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3章:エントの森
エントの森の小人族
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翌朝、携帯食を少し腹に入れると一同は船に乗り込み下る。昨日とは打って変わり、分厚い雲が空を覆い隠している。薄暗い雰囲気に包まれる。ドンナトールはアルロの顔をみて満足そうに頷いた。食えない年寄りはアルロの少しの変化に何があったか察する。
「どうしました、ドンナトール」
「なんでもないぞ。ほほほほ」
周りを明るくさせる笑い声を腹が響かせながら、ドンナトールは船をこぐミーミルの前に座るドワーフを見た。
元々、無口な質のゴヴニュは一層無口になっていた。そして、落ち着きなく髭を撫でている。ドンナトールはゴヴニュの様子が気になって仕方がなかった。ダグザやドルドナがそれぞれ仲を深めているのが気に入らないのか。
森から川に向かい木の枝が垂れ下がる。川面は枯れた葉が覆いつくさんばかりにたゆんでいる。櫂で葉をかくように船を進ませる。
少し速度を落とした船が垂れ下がる木々から抜け出ようとしたとき、ベレヌスとカムロスの緊張ある声がほかの耳を打った。
「右になにかいる」
カムロスはすぐに背に背負った弓を手にし、矢をつがえ狙いを定めた。
「矢だ! 伏せろ」
ベレヌスは重たいであろう櫂を苦も無く片手で持つと、見えない敵から放たれた矢を叩き落とした。右の崖上を見るが、敵の影は見えない。しかし、矢は次々に8人に襲い掛かる。それぞれが獲物で飛んでくる矢を捌くが、そうすれば船のバランスは崩れるわけで、立ち上がったドルドナが船から落ちかけた。すぐにベレヌスが櫂から手を離し、髭を掴む。
「髭はやめろ!」
「仕方ないだろう!離していいのか!」
「それもだめだ!」
ベレヌスに髭を掴まれたドルドナは船縁につま先が付いているがすでに川に向かって、体は傾いている。ベレヌスはつかんだ髭にさらに力を加え、船のほうへ引き寄せた。
「わがままな!」
船に激突するように戻ってきたドルドナを見ることなく、ベレヌスは双剣を抜き放ち、3本の矢を捌く。
「岸が見えてきたぞ」
アルロの声が響く。左を見れば予定の地点ではないが船が乗り入れられそうな岸が見えた。しかし、とんでくる矢を捌くのに手一杯で、誰も船を操作することなどできない。ベレヌスに至ってはドルドナの髭を掴んだときに櫂を川に落としていた。
「しっかり掴まるんじゃぞ」
杖を掲げたドンナトールが呪文を唱えた。
『νερό! ροη! ροηξηρά!』
「まてっくそじじぃ!」
ベレヌスの声が勢いよく迫る水の爆音に混ざり聞こえ、穏やかだった川の水が濁流となった8人に襲い掛かった。小さな船は耐えきることができず、転覆。1隻は真ん中で折れて沈んだ。
「無事か!?」
アルロの鋭い声がかかった。ぶつかるように打ち上げられた岸に咳込む音がなる。アルロも入った水を吐き、見渡す。ベレヌスとドルドナ、ゴヴニュの姿がないことを認める。アルロは重い体を起こし、川に戻ろうとしたが、川面が盛り上がった。
ざばぁっという音と水をまき散らし、姿を見せた。
「ベレン!」
アルロは水を滴らせる塊へ近寄った。ベレヌスは両脇に抱えていた2つの深緑の塊をその場に捨てる。すぐに水にぶつかる音とくぐもった音をたて、それは着水した。
派手な音を立てた深緑の塊は外套に絡まったドルドナとゴヴニュだ。落とされた2人は腕と足をめちゃくちゃに動かし、もがいている。
「大丈夫か」
「げっほげほ、なんとか」
ベレヌスは水を吐きだし、アルロに答える。足元からドルドナたち2人の咳込む音も続いた。
「すまん、助かった」
アルロはドルドナとゴヴニュも問題ない様子に心を落ち着かせた。改めてベレヌスのほうへと視線をやれば、不機嫌そうに眉間に皺をよせ、服を絞っている。
ベレヌスは前髪を滴る水に舌を打ち、かき上げた。かき上げる腕から赤いものが滴るのをアルロは捉えた。
「ベレン! 怪我をしているじゃないか」
アルロの驚きにドルドナが背を伸ばしベレヌスをみた。当のベレヌスはどこを怪我しているのかと見渡している。
「左の肩だ」
「みえない」
アルロが指さす肩をベレヌスは見ようとするが見えない。右手で押さえ手を離すと赤い血がべったりと付いていた。
「岩にぶつかったかもな」
ベレヌスはそれだけ言うと水をかき分け、岸に歩き出す。その後ろを怪我をしていないアルロが顔色を変え、ベレヌスを追いかけ、後ろを短い脚を一生懸命動かし、ドルドナとゴヴニュが岸に上がった。
アルロの手当てを受けるベレヌスにカムロスとミーミルが心配そうに近寄ってきた。
「大丈夫?」
心配そうな声に反し、ベレヌスはカラッとした声で答える。
「大丈夫だ。水のせいでかなり血が出ているように見えるだけだ。すぐに止まるさ」
「ありがとう、アル」
「当分、無理はするなよ」
アルロの言葉に頷きベレヌスはすぐ横でしょげる魔法使いに目をやった。
「さてと」
「俺はまて、といったよな」
「はい」
「呪文をすっ飛ばすから、加減しろと言っているよな」
ドンナトールは強大な魔力を有している。しかし、魔法を発動させ、制御させる鍵である呪文を適当に唱えることが多い。制御を失った魔法は強大なドンナトールの力に影響され、強大な効果を生み出す。
南のエルフの館で世話になっていたベレヌスは時折、被害にあっていた。その都度、小さいベレヌスに普段から呪文をしっかり、ゆっくり唱えるようにたしなめられていた。が
成長していない200歳越の魔法使いにため息しか出ない。
「慌てておったんじゃもん」
「はぁ、まぁ今回は助かりました。ありがとうございます」
ベレヌスは疲れたように目を閉じた。ドンナトールはどうしたらいいのかわからず、アルロに目をやる。帰ってきたのは肩をすくめる動作のみ。では、と双子のエルフに目をやるが同じ反応だった。ドワーフ3人衆は互いを温め合っていた。
「1時間休もう。ドンナトール、背凭れになってください」
ベレヌスはそういうと正座で座っているドンナトールの背中にもたれ、また目を閉じた。ドンナトールは黒の杖に魔力を注ぎ込み、わずかに掲げた。
「ξηραίνω」
暖かく乾いた空気が8人を包み込み、あっという間に服や髪を乾かした。ベレヌスは
(できる人なんだが)
と薄っすら目を開けて垂れる前髪が渇くのを眺める。
アルロは目を閉じドンナトールにもたれるベレヌスから目を離すと目の前に広がる鬱蒼としたエントの森を見上げた。耳をすませば途中で聞いたエントの声を拾う。
ーぐぇあああぁぁ
ーチキチキチキ
そして、何か大きなものを引きづるような、ぶつけるような音も時折聞こえた。エントの森を見るアルロをはさむように双子のエルフが横に立った。双子も同じくエントの森を見る。その端正な顔を交互に見たアルロは視線を森に戻す。
(エルフの耳にはエントの声はどうやって聞こえるのだろうか)
エルフは自然と共に生き、自然と会話する。
「あれは何の意味も持たない鳴き声だよ」
「!?」
肩にかかる細い編み込まれた髪を止める金紐のリボンにカムロスだと判断する。
「では、意味があるように聞こえることもあるのか」
「もちろん」
今度は右に立つ銀紐を指で遊ばせながらミーミルが答えた。
「どんな会話をするんだ」
「えっとね、鳥が訪れたとか、糞を落とされたとか」
「そんな会話なのか」
アルロは想像と違うエントの鳴き声の意味に驚いた。文献に乗るエントは大きく、そして暗い印象を抱かせる絵柄だ。そこから、恐ろしいものとしてアルロの頭は認識していた。
「平和でしょ」
カムロスが腕を伸ばしながらそういった。アルロはそれに頷いたが、ミーミルが補足した。
「エントは優しくない。森を傷つけるものに容赦しない」
「気を付ける」
アルロは容赦しない木々の化け物の中、神の剣を探さなくてはならないのかと辟易する。アルロは腰に付けた金箱に少し手を当て、ため息をつく姿を闇の色をたたえた瞳が見ていることは誰も知らない。
1時間が来る前にベレヌスは立ち上がり、体を伸ばした。そして横で揺れる黒髪を邪魔だと睨みつけた。その様子を見ていたカムロスが近寄る。
「これを使う?」
「助かる」
ベレヌスはカムロスが差し出す新緑の紐を受け取る。後ろでいつものように一つにまとめた。
「派手じゃないか」
「そうかな?似合っているよ」
ベレヌスは以前の黒紐と違う色に違和感と恥ずかしさを感じずにはいられない。後ろに手をやり新緑の紐を触るベレヌスにアルロもよってきた。
「似合っている。黒い髪によく映えている」
アルロがベレヌスのまとめられた髪に手を伸ばし、そういった。それに、ベレヌスはすぐに大きなため息をつき、アルロから髪を離すように顔を動かした。
「そういう歯が浮くようなセリフと仕草は女性にするものだ」
「だめだったか」
不思議そうにベレヌスを見るアルロにカムロスが体を震わせ、笑い出す。ベレヌスは
(誑しか)
思うがそれは声に出さずベレヌスはアルロの髪に指を通す。目を丸くするアルロにベレヌスは良い気分だ。
「黒髪に映えるというのであればアルも同じだろ」
「・・・よし、出発しようか」
流れるように離れ、おいていた荷物を取りに行くアルロの背中を忍び笑いが追いかける。
「恥ずかしかったんだな」
「だと思うよ。まったくあまり苛めたらかわいそうだよ」
「そんなつもりはなかったさ。ただ、面白いとは思った」
薄琥珀の瞳を細めたベレヌスはまさに意地悪を張り付けた顔だ。カムロスは肩をすくめて首を横に振る。
「そんな意地悪な子だったっけ?」
「何を言うんだ」
カムロスの言葉にベレヌスは心外だと眉を動かした。
「エルフの館で習ったんだ」
それだけ言うと足早にほかの6人がいる場所に向かうベレヌスを、カムロスが文句を言いながら追いかける。
「どういうこと。僕たちそんなに意地悪じゃないよ」
「そうだ。カムロスはともかく私はそんなことを教えていない」
「えっ! ミーミル!」
「おふざけはそこまでじゃぞ」
ドンナトールの声に7人は気持ちを引き締めた。これからはいるのは深い森。生い茂る木々が日の光を遮る暗い森。そして、エントという木の生物が住まう森。何が起こるかもわからない森を、歩き回らなくてはならない。進むべき場所は東のエルフと小人が戦ったとされるエントの森中腹。
「行くぞ」
アルロの言葉に全員が頷き、隊列を自然と組み進む。
「どうしました、ドンナトール」
「なんでもないぞ。ほほほほ」
周りを明るくさせる笑い声を腹が響かせながら、ドンナトールは船をこぐミーミルの前に座るドワーフを見た。
元々、無口な質のゴヴニュは一層無口になっていた。そして、落ち着きなく髭を撫でている。ドンナトールはゴヴニュの様子が気になって仕方がなかった。ダグザやドルドナがそれぞれ仲を深めているのが気に入らないのか。
森から川に向かい木の枝が垂れ下がる。川面は枯れた葉が覆いつくさんばかりにたゆんでいる。櫂で葉をかくように船を進ませる。
少し速度を落とした船が垂れ下がる木々から抜け出ようとしたとき、ベレヌスとカムロスの緊張ある声がほかの耳を打った。
「右になにかいる」
カムロスはすぐに背に背負った弓を手にし、矢をつがえ狙いを定めた。
「矢だ! 伏せろ」
ベレヌスは重たいであろう櫂を苦も無く片手で持つと、見えない敵から放たれた矢を叩き落とした。右の崖上を見るが、敵の影は見えない。しかし、矢は次々に8人に襲い掛かる。それぞれが獲物で飛んでくる矢を捌くが、そうすれば船のバランスは崩れるわけで、立ち上がったドルドナが船から落ちかけた。すぐにベレヌスが櫂から手を離し、髭を掴む。
「髭はやめろ!」
「仕方ないだろう!離していいのか!」
「それもだめだ!」
ベレヌスに髭を掴まれたドルドナは船縁につま先が付いているがすでに川に向かって、体は傾いている。ベレヌスはつかんだ髭にさらに力を加え、船のほうへ引き寄せた。
「わがままな!」
船に激突するように戻ってきたドルドナを見ることなく、ベレヌスは双剣を抜き放ち、3本の矢を捌く。
「岸が見えてきたぞ」
アルロの声が響く。左を見れば予定の地点ではないが船が乗り入れられそうな岸が見えた。しかし、とんでくる矢を捌くのに手一杯で、誰も船を操作することなどできない。ベレヌスに至ってはドルドナの髭を掴んだときに櫂を川に落としていた。
「しっかり掴まるんじゃぞ」
杖を掲げたドンナトールが呪文を唱えた。
『νερό! ροη! ροηξηρά!』
「まてっくそじじぃ!」
ベレヌスの声が勢いよく迫る水の爆音に混ざり聞こえ、穏やかだった川の水が濁流となった8人に襲い掛かった。小さな船は耐えきることができず、転覆。1隻は真ん中で折れて沈んだ。
「無事か!?」
アルロの鋭い声がかかった。ぶつかるように打ち上げられた岸に咳込む音がなる。アルロも入った水を吐き、見渡す。ベレヌスとドルドナ、ゴヴニュの姿がないことを認める。アルロは重い体を起こし、川に戻ろうとしたが、川面が盛り上がった。
ざばぁっという音と水をまき散らし、姿を見せた。
「ベレン!」
アルロは水を滴らせる塊へ近寄った。ベレヌスは両脇に抱えていた2つの深緑の塊をその場に捨てる。すぐに水にぶつかる音とくぐもった音をたて、それは着水した。
派手な音を立てた深緑の塊は外套に絡まったドルドナとゴヴニュだ。落とされた2人は腕と足をめちゃくちゃに動かし、もがいている。
「大丈夫か」
「げっほげほ、なんとか」
ベレヌスは水を吐きだし、アルロに答える。足元からドルドナたち2人の咳込む音も続いた。
「すまん、助かった」
アルロはドルドナとゴヴニュも問題ない様子に心を落ち着かせた。改めてベレヌスのほうへと視線をやれば、不機嫌そうに眉間に皺をよせ、服を絞っている。
ベレヌスは前髪を滴る水に舌を打ち、かき上げた。かき上げる腕から赤いものが滴るのをアルロは捉えた。
「ベレン! 怪我をしているじゃないか」
アルロの驚きにドルドナが背を伸ばしベレヌスをみた。当のベレヌスはどこを怪我しているのかと見渡している。
「左の肩だ」
「みえない」
アルロが指さす肩をベレヌスは見ようとするが見えない。右手で押さえ手を離すと赤い血がべったりと付いていた。
「岩にぶつかったかもな」
ベレヌスはそれだけ言うと水をかき分け、岸に歩き出す。その後ろを怪我をしていないアルロが顔色を変え、ベレヌスを追いかけ、後ろを短い脚を一生懸命動かし、ドルドナとゴヴニュが岸に上がった。
アルロの手当てを受けるベレヌスにカムロスとミーミルが心配そうに近寄ってきた。
「大丈夫?」
心配そうな声に反し、ベレヌスはカラッとした声で答える。
「大丈夫だ。水のせいでかなり血が出ているように見えるだけだ。すぐに止まるさ」
「ありがとう、アル」
「当分、無理はするなよ」
アルロの言葉に頷きベレヌスはすぐ横でしょげる魔法使いに目をやった。
「さてと」
「俺はまて、といったよな」
「はい」
「呪文をすっ飛ばすから、加減しろと言っているよな」
ドンナトールは強大な魔力を有している。しかし、魔法を発動させ、制御させる鍵である呪文を適当に唱えることが多い。制御を失った魔法は強大なドンナトールの力に影響され、強大な効果を生み出す。
南のエルフの館で世話になっていたベレヌスは時折、被害にあっていた。その都度、小さいベレヌスに普段から呪文をしっかり、ゆっくり唱えるようにたしなめられていた。が
成長していない200歳越の魔法使いにため息しか出ない。
「慌てておったんじゃもん」
「はぁ、まぁ今回は助かりました。ありがとうございます」
ベレヌスは疲れたように目を閉じた。ドンナトールはどうしたらいいのかわからず、アルロに目をやる。帰ってきたのは肩をすくめる動作のみ。では、と双子のエルフに目をやるが同じ反応だった。ドワーフ3人衆は互いを温め合っていた。
「1時間休もう。ドンナトール、背凭れになってください」
ベレヌスはそういうと正座で座っているドンナトールの背中にもたれ、また目を閉じた。ドンナトールは黒の杖に魔力を注ぎ込み、わずかに掲げた。
「ξηραίνω」
暖かく乾いた空気が8人を包み込み、あっという間に服や髪を乾かした。ベレヌスは
(できる人なんだが)
と薄っすら目を開けて垂れる前髪が渇くのを眺める。
アルロは目を閉じドンナトールにもたれるベレヌスから目を離すと目の前に広がる鬱蒼としたエントの森を見上げた。耳をすませば途中で聞いたエントの声を拾う。
ーぐぇあああぁぁ
ーチキチキチキ
そして、何か大きなものを引きづるような、ぶつけるような音も時折聞こえた。エントの森を見るアルロをはさむように双子のエルフが横に立った。双子も同じくエントの森を見る。その端正な顔を交互に見たアルロは視線を森に戻す。
(エルフの耳にはエントの声はどうやって聞こえるのだろうか)
エルフは自然と共に生き、自然と会話する。
「あれは何の意味も持たない鳴き声だよ」
「!?」
肩にかかる細い編み込まれた髪を止める金紐のリボンにカムロスだと判断する。
「では、意味があるように聞こえることもあるのか」
「もちろん」
今度は右に立つ銀紐を指で遊ばせながらミーミルが答えた。
「どんな会話をするんだ」
「えっとね、鳥が訪れたとか、糞を落とされたとか」
「そんな会話なのか」
アルロは想像と違うエントの鳴き声の意味に驚いた。文献に乗るエントは大きく、そして暗い印象を抱かせる絵柄だ。そこから、恐ろしいものとしてアルロの頭は認識していた。
「平和でしょ」
カムロスが腕を伸ばしながらそういった。アルロはそれに頷いたが、ミーミルが補足した。
「エントは優しくない。森を傷つけるものに容赦しない」
「気を付ける」
アルロは容赦しない木々の化け物の中、神の剣を探さなくてはならないのかと辟易する。アルロは腰に付けた金箱に少し手を当て、ため息をつく姿を闇の色をたたえた瞳が見ていることは誰も知らない。
1時間が来る前にベレヌスは立ち上がり、体を伸ばした。そして横で揺れる黒髪を邪魔だと睨みつけた。その様子を見ていたカムロスが近寄る。
「これを使う?」
「助かる」
ベレヌスはカムロスが差し出す新緑の紐を受け取る。後ろでいつものように一つにまとめた。
「派手じゃないか」
「そうかな?似合っているよ」
ベレヌスは以前の黒紐と違う色に違和感と恥ずかしさを感じずにはいられない。後ろに手をやり新緑の紐を触るベレヌスにアルロもよってきた。
「似合っている。黒い髪によく映えている」
アルロがベレヌスのまとめられた髪に手を伸ばし、そういった。それに、ベレヌスはすぐに大きなため息をつき、アルロから髪を離すように顔を動かした。
「そういう歯が浮くようなセリフと仕草は女性にするものだ」
「だめだったか」
不思議そうにベレヌスを見るアルロにカムロスが体を震わせ、笑い出す。ベレヌスは
(誑しか)
思うがそれは声に出さずベレヌスはアルロの髪に指を通す。目を丸くするアルロにベレヌスは良い気分だ。
「黒髪に映えるというのであればアルも同じだろ」
「・・・よし、出発しようか」
流れるように離れ、おいていた荷物を取りに行くアルロの背中を忍び笑いが追いかける。
「恥ずかしかったんだな」
「だと思うよ。まったくあまり苛めたらかわいそうだよ」
「そんなつもりはなかったさ。ただ、面白いとは思った」
薄琥珀の瞳を細めたベレヌスはまさに意地悪を張り付けた顔だ。カムロスは肩をすくめて首を横に振る。
「そんな意地悪な子だったっけ?」
「何を言うんだ」
カムロスの言葉にベレヌスは心外だと眉を動かした。
「エルフの館で習ったんだ」
それだけ言うと足早にほかの6人がいる場所に向かうベレヌスを、カムロスが文句を言いながら追いかける。
「どういうこと。僕たちそんなに意地悪じゃないよ」
「そうだ。カムロスはともかく私はそんなことを教えていない」
「えっ! ミーミル!」
「おふざけはそこまでじゃぞ」
ドンナトールの声に7人は気持ちを引き締めた。これからはいるのは深い森。生い茂る木々が日の光を遮る暗い森。そして、エントという木の生物が住まう森。何が起こるかもわからない森を、歩き回らなくてはならない。進むべき場所は東のエルフと小人が戦ったとされるエントの森中腹。
「行くぞ」
アルロの言葉に全員が頷き、隊列を自然と組み進む。
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