【完結】6代目総長

ジロ シマダ

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関西最大組織大国組

平穏は続かない

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 夏真っ盛りの8月、各地で夏祭りが開かれる季節。ここ神田でも夏祭りが開かれていた。

 色々な屋台をだして緩んだ財布からお金をせしめるのは神田をシマとする應武おうたけ組だ。祭りの屋台は流行るところは流行るもので今年も4箇所ほど行列をつくる屋台があった。

 その中の1つ、フルーツフローズンとかかれた屋台は神林組総長自らたって荒稼ぎしていた。

 「今年も買いに来ましたぁ」
 「ありがとうございます! 今年はマンゴーもはじめましたよ」

 若い年代を中心に尊の屋台に行列をつくる。売っているのはかき氷だがすこし違うのは真ん中に小さなブロックのフルーツが入り、シロップの上にフルーツがのせられている。中にはフルーツジュースをかき氷にしたものもあり、
 フルーツが可愛らしくなっていたり、カラフルなかき氷にインスタ映えを求めるものも多い。ゆえに人気をはくしていた。


 「じゃ、マンゴーください」
そういいながら浴衣女子が黄色の豚鼻ケースの携帯を見せれば、画面には尊が上げた『画面提示で600円が500円に!』と狂気的な明るさで表示されていた。

 「はい、どうぞ」

 お金を受け取りマンゴーかき氷を渡せば嬉しそうに手を降りながらさる女の子に、尊もにこやかに手を振る。しかし本音はにこやかではない。
 屋台を開始して4時間経過した現在、尊の心は休憩という文字で埋まっていた。熱い中、にこやかに営業を続ける尊が休憩したいと思っているものは誰もいない。横で動く木の下ですら気が付いていない。
 本来であれば、去年の実績からもう1人、2人人員を増やしたいところ。しかし、ほかのものは厳つすぎて、かき氷顔じゃないと尊は手伝うという組員を断った。

 「今年も稼いでらっしゃるな、総長」
 「屋台にあるまじき利益ですよ」

 祭りで問題が起きないように見回る應武おうたけは今年もすごいなと尊をみる。少し弱そうな印象を抱かせ庇護欲を注ぐ笑顔を振りまく尊には應武おうたけも舌を巻く。そこらにいるくじ引きのいかさまよりもひどいかもしれないと思えてくる。

 「総長目当ての客もいるだろう」
 「いますよ。中には弟みたいと可愛がりたいと話す女もいます」
 「弟みたいね」

 應武おうたけは確かにメガネをかけて前髪下ろすとすこし頼りない雰囲気の尊になるほどと頷く。並ぶ客、特に若い女性をかわいそうな目でみた。

 「騙されてるな」
 「ですね」

黒木は尊は何も悪いことなどしていないが客を少し哀れに思いながら、應武おうたけといろいろな話をして尊を見守り続けた。





 「應武おうたけさん、私はこれで」
 「ありがとうございました、総長」

 2日目祭りが終了し打ち上げに尊も参加していたがこれ以上は下のものが楽しめないだろうと少しの金をおいて居酒屋の外に停まる車に乗り込む。

 「結構もうけたよ」
 「今年も儲けるとは思いましたが売り切りとは思いませんでした。利益はいかほどですか」
 「60万円くらいかな? おつりはいいよっていう人もいてくれたからもう少しいいかも、30万でなに買おうかな」

尊は自分の取り分の30万円をなににつかおうかとワクワクと考える。助手席では今年も利益半分もらえるのかと木下もワクワクし、それをにやりと橋が運転しながらちらりと見た。 
 去年もその前の年も木下の臨時ボーナスは橋と一緒に飲みに行ってきれいになくなっていた。木下的にはいつもの警護に屋台運営が加わった感覚しかなく臨時ボーナスも宝くじに当たったようなものだ。橋と一緒に万々歳に使い切っても後悔などなかった。

 黒木はワクワクと何を買うか考える尊に少し眉を顰める。黒木としてはいつでも好きなものを購入してくれても構わないと尊に思っていた。それほどに尊は組のお金を使わない総長だった。

 「若はもう少し自分の欲を出してもいいのでは」
 「いいよ。それに交際費としてクラブにいってるから十分贅沢してるよ」
 「あれは交際費です。ある種の仕事の一環です」
 「でも楽しいよ。まぁ俺は今のままで十分」

 黒木ははぁとため息をつくもののわがままに何かを買いまくる物欲の固まりな尊など想像できないなと少し吹き出してしまう。不思議そうに見てくる尊をくすくすと黒木は笑った。
 「なんでもありませんよ、若」



 本邸でだらだらとクーラーのきいた自室で本を読んでいると騒がしくなる外に何があったのかと尊は銃を手に部屋をでた。緊張の糸が屋敷のそこらから伸び始めている。

 「若!」
 「どうした」
 黒木の慌てようにただ事ではないなと心の準備を尊はした。このような世界ではいつだれが死んでもおかしくない。それでも訃報は尊に大きな衝撃を与えてくれる。

 「應武おうたけ組が襲われて! 2名が死亡! 数人負傷だそうです。應武おうたけさんも怪我を」
 「死んだのか」

 太ももの横でぎちぎちと音がしそうなほど手を握りこむ尊は心を落ち着かせるように深く息を吸い込んだ。尊は焦る気持ちを押さえ、現場に行こうと廊下を歩きだした。

 「案内しろ」
 「しかし! ・・・・・・わかりました」

 危険だと尊を引き留めたかったがこういう時の尊の意志は揺るがないと諦め、何があっても自分が盾になろうと尊の前を黒木は守るように進んだ。
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