【完結】6代目総長

ジロ シマダ

文字の大きさ
上 下
9 / 49
東北支配

鏡写しの報復

しおりを挟む
 「総長、川熊かわくま組の組長だと名乗る人物がお会いしたいと」
 「まじできやがった」

 木下の報告に還田かんだは信じられないとサングラスの向こうで目を見開き尊をみた.
尊は書類から目を離さず
 「待ってもらって」
となんでもないように木下に指示をだして手を動かし続けていた。

 「お会いになるんですか」
 「どんな人か興味が湧きました」

尊が電卓をポチポチと叩く音が小さく鳴る。その音と走るペンに還田かんだは先程からなにをしているのか気になった。

 「総長、先程から何を」
 「家計簿」

尊の返しに還田かんだは固まる。神林組6代目総長が家計簿つけるのかと

 「・・・・・・家計簿ですか」

 「収支簿だよ、還田かんださん」


 コーヒーのおかわりを運んで部屋に入ってきた黒木は面白そうに還田かんだに教えた。尊の家計簿という言葉を真に受ける還田かんだが黒木にはおもしろい。

 「収支簿ですかぁ。総長自らですか」 

 還田かんだはそんなこともしてるのかと尊をみれば、尊は箱に書類を納めると後ろの棚の奥にある金庫にしまうところだった。『ピロリン』という音をさせながら閉まる金庫を閉まっているか確かめてから尊は立ち上がる。

 「俺が1番適任だったですよ」

 還田かんだは尊から黒木へそして入り口の橋をみると頷き、その視線に黒木も橋もばつが悪そうな顔をして反撃する。

 「還田かんださんだって同じでしょ」

神林組系還田かんだ組の組長であるこの男にもそういう仕事があるはずだと黒木が見れば、胸を張りながら還田かんだは答えた。

 「できなくてもいいんだ」
 「はいはい・・・・・・いきますよ」

尊は手をたたきながら楽しそうな声で2人の掛けあいを止めると部屋を出た。



 なんとか許してもらえないだろうか、それだけを祈り川熊かわくまは神林組の本邸を訪れていた。虫が良すぎると諦め半分だったが、会えないと思っていた6代目があってくれるという。まさに天に祈りが通じたかと川熊かわくまは思った。
 川熊かわくまは自分の楽観を振り払うように軽く頭をふる。ドアノブを回す音が聞こえ、川熊かわくまは立ち上がり視界の端で通りすぎる姿に川熊かわくまは軽く驚いた。

 対面に座る尊をみてごくりと唾を飲み込む。65年この世界でそれなりに修羅場を潜り抜けてきた川熊かわくまにはわかる。若い男とは思えないほどの圧が・・・・・・
 偉ぶっている様子は微塵も感じさせないがそれでも上にたつ人間の威風堂々たる雰囲気を漂わせている尊、後ろで控える黒木と還田かんだの静かな存在感・・・・・・
 川熊かわくまは神林の空気に飲み込まれる思いであった。


 「6代目総長 神林尊です。本日はどのようなご用向きで」
 「あっ・・・・・・うちのものが6代目を襲ったとあとからききました。知らないこととはいえうちのもんが失礼なことをしました」
 「詫びて済むとでも思っているのか」
 「・・・・・・」

 川熊かわくまの詫びに黒木は殺気のこもった声で牽制しその横で還田かんだ川熊かわくまを睨み付けた。それを静かな声で尊はたしなめ、川熊かわくまに言葉を向ける。

 「わざわざ東京まで出向いてくれてありがとうございます」
 「いえ」

川熊かわくまは予想外に穏やかな尊に許してもらえるのかもと期待し、お茶をゆるりと飲む尊に川熊かわくまは目をちらっと向けた。

 「しかしこちらとしては言葉だけの詫びではすませられないのですよ」

尊の平坦な言葉に目を見開くが川熊かわくまは当然だと息をつく。尊は茶托に湯飲みをのせまっすぐ川熊かわくまをみて衝撃の一言を送る。

 「組を解散してくれませんか」


 「解・・・・・・さん」
 「っ!? なめんとか!?」

 川熊かわくまの後ろにたっている山岸やまぎしが背もたれに、『ダン!』と手をついて身をのりだし吠えた。尊は山岸やまぎし一瞥いちべつする。

 「先になめたのはそちらだ。解散だけではないですか。神林に手を出して解散ですむのですから安いものなのでは・・・・・・それとくだんの男どこですか」

 山岸やまぎしから興味がないというように川熊かわくまに視線を戻せば川熊かわくまは膝の上で手を握りしめていた。

 「外の車に」

 そうですかというと立ち上がり応接間を静かに出ていく尊についていく黒木と還田かんだ川熊かわくまたちも一拍遅れてついていくことしかできなかった。
 少し出遅れて玄関外に出れば川熊かわくまは車を覗き込んでいた尊の視線を受ける。
 「開けてくれます?」

 川熊かわくま山岸やまぎしに車を開けさせ男を外に引っ張りだす。男は仕置きを受け後なのか痣まるけだ。尊は男の周りをぐるりと回り、背後でぴたりと止まった。
 何をするのかと川熊かわくまがいぶかしんでいると尊がものすごい速さで腕を動かした。あまりの速さに川熊かわくま山岸やまぎしも動けない。


 「この男への制裁終了」

 そういいながら玄関に歩き出す尊に意識を戻し、痣まるけの男を山岸やまぎしが支え起こせばこめかみから血を流していた。鼻に手をやれば生きていることがわかり、信じられないと川熊かわくまが玄関に上がった尊が自分のほうを振り返り見ていることに気が付いた。


 「で? 解散します、それともどうします?」


 挨拶でもするかのような尊に山岸やまぎしはなんだこの男はと得体のしれないものを感じた。山岸やまぎしは異質な尊を頭から消して、どうするのかと後ろを見れば川熊かわくまの乾いた笑みを見てしまった。
 山岸やまぎしはそうするんだなと川熊かわくまの考えていることを察して怒りの目で見つめた。

 「解散したら許してくれますか・・・・・・これで許してくれるならそれがええ」

 つぶやく川熊かわくまは尊に恐怖を覚えるがそれでも悪い人物ではないと思っている。この人物ならば組員を任せてもいいと、後継に悩んでいたこともあり尊の提案を受け入れることが一番良い道だと川熊かわくまは決意した。
 川熊かわくまは尊に深々と頭を下げ

 「わしのことはなんでもいいです。ただ子分の面倒みてはくれませんか」

と願った。

 「わかりました。うちで面倒を見ましょう」
 「ありがとうございます! いやぁ、それにしても神林組は恐ろしい総長を持ったもんだ」

 吹っ切れて褒めるように尊を称する川熊かわくまに当たり前だろと黒木と還田かんだは自慢気な笑みを浮かべる。尊が川熊かわくまに手を差し出せば、川熊かわくまは顔を上げるとその手を強く握り返した。

 「よろしくお願いします」

 会合の日をきめ、部屋を出ていく川熊かわくまに付き従う山岸やまぎしは怒りの顔から腐った顔に変化していた。





 川熊かわくまたちが去ったあと、制裁を加えられた男は警視庁に届けられ会議室での会話を知っている捜査員は顔をひきつらせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ビキニに恋した男

廣瀬純一
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

由紀と真一

廣瀬純一
大衆娯楽
夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...