと抱きしめる。
「やめ…て、許し…て…、負けを認めます…僕の負けです…、負けたんです…助けて…助け…て…」
カオル君がうわ言のように言葉を繰り返す。
「カオル君、大丈夫だから…もう終わったから…、お願いだから身体を休めてよ…」
僕も、カオル君も泣いていた。
僕は、どんどん弱くなっていくカオル君の抵抗が悲しすぎて。
カオル君は心を砕かれたあの瞬間を繰り返し繰り返し体験させられる苦しみで…
「ごめんなさい…、ごめんなさい…、ごめんなさい…、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ…」
カオル君は僕に抱かれながら、弱々しく身悶えし、見えない誰かに向かって謝り続ける。
どうすれば…誰か助けて…
不安と悲しさで僕がどうにかなってしまいそうだった。
気がつくとスマホを握りしめて、電話をかけていた。発信先はあのヤンキー風のお兄さん。
他に誰も思いつかない、お兄さんにとっては、ほんの気まぐれの親切だったのかもしれない。
でも僕はその親切に救われた。その温かさに縋りついた。
スマホのコール音が鳴る。
電話に出てくれるだろうか、出てくれたとしても、迷惑だと思われないだろうか?
冷たい声で電話を切られたら?
目をぎゅっとつぶり、震える手でスマホを耳に当て続ける。
お願い•••
「おう、夕立か?どうした?」
出てくれた。
お兄さんの、少し軽い感じの、だけど低くて優しい声がスマホ越しに聞こえる。
それだけで、胸が温かくなってゆく。
「お兄さん•••仕事中ごめんなさい。•••」
「ん•••まぁ、気にすんな。何かあったのか?」
「カオル君が•••カオル君が•••」
「カオル?ああ、時雨のことか。落ち着いてゆっくり話してくれ」
僕はたどたどしくカオル君の様子を伝える、途中何度も言葉に詰まったけれど、その度に「落ち着け」「ゆっくりでいいんだ」と暖かく声をかけてくれたのが嬉しかった。
僕がなんとか説明を終えると、今度はお兄さんがゆっくりと話し始める。
「本来はそっちに駆けつけてやりたいんだが・・・、まだしばらく仕事から抜けられない、すまん。」
「ごめんなさい・・・迷惑ですよね。・・・」
「いや、それはいいさ。
それより時雨のことだけどな。時雨だけを確実に助けたいなら、今すぐ救急車を呼べ。そうすれば時雨は確実に助かる。」
「それは・・・」
「その代わり、この店のことが警察にバレて、店長と俺はムショにぶち込まれるだろう。
まあ、それはしょうがないんだが・・・」
電話の向こうで、お兄さんがタバコに火を付ける音が聞こえた。
お兄さんが煙を吐いた気配の後に言葉を続ける。
「裏社会のルールはお前を許さないだろうな。
お前だけじゃない、お前の家族まで、どこに逃げたって見つけ出して、制裁を受けるだろう。」
「やっぱり・・・そうですよね・・・」
再びお兄さんがタバコの煙を吐く音が聞こえる。
「だとしたら、それ以外の方法を取るしかない・・・俺は高校も中退したバカだから、禄なアドバイスは出来ないが聞くだけ聞いてみるか?」
「お願いします!もう僕はどうしたらいいのか・・・」
「まず落ち着けって。とにかく真っ先にやるべきことは、水を飲ませて、何か食わせることだ。
でないと本当に死んじまうぞ。俺が渡した袋にペットボトルもウィダー○ンゼリーもあったろう?」
「でも、とても飲んでくれる状態じゃなくて・・・」
「押さえつけて、口移しで飲ませろ!それしかない。今なら大した抵抗も出来ないんだろう。」
少し、お兄さんの口調が強くなる。
だけど、僕がやるべきことの背中を強く押してくれている。
「そうですね・・・それしかないです・・・」
「それが終わったら、そうだな…時雨には彼女・・・彼氏?、好きな奴とかいないのか?」
「へ•••?」
「だから、好きな奴とか、付き合っている奴とかいないのか?」
カオル君の好きな人?
言われて思い浮かべるのは。少し太った優しそうなお客さんの顔、確か"織田さん"だったかな?
カオル君が凄く懐いていて、連絡先も交換していた。
偶にお休みが合う時は、プライベートで遊びに連れて行って貰っていたはずだ。
「多分•••います。好きな人。」
「じゃあ、そいつに連絡して時雨の面倒をみてくれないか、頼んでみるんだ。
こういう時はな、母親とか恋人が側についていてやるのが1番いい。
でも母親はなぁ•••俺らみたいな裏社会の連中は大体家庭崩壊してるからなぁ」
「そうですね•••」
その通りだ。
僕だって、本当の意味で、家族と思っているのは、弟だけだ。
もし、僕がこんな状態だったら何を置いても側にいて欲しいのは、弟だったろう。
「いいか、時雨はエロ爺いどもの性欲に喰い物にされて壊されたそうだが、だけどな、肌を重ねるって行為は、本来そんな風に一方的なもんじゃないんだ。
裸になって、お互いに1番弱くて、みっともない部分を曝け出しあって、本能的な欲望を満たしあって、だからこそお互いの本質的な部分を全肯定しあえる、たった一つの事なんだ・・・と俺は思う。」
「お兄さんもそれで救われた事があったんですか?」
「ああ、俺にだって死ぬほど辛い思いをしたことくらいあるさ。そんな時、俺は女に救われたよ。
逆に言うとな・・・誰かとそんな風に肌を重ねた経験が無い奴ってのは、誰にも自分を求められなかった、全肯定された事が無かった、そんな欠落を心のどこかに抱えて生きている。
あのエロ爺どもはそんな奴らの成れの果てだよ。
だから…そんな風に時雨を全肯定してやれる存在が必要なんだよ。
口先だけでなくて、全身全霊でそれを証明して時雨を満たしてやれる奴になら、時雨は救われる、そんな存在は恋人•••でなければ母親だと思うんだけれどなぁ。」
お兄さんが、ここで一旦言葉を止める。
電話越しにバリバリと頭をかいて、大きくタバコの煙を吐く音が聞こえる。
「すまん、俺はバカだからな。こんな頭の悪い事しか思いつかない。
・・・やっぱり今言った事は忘れてくれ、とにかく、水と栄養を摂らせて少しでも休ませろ。
それから、お前も何か食うのを忘れるな。
俺も仕事が終わったらそっちに行くから。弱い精神安定剤くらいならマツ○ヨで売っていた筈だ、それを買っていくよ。」
そう言って、お兄さんは電話を切った。
僕はスマホを置いてカオル君を抱きしめる。
カオル君はもう、もがく体力さえ尽き果てて、腕の中でぐったりとしている。
どうすればいい…、何か口にさせるだけでいいんだろうか?
「時雨を全肯定してやれる存在が必要なんだよ。
口先だけでなくて、全身全霊でそれを証明して時雨を満たしてやれる奴になら時雨は救われる」
お兄さんの言葉が頭の中でリフレインする。
昨夜、同じ経験をした者として本能的にお兄さんの言葉が正しいと感じていた。
人として扱われず、自分は人間以下の雌犬であると認めることを強要され、最後は大人達の性欲のはけ口のとして、モノのようにあつかわれた。
カオル君には人として、その存在を全肯定してくれる存在が必要だ。
それは間違いない。
僕ではきっとダメだろう、昨夜 大人達と一緒になって時雨ちゃんを弄んだ僕では。
クスリのせいとはいえ、僕はなんて事をしてしまったのだろう。
唇を噛んで悔いてももう遅すぎる。
でも、今は僕しかいないのだ、だから、僕は今僕にしかできないことをしよう。
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気に入って頂けましたら幸いです。
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カオル君はいつのまにか僕の腕の中で静かになっていた。
だけどそれは眠った・・・といえるような穏やかな状態ではない。
白目を剥き、泣きながら絶叫して、気を失っただけだった。
僕の腕の中のその身体はビクビクと痙攣を繰り返して、止まることはない。
とはいえ、少しでも体力を使わないでくれるなら、それにこしたことはないだろう。
ゆっくりとベッドに寝かせ、汚れてしまったカオル君の顔をタオルで拭う。
僕は息を飲んでカオル君の顔を見つめ、その手を握り、そして、祈る。
どうか・・・このまま穏やかに眠ってくれますように・・・目覚めた時にはいつもの笑顔を見せてくれますようにと・・・
だけど、現実はあまりにも冷酷で残酷だった。
カオル君の目がうっすらと開く、そしてその焦点が僕の顔にあった途端に絶叫する。
「あああああああぁあ!!」
ベッドの上を這いずるようにして、僕から距離を取ろうとしている。
だけど、そのスピードは悲しくなるほど遅い、いや、ただもがいているだけで全く進んでいなかった。
僕はそんなカオル君を背中からそっと抱きしめる。
「やめ…て、許し…て…、負けを認めます…僕の負けです…、負けたんです…助けて…助け…て…」
カオル君がうわ言のように言葉を繰り返す。
「カオル君、大丈夫だから…もう終わったから…、お願いだから身体を休めてよ…」
僕も、カオル君も泣いていた。
僕は、どんどん弱くなっていくカオル君の抵抗が悲しすぎて。
カオル君は心を砕かれたあの瞬間を繰り返し繰り返し体験させられる苦しみで…
「ごめんなさい…、ごめんなさい…、ごめんなさい…、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ…」
カオル君は僕に抱かれながら、弱々しく身悶えし、見えない誰かに向かって謝り続ける。
どうすれば…誰か助けて…
不安と悲しさで僕がどうにかなってしまいそうだった。
気がつくとスマホを握りしめて、電話をかけていた。発信先はあのヤンキー風のお兄さん。
他に誰も思いつかない、お兄さんにとっては、ほんの気まぐれの親切だったのかもしれない。
でも僕はその親切に救われた。その温かさに縋りついた。
スマホのコール音が鳴る。
電話に出てくれるだろうか、出てくれたとしても、迷惑だと思われないだろうか?
冷たい声で電話を切られたら?
目をぎゅっとつぶり、震える手でスマホを耳に当て続ける。
お願い•••
「おう、夕立か?どうした?」
出てくれた。
お兄さんの、少し軽い感じの、だけど低くて優しい声がスマホ越しに聞こえる。
それだけで、胸が温かくなってゆく。
「お兄さん•••仕事中ごめんなさい。•••」
「ん•••まぁ、気にすんな。何かあったのか?」
「カオル君が•••カオル君が•••」
「カオル?ああ、時雨のことか。落ち着いてゆっくり話してくれ」
僕はたどたどしくカオル君の様子を伝える、途中何度も言葉に詰まったけれど、その度に「落ち着け」「ゆっくりでいいんだ」と暖かく声をかけてくれたのが嬉しかった。
僕がなんとか説明を終えると、今度はお兄さんがゆっくりと話し始める。
「本来はそっちに駆けつけてやりたいんだが・・・、まだしばらく仕事から抜けられない、すまん。」
「ごめんなさい・・・迷惑ですよね。・・・」
「いや、それはいいさ。
それより時雨のことだけどな。時雨だけを確実に助けたいなら、今すぐ救急車を呼べ。そうすれば時雨は確実に助かる。」
「それは・・・」
「その代わり、この店のことが警察にバレて、店長と俺はムショにぶち込まれるだろう。
まあ、それはしょうがないんだが・・・」
電話の向こうで、お兄さんがタバコに火を付ける音が聞こえた。
お兄さんが煙を吐いた気配の後に言葉を続ける。
「裏社会のルールはお前を許さないだろうな。
お前だけじゃない、お前の家族まで、どこに逃げたって見つけ出して、制裁を受けるだろう。」
「やっぱり・・・そうですよね・・・」
再びお兄さんがタバコの煙を吐く音が聞こえる。
「だとしたら、それ以外の方法を取るしかない・・・俺は高校も中退したバカだから、禄なアドバイスは出来ないが聞くだけ聞いてみるか?」
「お願いします!もう僕はどうしたらいいのか・・・」
「まず落ち着けって。とにかく真っ先にやるべきことは、水を飲ませて、何か食わせることだ。
でないと本当に死んじまうぞ。俺が渡した袋にペットボトルもウィダー○ンゼリーもあったろう?」
「でも、とても飲んでくれる状態じゃなくて・・・」
「押さえつけて、口移しで飲ませろ!それしかない。今なら大した抵抗も出来ないんだろう。」
少し、お兄さんの口調が強くなる。
だけど、僕がやるべきことの背中を強く押してくれている。
「そうですね・・・それしかないです・・・」
「それが終わったら、そうだな…時雨には彼女・・・彼氏?、好きな奴とかいないのか?」
「へ•••?」
「だから、好きな奴とか、付き合っている奴とかいないのか?」
カオル君の好きな人?
言われて思い浮かべるのは。少し太った優しそうなお客さんの顔、確か"織田さん"だったかな?
カオル君が凄く懐いていて、連絡先も交換していた。
偶にお休みが合う時は、プライベートで遊びに連れて行って貰っていたはずだ。
「多分•••います。好きな人。」
「じゃあ、そいつに連絡して時雨の面倒をみてくれないか、頼んでみるんだ。
こういう時はな、母親とか恋人が側についていてやるのが1番いい。
でも母親はなぁ•••俺らみたいな裏社会の連中は大体家庭崩壊してるからなぁ」
「そうですね•••」
その通りだ。
僕だって、本当の意味で、家族と思っているのは、弟だけだ。
もし、僕がこんな状態だったら何を置いても側にいて欲しいのは、弟だったろう。
「いいか、時雨はエロ爺いどもの性欲に喰い物にされて壊されたそうだが、だけどな、肌を重ねるって行為は、本来そんな風に一方的なもんじゃないんだ。
裸になって、お互いに1番弱くて、みっともない部分を曝け出しあって、本能的な欲望を満たしあって、だからこそお互いの本質的な部分を全肯定しあえる、たった一つの事なんだ・・・と俺は思う。」
「お兄さんもそれで救われた事があったんですか?」
「ああ、俺にだって死ぬほど辛い思いをしたことくらいあるさ。そんな時、俺は女に救われたよ。
逆に言うとな・・・誰かとそんな風に肌を重ねた経験が無い奴ってのは、誰にも自分を求められなかった、全肯定された事が無かった、そんな欠落を心のどこかに抱えて生きている。
あのエロ爺どもはそんな奴らの成れの果てだよ。
だから…そんな風に時雨を全肯定してやれる存在が必要なんだよ。
口先だけでなくて、全身全霊でそれを証明して時雨を満たしてやれる奴になら、時雨は救われる、そんな存在は恋人•••でなければ母親だと思うんだけれどなぁ。」
お兄さんが、ここで一旦言葉を止める。
電話越しにバリバリと頭をかいて、大きくタバコの煙を吐く音が聞こえる。
「すまん、俺はバカだからな。こんな頭の悪い事しか思いつかない。
・・・やっぱり今言った事は忘れてくれ、とにかく、水と栄養を摂らせて少しでも休ませろ。
それから、お前も何か食うのを忘れるな。
俺も仕事が終わったらそっちに行くから。弱い精神安定剤くらいならマツ○ヨで売っていた筈だ、それを買っていくよ。」
そう言って、お兄さんは電話を切った。
僕はスマホを置いてカオル君を抱きしめる。
カオル君はもう、もがく体力さえ尽き果てて、腕の中でぐったりとしている。
どうすればいい…、何か口にさせるだけでいいんだろうか?
「時雨を全肯定してやれる存在が必要なんだよ。
口先だけでなくて、全身全霊でそれを証明して時雨を満たしてやれる奴になら時雨は救われる」
お兄さんの言葉が頭の中でリフレインする。
昨夜、同じ経験をした者として本能的にお兄さんの言葉が正しいと感じていた。
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カオル君には人として、その存在を全肯定してくれる存在が必要だ。
それは間違いない。
僕ではきっとダメだろう、昨夜 大人達と一緒になって時雨ちゃんを弄んだ僕では。
クスリのせいとはいえ、僕はなんて事をしてしまったのだろう。
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