【完結】6代目総長

ジロ シマダ

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裏切り

血まみれの総長

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 聖は本部から少し離れたところに停車している車に駆けのった。肩で息をしている聖に運転席に座っている男はどうだったと尋ねる。

 「やった! やった・・・・・・さ」
 「みたいやな・・・・・・ック! ハハハハハハ! ほんまに6代目は仲間を信用しとるんやな!」

 男は車の中から聖のつけた盗聴器のおかげで中の様子をうかがい知ることができていた。男は聖以外の幹部がいることから聖が殺されるかなと考えた。しかし、聖は尊と2人だけになることに成功し、銃を発砲した音が響いたのだ。その後に小さいながらも聞こえた悲鳴に近い声に思わず笑いが出た。
 
 エレベーターの音が盗聴器から聞こえスイッチを切り待っていれば血がべっとりとついた聖の姿に成功だともっと愉快になる。男は歌でも奏でるかのように鼻を鳴らし、車を発進させた。聖はその横でずっとうつむき自分の手にべっとりとついた尊の血を眺め続けた。

 「親分! もどりやしたぁ」
 「おう・・・・・・どうだった」

曽我は帰ってきた子分に確認すればにやりという笑みと共に赤黒い汚れが付いている聖を前に突き出した。


 「聖! お前ぇ、何やってんだ! クッソタレが! 殺せ! 殺せ!」

 栄がつるされたまま叫び暴れまわった。栄は聖の姿を見た瞬間頭だけでなく全身の血が沸騰したような感覚がした。自分の総長を手に駆けた聖が許せない。そんなことをさせた自分が許せない。生きていることが許せなかった。

 栄は床に降ろされるとすぐに聖に殴りかかった。聖はやり返さずただただ殴られ続ける。

 「ばか野郎! わしなんか見捨てればよかったんじゃ!」
 「・・・・・・」
 「へちま野郎! くそやろぅ・・・・・・くそくそ!!」

 「その辺で挨拶はおわりやろか」
 曽我の声に聖は栄の大きな体を自分の後ろにやった。

 「栄は助けてやってくれ!」
 「何をゆうとる・・・・・・親を殺した子が生きておれるわけないやろ。わしを殺せ!」
2人はその場でくるくると前と後ろを入れ替わる。その姿はまるでコントのようだ。曽我たちは面白そうに様子をうかがっていたが見飽きたなと銃を突きつける。

 「二人とも死ねば問題ないやろ」
聖は一生懸命、栄を壁に押し付けて自分の体を肉の盾にする。大きく太った栄を覆い隠すことなどできず聖はこんな状況で栄の体型を恨み、心の中で『デブ餡子』となじった。その様子を面白く見ながらトリガーを引こうとした曽我の後頭部になにか堅いものが押し当てられた。

 曽我は感じたことのある感覚に脂汗が流れた。この感覚は自分が今手にしているものの先端についているものと同じだ。曽我は自分の後ろに何がいるのかと心臓を一つ大きく打たせた。気配は一切感じなかった。事実、曽我以外の組員も気が付いていない。



 「お邪魔します」




 その声に曽我そが組員が一斉に曽我そがのほうに振り向き、悲鳴を上げた。曽我そがの後ろには血まみで静かに尊が立っていた。ひじりさかえ曽我そがの直退面にいるため曽我そがの大きな体に隠れている後ろの人物を見ることができない。しかし、ひじりは何が起きているか理解し悲鳴を上げたまま、あっけにとられている近くの曽我そが組員に襲い掛かり銃を奪いさかえをかばうように構えた。

 「か、神林の6代目・・・・・・なんで」

盗聴器で音を聞いていた男が青ざめた顔で尊を凝視する。尊はその男へ、にんまりとした血濡れた笑顔を向け説明を始めた。


ーーー

 六本木本部———

 「何があったんですか」
 「二朗じろう、なにがあった」

 俯いてなかなか言葉も発さず手当をしようとするのを避けるひじりを伺いつつ尊はさかえの姿がないことに最悪の状況を想定した。そして、黙りこくるひじりに幹部たちのただでさえ低い沸点がいまにも超えそうだ。その中で尊は何となく状況を察することができた。

 「ひじりさん、2人だけで話しませんか」
 「え・・・・・・」
 「えっ!?」
尊の言葉にひじりだけでなく隠岐おき達も驚いた。まっすぐ自分を見る尊の目にひじりは呆然としながら頷き後悔した。しかしどうすることもできないひじりは歩き出す尊に続くしかなかった。

 歩きながら尊は携帯電話を取り出し何か操作をし始めてすぐに、ポケットで携帯電話が震えたひじりは驚きのあまり飛び上がった。ひじりは尊が携帯電話を操作していることすら気が付いていなかった。ロックを解除して見た画面にひじりは目を丸くして先を歩く尊の背を見た。ひじりからの視線を感じながら尊はひじりさかえを除く幹部たちに一斉にメールを送信し総長室にひじりを招き入れた。
 
 『さかえが捕まっている。今からひじりに殺されるから、きちんと芝居してくださいね』

 何ともわかりやすくわかりにくい内容だと置いていかれていた幹部たちは顔を見合わせる。そして本部内部に1発の銃声が響き渡った。

 メールを受けていたとはいえ、幹部達は発砲するとは思っておらず本当にひじりが尊を殺したのではと総長室に急いだ。険しい顔の男たちが雪崩れるように総長室に駆けこんだ。
 「総長!?」
血まみれの尊がしゃがみ込んでいた。あまりの姿に幹部たちは慌てる。銃を構えてひじりの姿を探すもの、医者を呼ばなくてはと慌てるものに分かれる。

 「おい! 医者だ! 先生呼んで来い!」
 「総長!」
 「若! 若! しっかりしてください!」

俯き考え事をしていた尊は慌てる幹部たちにまてまて落ち着けと手を振った。その姿に幹部たちはその場にしゃがみ込んだ。血まみれな姿は何とも心臓に悪い。

 「わか・・・・・・」
 「ごめんごめん・・・・・・・思いのほかはじけ飛んだ」

黒木の疲れ切った声に気まずそうに尊は答えて駆け付けた人たちに頭を下げる。さすがの隠岐おきも今回のことは慌てたようで黒木の横にしゃがみ込んでいた。

 「でも、この匂い完全に血じゃ」
 「だって俺の血ですから」
 「・・・・・・はぁ!?」
 「あぁ」
驚きの声が上がる中、黒木だけがそういうことかと納得し、同時に呆れた。ここまでするかと

 「俺がもしもの時のためにストックしている血です。それよりも」

血に濡れた口元をこすると幹部たちを見渡した。その目は優しさなど一切なくただただ支配者の目だ。
 「仲間を取り返しに行くぞ」


ーーー


 「というわけなんですよ?」
 「なんちゅうやつや」
 「何がです?」
曽我そがの言葉が何を指しているのかわからず尊は首をかしげる。曽我そがはちらりとひじりさかえを見た。

 「あいつが本当に裏切っとったらどないするつもりやったんや」
 「どうもしませんよ? 何度でも裏切ればいい・・・・・・俺のことなど」
ふわりと笑った尊の顔を慈愛にあふれていた。しかしすぐに表情は一転する。

 「しかし、ほかの組員を裏切り傷つければ容赦しない」

 曽我そがも大国組2代目幡中はたなかと同様、尊に得体のしれないものを感じた。しかしこのままではいられない。どうにかしなくてはスキンヘッドの中身を懸命に動かすがどうにもなりそうにない。どう見ても自分の組より神林組員のほうが多く組長である自分の頭に銃口が突きつけられている。詰みだ。

 「さてとひじりさん、さかえさんこちらへ」
固まっているさかえを引っ張りながらひじりは尊の言葉に従い移動した。尊は自分の後ろに来た2人の姿に満足そうに頷く。

 「うちのものを殴ったやつ前に出ろ」
今までの敬語はどこに行ったか尊は曽我そが組員を見渡し命令した。しかし、殺されると曽我そが組員は誰一人前に出ない。

 「殺しはしない。安心して前に出ろ」
 「なにする気や」
 「殴るだけだ。本当は徹底的にやり返すが今回はどれだけ殴られたかわからないから特別に3発殴るだけにしてやる」

 すらりと尊の口から流れる言葉に曽我そが以外のものも震えあがる。神林組員一同は6代目総長神林尊は慣れたのか、やはりかという顔をしているだけだ。一向に前に出てこない組員たちに尊は不服そうな顔をして後ろにいる幹部たちに命令を下した。

 「もういいや・・・・・・お前ら、もてなしてやれ!」
隠岐おき、黒木、還田かんだ中心としたそれなりの戦闘力があるものたちは顔を輝かせ大きな返事をした。

 「「「「へい!」」」」


神林組が曽我そが組に襲い掛かる。鈍い音が響き渡る中、尊は銃口を少し曽我そがの後頭部から離した。
 「こっちを向け」
曽我そがはゆっくりと体を反転させた。そして酷い姿に身を引くが、その前に尊が曽我そがの服を無造作につかんで引き寄せる。見上げる尊の目と自分の目が合わないように、そらせば途端に部屋の状況が見えた。
 自分の組員がどんどん床に倒れていく。見てみればきっちり3発ずつ殴っているところを見ると神林組自体おかしい集団だと現実逃避したくなったが腹部を引っ張られ、曽我そがは顔を戻すしかない。

 「2人をお前に売ったのは誰だ」
 「え・・・・・・そないなこと」
 「少し考えればわかることだ。どうせ2人が甘言に乗せられて近づいたら裏切られたとかだろう」

 曽我そがはこいつは頭も回るのかと忌まわしく思いながらかばう義理立てもない堀の名前と事務所の場所まで教えてやった。曽我そがが答えた瞬間尊はすぐに曽我そがから手をはなし手を3回打ち鳴らす。

 「かえりますよ」
 「「えっ!?」」

殴っていた組員ではなく尊の後ろにずっといたひじりさかえから声が上がった。自分たちがこれだけやられているのにこれで済ますのかという気持ちが表れていた。

 「二朗じろうじん、お前らも非がないわけじゃないだろ」
隠岐おきの呆れた言葉に素早く身を小さくする。尊は1つ息を吐くと座り込んでいる2人を見下ろした。

 「帰ったら説教だ」

説教という言葉は何となく子供を叱るそれであるが恐ろしく聞こえる。尊は2人から曽我そがに視線を移す。

 「ではお邪魔しました」

うめき声がそこかしこから聞こえる部屋の中、去っていく神林組そして神林尊を曽我そがは見続けた。2代目が警戒するはずだと曽我そがは痛感し、同じく神林尊を要注意人物であるとインプットした。
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