【完結】6代目総長

ジロ シマダ

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素人銃

間違え

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 「ただいま戻りました。帰りしな面白いものを拾いましてね」

あまりの態度に水琴みことは肩を落とし脇にどいて隠岐おきと後ろに付き従うチンピラ風の男に道を譲る。隠岐おき水琴みことに一応軽く手を挙げて通過したがチンピラは扉を超えてから足を動かさなかった。

 「隠岐おきさん、その人は?」
 「水琴みことの事務所の近くでうろうろしてやがったんで声を掛けたら水琴みことに会いたいといいましてね」
 「それで?」

尊はそれだけではないだろうと隣のソファに腰を下ろす隠岐おきに目をやれば隠岐おきが懐から銃を一丁取り出し手渡してきた。

 「これは?」
 「そのガキが持ってました」
 隠岐おきの言葉に尊から殺気が立ち上がる。水琴みことを殺そうとしたのかと殺意がわいたが、目の前の男の様子にすぐに落ち着いた。黒木たちも殺気立つが殺気をすぐに収めた尊に、少し弱めた。尊は一瞬の殺気におびえを見せるチンピラにとりあえず名前を聞いた。

 「名前は」
 「・・・・・・」
 「名前は」
 「な、中根! です」
 「どこかの組に所属しているのか?」
 「螳螂とうろう組」


 たける、黒木、隠岐おき還田かんだは顔を見合わせてから水琴みことをみた。水琴みこと中根なかねの所属している組の名前を聞いた瞬間、このまま部屋から出ていこうと思った。が、許されるわけもなくその場で体をなるべく小さくする。

 「そうか、螳螂とうろう組か。その銃で何をしようとしたんだ」
 「お・・・・・・お、大国組の2代目を」

 中根なかねの言葉には誰もが目を見開く。たけるは目の前にいる男が大国組幡中はたなかか組員を手にかけていれば全面戦争になりかねない。当然ながら怒りが沸き立つ。

 「命令されたのか」
 「はいっ! 俺! ・・・・・・やめたいんです」
中根なかねはその場に這いつくばった。
 「やめたい! 足を洗いたい!」
と叫ぶ中根なかねのことなどは後回しでもいいとたける水琴みことに目を向けた。

 「命令変更だ。螳螂とうろう組を連れてこい。抵抗するなら殺してもかまわない」

水琴みことたけるの命令にすぐ反応できなかった。動かない水琴みことたけるは下からぎろりと睨みつける。

 「聞こえなかったか、水琴みこと!」
 「っ!? 直ちに!」

水琴みことが踊るように部屋から出ていき足音がどんどんと遠ざかっていく。たける水琴みことを睨みつけていた目を、床で這いつくばったままの中根なかねに向ける。中根なかね水琴みことに命令するたけるの怒気に間抜け顔を上げたまま。冷え切った目がどんどん近づくことに中根なかねは尻をわずかに下げた。

 「お前、いくつだ」
中根なかねたけるの字図化で事務的な問いかけに回らない舌を一生懸命動かした。
 「19です」
中根なかねの年齢に若いと思っていた黒木たちはまだ子供じゃないかと驚きあきれる。20歳にもなっていないとは思いもよらない。

 「組に入ってどのくらいになる」
 「1か月です」

 「はぁあ!? ヤクザのヤの字もしらねぇガキにこんなもんもたせたのか」

思わず還田かんだが声を上げ、黒木も横で鬼の形相ながらに頷く。たけるはおもむろに手にしている銃を少し持ち上げた。どこに動かされるのかと中根なかねはびくびくする。嫌な予感通り銃口は動いた。
 ゆっくりと銃口が自分のほうへ向けられ、額にひんやりとした冷たさに中根なかねは震えあがる。しかし、微動すら許されない。息をすることさえも忘れ銃口を突きつける銃口越しにたけるを見た。目を合わせたが最後、次は目を離せば殺されると中根なかねは恐怖する。

 「なぜこの世界に足を踏み入れた」
 「・・・・・・」
 中根なかね
 「(答えないと、答えないと)」
と思いながら息を吸い込むこともできない。たけるに何も返すことができない。たけるは仕方がないやつだというようにため息をつくと銃口を更に押し付けた。ぐりっという感覚に中根なかねは息を吸い込み、勢いよく言葉を発した。


 「っ! かっこよくて!」

 「・・・・・・かっこよくて、だと」


 中根なかねは頬に衝撃を受けた。額に感じる冷たさに銃を突き付けられたままだと呆然とした頭でも確認していた。では、何が起きたのかと動かされた視線を戻せば、銃を握っていない方の手を振り払ったたけるの姿があった。
 たけるは馬鹿な顔をさらす中根なかねの襟をつかみ、顔を引き上げる。そして、今まで以上に銃口をめり込ませた。

 「なめんじゃねぇよ、クソガキ」

たけるの雰囲気に完全に飲まれた中根なかねは言葉にならない声を出した。喉から細い声を出す中根なかねの瞳は涙にぬれている。銃口を額から眉間に下げて銃口の存在を示すようにたけるが手を動かせば、中根なかねの銃の行方を追う瞳から涙がこぼれ落ちる。
 たけるは肩をすくめ、銃を中根なかねから完全に離した。

 「二度とこの世界に来るんじゃない。次その面見せたら、穴を開けてやる」
たけるは細かく何度も頷く中根なかねの襟から捨てるように手を離した。震えている中根なかね還田かんだに支えられるように生まれたての小鹿のように立ち上がる。


 「お前は少しやんちゃが過ぎたんだ。もっと違うところでその度胸と無謀を生かすべきだ」

 恐怖を避けるように俯いていた中根なかねは思わぬ優しい声に顔を上げた。ソファに座り直し自分に優しい笑みを向けるたけるに、中根なかねの瞳からどんどんと涙がこぼれた。

 「お前はこの世界とは無関係だ。これまでも、これからも。いいな」
 「はい! ありがとうございます!・・・・・・ありがとうございます」
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