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1章:闇に殺された国
闇に滅ぼされた国
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太陽暦11世紀
再び滅びの時が中央世界を飲み込もうとしていた。
「殿下!」
驚きと悲しみに満ちた声が1人の男を呼ぶ。
呼ばれた男は返事を返すことができず、呆然と立ち尽くし目の前の惨状を見ていた。中央国の北西に位置する風の国トゥア国は燃えていた。村の家々だけでなく森、草原、道端の雑草まで燃やし尽くされ、煤のみが残されている。
「いったい何が」
トゥア国の皇太子アルロは秘書官と護衛兵数名を連れ、隣国である豊かな国グロッティに赴き、グロッティ皇太子誕生を祝ってきたのだ。
そして4日しか経っていないのにもかかわらず、国はめちゃくちゃに破壊されていた。だれも彼もが目の前の光景を理解することができない。
—寒い北の大地で暖かく和やかに過ごす民
—小さく咲き乱れる花
今は何もない。
ただ黒い煤と燻る煙が32人を迎えている。
呆然と立ち尽くすアルロだったが隣に立つヒャルゴの表情に、我に返る。そして目を閉じ心を静めた。
(落ち着け。私は王太子だ。民を配下を守らねばならない)
「城にいくぞ」
アルロの静かな声は呆然と悲しみと絶望に沈んだヒャルゴや兵士の脳を討つ。視線がアルロに集まる。それを見つめ返すアルロの目には哀傷の夕暮れの影があった。
夜明けを抜き取った力強く落ち着いた琥珀の瞳はない。
アルロは眉尻を下げると前に視線を戻し、落ち着かない様子の愛馬アキルスを撫で跨る。その背をヒャルゴは見上げた。
(このような時まで王族であられずとも)
とヒャルゴは心を痛めると同時に同時にアルロに感謝した。沈みあきらめかけた心を立ち直らせてくれた未来の王に感謝する。配下たちの馬の嘶きと鎧の金属音にヒャルゴも気持ちを切り替え馬に跨った。
ヒャルゴが後ろの配下を振り返れば、真っ直ぐ前を向いていた。どの兵士の目にも恐怖と哀傷があるが、アルロの背をしっかり見ている。ヒャルゴも顔を前に戻すと黒に消されたトゥア国の台地を睨みつけた。
—暖かな色を意匠を施した石造りの街
—岩山を削り出した幻想の白き城
これらもまた煤で姿を変えていた。白き城というのが嘘のようだ。
城に戻るまでの村々を確認したが民はだれ一人おらず、わずかに残された赤黒い跡がアルロ達に絶望を突きつける。城下町も同じ惨状だった。いつもなら、門に立つ憲兵もない。門は破壊され崩れ落ち、石畳にはクレーターが作られ家々はまだ燃えていた。
「誰かいないか! いたら返事をしろ!」
アルロは声を張り上げる。敵対する者が近くにいる可能性もあるが、今は生存者を見つたい。
しかし、黒き都に姿を変えた場所からは何の音も帰ってこない。
—人の声
—鳥の声
—風の音
本当の静寂がアルロ達を包み込んでいる。
異様な静寂は心をかき乱す。警戒し、剣を握る手に汗がどんどんと滲んでいく。
アルロ達は緊張の中、最奥の白き城にたどり着く。リンゴの木が描かれていた大門は塀ごと形を失い大きな瓦礫が転がっている。大門があったはずの場所を超え、城内に足を踏み入れた。
燃えた城だが、街よりは形を残していた。アルロは城から気配を感じた。生存者かと期待したが、城に近づけば気配が濃くなると同時に違うことに気が付いた。
人というには禍々しく、どろりとした気配だ。その気配はアルロが気配の正体を考える間に増していく。アルロはルーン文字が刻まれし剣を抜き放った。剣を抜いたアルロにヒャルゴが守るように構えたが、アルロの手によって後ろに追いやられた。
「なにを!」
アルロの行動にヒャルゴは抗議の声を上げる。
「静かにしろ。いいか、すぐにここから離れるんだ。南のエルフ、クヴァシル卿の助力を乞うんだ」
ヒャルゴはアルロがひとり残るつもりだとわかった。
(止めなくては)
と口を開くヒャルゴの肩に手が置かれた。ヒャルゴが自分のことを守り、着き従ってくれようとしていることはアルロも理解していた。
「アストリの腕輪を取ってくる」
「私も」
「だめだ。お前はほかの者を導いてクヴァシル殿にトゥア国のことを伝えよ」
「しかし!」
アルロは肩に置く手の力を強める。
「ならばグロッティの国境で待ていろ。もし半日待っても私が来ないときはお前達だけでいくんだ」
ヒャルゴだけでなく兵士たちも息を引きつらせた。ヒャルゴは反論したかったが、アルロの眼力に声を出すことができない。
「戻ることは許さない。決してだ」
自分を射貫く琥珀の瞳の瞳にヒャルゴはこれ以上は逆らえないとわかった。しかし、それでもヒャルゴは嫌だった。幼い頃より一緒に過ごし、切磋琢磨し絶対にお守りするんだと決めた主人を置いて行けというのか。
「ヒャルゴ」
なおも返事を返さないヒャルゴにアルロは優しく呼びかける。ヒャルゴは噛み締めていた力を緩め、目を伏せた。そして、左手を心臓近くに添え、頭を下げた。兵士たちもそれに続く。アルロは安心したように微笑んだ。
「すまない」
再び滅びの時が中央世界を飲み込もうとしていた。
「殿下!」
驚きと悲しみに満ちた声が1人の男を呼ぶ。
呼ばれた男は返事を返すことができず、呆然と立ち尽くし目の前の惨状を見ていた。中央国の北西に位置する風の国トゥア国は燃えていた。村の家々だけでなく森、草原、道端の雑草まで燃やし尽くされ、煤のみが残されている。
「いったい何が」
トゥア国の皇太子アルロは秘書官と護衛兵数名を連れ、隣国である豊かな国グロッティに赴き、グロッティ皇太子誕生を祝ってきたのだ。
そして4日しか経っていないのにもかかわらず、国はめちゃくちゃに破壊されていた。だれも彼もが目の前の光景を理解することができない。
—寒い北の大地で暖かく和やかに過ごす民
—小さく咲き乱れる花
今は何もない。
ただ黒い煤と燻る煙が32人を迎えている。
呆然と立ち尽くすアルロだったが隣に立つヒャルゴの表情に、我に返る。そして目を閉じ心を静めた。
(落ち着け。私は王太子だ。民を配下を守らねばならない)
「城にいくぞ」
アルロの静かな声は呆然と悲しみと絶望に沈んだヒャルゴや兵士の脳を討つ。視線がアルロに集まる。それを見つめ返すアルロの目には哀傷の夕暮れの影があった。
夜明けを抜き取った力強く落ち着いた琥珀の瞳はない。
アルロは眉尻を下げると前に視線を戻し、落ち着かない様子の愛馬アキルスを撫で跨る。その背をヒャルゴは見上げた。
(このような時まで王族であられずとも)
とヒャルゴは心を痛めると同時に同時にアルロに感謝した。沈みあきらめかけた心を立ち直らせてくれた未来の王に感謝する。配下たちの馬の嘶きと鎧の金属音にヒャルゴも気持ちを切り替え馬に跨った。
ヒャルゴが後ろの配下を振り返れば、真っ直ぐ前を向いていた。どの兵士の目にも恐怖と哀傷があるが、アルロの背をしっかり見ている。ヒャルゴも顔を前に戻すと黒に消されたトゥア国の台地を睨みつけた。
—暖かな色を意匠を施した石造りの街
—岩山を削り出した幻想の白き城
これらもまた煤で姿を変えていた。白き城というのが嘘のようだ。
城に戻るまでの村々を確認したが民はだれ一人おらず、わずかに残された赤黒い跡がアルロ達に絶望を突きつける。城下町も同じ惨状だった。いつもなら、門に立つ憲兵もない。門は破壊され崩れ落ち、石畳にはクレーターが作られ家々はまだ燃えていた。
「誰かいないか! いたら返事をしろ!」
アルロは声を張り上げる。敵対する者が近くにいる可能性もあるが、今は生存者を見つたい。
しかし、黒き都に姿を変えた場所からは何の音も帰ってこない。
—人の声
—鳥の声
—風の音
本当の静寂がアルロ達を包み込んでいる。
異様な静寂は心をかき乱す。警戒し、剣を握る手に汗がどんどんと滲んでいく。
アルロ達は緊張の中、最奥の白き城にたどり着く。リンゴの木が描かれていた大門は塀ごと形を失い大きな瓦礫が転がっている。大門があったはずの場所を超え、城内に足を踏み入れた。
燃えた城だが、街よりは形を残していた。アルロは城から気配を感じた。生存者かと期待したが、城に近づけば気配が濃くなると同時に違うことに気が付いた。
人というには禍々しく、どろりとした気配だ。その気配はアルロが気配の正体を考える間に増していく。アルロはルーン文字が刻まれし剣を抜き放った。剣を抜いたアルロにヒャルゴが守るように構えたが、アルロの手によって後ろに追いやられた。
「なにを!」
アルロの行動にヒャルゴは抗議の声を上げる。
「静かにしろ。いいか、すぐにここから離れるんだ。南のエルフ、クヴァシル卿の助力を乞うんだ」
ヒャルゴはアルロがひとり残るつもりだとわかった。
(止めなくては)
と口を開くヒャルゴの肩に手が置かれた。ヒャルゴが自分のことを守り、着き従ってくれようとしていることはアルロも理解していた。
「アストリの腕輪を取ってくる」
「私も」
「だめだ。お前はほかの者を導いてクヴァシル殿にトゥア国のことを伝えよ」
「しかし!」
アルロは肩に置く手の力を強める。
「ならばグロッティの国境で待ていろ。もし半日待っても私が来ないときはお前達だけでいくんだ」
ヒャルゴだけでなく兵士たちも息を引きつらせた。ヒャルゴは反論したかったが、アルロの眼力に声を出すことができない。
「戻ることは許さない。決してだ」
自分を射貫く琥珀の瞳の瞳にヒャルゴはこれ以上は逆らえないとわかった。しかし、それでもヒャルゴは嫌だった。幼い頃より一緒に過ごし、切磋琢磨し絶対にお守りするんだと決めた主人を置いて行けというのか。
「ヒャルゴ」
なおも返事を返さないヒャルゴにアルロは優しく呼びかける。ヒャルゴは噛み締めていた力を緩め、目を伏せた。そして、左手を心臓近くに添え、頭を下げた。兵士たちもそれに続く。アルロは安心したように微笑んだ。
「すまない」
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