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見合い
恋愛にならない
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「えっ」
桜は予期せぬ言葉に目を丸くする。真っ直ぐ桜の目を尊の目がとらえる。
「確かに両親の死で総長の座につきましたが、それは俺の意志‥‥‥組や大切なものを守るこれは俺の中で不変の軸です。あなたの意志は?」
「私の意志‥‥‥私はこの世界から抜けたい」
桜の意志に尊は優しい微笑みで頷いた。
「私と2人で話したいこととは一体何でしょうか?」
桜と2人で話をしていた尊から是非2人で話したいといわれ幸子は訝しんだ。神林組総長の言葉を無視することはできない。
了承した。尊は訝しんだ様子の幸子に苦笑する。
「先にお見合いの件ですが、お断りいたします」
「っ! うちの子が何かしましたか」
幸子は慌てた。そこに自分の娘では不足なのかという怒りはない。尊になにか桜が失礼をしたと決めつけている。
そのことに尊は眉をひそめた。
「(自分の子のことを信用していないのか)」
「正直に言いますと私は桜さんが好きです」
「なら!」
「好きだからこそ桜さんの気持ちを尊重して差し上げたい」
幸子は目の前の青年が何を言っているのかすぐには理解できなかった。断ると言いながら『好きだ』といわなかったか。何が起きているのかわからない。尊はゆっくりとお茶を飲んだ。
「す、好きなら」
「好きだからこそです。桜さんはこの世界から離れたいようです」
「うそよ! あの子は八部組を盛り立てていくのよ! 夫が死んで私が継いで次はあの子よ」
「それはあなたの思いですよね」
「‥‥‥」
幸子は尊の言葉に固まった。自分の思いだと信じていた。いや、幸子は信じたかった。
「私はもともと神林を継ぐ気はなかったのですよ」
「えっ」
「それは先代も納得していました。しかし先代が死に私が総長となりました。なぜかわかりますか」
何が言いたいのかと幸子は思う。物語を聞かせるかのような尊に口を挟めない。先代ということは尊の両親だということが分かる。その両親が尊が組を継がなくてもよいと納得しているということは両親の意志を継いではないのだろう。それは幸子にも分かる。
「私は組の者たちのことが大切なのです。私の宝ともいえましょう。宝を守るためなら何でもします。悪魔に魂を売っても、神にこの魂を捧げてもいいと思うほどにね。先代の死後、混乱に落ちる宝を守るために私は総長の座につきました」
尊はここで言葉をとめた。自分の意思を再確認するように。
「そう、私の意志で」
まるで劇のセリフ。幸子は震えた。目の前に座る青年は何なのだ。これは尊を初めて見て、初めて言葉を交わしたものが思うこと。
あの関西最強大国組2代目幡中も尊に恐怖を感じたのだから幸子が恐怖を感じることは当然だ。
「さぁ、桜さんの意志は」
促すように差し出された手に幸子は意識を戻し答えなくてはと思う。しかし、今まで思っていたことが間違っていたのではないかと何も答えられない。
自分幸子は気がつく。桜の気持ちを聞いたことなどなかったことに。悪い親ではない。しかし、無意識に桜の優しさに甘えていた。そして桜もそれを甘受していた。どちらもよくなかったのだと幸子は泣きそうな思いだ。
「あの子の気持ちなんて聞いたことなかった」
「桜さんはあなたの娘のはずです。娘を信じていないのですか。あなたは桜さんが私に非礼を働いたと決めつけていらした・・・・・・正直、不愉快でしたよ」
幸子は目を見開き何も答えることができなかった。尊は呆然とした幸子に頭を少し下げると立ち上がった。幸子は立ち上がった尊をすがるような眼で追いかけた。
ふすまに手をかけ出ていこうとした尊は言い忘れていたことがあったと振り返った。
「桜さんは私にとって大切な人です。例えお付き合いできなくても、桜さんを傷つけるものは許さない」
幸子は出て行った尊の言葉に速度を速める心臓を落ち着けるためにに湯飲みに手を伸ばす。お茶がぬるくなっていることにも気が付かないほど幸子の心はここになかった。
「尊、どうだった」
「叔父さん、この話はなしで」
「尊さん」
桜は久留原の横で不安そうに指を組んで尊を見ていた。尊は桜の不安そうな顔に笑いかけた。その笑みに桜は破顔した。自然に浮かんだ桜の笑顔に尊はかわいいと思う。
黒木は桜と何か言葉を交わし、車に乗り込んだ尊を黒木は伺った。尊は頬杖をついて諦めたような笑みを浮かべて窓を見ている。
「若、どうしたのですか」
「クスッ・・・・・・黒木」
「はい」
「俺は桜さんが好きなんだよ」
「えっ」
黒木はまさかの尊の言葉に驚き、後ろで見送る桜の小さな姿をみた。好きな何故お見合いを蹴ったのかと思うのは当然だ。尊は黒木の様子に笑った。
「でも桜さんは組から離れて一般世界に生きたいらしい」
ため息をつく尊に黒木は何も言えなかった。
恋と出会い、恋愛になることなく別れてから半月が経過したころ、尊のもとに信じられない報告が入る。
『八部組壊滅』
そのニュースは尊の心臓を鷲掴んだ。
桜は予期せぬ言葉に目を丸くする。真っ直ぐ桜の目を尊の目がとらえる。
「確かに両親の死で総長の座につきましたが、それは俺の意志‥‥‥組や大切なものを守るこれは俺の中で不変の軸です。あなたの意志は?」
「私の意志‥‥‥私はこの世界から抜けたい」
桜の意志に尊は優しい微笑みで頷いた。
「私と2人で話したいこととは一体何でしょうか?」
桜と2人で話をしていた尊から是非2人で話したいといわれ幸子は訝しんだ。神林組総長の言葉を無視することはできない。
了承した。尊は訝しんだ様子の幸子に苦笑する。
「先にお見合いの件ですが、お断りいたします」
「っ! うちの子が何かしましたか」
幸子は慌てた。そこに自分の娘では不足なのかという怒りはない。尊になにか桜が失礼をしたと決めつけている。
そのことに尊は眉をひそめた。
「(自分の子のことを信用していないのか)」
「正直に言いますと私は桜さんが好きです」
「なら!」
「好きだからこそ桜さんの気持ちを尊重して差し上げたい」
幸子は目の前の青年が何を言っているのかすぐには理解できなかった。断ると言いながら『好きだ』といわなかったか。何が起きているのかわからない。尊はゆっくりとお茶を飲んだ。
「す、好きなら」
「好きだからこそです。桜さんはこの世界から離れたいようです」
「うそよ! あの子は八部組を盛り立てていくのよ! 夫が死んで私が継いで次はあの子よ」
「それはあなたの思いですよね」
「‥‥‥」
幸子は尊の言葉に固まった。自分の思いだと信じていた。いや、幸子は信じたかった。
「私はもともと神林を継ぐ気はなかったのですよ」
「えっ」
「それは先代も納得していました。しかし先代が死に私が総長となりました。なぜかわかりますか」
何が言いたいのかと幸子は思う。物語を聞かせるかのような尊に口を挟めない。先代ということは尊の両親だということが分かる。その両親が尊が組を継がなくてもよいと納得しているということは両親の意志を継いではないのだろう。それは幸子にも分かる。
「私は組の者たちのことが大切なのです。私の宝ともいえましょう。宝を守るためなら何でもします。悪魔に魂を売っても、神にこの魂を捧げてもいいと思うほどにね。先代の死後、混乱に落ちる宝を守るために私は総長の座につきました」
尊はここで言葉をとめた。自分の意思を再確認するように。
「そう、私の意志で」
まるで劇のセリフ。幸子は震えた。目の前に座る青年は何なのだ。これは尊を初めて見て、初めて言葉を交わしたものが思うこと。
あの関西最強大国組2代目幡中も尊に恐怖を感じたのだから幸子が恐怖を感じることは当然だ。
「さぁ、桜さんの意志は」
促すように差し出された手に幸子は意識を戻し答えなくてはと思う。しかし、今まで思っていたことが間違っていたのではないかと何も答えられない。
自分幸子は気がつく。桜の気持ちを聞いたことなどなかったことに。悪い親ではない。しかし、無意識に桜の優しさに甘えていた。そして桜もそれを甘受していた。どちらもよくなかったのだと幸子は泣きそうな思いだ。
「あの子の気持ちなんて聞いたことなかった」
「桜さんはあなたの娘のはずです。娘を信じていないのですか。あなたは桜さんが私に非礼を働いたと決めつけていらした・・・・・・正直、不愉快でしたよ」
幸子は目を見開き何も答えることができなかった。尊は呆然とした幸子に頭を少し下げると立ち上がった。幸子は立ち上がった尊をすがるような眼で追いかけた。
ふすまに手をかけ出ていこうとした尊は言い忘れていたことがあったと振り返った。
「桜さんは私にとって大切な人です。例えお付き合いできなくても、桜さんを傷つけるものは許さない」
幸子は出て行った尊の言葉に速度を速める心臓を落ち着けるためにに湯飲みに手を伸ばす。お茶がぬるくなっていることにも気が付かないほど幸子の心はここになかった。
「尊、どうだった」
「叔父さん、この話はなしで」
「尊さん」
桜は久留原の横で不安そうに指を組んで尊を見ていた。尊は桜の不安そうな顔に笑いかけた。その笑みに桜は破顔した。自然に浮かんだ桜の笑顔に尊はかわいいと思う。
黒木は桜と何か言葉を交わし、車に乗り込んだ尊を黒木は伺った。尊は頬杖をついて諦めたような笑みを浮かべて窓を見ている。
「若、どうしたのですか」
「クスッ・・・・・・黒木」
「はい」
「俺は桜さんが好きなんだよ」
「えっ」
黒木はまさかの尊の言葉に驚き、後ろで見送る桜の小さな姿をみた。好きな何故お見合いを蹴ったのかと思うのは当然だ。尊は黒木の様子に笑った。
「でも桜さんは組から離れて一般世界に生きたいらしい」
ため息をつく尊に黒木は何も言えなかった。
恋と出会い、恋愛になることなく別れてから半月が経過したころ、尊のもとに信じられない報告が入る。
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