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不安 その2

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今回もエロございません・・・

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あの日から食事が喉を通らなくなった。
いわゆる“拒食症”なんだろうか。

心が、成長の糧となる食事を拒絶する。
特に肉や魚とかの動物性タンパク質系は身体の成長に直結しそうで受けつけなくなった。
まともに食べられるのはせいぜいゼリー食品くらいになってしまった。

ミカさんに心配をかけたくなくて、食事は一緒に食べる。
身体が大きいミカさんは、モリモリと沢山食べてくれて嬉しいけれど、僕はその1/3程の食事を無理矢理お腹に押し込む、だけど直ぐに気持ち悪くなってしまってこっそりトイレでもどしてしまう毎日。

学校でのお昼はゼリー食品をささっと飲み込んで終わりだ。

そんな食生活を続けては健康でいられない、体重が減り、肌のツヤがなくなり、目の下にクマができた。
体力も落ちてしまって、体育も見学でになる日が増えてゆく。

ある日の夜、そんな僕を見かねてミカさんに言われた。

「時雨ちゃん、明日はお医者さんに行くから学校を休んで。」

「お医者さんですか?」

「そう、どう見たって体調おかしいでしょう。キチンと診てもらいましょう。」

「・・・はい、わかりました。」

自分でも今の状態は良くないと自覚しているし、ミカさんに心配をかけたくなくて素直に頷いた。

次の日の朝、メイクもウィッグもなくただのカオルとして、ミカさんの運転する車でお医者さんに向う。
行き先は以前僕が義父にレイプされたとき診断書を書いてくれたお医者さんだそうだ。

ミカさんのLGBTネットワークの知り合いで、ミカさんの性転換関係の主治医でもあり、僕ら2人の事情も知っているから。聞かれたことには正直に答えるようにと念押しされた。

着いたのは郊外の個人経営の診療所。
以前来た時は、心身共にボロボロだったので場所も建物も全然記憶にないけれど、僕らを出迎えてくれた初老の優しそうな先生には覚えがあった。

「今日は、よろしくお願いします。」

ミカさんと一緒に頭を下げて挨拶をする。
先生は穏やかにほほ笑みながら僕の顔を覗き込む。

「カオル君だね。前に見た時よりはいいけれど・・・今日もだいぶ具合が悪そうだね?」

「はい、お手数をおかけします・・・」

もともと病気でもないので、身体の診察自体は直ぐに終わった。
診断は“栄養失調”、当然の結果だよね・・・

とりあえずの処置として栄養剤入りの点滴を受けながら、健康だった男子高校生が栄養失調になった理由とは?、こちらを解決しないとどうにもならない、カウンセリングということで先生と2人で話しをした。ちなみにミカさんは追い出されて面白くなさそうだった。

先生に聞かれるままに、僕の心の内を話してゆく。
成長して男になりたくない。
男になってしまったらミカさんに捨てられるのではないかという不安
心が僕の成長を拒むあまり食事が喉を通らなくなった・・・

先生は僕の言葉を、笑うことなく、否定することなく、ただ静かに聞いてくれた。
あらかじめ僕ら2人の事情を知っていてくれて、理解してくれていることがとても安心できて、心を開いて話をできるのがとても有難かった。

僕の話を聞き終えた先生に最後に質問された。

「カオル君は、女性になりたいのかな?もしできるなら性転換を望むかい?」

「いいえ、僕が望むのは女性になることではなくて、男の娘としてミカさんに愛されることです・・・」

この質問を最後にカウンセリングが終わり、病室の空いているベットで休むように言われて看護婦さんに連れて行ってもらった。
慣れないベッドに横になっても休まらないと思ったけれど、体力が落ちていた僕は自分が思う以上に疲れていて・・・横になった瞬間に熟睡していた。

目覚めると、ミカさんがベッドの横のパイプ椅子に座ったままベッドの端に身体を預けて居眠りしていた。
(ミカさんも疲れたんだね・・・迷惑かけてごめんなさい)

心のなかで手を合わせながらそっと手を握ると、ミカさんが目を覚ました。

「起こしちゃってごめんなさい。もう帰っていいんですか?」

「ん・・・ちょっとだけ先生とお話しがあるから・・・先生を呼んでくるからそのまま待ってて・・・」

ミカさんがまだ眠そうに目をこすりながら立ち上がる。
そのまま少しボーッとした感じで病室から出て行った。

少ししてミカさんが戻ってくる、ミカさんの後ろには先生がいた。

2人とも僕に向かってパイプ椅子に座る。
僕も寝たままでは失礼かな、と思ってベッドの端に腰掛けて、背筋を伸ばして2人と向かい合った。
一眠りさせてもらったのと、さっきの点滴のおかげで身体に必要なエネルギーと栄養が補給されたのか、久しぶりに頭がクリアーな感じで心地良い。

先生はカルテを片手に、柔和な表情で話し始めた。

「カオル君、君が寝ている間に木戸さん(ミカさんの本名、木戸丈太郎)と君の心と身体の問題について相談させてもらいました。結論から言うと、君が望むなら、あくまで望むならだよ・・・女性ホルモンの投与を行なって、男性としての成長を止める治療をしようと思う。」

話を簡単にまとめると、

•僕の拒食症の状態を直ぐに止めないと、症状が固定化して治療が難しくなる。そうなってしまったら。深刻な健康問題が発生して、日常生活を送るのも難しくなる。

・それに僕がその気になれば、通販などで女性ホルモン剤を入力することは難しくない。ちょっと英語を頑張れば、海外通販で日本よりえげつない薬を手に入れることも不可能ではない。

・素人判断で女性ホルモン剤を勝手に摂取してしまえば、特に成長期の僕に深刻な悪影響が発生する可能性が高い。

・そのくらいなら、先生の管理の元で、健康と成長に悪影響を与えない最低限の範囲を見極めながらホルモン療法をしたほうが危険が少ない、またそれが拒食症の原因を取り除くことにも繋がる。

・先生の管理下の範囲でのホルモン療法であれば、男に戻ることを望むのであれば、不可能ではない。

「カオル君・・・結論は今出さなくてもいい、ゆっくり考えてくれればいいのだけれど、ホルモン療法を希望するかい?」

ミカさんはどう思っているのだろうと、恐る恐るミカさんの方に顔を向けてみる

「ちょっと不安だけれど、お医者様がここまで言ってくれているんだし、カオルちゃんがそうしたいなら応援するわ。それに・・・」

肩をすくめながら苦笑いして言った。
そして、バチン、と音がしそうなウィンクを一つ。

「カオルちゃんが私のためにもっと可愛いくなろうとしてくれるんだから・・・ね。」

ならもう迷うことはない、先生に向きなおって頭を下げてお願いした。

「先生、僕にホルモン療法を受けさせて下さい。お願いします。」

今後は、ミカさんが先生の診察や女性ホルモンの投与を受ける時には僕も同行して先生に診てもらえることになった。

最後に2人で先生にお礼を言って診療所を後にした。

帰りの車の中では、ミカさんが久しぶりに上機嫌だ。
今までずっと体調不良の僕を気遣って、心配してくれていた。
本当は僕の望むままホルモン療法を受けさせたかったんだと思う、そうすれば僕も可愛くなってミカさんに損はなかった。
だけど僕の将来や健康のことを心配してそれを簡単には認めようとはしなかった。

ミカさんが正しいのは分かっていた。
だけど僕の中のオンナがそれを認められなくて、ミカさんに迷惑と心配をかけ続けた。

優しくて残酷な僕の愛しい人。
あなたのためにもっと綺麗になって、尽くしますから、僕の我儘を許して下さいね。

「カオルちゃん、お腹すいた。中華行こうよ中華!中華粥あるから今のカオルちゃんでも食べられるよ。」

「はいはい、中華ですね。確か来る時に道沿いにバーミヤンを見かけたような・・・」

チャチャっとカーナビで検索をかける。

「なぜにバーミヤン・・・もっといいとこ行こうよ・・・」

「ミカさん無駄使いしすぎです。もっと倹約して貯金しましょうね。」

「うう・・・高校生に金遣いの荒さを注意される社会人の私って・・・」

ミカさんが僕を望んでくれる限り、こんなふうにじゃれあって、他愛ない会話を交わして、一緒に暮らしていきましょう。
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