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素人銃
間違え
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「ただいま戻りました。帰りしな面白いものを拾いましてね」
あまりの態度に水琴は肩を落とし脇にどいて隠岐と後ろに付き従うチンピラ風の男に道を譲る。隠岐は水琴に一応軽く手を挙げて通過したがチンピラは扉を超えてから足を動かさなかった。
「隠岐さん、その人は?」
「水琴の事務所の近くでうろうろしてやがったんで声を掛けたら水琴に会いたいといいましてね」
「それで?」
尊はそれだけではないだろうと隣のソファに腰を下ろす隠岐に目をやれば隠岐が懐から銃を一丁取り出し手渡してきた。
「これは?」
「そのガキが持ってました」
隠岐の言葉に尊から殺気が立ち上がる。水琴を殺そうとしたのかと殺意がわいたが、目の前の男の様子にすぐに落ち着いた。黒木たちも殺気立つが殺気をすぐに収めた尊に、少し弱めた。尊は一瞬の殺気におびえを見せるチンピラにとりあえず名前を聞いた。
「名前は」
「・・・・・・」
「名前は」
「な、中根! です」
「どこかの組に所属しているのか?」
「螳螂組」
尊、黒木、隠岐、還田は顔を見合わせてから水琴をみた。水琴は中根の所属している組の名前を聞いた瞬間、このまま部屋から出ていこうと思った。が、許されるわけもなくその場で体をなるべく小さくする。
「そうか、螳螂組か。その銃で何をしようとしたんだ」
「お・・・・・・お、大国組の2代目を」
中根の言葉には誰もが目を見開く。尊は目の前にいる男が大国組幡中か組員を手にかけていれば全面戦争になりかねない。当然ながら怒りが沸き立つ。
「命令されたのか」
「はいっ! 俺! ・・・・・・やめたいんです」
中根はその場に這いつくばった。
「やめたい! 足を洗いたい!」
と叫ぶ中根のことなどは後回しでもいいと尊は水琴に目を向けた。
「命令変更だ。螳螂組を連れてこい。抵抗するなら殺してもかまわない」
水琴は尊の命令にすぐ反応できなかった。動かない水琴に尊は下からぎろりと睨みつける。
「聞こえなかったか、水琴!」
「っ!? 直ちに!」
水琴が踊るように部屋から出ていき足音がどんどんと遠ざかっていく。尊は水琴を睨みつけていた目を、床で這いつくばったままの中根に向ける。中根は水琴に命令する尊の怒気に間抜け顔を上げたまま。冷え切った目がどんどん近づくことに中根は尻をわずかに下げた。
「お前、いくつだ」
中根は尊の字図化で事務的な問いかけに回らない舌を一生懸命動かした。
「19です」
中根の年齢に若いと思っていた黒木たちはまだ子供じゃないかと驚きあきれる。20歳にもなっていないとは思いもよらない。
「組に入ってどのくらいになる」
「1か月です」
「はぁあ!? ヤクザのヤの字もしらねぇガキにこんなもんもたせたのか」
思わず還田が声を上げ、黒木も横で鬼の形相ながらに頷く。尊はおもむろに手にしている銃を少し持ち上げた。どこに動かされるのかと中根はびくびくする。嫌な予感通り銃口は動いた。
ゆっくりと銃口が自分のほうへ向けられ、額にひんやりとした冷たさに中根は震えあがる。しかし、微動すら許されない。息をすることさえも忘れ銃口を突きつける銃口越しに尊を見た。目を合わせたが最後、次は目を離せば殺されると中根は恐怖する。
「なぜこの世界に足を踏み入れた」
「・・・・・・」
中根は
「(答えないと、答えないと)」
と思いながら息を吸い込むこともできない。尊に何も返すことができない。尊は仕方がないやつだというようにため息をつくと銃口を更に押し付けた。ぐりっという感覚に中根は息を吸い込み、勢いよく言葉を発した。
「っ! かっこよくて!」
「・・・・・・かっこよくて、だと」
中根は頬に衝撃を受けた。額に感じる冷たさに銃を突き付けられたままだと呆然とした頭でも確認していた。では、何が起きたのかと動かされた視線を戻せば、銃を握っていない方の手を振り払った尊の姿があった。
尊は馬鹿な顔をさらす中根の襟をつかみ、顔を引き上げる。そして、今まで以上に銃口をめり込ませた。
「なめんじゃねぇよ、クソガキ」
尊の雰囲気に完全に飲まれた中根は言葉にならない声を出した。喉から細い声を出す中根の瞳は涙にぬれている。銃口を額から眉間に下げて銃口の存在を示すように尊が手を動かせば、中根の銃の行方を追う瞳から涙がこぼれ落ちる。
尊は肩をすくめ、銃を中根から完全に離した。
「二度とこの世界に来るんじゃない。次その面見せたら、穴を開けてやる」
尊は細かく何度も頷く中根の襟から捨てるように手を離した。震えている中根は還田に支えられるように生まれたての小鹿のように立ち上がる。
「お前は少しやんちゃが過ぎたんだ。もっと違うところでその度胸と無謀を生かすべきだ」
恐怖を避けるように俯いていた中根は思わぬ優しい声に顔を上げた。ソファに座り直し自分に優しい笑みを向ける尊に、中根の瞳からどんどんと涙がこぼれた。
「お前はこの世界とは無関係だ。これまでも、これからも。いいな」
「はい! ありがとうございます!・・・・・・ありがとうございます」
あまりの態度に水琴は肩を落とし脇にどいて隠岐と後ろに付き従うチンピラ風の男に道を譲る。隠岐は水琴に一応軽く手を挙げて通過したがチンピラは扉を超えてから足を動かさなかった。
「隠岐さん、その人は?」
「水琴の事務所の近くでうろうろしてやがったんで声を掛けたら水琴に会いたいといいましてね」
「それで?」
尊はそれだけではないだろうと隣のソファに腰を下ろす隠岐に目をやれば隠岐が懐から銃を一丁取り出し手渡してきた。
「これは?」
「そのガキが持ってました」
隠岐の言葉に尊から殺気が立ち上がる。水琴を殺そうとしたのかと殺意がわいたが、目の前の男の様子にすぐに落ち着いた。黒木たちも殺気立つが殺気をすぐに収めた尊に、少し弱めた。尊は一瞬の殺気におびえを見せるチンピラにとりあえず名前を聞いた。
「名前は」
「・・・・・・」
「名前は」
「な、中根! です」
「どこかの組に所属しているのか?」
「螳螂組」
尊、黒木、隠岐、還田は顔を見合わせてから水琴をみた。水琴は中根の所属している組の名前を聞いた瞬間、このまま部屋から出ていこうと思った。が、許されるわけもなくその場で体をなるべく小さくする。
「そうか、螳螂組か。その銃で何をしようとしたんだ」
「お・・・・・・お、大国組の2代目を」
中根の言葉には誰もが目を見開く。尊は目の前にいる男が大国組幡中か組員を手にかけていれば全面戦争になりかねない。当然ながら怒りが沸き立つ。
「命令されたのか」
「はいっ! 俺! ・・・・・・やめたいんです」
中根はその場に這いつくばった。
「やめたい! 足を洗いたい!」
と叫ぶ中根のことなどは後回しでもいいと尊は水琴に目を向けた。
「命令変更だ。螳螂組を連れてこい。抵抗するなら殺してもかまわない」
水琴は尊の命令にすぐ反応できなかった。動かない水琴に尊は下からぎろりと睨みつける。
「聞こえなかったか、水琴!」
「っ!? 直ちに!」
水琴が踊るように部屋から出ていき足音がどんどんと遠ざかっていく。尊は水琴を睨みつけていた目を、床で這いつくばったままの中根に向ける。中根は水琴に命令する尊の怒気に間抜け顔を上げたまま。冷え切った目がどんどん近づくことに中根は尻をわずかに下げた。
「お前、いくつだ」
中根は尊の字図化で事務的な問いかけに回らない舌を一生懸命動かした。
「19です」
中根の年齢に若いと思っていた黒木たちはまだ子供じゃないかと驚きあきれる。20歳にもなっていないとは思いもよらない。
「組に入ってどのくらいになる」
「1か月です」
「はぁあ!? ヤクザのヤの字もしらねぇガキにこんなもんもたせたのか」
思わず還田が声を上げ、黒木も横で鬼の形相ながらに頷く。尊はおもむろに手にしている銃を少し持ち上げた。どこに動かされるのかと中根はびくびくする。嫌な予感通り銃口は動いた。
ゆっくりと銃口が自分のほうへ向けられ、額にひんやりとした冷たさに中根は震えあがる。しかし、微動すら許されない。息をすることさえも忘れ銃口を突きつける銃口越しに尊を見た。目を合わせたが最後、次は目を離せば殺されると中根は恐怖する。
「なぜこの世界に足を踏み入れた」
「・・・・・・」
中根は
「(答えないと、答えないと)」
と思いながら息を吸い込むこともできない。尊に何も返すことができない。尊は仕方がないやつだというようにため息をつくと銃口を更に押し付けた。ぐりっという感覚に中根は息を吸い込み、勢いよく言葉を発した。
「っ! かっこよくて!」
「・・・・・・かっこよくて、だと」
中根は頬に衝撃を受けた。額に感じる冷たさに銃を突き付けられたままだと呆然とした頭でも確認していた。では、何が起きたのかと動かされた視線を戻せば、銃を握っていない方の手を振り払った尊の姿があった。
尊は馬鹿な顔をさらす中根の襟をつかみ、顔を引き上げる。そして、今まで以上に銃口をめり込ませた。
「なめんじゃねぇよ、クソガキ」
尊の雰囲気に完全に飲まれた中根は言葉にならない声を出した。喉から細い声を出す中根の瞳は涙にぬれている。銃口を額から眉間に下げて銃口の存在を示すように尊が手を動かせば、中根の銃の行方を追う瞳から涙がこぼれ落ちる。
尊は肩をすくめ、銃を中根から完全に離した。
「二度とこの世界に来るんじゃない。次その面見せたら、穴を開けてやる」
尊は細かく何度も頷く中根の襟から捨てるように手を離した。震えている中根は還田に支えられるように生まれたての小鹿のように立ち上がる。
「お前は少しやんちゃが過ぎたんだ。もっと違うところでその度胸と無謀を生かすべきだ」
恐怖を避けるように俯いていた中根は思わぬ優しい声に顔を上げた。ソファに座り直し自分に優しい笑みを向ける尊に、中根の瞳からどんどんと涙がこぼれた。
「お前はこの世界とは無関係だ。これまでも、これからも。いいな」
「はい! ありがとうございます!・・・・・・ありがとうございます」
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