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ミーナはリアナが自分を追ってきたと勘違いしている
一話
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「ふふっ」
爽やかな朝日が降り注ぎ、やや冷たい風が二階の窓に座って微笑むミーナの白いワンピースを揺らし、去って行く。
真下に広がる狭いレンガの道にて大人達がモノを運び、その間を子供達が駆け抜けていく。
目線を左上に向けると、どこまでも入り組んでいる様に感じる二階建てのレンガの家々、そして屋根の上から顔を出す、カラカス共和国の白い宮殿の姿。
「やっぱりいい街ですね、ココは……」
そんな風景を、窓に座り左右の足を交互にあげ、街を眺める彼女に声がかけられた。
「ようミーナ、今日も外を眺めているのかい?」
それは向かいの家に住む、姉御肌な赤髪ポニーテールの美女、ネルブ・レテマウアーの声だった。
彼女は開いた窓に紺色ジーンズの左裾を乗せた後、右手を軽く上げて彼女なりの挨拶が告げられる。
「あっネルブさん! おはようございます!」
「おう、おはようさん!」
そんなネルブにミーナは笑顔で挨拶し返す訳だが。
「ほら、可愛い笑顔にアタシからプレゼントさ!」
「あち、あちちち……」
それを確認したネルブからプレゼントが!
ミーナに向け投げられたパンは、半円を描きながらレンガ道の上空を飛んでいく。
そしてそれがミーナの右手、左手をポンポンと交互に行き交った後、その温かみが残る感触は右手に掴まれた。
「それはウチのバカ息子達が食べなかったロールパンだ。 残りモンで悪いが、良ければ食べな!」
「あ、ありがとうございます、ネルブさん!」
その言葉に笑顔を再び送ったミーナは、ロールパンをカプリ。
「ん~美味しい~」
「あっはっは、そりゃパン屋として、最高の褒め言葉だ!」
至高の味と言わんばかりのミーナの表情にネルブも両手を腰に当てて豪快に笑みを浮かべた。
「さて二階の窓も開けたし、アタシは店の準備に戻らせてもらうかねぇ」
「分かりましたネルブさん。 あと、美味しいパン、ありがとうございました!」
「良いってものさ! あぁそうだ、ウチの隣に人が引っ越してくるそうだよ、またこの近辺が明るくなるねぇ!」
「そうなのですか! 一体どんな人が来るのでしょうかね?」
「さぁね。 ……っと長話が過ぎたよ、それじゃ!」
「はい、それでは!」
ミーナはネルブの背中に右手をゆっくり振って微笑み、建物の中へ消えていった。
そして、彼女は薄い雲がかかる大空に向け、両手を組み祈りを捧げるのである。
「おぉ偉大なるメルシス神様、幸福なる一時を下さり感謝いたします……」
メルシス教とは。
・何かを喜ばせる幸福を覚えるべし
・手は困ってないモノに差し伸べるものではなく、困っているモノに差し伸べるモノ
・差し伸べる手に見返りを求める事なかれ
・手を差し伸べられる事を当たり前に思うなかれ。
と言う四つの教えから始まる為か、ボランティア精神旺盛な信者が半数以上を占め、また宗教には珍しく、神に感謝する祭典や崇める儀式などを一切行わない変わった宗教である。
その為、助け合いが日常的にあり、儀式の出費などが無いメルシス教は平民の間ではポピュラーな宗教であったりする。
そんなメルシス教徒だからこそ、ミーナはこう思ったのだろう。
(メルシス教の教え、その9、幸せを感じたら誰かに幸せをお裾分けしなさい、でしたか……。 よし、昨日はご迷惑をお掛けしましたし、今日はエドガー君を幸せにする美味しい料理を作りましょう!)
そしてミーナは左手をギュッと握りしめ、買い物カゴ片手に、家を後にするのであった。
…………。
カラカス共和国の街は、魔法の力が宿った石である魔石の力に溢れている。
大通りを照らす街灯は、魔石の力でメラメラ光を放つ炎は消える事は無く、蛇口からは魔石の力で綺麗な水が無限に流れ、何より食材も魔石の力で冷却保存出来る。
そんな便利が溢れる街でミーナが買い物するルートは決まっていた。
肉、野菜、魚、調味料、そして服。
彼女はそんな順番で買い物をするのだが、その日に限って彼女の決まった日常は求めもしない変化を提供されたのである。
(な、何でリアナがここに居るんですか!?)
肉屋にいた厳格そうな雰囲気の長身長髪の女性が目に入った時、ミーナはとっさに裏路地へと隠れてしまった。
リアナこと、フリジアナ・ウォルバーンは《冷酷なる死神》《美女の姿をした悪魔》等と言われるラドライン王国の女騎士団長であり、国の為なら何でもこなす忠誠心を持ち、知勇どちらも優れた天才肌……と言われたのは過去の話。
一ヶ月前、彼女はラドライン国王に対し。
「辞めます!」
とだけ言って騎士団長を辞めている。
それに関してラドライン王国上層部では、リアナが騎士団長を辞めた理由を。
『第一王女を半年も見つけきれなかった責任から』
『自身の腕の衰えを感じたから』
等とその原因を推測したが、どちらも答えとしては間違いである。
なぜなら彼女は。
(これでしばらく、楽しいニート生活が送れるな!)
見た目に反し、ホントは働くのが大嫌いなダメ人間であるのだからである。
騎士団で働いていたのも、給料がとても良いからと言うだけで、ある程度お金が貯まった時点で辞めるつもりでいたのは、本人以外知らない事実だろう。
さて、彼女が騎士団長を辞めた事を知らないミーナは、男性が着る様なズボンとシャツを雑に着たリアナの姿を路地から再度確認する様にチラリ。
そして、見間違いでない事を確信したミーナは青ざめ、負の想像に脳内を支配されてしまう。
(ま、まさか騎士団長自ら探しに来るなんて……。 しかも、直ぐにこの街に目をつけ、行きつけの肉屋に目星を付けるだなんて、流石天才と言われるだけの事はありますね……)
リアナはダメ人間だが、有能ではあった。
それは『いかに自分が働かないか?』『楽をするか?』『面倒くさい展開にならないか?』と言う強い意志が良い功績を生んだ訳だが、そんなリアナの内面など知らないミーナは、リアナの優秀さだけを強く意識し、そんな不安を増大させてしまったのだ。
さて、そうミーナから思われている当の本人はと言うと、ややガタイのいい肉屋の店長に対し、冷静な口調でこう尋ねていた。
「すまない、ひとつ尋ねるが……」
「何だい、お姉さん?」
「私は働きたくないのだが……」
「あのね、お姉さん。 そう言われてもね、おっさんが困るのだけだから……。 あと、ウチは肉屋だから欲しい物を言ってもらわないと……」
「ならば、お金を貢ぎ続ける存在が欲しいのだが……売っているか?」
「ウチは奴隷商じゃないから! つーか、誰かと結婚しろ! そして帰れ!」
結果、店長を困惑させた挙句、店から押し出された。
しかし、何を言ってるのか聞こえていないミーナは二人の動きを見て。
(ま、まさか店長さんからワタシの事を聞き出そうと!? ただ店長さん、悪い人間か何かと思ったのかリアナをすぐ押し出してくれましたか……。 しかし状況はあまりよろしくなさそうですね……)
っと勘違い。
そして、店から押し出され、キョトンとしていたリアナは。
(確かに結婚すれば働かなくて良いかもしれないな。 なら、酒場で婚活でもするか?)
と店長の言葉からそんな結論に辿り着き、歩き出した。
(ま、まさか、まさか!? エドガー君の働いている酒場に向かっているのではないですか!?)
そんなリアナが酒場のある方へ歩き出した姿を見てミーナはアワアワ、負の想像が膨らんでいく。
(間違いありません! リアナはエドガー君から私の情報を聞き出すつもりです! そして最悪、エドガー君を人質にする可能性もありますね……)
「……そうはさせませんよ!」
そしてミーナはそう小さく呟き、右拳を握りしめ、リアナをこっそりつけ始める。
それは彼女が。
(自分のせいでエドガーに何かが起こるのだけは避けたい!)
と言う思いを抱いたから……。
爽やかな朝日が降り注ぎ、やや冷たい風が二階の窓に座って微笑むミーナの白いワンピースを揺らし、去って行く。
真下に広がる狭いレンガの道にて大人達がモノを運び、その間を子供達が駆け抜けていく。
目線を左上に向けると、どこまでも入り組んでいる様に感じる二階建てのレンガの家々、そして屋根の上から顔を出す、カラカス共和国の白い宮殿の姿。
「やっぱりいい街ですね、ココは……」
そんな風景を、窓に座り左右の足を交互にあげ、街を眺める彼女に声がかけられた。
「ようミーナ、今日も外を眺めているのかい?」
それは向かいの家に住む、姉御肌な赤髪ポニーテールの美女、ネルブ・レテマウアーの声だった。
彼女は開いた窓に紺色ジーンズの左裾を乗せた後、右手を軽く上げて彼女なりの挨拶が告げられる。
「あっネルブさん! おはようございます!」
「おう、おはようさん!」
そんなネルブにミーナは笑顔で挨拶し返す訳だが。
「ほら、可愛い笑顔にアタシからプレゼントさ!」
「あち、あちちち……」
それを確認したネルブからプレゼントが!
ミーナに向け投げられたパンは、半円を描きながらレンガ道の上空を飛んでいく。
そしてそれがミーナの右手、左手をポンポンと交互に行き交った後、その温かみが残る感触は右手に掴まれた。
「それはウチのバカ息子達が食べなかったロールパンだ。 残りモンで悪いが、良ければ食べな!」
「あ、ありがとうございます、ネルブさん!」
その言葉に笑顔を再び送ったミーナは、ロールパンをカプリ。
「ん~美味しい~」
「あっはっは、そりゃパン屋として、最高の褒め言葉だ!」
至高の味と言わんばかりのミーナの表情にネルブも両手を腰に当てて豪快に笑みを浮かべた。
「さて二階の窓も開けたし、アタシは店の準備に戻らせてもらうかねぇ」
「分かりましたネルブさん。 あと、美味しいパン、ありがとうございました!」
「良いってものさ! あぁそうだ、ウチの隣に人が引っ越してくるそうだよ、またこの近辺が明るくなるねぇ!」
「そうなのですか! 一体どんな人が来るのでしょうかね?」
「さぁね。 ……っと長話が過ぎたよ、それじゃ!」
「はい、それでは!」
ミーナはネルブの背中に右手をゆっくり振って微笑み、建物の中へ消えていった。
そして、彼女は薄い雲がかかる大空に向け、両手を組み祈りを捧げるのである。
「おぉ偉大なるメルシス神様、幸福なる一時を下さり感謝いたします……」
メルシス教とは。
・何かを喜ばせる幸福を覚えるべし
・手は困ってないモノに差し伸べるものではなく、困っているモノに差し伸べるモノ
・差し伸べる手に見返りを求める事なかれ
・手を差し伸べられる事を当たり前に思うなかれ。
と言う四つの教えから始まる為か、ボランティア精神旺盛な信者が半数以上を占め、また宗教には珍しく、神に感謝する祭典や崇める儀式などを一切行わない変わった宗教である。
その為、助け合いが日常的にあり、儀式の出費などが無いメルシス教は平民の間ではポピュラーな宗教であったりする。
そんなメルシス教徒だからこそ、ミーナはこう思ったのだろう。
(メルシス教の教え、その9、幸せを感じたら誰かに幸せをお裾分けしなさい、でしたか……。 よし、昨日はご迷惑をお掛けしましたし、今日はエドガー君を幸せにする美味しい料理を作りましょう!)
そしてミーナは左手をギュッと握りしめ、買い物カゴ片手に、家を後にするのであった。
…………。
カラカス共和国の街は、魔法の力が宿った石である魔石の力に溢れている。
大通りを照らす街灯は、魔石の力でメラメラ光を放つ炎は消える事は無く、蛇口からは魔石の力で綺麗な水が無限に流れ、何より食材も魔石の力で冷却保存出来る。
そんな便利が溢れる街でミーナが買い物するルートは決まっていた。
肉、野菜、魚、調味料、そして服。
彼女はそんな順番で買い物をするのだが、その日に限って彼女の決まった日常は求めもしない変化を提供されたのである。
(な、何でリアナがここに居るんですか!?)
肉屋にいた厳格そうな雰囲気の長身長髪の女性が目に入った時、ミーナはとっさに裏路地へと隠れてしまった。
リアナこと、フリジアナ・ウォルバーンは《冷酷なる死神》《美女の姿をした悪魔》等と言われるラドライン王国の女騎士団長であり、国の為なら何でもこなす忠誠心を持ち、知勇どちらも優れた天才肌……と言われたのは過去の話。
一ヶ月前、彼女はラドライン国王に対し。
「辞めます!」
とだけ言って騎士団長を辞めている。
それに関してラドライン王国上層部では、リアナが騎士団長を辞めた理由を。
『第一王女を半年も見つけきれなかった責任から』
『自身の腕の衰えを感じたから』
等とその原因を推測したが、どちらも答えとしては間違いである。
なぜなら彼女は。
(これでしばらく、楽しいニート生活が送れるな!)
見た目に反し、ホントは働くのが大嫌いなダメ人間であるのだからである。
騎士団で働いていたのも、給料がとても良いからと言うだけで、ある程度お金が貯まった時点で辞めるつもりでいたのは、本人以外知らない事実だろう。
さて、彼女が騎士団長を辞めた事を知らないミーナは、男性が着る様なズボンとシャツを雑に着たリアナの姿を路地から再度確認する様にチラリ。
そして、見間違いでない事を確信したミーナは青ざめ、負の想像に脳内を支配されてしまう。
(ま、まさか騎士団長自ら探しに来るなんて……。 しかも、直ぐにこの街に目をつけ、行きつけの肉屋に目星を付けるだなんて、流石天才と言われるだけの事はありますね……)
リアナはダメ人間だが、有能ではあった。
それは『いかに自分が働かないか?』『楽をするか?』『面倒くさい展開にならないか?』と言う強い意志が良い功績を生んだ訳だが、そんなリアナの内面など知らないミーナは、リアナの優秀さだけを強く意識し、そんな不安を増大させてしまったのだ。
さて、そうミーナから思われている当の本人はと言うと、ややガタイのいい肉屋の店長に対し、冷静な口調でこう尋ねていた。
「すまない、ひとつ尋ねるが……」
「何だい、お姉さん?」
「私は働きたくないのだが……」
「あのね、お姉さん。 そう言われてもね、おっさんが困るのだけだから……。 あと、ウチは肉屋だから欲しい物を言ってもらわないと……」
「ならば、お金を貢ぎ続ける存在が欲しいのだが……売っているか?」
「ウチは奴隷商じゃないから! つーか、誰かと結婚しろ! そして帰れ!」
結果、店長を困惑させた挙句、店から押し出された。
しかし、何を言ってるのか聞こえていないミーナは二人の動きを見て。
(ま、まさか店長さんからワタシの事を聞き出そうと!? ただ店長さん、悪い人間か何かと思ったのかリアナをすぐ押し出してくれましたか……。 しかし状況はあまりよろしくなさそうですね……)
っと勘違い。
そして、店から押し出され、キョトンとしていたリアナは。
(確かに結婚すれば働かなくて良いかもしれないな。 なら、酒場で婚活でもするか?)
と店長の言葉からそんな結論に辿り着き、歩き出した。
(ま、まさか、まさか!? エドガー君の働いている酒場に向かっているのではないですか!?)
そんなリアナが酒場のある方へ歩き出した姿を見てミーナはアワアワ、負の想像が膨らんでいく。
(間違いありません! リアナはエドガー君から私の情報を聞き出すつもりです! そして最悪、エドガー君を人質にする可能性もありますね……)
「……そうはさせませんよ!」
そしてミーナはそう小さく呟き、右拳を握りしめ、リアナをこっそりつけ始める。
それは彼女が。
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