【完結】6代目総長

ジロ シマダ

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東北支配

若頭の帰還

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 「総長は!?」

  たけるが襲撃され負傷したことはすぐに伝えられ、本部に集結した幹部たちが報復ほうふくだと騒ぎていた。
 会議室は殺気立ち、興奮しているせいか口喧嘩では収まらず、さかえひじりが掴み合いを始める。つられるように緑埜みどの應武おうたけも混ざり、湖出こで還田かんだが止めるために動く。なんとか引き剥がそうと苦戦している湖出こで還田かんだ後ろから声がかかった。

 「相手も分からない状態で報復ほうふくしようがないでしょう」

 動きを止め声のほうをみた。廊下に頭に血の滲んだ包帯を巻いたたけるが立っていた。たけるの姿を認識した瞬間、我先にとひじりさかえたけるに駆け寄る。たけるは近づいてくる厳つい顔に眉間に皺を寄せ、身を引く。さかえひじりより前に大きな体をねじ込むと大きな声を発した。

 「わかっています!」

さかえの勢いのよい答えにたけるは眉間の皺をもっと深くさせた。

 「どこだというのですか」
 「大国組です! そうに決まってます!!」

 ひじり緑埜みどのもウンウンと頷く。自信満々にいうが裏付けがないことは明白で、たけるはため息をつかずにはいられない。

 「はぁ、何を根拠に・・・・・・根拠もなしに報復ほうふくなど野蛮やばんがすること、自粛してください」
 「しかし!」

 途端に上がる喚き声にたけるは頭を押さえる。いまだ少し揺れているような不快感を抱く頭に怒鳴り声はつらい。頭を押さえるたけるの背を少し支え黒木はさかえたちを睨み付けた。

 「響くので静かにしてもらえませんか」

 たけるの言葉にさかえひじりは手で口を押え、たけるは重い足取りで総長席に腰を下ろし体を沈みこませる。幹部は顔を見合わせると一旦落ち着こうと椅子に座り、さかえひじりは椅子に座り落ち着いたのかここで初めてたけるの顔色の悪さに気が付いた。
 幹部としてどうかといえる。

 「とりあえず私は大丈夫なので自粛してくださいね」
 「・・・・・・」

返事がないことにたけるは鈍痛が増したような気がして肘をついた手で頭を支えた。たけるは騒ぐことだけは天下一かもしれないと頭痛がひどくなる。

 深いたけるのため息に静かになった会議室にコツコツという規則正しいリズムカルな音が近づいてくる。会議室にいるものすべてが扉のほうを油断なく見つめた。
 そして開けられた扉の向こうからハンチング帽をかぶったおしゃれな男が姿を見せた。ハンチング帽を親指で軽く押し上げ、頭を下げる男にたけるの気分は上昇した。

 「隠岐おきさん!」

たける以外のほうを一切見ることなく真っ直ぐ会議室を進む隠岐おきたけるは立ち上がり笑顔で出迎える。

 「お久しぶりです、総長」
 「おかえりなさい、隠岐おきさん」

 隠岐おきたけると握手をしたと思えば流れるようにたけるの指を額に押し当てる。その仕草にたけるは相変わらずだなと笑った。隠岐おきは普段からたけるに忠誠を誓うかのように挨拶をするがそれが様になるのが隠岐おきのすごいところだ。手を額から離すとたけるをつらそうにみてたけるの肩を優しい力でそっと下に押す。

 「お辛いでしょう。お座りください」

隠岐おきたけるが椅子に座るのを見ると振り向きいろいろな情報にあほな顔をさらす幹部たちを見渡した。
 隠岐おきたけるにこのような挨拶をすると知っているものは黒木くらいだ。たけるが総長の座についてから一切、隠岐おきは幹部会にもたけるの前にも姿を見せていない。そのため、幹部たちは知りようもなかった。
 そもそも隠岐おきがもしかすると死亡しているかもと考えていた幹部もいた。
 
 「久しぶりだな」

隠岐おきの声に意識を戻しばっと幹部が立ち上がり驚きの声を響かせた。

 「「アニキ!?」」

ひじりさかえ隠岐おきを頭から足まで見た。その様子を隠岐おきは面白そうに笑いその場で足を上げておどけて見せる。

 「死んだとでも思っていたか。勝手には死ねないんでな。それよりもだ・・・・・・」

 隠岐おきはおどけた脚を下ろし総長の机にもたれ、そのまま鋭い目つきで幹部を見渡した。

 「自粛しろという総長のお言葉への返事はどうした」

隠岐おきの言葉に逃げ腰であるがさかえは食い下がり意見をいった。

 「しかし! しかし! ですよ。総長が襲われたのに」
 「大国組じゃなかったらてめぇは責任取れんのか?」
 「そ、それは・・・・・・わかりました」

 さかえに続きほかの幹部も返事をした。帽子をとってたけるに頭を下げながら左の席に着く隠岐おき湖出こでや黒木は視線で礼を伝え、たけるは心の中でほっと息を吐きだした。
 無駄な血を流させる可能性が減ったことが何よりもうれしい。しかし、たける
 「(自分の言葉だけで止まらない幹部には今後が思いやられると何とかしなくては)」
と今後の計画に入れた。

 「では自粛ということでいいですね。皆さん今日は来てくれてありがとうございました」

たけるの指示に頭を下げ退出する幹部たちの1人を隠岐おきは呼び止めた。

 「還田かんだ

ダンディな髭を生やした男が回れ右を華麗に決め、隠岐おきのほうを見た。

 「へい!」
 「総長をお守りしろ」

 隠岐おきの言葉に還田かんだはうれしそうに口角を上げサングラスを外しきらきらした目で元気よく返事をしてくれるのに勝手に進められ決定したような流れにたけるは慌てた。

 「黒木がいますよ!」
 「私はもっといるべきだと思いますよ。還田かんださんなら心強いです」

まさかの黒木の裏切りにたけるはサイレントで
 「マジか」
とつぶやく。幹部の中では親しい部類で昔からよくしてくれる還田かんだとは言えたけるはこれ以上側付きが増えると休まらないのではとげんなりするたけるの気持ちなど察するはずがない還田かんだ

 「安心してください! 俺と黒木が絶対に! 守ります!」

黒木と肩を組みながら力強く宣言する。たけるはひきつった笑みでよろしくと答えることしかできなかった。
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