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両親の死
憎しみ対象の消失
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「総長、これを見てください」
帰ってきてそうそう隠岐が尊に資料を渡す。あまりのテンポに黒木は信じられないものを見るように隠岐を見る。隠岐としても、もう少し尊に休んでほしい思いはあったが早く解決するに限ると判断した行動だ。
「どういうこと」
尊は資料を読みながらつぶやくように隠岐に尋ねた。
「それ以上のことはわかりませんでしたが先代を殺す動機としても十分な経歴を持っています。何より総長が警視庁で」
「副総監に会わせてもらえないか尋ねてみよう」
尊は資料から写真を引っ張りとると忌々しく映る男を目に焼き付けた。尊の手に力が入り男の顔に折れ目をうっすら作った。
山戸は朝早くからかかってきた尊からの電話に慌ててとり、内容に困惑の表情を見せながらも了承した。了承を得られ尊は山戸からの折り返しの電話を待つが2時間たっても折り返されない。いらいらと焦燥が募りだしているところに黒木が部屋に入ってきた。
「若、そろそろ本部に」
「わかった」
「連絡はまだ来ませんか」
「来ない」
山戸から連絡を受けたあと、藤岡は携帯電話を静かにおいて上司に体調が悪いと早退して警視庁から姿を消した。普段なら了承しない上司もあまりの顔色の悪さに早退させたが、これが最後になるとは思ってもみなかった。
折り返されない電話を忌まわしく尊は見つめる。携帯電話自体が仇のような目つきだ。尊はいけないと目頭をほぐすと資料をもう一度見た。写真には尊が殺した男と何か話しているような藤岡の姿が映っている。
隠岐が藤岡について本居と組のものを使い調べ上げてみれば、貧乏な生活の中で父親の友人が暴力団に所属し羽振りの良い生活をしていた。格差に不満を抱いていた藤岡の前で父親が友人に刺されて殺され、さらに貧乏に拍車がかかり生活は荒れたものになった。
つまり、藤岡にとって暴力団は妬みであり、憎しみであり憎悪する存在であることが資料には書かれていた。尊はそのことに当然だと思うだけだ。暴力団は恨まれるものであり、いつ殺されてもおかしくないものが多い。世間では恨みを断ち切らないと永遠にうらみの連鎖が止まるというが、尊はそんな考えを持ち合わせていない。
「恨みは晴らすべきだ」
それで自分に恨みが向くことに後悔しないと尊は考える。想像したことが事実であるのならば藤岡を殺そうと、尊が心に決めた時電話が鳴った。尊は素早く通話にスワイプすると耳に当てた。執務室のソファに座っていた黒木、隠岐、還田は立ち上がり総長室の前に集まる。
「神林です」
『総長・・・・・・申し訳ありません』
「何がですか」
尊は開口一番謝罪する山戸に嫌な予感がした。
『藤岡が自殺しました・・・・・・藤岡はご両親の死にかかわっていたことを懺悔する遺書を残していました』
「・・・・・・」
『警察を代表して謝罪します。書かれていた共犯者を調査するとすでに死亡しており・・・・・・その』
山戸の途切れる声を聞きながら尊は努めて冷静に言葉を選んだ。
「そうですか。犯人が死んでいるのなら警察に傷がつかないように処理してくださって結構です。はい・・・・・・はい、では」
電話を切った尊はうつむいたまま顔を上げることができなかった。その様子に良い電話ではなかったかと声をかけようと3人が少し前に出た瞬間、尊が机の上のものをなぎはらった。卓上照明は床に落下し割れ・・・書類はぐしゃぐしゃに床に散らばりコーヒーが床にシミを作った。
尊の中に渦巻いていた怒りが行き場を失いあふれ出し尊は机にこぶしを何度も打ち付けた。あまりのことに固まる3人は尊の手から血が流れるのをみてすぐに尊を落ち着かせるように押さえた。
「総長!」
「若!」
隠岐が頭を抱えるように抱きしめればくぐもった声が聞こえる。尊は隠岐の腕の中でいまだに膨れ上がる怒りと緊張に感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。今更どうしようもないことだと頭で理解はしていてもどうにもならないのが感情だ。
「総長、何が」
「藤岡が自殺したらしい・・・・・・遺書に先代の死に関わっていたことが書かれていたそうだ! 俺は! 俺は! この手で」
尊がそういいながら自分の手を凝視する目を隠岐は覆い隠すようにふさぎ、強く抱きしめ肩を撫でる。
「いいじゃないですか! 仇は死んだんですよ」
「でも! でも・・・・・・」
「俺は総長がそんな穢れた血を浴びなくてうれしいくらいですぜ」
「そうですよ、若。なぁ還田さんもそう思うだろ」
「そう思いやすよ」
3人の言葉に弱く頷きながらも尊は心の中でそれでもこの手で殺したかったと思わずにはいられなかった。
警視庁副総監室で山戸は尊への電話を切り、机の上の小瓶を指ではじけばこつんという音ともに瓶は転がる。
「藤岡、君には失望したよ」
転がった小さな小さ瓶は机に水色の揺らめきをうつし出していた。
帰ってきてそうそう隠岐が尊に資料を渡す。あまりのテンポに黒木は信じられないものを見るように隠岐を見る。隠岐としても、もう少し尊に休んでほしい思いはあったが早く解決するに限ると判断した行動だ。
「どういうこと」
尊は資料を読みながらつぶやくように隠岐に尋ねた。
「それ以上のことはわかりませんでしたが先代を殺す動機としても十分な経歴を持っています。何より総長が警視庁で」
「副総監に会わせてもらえないか尋ねてみよう」
尊は資料から写真を引っ張りとると忌々しく映る男を目に焼き付けた。尊の手に力が入り男の顔に折れ目をうっすら作った。
山戸は朝早くからかかってきた尊からの電話に慌ててとり、内容に困惑の表情を見せながらも了承した。了承を得られ尊は山戸からの折り返しの電話を待つが2時間たっても折り返されない。いらいらと焦燥が募りだしているところに黒木が部屋に入ってきた。
「若、そろそろ本部に」
「わかった」
「連絡はまだ来ませんか」
「来ない」
山戸から連絡を受けたあと、藤岡は携帯電話を静かにおいて上司に体調が悪いと早退して警視庁から姿を消した。普段なら了承しない上司もあまりの顔色の悪さに早退させたが、これが最後になるとは思ってもみなかった。
折り返されない電話を忌まわしく尊は見つめる。携帯電話自体が仇のような目つきだ。尊はいけないと目頭をほぐすと資料をもう一度見た。写真には尊が殺した男と何か話しているような藤岡の姿が映っている。
隠岐が藤岡について本居と組のものを使い調べ上げてみれば、貧乏な生活の中で父親の友人が暴力団に所属し羽振りの良い生活をしていた。格差に不満を抱いていた藤岡の前で父親が友人に刺されて殺され、さらに貧乏に拍車がかかり生活は荒れたものになった。
つまり、藤岡にとって暴力団は妬みであり、憎しみであり憎悪する存在であることが資料には書かれていた。尊はそのことに当然だと思うだけだ。暴力団は恨まれるものであり、いつ殺されてもおかしくないものが多い。世間では恨みを断ち切らないと永遠にうらみの連鎖が止まるというが、尊はそんな考えを持ち合わせていない。
「恨みは晴らすべきだ」
それで自分に恨みが向くことに後悔しないと尊は考える。想像したことが事実であるのならば藤岡を殺そうと、尊が心に決めた時電話が鳴った。尊は素早く通話にスワイプすると耳に当てた。執務室のソファに座っていた黒木、隠岐、還田は立ち上がり総長室の前に集まる。
「神林です」
『総長・・・・・・申し訳ありません』
「何がですか」
尊は開口一番謝罪する山戸に嫌な予感がした。
『藤岡が自殺しました・・・・・・藤岡はご両親の死にかかわっていたことを懺悔する遺書を残していました』
「・・・・・・」
『警察を代表して謝罪します。書かれていた共犯者を調査するとすでに死亡しており・・・・・・その』
山戸の途切れる声を聞きながら尊は努めて冷静に言葉を選んだ。
「そうですか。犯人が死んでいるのなら警察に傷がつかないように処理してくださって結構です。はい・・・・・・はい、では」
電話を切った尊はうつむいたまま顔を上げることができなかった。その様子に良い電話ではなかったかと声をかけようと3人が少し前に出た瞬間、尊が机の上のものをなぎはらった。卓上照明は床に落下し割れ・・・書類はぐしゃぐしゃに床に散らばりコーヒーが床にシミを作った。
尊の中に渦巻いていた怒りが行き場を失いあふれ出し尊は机にこぶしを何度も打ち付けた。あまりのことに固まる3人は尊の手から血が流れるのをみてすぐに尊を落ち着かせるように押さえた。
「総長!」
「若!」
隠岐が頭を抱えるように抱きしめればくぐもった声が聞こえる。尊は隠岐の腕の中でいまだに膨れ上がる怒りと緊張に感覚が研ぎ澄まされていくのを感じる。今更どうしようもないことだと頭で理解はしていてもどうにもならないのが感情だ。
「総長、何が」
「藤岡が自殺したらしい・・・・・・遺書に先代の死に関わっていたことが書かれていたそうだ! 俺は! 俺は! この手で」
尊がそういいながら自分の手を凝視する目を隠岐は覆い隠すようにふさぎ、強く抱きしめ肩を撫でる。
「いいじゃないですか! 仇は死んだんですよ」
「でも! でも・・・・・・」
「俺は総長がそんな穢れた血を浴びなくてうれしいくらいですぜ」
「そうですよ、若。なぁ還田さんもそう思うだろ」
「そう思いやすよ」
3人の言葉に弱く頷きながらも尊は心の中でそれでもこの手で殺したかったと思わずにはいられなかった。
警視庁副総監室で山戸は尊への電話を切り、机の上の小瓶を指ではじけばこつんという音ともに瓶は転がる。
「藤岡、君には失望したよ」
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