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東北支配
若頭の帰還
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「総長は!?」
尊が襲撃され負傷したことはすぐに伝えられ、本部に集結した幹部たちが報復だと騒ぎていた。
会議室は殺気立ち、興奮しているせいか口喧嘩では収まらず、栄と聖が掴み合いを始める。つられるように緑埜と應武も混ざり、湖出と還田が止めるために動く。なんとか引き剥がそうと苦戦している湖出と還田後ろから声がかかった。
「相手も分からない状態で報復しようがないでしょう」
動きを止め声のほうをみた。廊下に頭に血の滲んだ包帯を巻いた尊が立っていた。尊の姿を認識した瞬間、我先にと聖や栄が尊に駆け寄る。尊は近づいてくる厳つい顔に眉間に皺を寄せ、身を引く。栄が聖より前に大きな体をねじ込むと大きな声を発した。
「わかっています!」
栄の勢いのよい答えに尊は眉間の皺をもっと深くさせた。
「どこだというのですか」
「大国組です! そうに決まってます!!」
聖も緑埜もウンウンと頷く。自信満々にいうが裏付けがないことは明白で、尊はため息をつかずにはいられない。
「はぁ、何を根拠に・・・・・・根拠もなしに報復など野蛮がすること、自粛してください」
「しかし!」
途端に上がる喚き声に尊は頭を押さえる。いまだ少し揺れているような不快感を抱く頭に怒鳴り声はつらい。頭を押さえる尊の背を少し支え黒木は栄たちを睨み付けた。
「響くので静かにしてもらえませんか」
尊の言葉に栄と聖は手で口を押え、尊は重い足取りで総長席に腰を下ろし体を沈みこませる。幹部は顔を見合わせると一旦落ち着こうと椅子に座り、栄と聖は椅子に座り落ち着いたのかここで初めて尊の顔色の悪さに気が付いた。
幹部としてどうかといえる。
「とりあえず私は大丈夫なので自粛してくださいね」
「・・・・・・」
返事がないことに尊は鈍痛が増したような気がして肘をついた手で頭を支えた。尊は騒ぐことだけは天下一かもしれないと頭痛がひどくなる。
深い尊のため息に静かになった会議室にコツコツという規則正しいリズムカルな音が近づいてくる。会議室にいるものすべてが扉のほうを油断なく見つめた。
そして開けられた扉の向こうからハンチング帽をかぶったおしゃれな男が姿を見せた。ハンチング帽を親指で軽く押し上げ、頭を下げる男に尊の気分は上昇した。
「隠岐さん!」
尊以外のほうを一切見ることなく真っ直ぐ会議室を進む隠岐。尊は立ち上がり笑顔で出迎える。
「お久しぶりです、総長」
「おかえりなさい、隠岐さん」
隠岐は尊と握手をしたと思えば流れるように尊の指を額に押し当てる。その仕草に尊は相変わらずだなと笑った。隠岐は普段から尊に忠誠を誓うかのように挨拶をするがそれが様になるのが隠岐のすごいところだ。手を額から離すと尊をつらそうにみて尊の肩を優しい力でそっと下に押す。
「お辛いでしょう。お座りください」
隠岐は尊が椅子に座るのを見ると振り向きいろいろな情報にあほな顔をさらす幹部たちを見渡した。
隠岐が尊にこのような挨拶をすると知っているものは黒木くらいだ。尊が総長の座についてから一切、隠岐は幹部会にも尊の前にも姿を見せていない。そのため、幹部たちは知りようもなかった。
そもそも隠岐がもしかすると死亡しているかもと考えていた幹部もいた。
「久しぶりだな」
隠岐の声に意識を戻しばっと幹部が立ち上がり驚きの声を響かせた。
「「アニキ!?」」
聖、栄は隠岐を頭から足まで見た。その様子を隠岐は面白そうに笑いその場で足を上げておどけて見せる。
「死んだとでも思っていたか。勝手には死ねないんでな。それよりもだ・・・・・・」
隠岐はおどけた脚を下ろし総長の机にもたれ、そのまま鋭い目つきで幹部を見渡した。
「自粛しろという総長のお言葉への返事はどうした」
隠岐の言葉に逃げ腰であるが栄は食い下がり意見をいった。
「しかし! しかし! ですよ。総長が襲われたのに」
「大国組じゃなかったらてめぇは責任取れんのか?」
「そ、それは・・・・・・わかりました」
栄に続きほかの幹部も返事をした。帽子をとって尊に頭を下げながら左の席に着く隠岐に湖出や黒木は視線で礼を伝え、尊は心の中でほっと息を吐きだした。
無駄な血を流させる可能性が減ったことが何よりもうれしい。しかし、尊は
「(自分の言葉だけで止まらない幹部には今後が思いやられると何とかしなくては)」
と今後の計画に入れた。
「では自粛ということでいいですね。皆さん今日は来てくれてありがとうございました」
尊の指示に頭を下げ退出する幹部たちの1人を隠岐は呼び止めた。
「還田」
ダンディな髭を生やした男が回れ右を華麗に決め、隠岐のほうを見た。
「へい!」
「総長をお守りしろ」
隠岐の言葉に還田はうれしそうに口角を上げサングラスを外しきらきらした目で元気よく返事をしてくれるのに勝手に進められ決定したような流れに尊は慌てた。
「黒木がいますよ!」
「私はもっといるべきだと思いますよ。還田さんなら心強いです」
まさかの黒木の裏切りに尊はサイレントで
「マジか」
とつぶやく。幹部の中では親しい部類で昔からよくしてくれる還田とは言え尊はこれ以上側付きが増えると休まらないのではとげんなりする尊の気持ちなど察するはずがない還田は
「安心してください! 俺と黒木が絶対に! 守ります!」
黒木と肩を組みながら力強く宣言する。尊はひきつった笑みでよろしくと答えることしかできなかった。
尊が襲撃され負傷したことはすぐに伝えられ、本部に集結した幹部たちが報復だと騒ぎていた。
会議室は殺気立ち、興奮しているせいか口喧嘩では収まらず、栄と聖が掴み合いを始める。つられるように緑埜と應武も混ざり、湖出と還田が止めるために動く。なんとか引き剥がそうと苦戦している湖出と還田後ろから声がかかった。
「相手も分からない状態で報復しようがないでしょう」
動きを止め声のほうをみた。廊下に頭に血の滲んだ包帯を巻いた尊が立っていた。尊の姿を認識した瞬間、我先にと聖や栄が尊に駆け寄る。尊は近づいてくる厳つい顔に眉間に皺を寄せ、身を引く。栄が聖より前に大きな体をねじ込むと大きな声を発した。
「わかっています!」
栄の勢いのよい答えに尊は眉間の皺をもっと深くさせた。
「どこだというのですか」
「大国組です! そうに決まってます!!」
聖も緑埜もウンウンと頷く。自信満々にいうが裏付けがないことは明白で、尊はため息をつかずにはいられない。
「はぁ、何を根拠に・・・・・・根拠もなしに報復など野蛮がすること、自粛してください」
「しかし!」
途端に上がる喚き声に尊は頭を押さえる。いまだ少し揺れているような不快感を抱く頭に怒鳴り声はつらい。頭を押さえる尊の背を少し支え黒木は栄たちを睨み付けた。
「響くので静かにしてもらえませんか」
尊の言葉に栄と聖は手で口を押え、尊は重い足取りで総長席に腰を下ろし体を沈みこませる。幹部は顔を見合わせると一旦落ち着こうと椅子に座り、栄と聖は椅子に座り落ち着いたのかここで初めて尊の顔色の悪さに気が付いた。
幹部としてどうかといえる。
「とりあえず私は大丈夫なので自粛してくださいね」
「・・・・・・」
返事がないことに尊は鈍痛が増したような気がして肘をついた手で頭を支えた。尊は騒ぐことだけは天下一かもしれないと頭痛がひどくなる。
深い尊のため息に静かになった会議室にコツコツという規則正しいリズムカルな音が近づいてくる。会議室にいるものすべてが扉のほうを油断なく見つめた。
そして開けられた扉の向こうからハンチング帽をかぶったおしゃれな男が姿を見せた。ハンチング帽を親指で軽く押し上げ、頭を下げる男に尊の気分は上昇した。
「隠岐さん!」
尊以外のほうを一切見ることなく真っ直ぐ会議室を進む隠岐。尊は立ち上がり笑顔で出迎える。
「お久しぶりです、総長」
「おかえりなさい、隠岐さん」
隠岐は尊と握手をしたと思えば流れるように尊の指を額に押し当てる。その仕草に尊は相変わらずだなと笑った。隠岐は普段から尊に忠誠を誓うかのように挨拶をするがそれが様になるのが隠岐のすごいところだ。手を額から離すと尊をつらそうにみて尊の肩を優しい力でそっと下に押す。
「お辛いでしょう。お座りください」
隠岐は尊が椅子に座るのを見ると振り向きいろいろな情報にあほな顔をさらす幹部たちを見渡した。
隠岐が尊にこのような挨拶をすると知っているものは黒木くらいだ。尊が総長の座についてから一切、隠岐は幹部会にも尊の前にも姿を見せていない。そのため、幹部たちは知りようもなかった。
そもそも隠岐がもしかすると死亡しているかもと考えていた幹部もいた。
「久しぶりだな」
隠岐の声に意識を戻しばっと幹部が立ち上がり驚きの声を響かせた。
「「アニキ!?」」
聖、栄は隠岐を頭から足まで見た。その様子を隠岐は面白そうに笑いその場で足を上げておどけて見せる。
「死んだとでも思っていたか。勝手には死ねないんでな。それよりもだ・・・・・・」
隠岐はおどけた脚を下ろし総長の机にもたれ、そのまま鋭い目つきで幹部を見渡した。
「自粛しろという総長のお言葉への返事はどうした」
隠岐の言葉に逃げ腰であるが栄は食い下がり意見をいった。
「しかし! しかし! ですよ。総長が襲われたのに」
「大国組じゃなかったらてめぇは責任取れんのか?」
「そ、それは・・・・・・わかりました」
栄に続きほかの幹部も返事をした。帽子をとって尊に頭を下げながら左の席に着く隠岐に湖出や黒木は視線で礼を伝え、尊は心の中でほっと息を吐きだした。
無駄な血を流させる可能性が減ったことが何よりもうれしい。しかし、尊は
「(自分の言葉だけで止まらない幹部には今後が思いやられると何とかしなくては)」
と今後の計画に入れた。
「では自粛ということでいいですね。皆さん今日は来てくれてありがとうございました」
尊の指示に頭を下げ退出する幹部たちの1人を隠岐は呼び止めた。
「還田」
ダンディな髭を生やした男が回れ右を華麗に決め、隠岐のほうを見た。
「へい!」
「総長をお守りしろ」
隠岐の言葉に還田はうれしそうに口角を上げサングラスを外しきらきらした目で元気よく返事をしてくれるのに勝手に進められ決定したような流れに尊は慌てた。
「黒木がいますよ!」
「私はもっといるべきだと思いますよ。還田さんなら心強いです」
まさかの黒木の裏切りに尊はサイレントで
「マジか」
とつぶやく。幹部の中では親しい部類で昔からよくしてくれる還田とは言え尊はこれ以上側付きが増えると休まらないのではとげんなりする尊の気持ちなど察するはずがない還田は
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