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2人の刑事と神林
刑事
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初めての緊張感に堂園の心臓は、はち切れんばかりに脈打つ。長谷川についていく足は震えて崩れそうだ。それを懸命に動かし続け、堂園はずっと祈っていた。
「(何も起こるな)」
と・・・・・・だが、だいたいそのような祈りが届くことはない。
長谷川は背後でなにか動いた気配を感じ、咄嗟に立ち位置を変え堂園を庇った。その判断が間違っていなかったことを身をもって感じた。
堂園が急な動きにバランスを崩しながら、長谷川の顔をみた。動いた視界に、飛び散る赤が飛び散った。その赤と、見開く長谷川の目が堂園の脳裏に焼き付いた。
焼き付いた光景に体が硬直する。なんとか、糸の切れた人形のように倒れてきた長谷川を咄嗟に支えることはできた。
「先輩!」
目を閉じる長谷川にどうすればいいのかとわからず堂園はただ、ただ叫び、呼ぶ。ジャケットをじわじわと侵食する赤。それよりも奥から赤く変化しきりそうなシャツが顔をのぞかせる。
その赤に堂園の心はかき乱される。
狂ったように長谷川を呼び続ける堂園に影が落ちた。堂園はゆっくりと顔をあげた。やせこけ、目が飛び出たような男が楽しげに顔を歪めている自分たちを見下ろしている。
「死んでないか」
うっとりとした声で福田はつぶやいた。堂園はその顔に声に殺意を抱いた。一度も実践では抜いたことがない銃に手を伸ばした。
怯え、混乱し涙が滲む目にはっきりと憎しみが宿る。その目に福田は一層うっとりとした顔をした。恨みをもっった人間が死ぬ間際に見せる表現も福田は好物だった。
「その顔もすきだな」
「くそが!」
堂園がトリガーに指をかける前に福田の顔が勢いよく揺れた。福田は何が起きたかわからず、痛む顔面を襲える。堂園は福田の顔面に直撃したものの出所のほうへ顔を向ける。
しかし、堂園が振り返りきる前に黒い物体が素早い動きで過ぎ去った。
「ぐうぇ!」
黒いものの動きに混乱していた脳がついていけず、堂園は最後まで顔を動かした。そこには拍手をする隠岐、慌てた様子で堂園へ向かってくる黒木の姿があった。
「(なにが起こっている・・・・・・)」
と苦しそうな福田の声へ顔を戻した。信じられない光景が広がり、堂園は間抜けに見上げた。
白いものを口から出す福田の上に器用に乗っている尊が、堂園を見下ろしている。
「若!」
「さすが! 総長!」
近寄ってくる神林組にどうすればいいのか訳が分からない堂園。その呆然している目に尊は呆れを十分に入れ込んだ、ため息をつく。堂園は肩を震わせた。
「あなたは刑事ですよね。落ち着いてすべきことを考えなさい」
静かな声に堂園は意識がすっと、まとまったような感覚になった。堂園は
「(先輩が先だ!)」
と長谷川をみた。傷口を押さえ、マイクで本部に救急車と応援を要請する。
「はぁ」
尊は苛立ちの息を吐き出し、吐瀉物を口から流す男の腹をグリグリと踏みつける。
「それ以上はやめてください!」
刑事意識を戻した堂園の言葉に黒木と隠岐以外の神林組ははらはらと堂園と尊をみた。今の尊に逆らうなど愚かな行為でしかないというのが神林組の総意だ。
しかし、はらはらに反して尊は楽しげな笑い声をあげた。
「ははは! やはり刑事ですね! そうでなくては」
そういうと膝を曲げて少し力を込めながら福田の腹から降りると尊はポケットに手をいれた。そのまま、堂園を覗きこんだ。
サングラスの向こうにうっすら見える目を負けじと堂園は見つめ返す。これも刑事魂というやつかと尊は小さく笑った。
軽く手を振り、神林組を引き連れて去る尊に堂園刑事としてではなく堂園として尊に頭を下げた。尊がいなければ自分もそして長谷川も無事ではなかった。それに長谷川をろくに処置できずに死なせていたことだろうと堂園は不甲斐ないと自分を叱った。
「せんぱーい! よかったです!!!」
堂園はベッドに横たわる長谷川に涙をぬぐうことすらせず、嬉しそうな声を上げる。長谷川はものすごい顔に引きながらも生きていたことに感謝していた。
そして、堂園が死ななかったことに安心すると、福田はどうなったのかと気になってくる。自分が無事に生きているということは捕まっていることは確実だ。
「福田はどうした」
「捕まりました」
「・・・・・・それはわかっている。お前が捕まえたのか」
ものすごい時間を有したが堂園がぼそぼそと答えた。
「神林組総長が・・・・・・」
「・・・・・・やはりか」
長谷川は何となく予想していた答えに少し上げていた頭を枕に沈めた。
「(お偉い方にとやかく言われるだろうか)」
と新しい悩みの種が生まれた。
長谷川を見ながらわざわざ言う必要はないとは思ったが、堂園は懺悔する。
「おれ・・・・・・先輩が打たれたとき福田を殺そうと思ったんです」
「・・・・・・」
「でも・・・・・・神林総長が刑事が殺意を抱くものじゃないと教えてくれて」
堂園は自分の手を見つめた。情けなく震えている手はあの時の自分への恐怖からだと長谷川はわかった。
「お前は殺さなかった」
長谷川はそれだけ言うと仕方がいないやつだと堂園の頭を強く撫でた。
栄組の情報を福田が有しておらず、騒ぎにならなかったため栄へのお咎めはなく神林組は平穏な毎日がすでにスタートしていた。
「(何も起こるな)」
と・・・・・・だが、だいたいそのような祈りが届くことはない。
長谷川は背後でなにか動いた気配を感じ、咄嗟に立ち位置を変え堂園を庇った。その判断が間違っていなかったことを身をもって感じた。
堂園が急な動きにバランスを崩しながら、長谷川の顔をみた。動いた視界に、飛び散る赤が飛び散った。その赤と、見開く長谷川の目が堂園の脳裏に焼き付いた。
焼き付いた光景に体が硬直する。なんとか、糸の切れた人形のように倒れてきた長谷川を咄嗟に支えることはできた。
「先輩!」
目を閉じる長谷川にどうすればいいのかとわからず堂園はただ、ただ叫び、呼ぶ。ジャケットをじわじわと侵食する赤。それよりも奥から赤く変化しきりそうなシャツが顔をのぞかせる。
その赤に堂園の心はかき乱される。
狂ったように長谷川を呼び続ける堂園に影が落ちた。堂園はゆっくりと顔をあげた。やせこけ、目が飛び出たような男が楽しげに顔を歪めている自分たちを見下ろしている。
「死んでないか」
うっとりとした声で福田はつぶやいた。堂園はその顔に声に殺意を抱いた。一度も実践では抜いたことがない銃に手を伸ばした。
怯え、混乱し涙が滲む目にはっきりと憎しみが宿る。その目に福田は一層うっとりとした顔をした。恨みをもっった人間が死ぬ間際に見せる表現も福田は好物だった。
「その顔もすきだな」
「くそが!」
堂園がトリガーに指をかける前に福田の顔が勢いよく揺れた。福田は何が起きたかわからず、痛む顔面を襲える。堂園は福田の顔面に直撃したものの出所のほうへ顔を向ける。
しかし、堂園が振り返りきる前に黒い物体が素早い動きで過ぎ去った。
「ぐうぇ!」
黒いものの動きに混乱していた脳がついていけず、堂園は最後まで顔を動かした。そこには拍手をする隠岐、慌てた様子で堂園へ向かってくる黒木の姿があった。
「(なにが起こっている・・・・・・)」
と苦しそうな福田の声へ顔を戻した。信じられない光景が広がり、堂園は間抜けに見上げた。
白いものを口から出す福田の上に器用に乗っている尊が、堂園を見下ろしている。
「若!」
「さすが! 総長!」
近寄ってくる神林組にどうすればいいのか訳が分からない堂園。その呆然している目に尊は呆れを十分に入れ込んだ、ため息をつく。堂園は肩を震わせた。
「あなたは刑事ですよね。落ち着いてすべきことを考えなさい」
静かな声に堂園は意識がすっと、まとまったような感覚になった。堂園は
「(先輩が先だ!)」
と長谷川をみた。傷口を押さえ、マイクで本部に救急車と応援を要請する。
「はぁ」
尊は苛立ちの息を吐き出し、吐瀉物を口から流す男の腹をグリグリと踏みつける。
「それ以上はやめてください!」
刑事意識を戻した堂園の言葉に黒木と隠岐以外の神林組ははらはらと堂園と尊をみた。今の尊に逆らうなど愚かな行為でしかないというのが神林組の総意だ。
しかし、はらはらに反して尊は楽しげな笑い声をあげた。
「ははは! やはり刑事ですね! そうでなくては」
そういうと膝を曲げて少し力を込めながら福田の腹から降りると尊はポケットに手をいれた。そのまま、堂園を覗きこんだ。
サングラスの向こうにうっすら見える目を負けじと堂園は見つめ返す。これも刑事魂というやつかと尊は小さく笑った。
軽く手を振り、神林組を引き連れて去る尊に堂園刑事としてではなく堂園として尊に頭を下げた。尊がいなければ自分もそして長谷川も無事ではなかった。それに長谷川をろくに処置できずに死なせていたことだろうと堂園は不甲斐ないと自分を叱った。
「せんぱーい! よかったです!!!」
堂園はベッドに横たわる長谷川に涙をぬぐうことすらせず、嬉しそうな声を上げる。長谷川はものすごい顔に引きながらも生きていたことに感謝していた。
そして、堂園が死ななかったことに安心すると、福田はどうなったのかと気になってくる。自分が無事に生きているということは捕まっていることは確実だ。
「福田はどうした」
「捕まりました」
「・・・・・・それはわかっている。お前が捕まえたのか」
ものすごい時間を有したが堂園がぼそぼそと答えた。
「神林組総長が・・・・・・」
「・・・・・・やはりか」
長谷川は何となく予想していた答えに少し上げていた頭を枕に沈めた。
「(お偉い方にとやかく言われるだろうか)」
と新しい悩みの種が生まれた。
長谷川を見ながらわざわざ言う必要はないとは思ったが、堂園は懺悔する。
「おれ・・・・・・先輩が打たれたとき福田を殺そうと思ったんです」
「・・・・・・」
「でも・・・・・・神林総長が刑事が殺意を抱くものじゃないと教えてくれて」
堂園は自分の手を見つめた。情けなく震えている手はあの時の自分への恐怖からだと長谷川はわかった。
「お前は殺さなかった」
長谷川はそれだけ言うと仕方がいないやつだと堂園の頭を強く撫でた。
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