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東北支配
鏡写しの報復
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「総長、川熊組の組長だと名乗る人物がお会いしたいと」
「まじできやがった」
木下の報告に還田は信じられないとサングラスの向こうで目を見開き尊をみた.
尊は書類から目を離さず
「待ってもらって」
となんでもないように木下に指示をだして手を動かし続けていた。
「お会いになるんですか」
「どんな人か興味が湧きました」
尊が電卓をポチポチと叩く音が小さく鳴る。その音と走るペンに還田は先程からなにをしているのか気になった。
「総長、先程から何を」
「家計簿」
尊の返しに還田は固まる。神林組6代目総長が家計簿つけるのかと
「・・・・・・家計簿ですか」
「収支簿だよ、還田さん」
コーヒーのおかわりを運んで部屋に入ってきた黒木は面白そうに還田に教えた。尊の家計簿という言葉を真に受ける還田が黒木にはおもしろい。
「収支簿ですかぁ。総長自らですか」
還田はそんなこともしてるのかと尊をみれば、尊は箱に書類を納めると後ろの棚の奥にある金庫にしまうところだった。『ピロリン』という音をさせながら閉まる金庫を閉まっているか確かめてから尊は立ち上がる。
「俺が1番適任だったですよ」
還田は尊から黒木へそして入り口の橋をみると頷き、その視線に黒木も橋もばつが悪そうな顔をして反撃する。
「還田さんだって同じでしょ」
神林組系還田組の組長であるこの男にもそういう仕事があるはずだと黒木が見れば、胸を張りながら還田は答えた。
「できなくてもいいんだ」
「はいはい・・・・・・いきますよ」
尊は手をたたきながら楽しそうな声で2人の掛けあいを止めると部屋を出た。
なんとか許してもらえないだろうか、それだけを祈り川熊は神林組の本邸を訪れていた。虫が良すぎると諦め半分だったが、会えないと思っていた6代目があってくれるという。まさに天に祈りが通じたかと川熊は思った。
川熊は自分の楽観を振り払うように軽く頭をふる。ドアノブを回す音が聞こえ、川熊は立ち上がり視界の端で通りすぎる姿に川熊は軽く驚いた。
対面に座る尊をみてごくりと唾を飲み込む。65年この世界でそれなりに修羅場を潜り抜けてきた川熊にはわかる。若い男とは思えないほどの圧が・・・・・・
偉ぶっている様子は微塵も感じさせないがそれでも上にたつ人間の威風堂々たる雰囲気を漂わせている尊、後ろで控える黒木と還田の静かな存在感・・・・・・
川熊は神林の空気に飲み込まれる思いであった。
「6代目総長 神林尊です。本日はどのようなご用向きで」
「あっ・・・・・・うちのものが6代目を襲ったとあとからききました。知らないこととはいえうちのもんが失礼なことをしました」
「詫びて済むとでも思っているのか」
「・・・・・・」
川熊の詫びに黒木は殺気のこもった声で牽制しその横で還田も川熊を睨み付けた。それを静かな声で尊はたしなめ、川熊に言葉を向ける。
「わざわざ東京まで出向いてくれてありがとうございます」
「いえ」
川熊は予想外に穏やかな尊に許してもらえるのかもと期待し、お茶をゆるりと飲む尊に川熊は目をちらっと向けた。
「しかしこちらとしては言葉だけの詫びではすませられないのですよ」
尊の平坦な言葉に目を見開くが川熊は当然だと息をつく。尊は茶托に湯飲みをのせまっすぐ川熊をみて衝撃の一言を送る。
「組を解散してくれませんか」
「解・・・・・・さん」
「っ!? なめんとか!?」
川熊の後ろにたっている山岸が背もたれに、『ダン!』と手をついて身をのりだし吠えた。尊は山岸を一瞥する。
「先になめたのはそちらだ。解散だけではないですか。神林に手を出して解散ですむのですから安いものなのでは・・・・・・それと件の男どこですか」
山岸から興味がないというように川熊に視線を戻せば川熊は膝の上で手を握りしめていた。
「外の車に」
そうですかというと立ち上がり応接間を静かに出ていく尊についていく黒木と還田に川熊たちも一拍遅れてついていくことしかできなかった。
少し出遅れて玄関外に出れば川熊は車を覗き込んでいた尊の視線を受ける。
「開けてくれます?」
川熊が山岸に車を開けさせ男を外に引っ張りだす。男は仕置きを受け後なのか痣まるけだ。尊は男の周りをぐるりと回り、背後でぴたりと止まった。
何をするのかと川熊がいぶかしんでいると尊がものすごい速さで腕を動かした。あまりの速さに川熊も山岸も動けない。
「この男への制裁終了」
そういいながら玄関に歩き出す尊に意識を戻し、痣まるけの男を山岸が支え起こせばこめかみから血を流していた。鼻に手をやれば生きていることがわかり、信じられないと川熊が玄関に上がった尊が自分のほうを振り返り見ていることに気が付いた。
「で? 解散します、それともどうします?」
挨拶でもするかのような尊に山岸はなんだこの男はと得体のしれないものを感じた。山岸は異質な尊を頭から消して、どうするのかと後ろを見れば川熊の乾いた笑みを見てしまった。
山岸はそうするんだなと川熊の考えていることを察して怒りの目で見つめた。
「解散したら許してくれますか・・・・・・これで許してくれるならそれがええ」
つぶやく川熊は尊に恐怖を覚えるがそれでも悪い人物ではないと思っている。この人物ならば組員を任せてもいいと、後継に悩んでいたこともあり尊の提案を受け入れることが一番良い道だと川熊は決意した。
川熊は尊に深々と頭を下げ
「わしのことはなんでもいいです。ただ子分の面倒みてはくれませんか」
と願った。
「わかりました。うちで面倒を見ましょう」
「ありがとうございます! いやぁ、それにしても神林組は恐ろしい総長を持ったもんだ」
吹っ切れて褒めるように尊を称する川熊に当たり前だろと黒木と還田は自慢気な笑みを浮かべる。尊が川熊に手を差し出せば、川熊は顔を上げるとその手を強く握り返した。
「よろしくお願いします」
会合の日をきめ、部屋を出ていく川熊に付き従う山岸は怒りの顔から腐った顔に変化していた。
川熊たちが去ったあと、制裁を加えられた男は警視庁に届けられ会議室での会話を知っている捜査員は顔をひきつらせた。
「まじできやがった」
木下の報告に還田は信じられないとサングラスの向こうで目を見開き尊をみた.
尊は書類から目を離さず
「待ってもらって」
となんでもないように木下に指示をだして手を動かし続けていた。
「お会いになるんですか」
「どんな人か興味が湧きました」
尊が電卓をポチポチと叩く音が小さく鳴る。その音と走るペンに還田は先程からなにをしているのか気になった。
「総長、先程から何を」
「家計簿」
尊の返しに還田は固まる。神林組6代目総長が家計簿つけるのかと
「・・・・・・家計簿ですか」
「収支簿だよ、還田さん」
コーヒーのおかわりを運んで部屋に入ってきた黒木は面白そうに還田に教えた。尊の家計簿という言葉を真に受ける還田が黒木にはおもしろい。
「収支簿ですかぁ。総長自らですか」
還田はそんなこともしてるのかと尊をみれば、尊は箱に書類を納めると後ろの棚の奥にある金庫にしまうところだった。『ピロリン』という音をさせながら閉まる金庫を閉まっているか確かめてから尊は立ち上がる。
「俺が1番適任だったですよ」
還田は尊から黒木へそして入り口の橋をみると頷き、その視線に黒木も橋もばつが悪そうな顔をして反撃する。
「還田さんだって同じでしょ」
神林組系還田組の組長であるこの男にもそういう仕事があるはずだと黒木が見れば、胸を張りながら還田は答えた。
「できなくてもいいんだ」
「はいはい・・・・・・いきますよ」
尊は手をたたきながら楽しそうな声で2人の掛けあいを止めると部屋を出た。
なんとか許してもらえないだろうか、それだけを祈り川熊は神林組の本邸を訪れていた。虫が良すぎると諦め半分だったが、会えないと思っていた6代目があってくれるという。まさに天に祈りが通じたかと川熊は思った。
川熊は自分の楽観を振り払うように軽く頭をふる。ドアノブを回す音が聞こえ、川熊は立ち上がり視界の端で通りすぎる姿に川熊は軽く驚いた。
対面に座る尊をみてごくりと唾を飲み込む。65年この世界でそれなりに修羅場を潜り抜けてきた川熊にはわかる。若い男とは思えないほどの圧が・・・・・・
偉ぶっている様子は微塵も感じさせないがそれでも上にたつ人間の威風堂々たる雰囲気を漂わせている尊、後ろで控える黒木と還田の静かな存在感・・・・・・
川熊は神林の空気に飲み込まれる思いであった。
「6代目総長 神林尊です。本日はどのようなご用向きで」
「あっ・・・・・・うちのものが6代目を襲ったとあとからききました。知らないこととはいえうちのもんが失礼なことをしました」
「詫びて済むとでも思っているのか」
「・・・・・・」
川熊の詫びに黒木は殺気のこもった声で牽制しその横で還田も川熊を睨み付けた。それを静かな声で尊はたしなめ、川熊に言葉を向ける。
「わざわざ東京まで出向いてくれてありがとうございます」
「いえ」
川熊は予想外に穏やかな尊に許してもらえるのかもと期待し、お茶をゆるりと飲む尊に川熊は目をちらっと向けた。
「しかしこちらとしては言葉だけの詫びではすませられないのですよ」
尊の平坦な言葉に目を見開くが川熊は当然だと息をつく。尊は茶托に湯飲みをのせまっすぐ川熊をみて衝撃の一言を送る。
「組を解散してくれませんか」
「解・・・・・・さん」
「っ!? なめんとか!?」
川熊の後ろにたっている山岸が背もたれに、『ダン!』と手をついて身をのりだし吠えた。尊は山岸を一瞥する。
「先になめたのはそちらだ。解散だけではないですか。神林に手を出して解散ですむのですから安いものなのでは・・・・・・それと件の男どこですか」
山岸から興味がないというように川熊に視線を戻せば川熊は膝の上で手を握りしめていた。
「外の車に」
そうですかというと立ち上がり応接間を静かに出ていく尊についていく黒木と還田に川熊たちも一拍遅れてついていくことしかできなかった。
少し出遅れて玄関外に出れば川熊は車を覗き込んでいた尊の視線を受ける。
「開けてくれます?」
川熊が山岸に車を開けさせ男を外に引っ張りだす。男は仕置きを受け後なのか痣まるけだ。尊は男の周りをぐるりと回り、背後でぴたりと止まった。
何をするのかと川熊がいぶかしんでいると尊がものすごい速さで腕を動かした。あまりの速さに川熊も山岸も動けない。
「この男への制裁終了」
そういいながら玄関に歩き出す尊に意識を戻し、痣まるけの男を山岸が支え起こせばこめかみから血を流していた。鼻に手をやれば生きていることがわかり、信じられないと川熊が玄関に上がった尊が自分のほうを振り返り見ていることに気が付いた。
「で? 解散します、それともどうします?」
挨拶でもするかのような尊に山岸はなんだこの男はと得体のしれないものを感じた。山岸は異質な尊を頭から消して、どうするのかと後ろを見れば川熊の乾いた笑みを見てしまった。
山岸はそうするんだなと川熊の考えていることを察して怒りの目で見つめた。
「解散したら許してくれますか・・・・・・これで許してくれるならそれがええ」
つぶやく川熊は尊に恐怖を覚えるがそれでも悪い人物ではないと思っている。この人物ならば組員を任せてもいいと、後継に悩んでいたこともあり尊の提案を受け入れることが一番良い道だと川熊は決意した。
川熊は尊に深々と頭を下げ
「わしのことはなんでもいいです。ただ子分の面倒みてはくれませんか」
と願った。
「わかりました。うちで面倒を見ましょう」
「ありがとうございます! いやぁ、それにしても神林組は恐ろしい総長を持ったもんだ」
吹っ切れて褒めるように尊を称する川熊に当たり前だろと黒木と還田は自慢気な笑みを浮かべる。尊が川熊に手を差し出せば、川熊は顔を上げるとその手を強く握り返した。
「よろしくお願いします」
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