【完結】6代目総長

ジロ シマダ

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2人の刑事と神林

刑事

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 初めての緊張感に堂園どうぞのの心臓は、はち切れんばかりに脈打つ。長谷川はせがわについていく足は震えて崩れそうだ。それを懸命に動かし続け、堂園どうぞのはずっと祈っていた。
 「(何も起こるな)」
と・・・・・・だが、だいたいそのような祈りが届くことはない。

 長谷川はせがわは背後でなにか動いた気配を感じ、咄嗟とっさに立ち位置を変え堂園どうぞのを庇った。その判断が間違っていなかったことを身をもって感じた。

 堂園どうぞのが急な動きにバランスを崩しながら、長谷川はせがわの顔をみた。動いた視界に、飛び散る赤が飛び散った。その赤と、見開く長谷川はせがわの目が堂園どうぞのの脳裏に焼き付いた。
 焼き付いた光景に体が硬直する。なんとか、糸の切れた人形のように倒れてきた長谷川はせがわ咄嗟とっさに支えることはできた。

 「先輩!」
 目を閉じる長谷川はせがわにどうすればいいのかとわからず堂園どうぞのはただ、ただ叫び、呼ぶ。ジャケットをじわじわと侵食する赤。それよりも奥から赤く変化しきりそうなシャツが顔をのぞかせる。
 その赤に堂園どうぞのの心はかき乱される。


 狂ったように長谷川はせがわを呼び続ける堂園どうぞのに影が落ちた。堂園どうぞのはゆっくりと顔をあげた。やせこけ、目が飛び出たような男が楽しげに顔を歪めている自分たちを見下ろしている。
 「死んでないか」

 うっとりとした声で福田はつぶやいた。堂園どうぞのはその顔に声に殺意を抱いた。一度も実践では抜いたことがない銃に手を伸ばした。
 怯え、混乱し涙が滲む目にはっきりと憎しみが宿る。その目に福田は一層うっとりとした顔をした。恨みをもっった人間が死ぬ間際に見せる表現も福田は好物だった。

 「その顔もすきだな」
 「くそが!」

 堂園どうぞのがトリガーに指をかける前に福田の顔が勢いよく揺れた。福田は何が起きたかわからず、痛む顔面を襲える。堂園どうぞのは福田の顔面に直撃したものの出所のほうへ顔を向ける。
 しかし、堂園どうぞのが振り返りきる前に黒い物体が素早い動きで過ぎ去った。

 「ぐうぇ!」
 黒いものの動きに混乱していた脳がついていけず、堂園どうぞのは最後まで顔を動かした。そこには拍手をする隠岐おき、慌てた様子で堂園どうぞのへ向かってくる黒木の姿があった。
 
 「(なにが起こっている・・・・・・)」
と苦しそうな福田の声へ顔を戻した。信じられない光景が広がり、堂園どうぞのは間抜けに見上げた。
 
 白いものを口から出す福田の上に器用に乗っているたけるが、堂園どうぞのを見下ろしている。

 「若!」
 「さすが! 総長!」

 近寄ってくる神林組にどうすればいいのか訳が分からない堂園。その呆然している目にたけるは呆れを十分に入れ込んだ、ため息をつく。堂園どうぞのは肩を震わせた。

 「あなたは刑事ですよね。落ち着いてすべきことを考えなさい」
静かな声に堂園どうぞのは意識がすっと、まとまったような感覚になった。堂園どうぞの
 「(先輩が先だ!)」
長谷川はせがわをみた。傷口を押さえ、マイクで本部に救急車と応援を要請する。


 「はぁ」
 たけるは苛立ちの息を吐き出し、吐瀉物としゃぶつを口から流す男の腹をグリグリと踏みつける。

 「それ以上はやめてください!」
刑事意識を戻した堂園どうぞのの言葉に黒木と隠岐おき以外の神林組ははらはらと堂園どうぞのたけるをみた。今のたけるに逆らうなど愚かな行為でしかないというのが神林組の総意だ。
 しかし、はらはらに反してたけるは楽しげな笑い声をあげた。

 「ははは! やはり刑事ですね! そうでなくては」

 そういうと膝を曲げて少し力を込めながら福田の腹から降りるとたけるはポケットに手をいれた。そのまま、堂園どうぞのを覗きこんだ。
 サングラスの向こうにうっすら見える目を負けじと堂園どうぞのは見つめ返す。これも刑事魂というやつかとたけるは小さく笑った。

 
 軽く手を振り、神林組を引き連れて去るたける堂園どうぞの刑事としてではなく堂園どうぞのとしてたけるに頭を下げた。たけるがいなければ自分もそして長谷川はせがわも無事ではなかった。それに長谷川はせがわをろくに処置できずに死なせていたことだろうと堂園どうぞのは不甲斐ないと自分を叱った。



 「せんぱーい! よかったです!!!」

 堂園どうぞのはベッドに横たわる長谷川はせがわに涙をぬぐうことすらせず、嬉しそうな声を上げる。長谷川はせがわはものすごい顔に引きながらも生きていたことに感謝していた。
 そして、堂園どうぞのが死ななかったことに安心すると、福田はどうなったのかと気になってくる。自分が無事に生きているということは捕まっていることは確実だ。

 「福田はどうした」
 「捕まりました」
 「・・・・・・それはわかっている。お前が捕まえたのか」

ものすごい時間を有したが堂園どうぞのがぼそぼそと答えた。

 「神林組総長が・・・・・・」
 「・・・・・・やはりか」

長谷川はせがわは何となく予想していた答えに少し上げていた頭を枕に沈めた。
 「(お偉い方にとやかく言われるだろうか)」
と新しい悩みの種が生まれた。
 長谷川はせがわを見ながらわざわざ言う必要はないとは思ったが、堂園どうぞの懺悔ざんげする。

 「おれ・・・・・・先輩が打たれたとき福田を殺そうと思ったんです」
 「・・・・・・」

 「でも・・・・・・神林総長が刑事が殺意を抱くものじゃないと教えてくれて」

堂園どうぞのは自分の手を見つめた。情けなく震えている手はあの時の自分への恐怖からだと長谷川はせがわはわかった。


「お前は殺さなかった」
長谷川はせがわはそれだけ言うと仕方がいないやつだと堂園どうぞのの頭を強く撫でた。


 栄組の情報を福田が有しておらず、騒ぎにならなかったため栄へのお咎めはなく神林組は平穏な毎日がすでにスタートしていた。

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