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穏やかな日々
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ミカさんの車のトランクに、僕が家で使っていた私物が収められていた。
両親が「弟子入り契約書(笑)」にサインしたら、直ぐに僕の部屋に突撃して掻っ攫ってきたそうだ。
ミカさん強い・・・
「部屋の中のものを全部は持って来れなかったから、とにかく学校で使いそうな、制服とか教科書とかそこら辺を優先して持ってきたわ。」
「ありがとうございます。これで明日から学校に行けます。」
ほめて、ほめてといいたげに胸を張るミカさん。
「ま、私服とかは、徐々に揃えていきましょう。」
「お世話になります。」
本当に感謝しかありません。
「ところで、後出しで悪いんだけれど、これから一緒に生活する上で、いくつか条件があります。」
「あ、はい。」
ミカさんの唐突な条件提示、条件も何もミカさんに言われたことはなんでも従うつもりでいた僕にはちょっと戸惑った。
「まず1つ。」
ミカさんが人差し指をピッと立てる。
「家事は分担制ね、2人の生活なんだから、2人で協力してやりましょう。」
「ええ゛・・・」
今までの付き合いでわかったことだけれど、ミカさんは控えめに言って家事能力が低い、僕が1人でやった方が早いくらいだ。
ぶっちゃけミカさんは邪魔です。
それに生活費や学費まで一切合切ミカさんにお世話になるのだから、せめて家事くらいは僕が引き受けるつもりだった。
「そして2つめ。」
ピッと中指を立てる。
「この家の外に出る時は、男の子の格好でカオルちゃんでいること。」
ミカさんの顔が渋い、無茶苦茶不服そうだ。
「ご近所には、後で親戚の男の子を預かっていると紹介するから家の外ではカオルちゃんでお願い・・・」
ミカさん血の涙を流しておられる・・・そんなに嫌なんだね・・・
まあ、これから毎日男子高校生のカオル として学校に通うわけで、その僕が時々女の子の格好でご近所をウロウロすると僕の世間体がミカさんの世間体を巻き添えにして死ぬ。
ちなみにミカさんはご近所では完全に女性カメラマンで通しているとか。
「でも、家の中では可愛い時雨ちゃんでいて、お願い・・・」
「らじゃ!善処します。」
「そして3つめ。」
ピッと薬指が立つ。
「もうエッチなことはしません。」
「・・・・へ?」
これは正直、驚いた。
”養ってやるんだからその代償は身体で払え・・・ぐへへ” まではなくとも、同居するのだから、ナチュラルにミカさんには抱かれるつもりでいたし、ミカさんもそのつもりだと思っていた。
だいたい僕はミカさんのオンナにされたのではないの?・・・
ミカさんが僕を抱きしめて言葉を続ける。
「本当は、時雨ちゃんとこうしてイチャイチャできれば満足だったの。あなたがお義父さんにボロボロにされた姿をみて目が覚めたわ・・・、もう時雨ちゃんに酷いことしない・・・少なくとも大人に・・・うーん高校を卒業するまでは。」
最後がなければいいセリフです、本音がダダ漏れですよ。
僕としては、普段の優しいミカさんも、ベッドの上で僕を嬲りものにするミカさんも、ミカさんという人間の裏表であって、両面ひっくるめてミカさんという人を好きになったつもりです。
だから何をされても構わないんです。
でも、その一方でそうして僕を大切にしてくれる気持ちも嬉しかった。
だから僕も黙ってミカさんを抱きしめて、その気持ちを受け止めた。
----------------------------------
とある日の会話
僕が通っている高校は私立校で、そこそこ学費が高い。
一切の生活費をミカさんに面倒みてもらっている僕としては、学費まで出してもらうのが心苦しくて
「高校を辞めて働きたいと思うんですが・・・」
と恐る恐るミカさんに切り出してみた。
「ダメ、私が面倒を見ている間は絶対許しません。将来絶対後悔するから高校くらいはちゃんと卒業しなさい。」
おお、ミカさんに正論でお説教された・・・
「お金は心配しなくてもいいって言ったでしょ・・・でも」
ミカさんがの顔に、ふと邪悪な笑みが浮かんだ。
「どうしてもっていうなら、身体で稼いでもらおっかな~」
「え?」
思わず、自分の身体を抱きしめて後ずさる。ミカさんがこういう顔をするときは大体ろくなことがないのは験済みだから・・・
「時雨ちゃん、美少女モデルやろうよ、絶対人気出るから!雑誌の編集に知り合いがいるから紹介したげる。」
「え・・・それは・・・この姿を公開するのは・・・」
「私はメイクも結構な腕前だから、とりあえず、お、い、で。」
そのまま、ドレッサーの前に引きずられて玩具にされた・・・
僕がミカさんから習ったのは、あくまでメイクをしていることを感じさせないナチュラルなメイク。
もともと”軍これ”の時雨は大人しめで、清楚なキャラだったからそんなメイクが合っていた。
でもミカさんが僕に施したのは、華やかで派手なメイク。
普段の時雨が山に咲いている小さな野バラだとしたら、今の時雨は大輪のバラ。
黒髪に三つ編みだったウィッグもあえて銀髪をチョイスされ、さらにグリーンのカラーコンタクトまでつけられた僕は・・・もう別人だった。
自分でもびっくりの変貌ぶりだったけれど、ミカさんの目も色々と危ない。
いつか僕に着せようと思って隠し持っていた・・・というゴスロリまで着せられて。目が血走ったミカさんに、そのまま写真を撮りまくられた。
うう、なんか汚された気がする・・・今日の晩御飯はミカさんが嫌いなセロリマシマシにしてやろうと心に誓った。
----------------------------------
とある日の電話
僕のスマホにミカさんから電話が入った。
普通仕事中はプライベートな電話なんてしない人だから珍しいな・・・と思って電話を取ったら、かなり焦っているミカさんの声が。
「お願い時雨ちゃん、○○にある××ってスタジオに来て、今すぐに!」
「どうしたんです?何かありましたか?」
話を聞いてみると、今日は少女雑誌の撮影らしいのだけれど、一人のモデルさんがドタキャンしたため、撮影ができず困っているとか。
急遽、代役をどうするか・・・というときにミカさんが僕の写真を雑誌の編集者さんに見せたら、その場でokがでたとか・・・
なんてことをしてくれたんです、ミカさん。
と思ったけれど、実際困っているミカさんを見捨てることはできなくて、スマホを頼りに、ミカさんの撮影現場に急行する。
指定された××スタジオにたどりつくと、雑誌のスタッフさんたちに挨拶をするまもなく、あれよあれよという間にミカさんにメイクされて、モデルの服を着せられる。
ウィッグは銀髪、目には緑のカラコン。いつぞやのゴスロリ撮影をされた時の姿だった。
そのまま有無を言わさず、雑誌の編集者さんに紹介された。
「あの・・・事情がよく分からないのですが・・・ミカさんに呼ばれて来ました時雨です。よろしくお願いします。」
なんの心の準備もできないままに、スタジオでモデルをさせらるのはちょっと僕にはハードルが高い。
それでも、ミカさんのクライアントに失礼の無いようにと精一杯の挨拶をして頭を下げる。
「貴方が時雨ちゃんね、ミカさんから聞いてるわ~、いきなりで悪いけどよろしくね♡」
バチコーンとウィンクをして笑顔で答えてくれた編集者さん。
見た目は・・・普通のおじさんなんだけど、いわゆるオネエ系なのだろうか。
僕の周りを一回りして、僕の全身をチェックしている。
「ホントに可愛い子ね~、全然男の娘には見えないわね。」
(ミカさん・・・僕のことどこまでバラしてるの。?)
思わずミカさんの顔を見る。そこ、目線を逸らして吹けない口笛を吹くマネをしない!
「大丈夫、この人は信用できる人だから。心配しないで。」
ミカさんに小さく耳打ちされた。
このオネエ系編集者さんは、ミカさんのLGBT(セクシャル・マイノリティ)仲間だという。
LGBTの人は、マイノリティ(少数派)の為、横の繋がりが強くお互いに助けあうコミュニティーを作っていることが多い。
そして普通の会社勤めが難しい場合が多く、手に職を持ったプロフェッショナルとして働いている場合が多い。
この編集者さんや、義父との交渉に同席してくれた弁護士さん、診断書を書いてくれたお医者さんもそういったLGBTネットワークの繋がりのある人たちだった・・・らしい。
ミカさんは妙に顔が広いなと思ったのは、そういった繋がりがあったからだった。
ともかく、僕がいわゆる“男の娘”だと知っているのはこのオネエ系編集者さんだけとのことで、ちょっと安心できたのだけれど・・・
オネエ系編集者さんが“パンパン”と大きく手を叩いてその場にいたスタッフさんや、他のモデルの注目を集めて言った。
「みんな~、ピンチヒッターのモデルの子を紹介するわよ~。あくまでも素人の子だから無茶振りしないであげてね。あと、この子“男の娘”だから、そこんとこは秘密厳守でお願いね。」
速攻カミングアウトされました・・・流石のミカさんも目が点になっている。
そして、スタジオに動揺が広がる・・・
「おい、男だって・・・」
「でもあれだけ可愛ければ、十分イケるぞ・・・」
「それに他のモデル呼んでる時間ないし・・・」
「どうするよ・・・おい。」
えーいもう、ヤケだ!
お世話になっているミカさんを助けるためには、この場は僕がモデルの役割を果たせなければ収まらないんだ。
「初めまして、“男の娘”の時雨です。僕なんかで良ければなんでもやりますので好きに使って下さい。」
大きな声で挨拶をして、深々と頭を下げる。
恥ずかしくて耳まで真っ赤になっているのがわかるけどどうしようもない。
頭を下げた格好で僕が固まっていると、やる気をアピールしたのが良かったのか、その場の空気が少し変わってゆくのを感じた・・・
「うーん、イケそうだね。」
「時間もないし、始めようか。」
「時雨くんこっちにおいで。」
「はい!」
手招きされた方向に小走りでダッシュする。チラリと後ろを見ると。
「何考えてるの、このオネエ親父!」
と、ミカさんがオネエ系編集者さんの首を絞めているのが見えた。
結果から見ると、オネエ系編集者さんの判断は正しかった。
僕が“男の娘”である以上、着替えとかは他のモデルさんと別室でしなければいけない訳で、僕の性別を隠していたら特別扱いみたいでスタッフさん達の反感を買っただろう。
他のモデルさんた達も、僕を弟(妹?)扱いで可愛がって面倒を見てくれた。
(後で聞いた話だけれど、新人モデルは先輩モデルの仕事を奪うかもしれないライバルになるかもしれない存在なので、裏で先輩に虐めらることはよくあることらしい。その点僕は、“男の娘=色物”ということでライバル認定されなかった。)
皆んな“秘密は厳守するから”と言って親切にしてくれたので、安心してなんとかモデルの仕事をこなすことができたと思う。
結局、“紫雨”という名前で素人少女モデルとしてデビューさせていただきました。
意外と好評だったらしく、“男の娘”であることを承知の上で秘密厳守してくれるなら、という条件つきで時々はモデルの仕事をいただけるようになった。
結構なモデル料をいただけるようになったけれど、それは全額ミカさんに渡した。
ミカさんは“それで時雨ちゃんの気持ちが楽になるなら”と受け取ってくれた。
・・・色々と複雑だけど。学費と生活費の足しになって、ミカさんの負担を減らせるなら、お仕事がもらえる限り続けようと思う。
両親が「弟子入り契約書(笑)」にサインしたら、直ぐに僕の部屋に突撃して掻っ攫ってきたそうだ。
ミカさん強い・・・
「部屋の中のものを全部は持って来れなかったから、とにかく学校で使いそうな、制服とか教科書とかそこら辺を優先して持ってきたわ。」
「ありがとうございます。これで明日から学校に行けます。」
ほめて、ほめてといいたげに胸を張るミカさん。
「ま、私服とかは、徐々に揃えていきましょう。」
「お世話になります。」
本当に感謝しかありません。
「ところで、後出しで悪いんだけれど、これから一緒に生活する上で、いくつか条件があります。」
「あ、はい。」
ミカさんの唐突な条件提示、条件も何もミカさんに言われたことはなんでも従うつもりでいた僕にはちょっと戸惑った。
「まず1つ。」
ミカさんが人差し指をピッと立てる。
「家事は分担制ね、2人の生活なんだから、2人で協力してやりましょう。」
「ええ゛・・・」
今までの付き合いでわかったことだけれど、ミカさんは控えめに言って家事能力が低い、僕が1人でやった方が早いくらいだ。
ぶっちゃけミカさんは邪魔です。
それに生活費や学費まで一切合切ミカさんにお世話になるのだから、せめて家事くらいは僕が引き受けるつもりだった。
「そして2つめ。」
ピッと中指を立てる。
「この家の外に出る時は、男の子の格好でカオルちゃんでいること。」
ミカさんの顔が渋い、無茶苦茶不服そうだ。
「ご近所には、後で親戚の男の子を預かっていると紹介するから家の外ではカオルちゃんでお願い・・・」
ミカさん血の涙を流しておられる・・・そんなに嫌なんだね・・・
まあ、これから毎日男子高校生のカオル として学校に通うわけで、その僕が時々女の子の格好でご近所をウロウロすると僕の世間体がミカさんの世間体を巻き添えにして死ぬ。
ちなみにミカさんはご近所では完全に女性カメラマンで通しているとか。
「でも、家の中では可愛い時雨ちゃんでいて、お願い・・・」
「らじゃ!善処します。」
「そして3つめ。」
ピッと薬指が立つ。
「もうエッチなことはしません。」
「・・・・へ?」
これは正直、驚いた。
”養ってやるんだからその代償は身体で払え・・・ぐへへ” まではなくとも、同居するのだから、ナチュラルにミカさんには抱かれるつもりでいたし、ミカさんもそのつもりだと思っていた。
だいたい僕はミカさんのオンナにされたのではないの?・・・
ミカさんが僕を抱きしめて言葉を続ける。
「本当は、時雨ちゃんとこうしてイチャイチャできれば満足だったの。あなたがお義父さんにボロボロにされた姿をみて目が覚めたわ・・・、もう時雨ちゃんに酷いことしない・・・少なくとも大人に・・・うーん高校を卒業するまでは。」
最後がなければいいセリフです、本音がダダ漏れですよ。
僕としては、普段の優しいミカさんも、ベッドの上で僕を嬲りものにするミカさんも、ミカさんという人間の裏表であって、両面ひっくるめてミカさんという人を好きになったつもりです。
だから何をされても構わないんです。
でも、その一方でそうして僕を大切にしてくれる気持ちも嬉しかった。
だから僕も黙ってミカさんを抱きしめて、その気持ちを受け止めた。
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とある日の会話
僕が通っている高校は私立校で、そこそこ学費が高い。
一切の生活費をミカさんに面倒みてもらっている僕としては、学費まで出してもらうのが心苦しくて
「高校を辞めて働きたいと思うんですが・・・」
と恐る恐るミカさんに切り出してみた。
「ダメ、私が面倒を見ている間は絶対許しません。将来絶対後悔するから高校くらいはちゃんと卒業しなさい。」
おお、ミカさんに正論でお説教された・・・
「お金は心配しなくてもいいって言ったでしょ・・・でも」
ミカさんがの顔に、ふと邪悪な笑みが浮かんだ。
「どうしてもっていうなら、身体で稼いでもらおっかな~」
「え?」
思わず、自分の身体を抱きしめて後ずさる。ミカさんがこういう顔をするときは大体ろくなことがないのは験済みだから・・・
「時雨ちゃん、美少女モデルやろうよ、絶対人気出るから!雑誌の編集に知り合いがいるから紹介したげる。」
「え・・・それは・・・この姿を公開するのは・・・」
「私はメイクも結構な腕前だから、とりあえず、お、い、で。」
そのまま、ドレッサーの前に引きずられて玩具にされた・・・
僕がミカさんから習ったのは、あくまでメイクをしていることを感じさせないナチュラルなメイク。
もともと”軍これ”の時雨は大人しめで、清楚なキャラだったからそんなメイクが合っていた。
でもミカさんが僕に施したのは、華やかで派手なメイク。
普段の時雨が山に咲いている小さな野バラだとしたら、今の時雨は大輪のバラ。
黒髪に三つ編みだったウィッグもあえて銀髪をチョイスされ、さらにグリーンのカラーコンタクトまでつけられた僕は・・・もう別人だった。
自分でもびっくりの変貌ぶりだったけれど、ミカさんの目も色々と危ない。
いつか僕に着せようと思って隠し持っていた・・・というゴスロリまで着せられて。目が血走ったミカさんに、そのまま写真を撮りまくられた。
うう、なんか汚された気がする・・・今日の晩御飯はミカさんが嫌いなセロリマシマシにしてやろうと心に誓った。
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とある日の電話
僕のスマホにミカさんから電話が入った。
普通仕事中はプライベートな電話なんてしない人だから珍しいな・・・と思って電話を取ったら、かなり焦っているミカさんの声が。
「お願い時雨ちゃん、○○にある××ってスタジオに来て、今すぐに!」
「どうしたんです?何かありましたか?」
話を聞いてみると、今日は少女雑誌の撮影らしいのだけれど、一人のモデルさんがドタキャンしたため、撮影ができず困っているとか。
急遽、代役をどうするか・・・というときにミカさんが僕の写真を雑誌の編集者さんに見せたら、その場でokがでたとか・・・
なんてことをしてくれたんです、ミカさん。
と思ったけれど、実際困っているミカさんを見捨てることはできなくて、スマホを頼りに、ミカさんの撮影現場に急行する。
指定された××スタジオにたどりつくと、雑誌のスタッフさんたちに挨拶をするまもなく、あれよあれよという間にミカさんにメイクされて、モデルの服を着せられる。
ウィッグは銀髪、目には緑のカラコン。いつぞやのゴスロリ撮影をされた時の姿だった。
そのまま有無を言わさず、雑誌の編集者さんに紹介された。
「あの・・・事情がよく分からないのですが・・・ミカさんに呼ばれて来ました時雨です。よろしくお願いします。」
なんの心の準備もできないままに、スタジオでモデルをさせらるのはちょっと僕にはハードルが高い。
それでも、ミカさんのクライアントに失礼の無いようにと精一杯の挨拶をして頭を下げる。
「貴方が時雨ちゃんね、ミカさんから聞いてるわ~、いきなりで悪いけどよろしくね♡」
バチコーンとウィンクをして笑顔で答えてくれた編集者さん。
見た目は・・・普通のおじさんなんだけど、いわゆるオネエ系なのだろうか。
僕の周りを一回りして、僕の全身をチェックしている。
「ホントに可愛い子ね~、全然男の娘には見えないわね。」
(ミカさん・・・僕のことどこまでバラしてるの。?)
思わずミカさんの顔を見る。そこ、目線を逸らして吹けない口笛を吹くマネをしない!
「大丈夫、この人は信用できる人だから。心配しないで。」
ミカさんに小さく耳打ちされた。
このオネエ系編集者さんは、ミカさんのLGBT(セクシャル・マイノリティ)仲間だという。
LGBTの人は、マイノリティ(少数派)の為、横の繋がりが強くお互いに助けあうコミュニティーを作っていることが多い。
そして普通の会社勤めが難しい場合が多く、手に職を持ったプロフェッショナルとして働いている場合が多い。
この編集者さんや、義父との交渉に同席してくれた弁護士さん、診断書を書いてくれたお医者さんもそういったLGBTネットワークの繋がりのある人たちだった・・・らしい。
ミカさんは妙に顔が広いなと思ったのは、そういった繋がりがあったからだった。
ともかく、僕がいわゆる“男の娘”だと知っているのはこのオネエ系編集者さんだけとのことで、ちょっと安心できたのだけれど・・・
オネエ系編集者さんが“パンパン”と大きく手を叩いてその場にいたスタッフさんや、他のモデルの注目を集めて言った。
「みんな~、ピンチヒッターのモデルの子を紹介するわよ~。あくまでも素人の子だから無茶振りしないであげてね。あと、この子“男の娘”だから、そこんとこは秘密厳守でお願いね。」
速攻カミングアウトされました・・・流石のミカさんも目が点になっている。
そして、スタジオに動揺が広がる・・・
「おい、男だって・・・」
「でもあれだけ可愛ければ、十分イケるぞ・・・」
「それに他のモデル呼んでる時間ないし・・・」
「どうするよ・・・おい。」
えーいもう、ヤケだ!
お世話になっているミカさんを助けるためには、この場は僕がモデルの役割を果たせなければ収まらないんだ。
「初めまして、“男の娘”の時雨です。僕なんかで良ければなんでもやりますので好きに使って下さい。」
大きな声で挨拶をして、深々と頭を下げる。
恥ずかしくて耳まで真っ赤になっているのがわかるけどどうしようもない。
頭を下げた格好で僕が固まっていると、やる気をアピールしたのが良かったのか、その場の空気が少し変わってゆくのを感じた・・・
「うーん、イケそうだね。」
「時間もないし、始めようか。」
「時雨くんこっちにおいで。」
「はい!」
手招きされた方向に小走りでダッシュする。チラリと後ろを見ると。
「何考えてるの、このオネエ親父!」
と、ミカさんがオネエ系編集者さんの首を絞めているのが見えた。
結果から見ると、オネエ系編集者さんの判断は正しかった。
僕が“男の娘”である以上、着替えとかは他のモデルさんと別室でしなければいけない訳で、僕の性別を隠していたら特別扱いみたいでスタッフさん達の反感を買っただろう。
他のモデルさんた達も、僕を弟(妹?)扱いで可愛がって面倒を見てくれた。
(後で聞いた話だけれど、新人モデルは先輩モデルの仕事を奪うかもしれないライバルになるかもしれない存在なので、裏で先輩に虐めらることはよくあることらしい。その点僕は、“男の娘=色物”ということでライバル認定されなかった。)
皆んな“秘密は厳守するから”と言って親切にしてくれたので、安心してなんとかモデルの仕事をこなすことができたと思う。
結局、“紫雨”という名前で素人少女モデルとしてデビューさせていただきました。
意外と好評だったらしく、“男の娘”であることを承知の上で秘密厳守してくれるなら、という条件つきで時々はモデルの仕事をいただけるようになった。
結構なモデル料をいただけるようになったけれど、それは全額ミカさんに渡した。
ミカさんは“それで時雨ちゃんの気持ちが楽になるなら”と受け取ってくれた。
・・・色々と複雑だけど。学費と生活費の足しになって、ミカさんの負担を減らせるなら、お仕事がもらえる限り続けようと思う。
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