【完結】6代目総長

ジロ シマダ

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間話

trick but treat

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 『HAPPYHALLOWEEN』

 これは日本にほぼ関係ないもの。最近はフレンドリーに身近に存在していた。それは神林組も同じ。

 神林組は実のところカフェ経営も行っている。副収入に近いが近頃はインスタ映え、効果を使い荒稼ぎする。そんなカフェ『silverApple』にこんなイベントは願ってもないことだ。

 キャッキャッと楽し気な声が聞こえる店内には店員が吸血鬼や狼男などに少しだけ仮装し接客を行っていた。その中にさりげなくいつもはいない男が混じっている。
 いわずも知れた神林尊である。ハロウィンイベントを企画した尊は想像を超える客足に
 「これはまずい」
と組長自らヘルプに入ることに決めたのだった。


 そして総長の姿に恐縮する店長とは裏腹に、普段はこのような仮装などすることはないと衣装を着こみながら尊は鼻歌を響かせる。そんな尊に黒木は呆れたように腰に手を当てる。

 「警視庁に行く時も仮装みたいなものでしょう」
 「あれはただのスーツだろ。それにあれは仮装じゃなくてプチ変装」

 最後の仮装アイテムを右目に入れれば、尊は立派な吸血鬼になり鏡の前で全体を確認する。ため息をつく黒木の横では店長が身を小さくし黒木を見上げてる。黒木は店長の視線に
 「お前のせいではない」
と手を軽く上げてやれば店長はほっとしたように尊に視線を向ける。
 そして、楽しそうに牙を見せて笑う尊に店長はレジをしてもらおうと決めていた。さすがは利益を求める店長だと感心するものは残念なことに誰もいなかった。




 「またのお越しをお待ちしております」
 レジを任された尊は入ってくる客、出ていく客に笑顔を振りまく。いつもはいない整った青年に女性客は浮足立つ。浮足立った人の中には財布を緩めるお方もいるわけでサイドメニューの売れ行きも頂上である。尊も初めは戸惑ったレジ打ちに2時間でなれテンポよくこなしていく。

 目の前にたった女の子たちが驚いたような声を上げるのに尊は首をかしげる。

 「かき氷のお兄さんですよね」
 「・・・はい」
尊は祭りに来た時の客かとすっと全体を見ると見覚えのある黄色の豚鼻マークのスマホケースが目についた。

 「(あっ)」

 「マンゴーを買ってくれた方ですか。浴衣もいいですが普段も素敵ですね」
 「覚えててくれたんですか! あっいけない! 頼まないと」
女の子は後ろをパッと見てすぐに注文をして手を振りながら受け取りカウンターにずれていく。

 「(すこしびっくりしたな)」
尊がそう思いながら女の子から視線を戻すともっと驚く人物が立っていた。


 ジャケットにハンチング帽を着こなす男は間違うことなく隠岐倫太郎そのものである。
 「・・・いらっしゃいませ」
 「ははは! 驚いてますね」

 「・・・隠岐さん」
尊は隠岐の後ろをみて客がいないことを確認すると隠岐のほうを見る。
 楽しそうに自分を見下ろす隠岐に何となく恥ずかしくなってくる。隠岐はそんな尊の感情を読み取っているのかにやにやとした表情を向け続ける。

 「早く注文をお願いします」
メニュー表を指させば隠岐はそちらに見向きもしない。

 「あなたの好きなものを」
 「・・・かしこまりました」
尊は普段言われないような呼び方に少し戸惑いながら勝手に注文を打ち込む。お金を払いハンチング帽を少しずらしながら手を挙げて受け取りカウンターに向かう隠岐に尊は
 「(黒木あとで絞める)」
と思うのであった。

 そしてドーナツ屋同様、尊のことが気になっていた女性たちは知り合いのような女性の存在にが気になっていたところに現れたおしゃれな男にもっと興味がわく。隠岐を見た女性の反応は『イケオジ』、『あぶなそうな男』などなど。一部またいらっしゃるのが『付き合っていたらいいのにな』だ。



 18時客足も遠のき、尊は頭を下げる店長に楽しかったと告げて更衣室に向かえば、その後ろ姿をなぜか手を合わせ更に深く頭を下げる店長の姿があったことは尊は気が付かなかった。

 「なぜに隠岐さん?」
 「お疲れ様です、総長」
 更衣室を開ければなぜかいる隠岐に回れ右をしようとする尊の肩をいつものように隠岐はつかんだ。もう一回転して更衣室で素早く着替えようとする尊の動きを隠岐が許すはずはない。
 「行きましょう!」
 「どこに!?」
 「コンソラトゥールです」




 「お越しいただきありがとうございます、総長さん」
 「どうも、ママ・・・」
 不本意な様子で隠岐とユキを見る尊に黒木は拗ねてるなと苦笑する。尊はなぜ自分はこのような格好で、クラブに来なくてはいけないのかがわからなかった。クラブはそういう場所ではないだろうと思う。

 「本当に似合ってらっしゃいますわ」
 「・・・ありがとうございます・・・それでなぜ私を」
 「今日は貸し切りでハロウィンパーティーをしゃれこもうかと思いましてね」

 隠岐の解答に尊ははぁと深いため息を漏らす。隠岐は楽しそうにユキと何かを話しをしているが尊としては日本にハロウィンいらないだろうとあまり乗り気になれない。
 吸血鬼の格好を完璧にこなしている分まったく説得力はないが

 「あいつらも来るので」
 「・・・どんな格好で」
隠岐のお知らせに尊はあいつらがだれを指すのか理解し確認する。隠岐はにやりとわらう。
 「そりゃおたのしみですわ」



 「ははは!」
1時間後のコンソラトゥールには笑い声があふれていた。やってくる幹部たちの仮装に尊のポーカーフェイスも忍耐力も陥落したのである。嫌そうに入ってくる栄、聖はとてつもなく笑いを誘った。
 「破壊力抜群!なに、何なの!オーダーメイド?」

 浮かんだ涙をぬぐいながら隠岐のほうに視線をずらして聞いてみれば親指を立てて返事が返ってくる。尊はこんなふざけたデザイン誰が考えたんだよと復活しそうな笑いを抑え込んだ。

 「総長・・・頭になんとか言ってくださいよ」
 「ほんとですぜ・・・なんで俺がこんな格好せねばならないんです・・・」

 「・・・ぶっは!ちょ・・・まって落ち着いてから見るのでこっち見ないでください」

 栄、聖はあまりの総長の笑いっぷりに顔を見合わせれば、改めてみた互いの仮装に爆笑しあう。こうして暴力団組織の集まりだとは思えないような光景のままハロウィンパーティーがスタートしたのであった。



 「落ち着きましたか、総長さん」
 「落ち着きましたよ・・・いやぁ困ったものですね」

 尊はようやく脳内の処理が成れた破壊力固まり幹部2人を見つめた。栄は餡子マンと掻いたシャツに小豆の被り物をつけ、聖はへちまの被り物で顔までヘチマカラーである。そんな2人も互いを見慣れたのかいつものように小競り合いをしながら女の子にちょっかいをかけている。

 「総長もご存じなかったのですか」
 「そうなんですよ、湖出さん・・・拉致されるように連れてこられました」
 「どうです?総長。俺の仮装は」

元気な声に顔を向けるとカウボーイの格好をする還田が堂々と立っていた。尊は上から下までじっくり見て首をかしげる。

 「なんで違和感が仕事をしていないのか・・・似合ってますよね」
 「そうなんですよ。還田のやつ着こなしやがって」

 隠岐がソファの後ろからにょきっと生えるように姿を見せる。還田は照れるように後頭部を掻きながら、黒木の横に腰を下ろす。尊は改めて店内を見渡し、楽し気な雰囲気に嬉しそうな微笑みを浮かべる。

 そしてふと思い出し後ろにいる隠岐を見上げた。尊の視線をうけ隠岐が不思議そうに少し腰を下げれば、にんまりと尊の口角が上がる。
 ぞっとするような笑みに隠岐はわずかに肩を揺らし、黒木や還田、湖出は少し身を引いた。口からのぞく犬歯、淡い照明に揺らめく赤い瞳にまるで尊が本当の吸血鬼かと誤認識してしまう。

 尊はすっと腕を伸ばすと隠岐の胸元を少し引っ張った。

 「trick but treat」

尊のセリフに隠岐は固まり、残りはバット?と疑問を浮かべる。ぽかんとする隠岐に尊はソファーの後ろに体を向けてもう一度隠岐に言う。

 「trick but treat」

 「butですか? ははは!」

 それなりに英語をつかえる隠岐は意味を理解し嬉しそうに笑うとすっと内ポケットから高級そうな包みを取り出し尊に渡す。それはとてつもなく高いチョコレートであった。
 尊はそんなところに入れて溶けてないだろうなと不安になるが今は置いておくことにする。隠岐はワクワクした顔で尊を見る。

 「treat・・・ではどうぞ」

 ワクワクと手を広げる隠岐に尊はしゃがめと手を振る。指示通りその場にかがみ、尊の手の届く位置に来た頭に尊はひょいっと仮装アイテムを乗せる。隠岐は乗せられたものを外さずに手で触りウサギ耳であることを理解する。

 「ここにいる間つけていてくださいね。それ感情で耳が動くやつみたいですよ。ねぇママ」
 「とても似合っておられますね、総長さん」

尊とユキが楽しそうに隠岐を見れば隠岐のウサギ耳がペコっと動く。隠岐はどうやらこのアイテムはママの私物か店のものだなと判断しママにピースと笑顔を向ける。そして今度は残念そうに隠岐は尊を見れば耳が両方ともしょげるように垂れる。

 「もっとすごいtrickがあると期待してたのに」
 「例えば?」

隠岐は尊に今以上に顔を寄せて
 「吸血鬼ならばできることがあるでしょう」
とつぶやいた。
 尊はパッと体を起こすとなにか考えるような動作をした後大きく×を作った。黒木はすかさず守るように尊の横に立つ。ちょいちょい怪しい言動をする隠岐はいくら頼れるといってもこれはいただけない。

 「頭・・・」
 「なんだよぉ黒木~。なにも総長を取って食おうってゆうんじゃないんだぞ」

 黒木はやはり隠岐は総長が好きなのかと勘ぐってしまうがこの前も女を抱いていたことを思い出し首を振る。
悪ふざけも大概にしてくださいよと口をとがらせる尊に隠岐は楽しそうに笑い、ぽかんとしている湖出に手のひらを差し出した。

 「湖出~trick but treat」

 「えっ! いやorですよね・・・バットってなんですか」

 湖出の言葉に尊と隠岐は顔を見合わせてにんまりと笑う。
隠岐のウサギ耳が不自然に片側だけ折れていた。本来ならばかわいらしいであろう耳の動作も残酷に湖出には映った。

 「「菓子をくれても悪戯するぞ」」

似たような笑みを浮かべ宣言する2TOPに湖出はつい突っ込んでいた。
 「いいことなしじゃないですか!」
それを見ながら黒木と還田は手を合わせながらも楽しく指をさして笑ってい暴力団組織とは思えないふざけた空間が夜を漂うのであった。
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