【平日19:30更新】神の剣~ミスガルド11世紀の戦い~

ジロ シマダ

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1章:闇に殺された国

アストリの腕輪

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「あれがアストリの腕輪か」
ダグザの声が地下の冷たい空気を震わせる。
「そうだ」
アルロはアストリの腕輪に近づいた。


 中央の澄み渡る青空のような石の台座に鎮座する銀細工の腕輪は異様な存在感を放っていた。近づけば近づくほど空気が重くなっている気がするとアルロは口を歪めた。何も起こってくれるな、と念じながらアルロは腕輪に手を伸ばす。
 腕輪に指先が触れる前に指先から腕へと昇る風をアルロは感じた。なんだと瞬時に指を引っ込めた瞬間、アストリの腕輪が空気に溶けるように消えた。
 目の前で見ていたアルロだけでなく、少し離れた場所で見ていたダグザたち3人も目を見開き、台座を凝視するがないものはない。
「どこにいったんだ!」
ダグザが驚きの声を出す。アルロはその時ある違和感に気が付いた。右腕に何かが絡みついている感覚があった。アルロは嫌な予感を抱きながらゆっくりと破れかけた袖口をめくった。

 案の定、そこにアストリの腕輪があった。

 アルロは騒ぐよりも先に勝手に腕にはまったアストリの腕輪を引き抜こうと引っ張る。しかし、少しも外れる気配がない。まるでアルロの体の一部かのようにくっ付いている。
後ろに立ち尽くすダグザたち3人を振り向いた。
「手伝ってくれ!」
ダグザたちは、はっとなりアルロに駆け寄る。しかし、状況は変わらなかった。

 ダグザとドルドナが後ろからアルロを掴み、ゴヴニュがアストリの腕輪を引き抜こうと手を腕輪に伸ばしたが掴めなかった。
「何かに弾かれるぞ」
「これはすごいじゃないか」
「やっぱすごいな」

アストリのの腕輪を目を輝かせ堪能しているダグザたち3人。そしてアルロは遠い目で腕輪とドワーフたちを見る。
(すごくないだろう。とんだ呪いではないか)
気持ち良いとは言えない腕輪にため息を着く。そして、いい加減にここを出なくてはいけないと3人の目から腕をずらした。

「「「あっ」」」
「あっではない。ここから出るぞ」
「そうだったな」
ダグザが目をそらしながら頬を掻く動作に完全に頭から抜け落ちていたことをアルロは理解した。芸術や工作が関わると何も見えなくなるドワーフとはさすがだ。
(その辺に工芸品を置いておけば釣れそうな勢いだ)
アルロはそんなことを考えながら腕輪を隠すように台座の白いレース地の布を巻きつけた。

「階段か」
 嫌そうな顔で降りてきた螺旋階段を見上げる3人にアルロは
「登らないぞ」
と返した。ダグザたちは首が取れそうな勢いでアルロを振り返る。
「登らないだと!?本当か!」
「あ、あぁ」
ガッツポーズを決める3人にどれほど嫌だったのか、とアルロは笑った。その笑い声にダグザたちは恨めしい目を向ける。

「なぜ教えんだ」
「聞かれなかった」
「そうじゃないだろてぇ」
「悪い悪い。出口はこっちだ」
アルロは手を軽く振りながら謝り、台座の向こうへ足を進める。ダグザは会って1時間も経ってはいないが、アルロの性格が何となくわかってきた。顔のわりに適当というかぶっきらぼうなやつだと。堅苦しくない王族にダグザは好感を覚えていた。
(この人間は友人になれそうだ)

 ダグザは久しぶりの感覚に楽しくなる。人間と友好を結んだのはいつのことだろうか、と人間からすれば大分昔のことを思い出しながら、アルロの後に続く。


「ここから外に出られるが、だ」
「オークか」
「あぁ、まぁ戦うのではなく今は逃げだ。出て右手に外殻塔が見える。その外殻塔を昇り、左に走る」
「どこに向かうんだ」
「南棟だ。南棟の外扉からすぐに外に出ることができる」
「わかった。浮かない顔だな。わしらのことが気がかりか」
曇った顔のアルロをダグザは真っ直ぐ見上げた。アルロは首を横に振った。
「炎の壁が各棟を隔離するように張り巡らされている。正直、南棟から外に出られる保証がない」
「そうか。行ってみようじゃないか」

 ダグザに不安がないかは嘘になる。しかし、それ以外に手はない。有ったとしてもこの城に詳しくない自分では何も判断することはできない、ということは確かだ。

「そうだぜ。もし何かあっても俺たちが何とかしてやる」
ドルドナが明るい声でそう言い、その横でゴヴニュが力強く頷いていた。ダグザは仲間2人の様子に満足そうに頷き、アルロの背中を叩いた。
 アルロは折れた肋骨やほかの怪我に響き痛かったが、肩の荷が軽くなったように笑った。

「準備はいいか」
「「「いいぜ」」」
アルロは床にある陣に手をかざす。光り出す陣の中に3人を促す。アルロが先に行けば3人は星塔に取り残されてしまう。

「気をつけろよ」
「わっかとる」

 ダグザを先頭に陣に進み姿が消えそれに続きアルロの姿も消えた。行きつく先は寂しい世界かオークが迫る戦いの世界かアルロは縛り付けた剣を握る手を力ませた。
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