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番外編③
第一話・恋
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俺は、記憶を無くしたらしい。
事故ではなく、事件に巻き込まれたと説明されたが当事者意識が全く持てず、大事となった事件に対して事情聴取されても役に立たなかった。
何があったか全然思い出せない。胸にポッカリ穴が空いたような感じだ。
大事な記憶も、そうでない記憶も全部無くしてしまった。そこに無いものは、無い。
最新の記憶にあるのは、拒絶され続けて色恋沙汰を、人からの理解を諦めた事ぐらいだな。
しかし、それは三年前の記憶らしい。
三年後の俺は、(現在年齢で)年下の男性と二人暮らしをしている。
相手の名前は十 竹葉。
とても良い人で、俺が不安にならないように、色々気遣ってくれている。
俺が退院するまでの間も病院に通って、家の間取りや周囲の立地、家賃などの重要な事を教えてくれた。
記憶喪失なんて、人生初めての経験で正直かなり戸惑っている。そして、今の俺は破局続きで精神的に参っている。
支えてくれる優しい同居人が居てくれてよかった。
彼と未来の自分は良好な関係を築いていた事は間違いないだろう。
気軽に相談出来る存在がありがたい。
帰宅後初めての朝は、痛み止めが切れたのかズキズキとした頭痛に起こされた。
「おはようございます」
「おはよ……」
朝起きると、竹葉君が朝食を用意してくれていた。
テーブルに並べられているのは、目玉焼きの乗ったトースト。
「あ、目玉焼き固めで大丈夫でしたか?」
「! 俺そんなとこまでリクエストしてたの?」
「リクエストってより、好きって言ってたので勝手にやってました」
うわ、なんか凄いな。
まるで出来た嫁さんみたいじゃんか。
「竹葉君は、彼女居ないの? こんなに気遣い出来るなら、結婚したらいい旦那さんになれそう」
「はは! 盃さんの旦那さんになりましょうか?」
「国が許してくれないのよロミオ」
「なんてこったジュリエット」
雑にボケの応酬を繰り返す。口がスラスラ動く感じから、常日頃こんな感じだったんだろうな。
仕事へ行く竹葉君を見送ってから痛み止めを飲んで、他の家事を熟す。
掃除、洗濯、買い物。
どれも問題なく終わった。
「よし、これで終わりっと」
一息ついてから、昼を作ろうと冷蔵庫を開ける……妙に水のペットボトルが多い。
あって困るものでは無いけど、なんだろう? まぁ、いっか。
軽く炒飯を作って、一人で食べる。
「(……料理、下手になったかな)」
あんまり美味しくなかった。
食器洗いをして、ソファーに座ってボーッとしていると……
『~~♪』
「!」
携帯に着信があった。
表示された連絡相手に少し驚きながらも通話ボタンを押す。
『十さんから盃が怪我したって聞いたら……心配になって』
「……竹葉君と昌幸って知り合いなの?」
『え? 自分でセフレの元彼だって十さんに言ったんだろ?』
「ええ!?」
『あっ、記憶が無いんだったな。混乱させて悪い。次の土曜日にちょっとお邪魔するから、よろしく』
そう言って通話を切られた。
「………ああ」
未来の俺は竹葉君になんて事伝えてるんだ。
けど、同性のセフレで元彼の昌幸との事を知っても尚、普通に接してくれている。
嬉しい反面、まだ信じられない自分もいる。
※※※
竹葉君が買ってきたプリンを一緒に食べながら、今日あった出来事を伝えてから、思いきって聞いてみた。
「俺にセフレや男の恋人が居たって知っても、気持ち悪くなかった?」
「え? いや、別に……盃さんバイですし、合意の肉体関係ならいいじゃないですか?」
「……いい、の?」
不特定多数の男女と肉体関係を持つと分かったら、嫌悪感や危機感を覚えたりしないのかな?
「俺は好きな事してる盃さんが好きですよ。格闘技大会で活き活きしてる姿もかっこよくて好きです」
「えっ!? そこまで知ってるの!?」
「そりゃ、一緒に暮らしてたんですから」
俺が趣味で格闘技をしている事も知ってるとは思わなかった。
突然、目の前に全てを受け入れてくれる人が都合良く現れたような気分だ。
ずっと“違う”と言われて続けて、俺はもう誰にも理解されないと思い込んでいた。
「コンプレックスが多いのは昔からなんですね」
「三年後も、今の俺と一緒?」
「うーーん……もうちょっと大人でしたね。プリンを口の端に付けたりはしてませんでしたよ」
スッと手を伸ばし、親指で俺の唇に触れてくる。
その仕草と俺を見つめる目付きが妙に色っぽく感じた。
俺に口元に付いていたプリンを取って、自分の口に運ぶ竹葉君に、顔が熱くなるのを感じる。
心臓がバクバクして、頭が真っ白になる。
「ん? 盃さん?」
「…………」
不思議そうな顔をする竹葉君が、なんだか急に近くなった気がした。
俺はこの人を知らないのに、とても懐かしく感じる。
それに、胸の奥で何かが疼く。
俺の異変に気付いたのか、心配そうに竹葉君は俺の手を握ってきた。
心地好い温もりと優しさ、俺に触れる躊躇の無さ……あ、駄目だ。
「(好きだ……)」
呆気なく、簡単に、俺は竹葉君にあっさりと、恋心を抱いてしまった。
「大丈夫ですか? そろそろ休みます?」
竹葉君の言葉に、小さく首を縦に振る。
本当は、まだ離れたくない。もっと触れていたい。
けれど、俺が一方的に好きなだけで、竹葉君の気持ちを無視して蔑ろにしたくない。
彼をもっと知りたい。
事故ではなく、事件に巻き込まれたと説明されたが当事者意識が全く持てず、大事となった事件に対して事情聴取されても役に立たなかった。
何があったか全然思い出せない。胸にポッカリ穴が空いたような感じだ。
大事な記憶も、そうでない記憶も全部無くしてしまった。そこに無いものは、無い。
最新の記憶にあるのは、拒絶され続けて色恋沙汰を、人からの理解を諦めた事ぐらいだな。
しかし、それは三年前の記憶らしい。
三年後の俺は、(現在年齢で)年下の男性と二人暮らしをしている。
相手の名前は十 竹葉。
とても良い人で、俺が不安にならないように、色々気遣ってくれている。
俺が退院するまでの間も病院に通って、家の間取りや周囲の立地、家賃などの重要な事を教えてくれた。
記憶喪失なんて、人生初めての経験で正直かなり戸惑っている。そして、今の俺は破局続きで精神的に参っている。
支えてくれる優しい同居人が居てくれてよかった。
彼と未来の自分は良好な関係を築いていた事は間違いないだろう。
気軽に相談出来る存在がありがたい。
帰宅後初めての朝は、痛み止めが切れたのかズキズキとした頭痛に起こされた。
「おはようございます」
「おはよ……」
朝起きると、竹葉君が朝食を用意してくれていた。
テーブルに並べられているのは、目玉焼きの乗ったトースト。
「あ、目玉焼き固めで大丈夫でしたか?」
「! 俺そんなとこまでリクエストしてたの?」
「リクエストってより、好きって言ってたので勝手にやってました」
うわ、なんか凄いな。
まるで出来た嫁さんみたいじゃんか。
「竹葉君は、彼女居ないの? こんなに気遣い出来るなら、結婚したらいい旦那さんになれそう」
「はは! 盃さんの旦那さんになりましょうか?」
「国が許してくれないのよロミオ」
「なんてこったジュリエット」
雑にボケの応酬を繰り返す。口がスラスラ動く感じから、常日頃こんな感じだったんだろうな。
仕事へ行く竹葉君を見送ってから痛み止めを飲んで、他の家事を熟す。
掃除、洗濯、買い物。
どれも問題なく終わった。
「よし、これで終わりっと」
一息ついてから、昼を作ろうと冷蔵庫を開ける……妙に水のペットボトルが多い。
あって困るものでは無いけど、なんだろう? まぁ、いっか。
軽く炒飯を作って、一人で食べる。
「(……料理、下手になったかな)」
あんまり美味しくなかった。
食器洗いをして、ソファーに座ってボーッとしていると……
『~~♪』
「!」
携帯に着信があった。
表示された連絡相手に少し驚きながらも通話ボタンを押す。
『十さんから盃が怪我したって聞いたら……心配になって』
「……竹葉君と昌幸って知り合いなの?」
『え? 自分でセフレの元彼だって十さんに言ったんだろ?』
「ええ!?」
『あっ、記憶が無いんだったな。混乱させて悪い。次の土曜日にちょっとお邪魔するから、よろしく』
そう言って通話を切られた。
「………ああ」
未来の俺は竹葉君になんて事伝えてるんだ。
けど、同性のセフレで元彼の昌幸との事を知っても尚、普通に接してくれている。
嬉しい反面、まだ信じられない自分もいる。
※※※
竹葉君が買ってきたプリンを一緒に食べながら、今日あった出来事を伝えてから、思いきって聞いてみた。
「俺にセフレや男の恋人が居たって知っても、気持ち悪くなかった?」
「え? いや、別に……盃さんバイですし、合意の肉体関係ならいいじゃないですか?」
「……いい、の?」
不特定多数の男女と肉体関係を持つと分かったら、嫌悪感や危機感を覚えたりしないのかな?
「俺は好きな事してる盃さんが好きですよ。格闘技大会で活き活きしてる姿もかっこよくて好きです」
「えっ!? そこまで知ってるの!?」
「そりゃ、一緒に暮らしてたんですから」
俺が趣味で格闘技をしている事も知ってるとは思わなかった。
突然、目の前に全てを受け入れてくれる人が都合良く現れたような気分だ。
ずっと“違う”と言われて続けて、俺はもう誰にも理解されないと思い込んでいた。
「コンプレックスが多いのは昔からなんですね」
「三年後も、今の俺と一緒?」
「うーーん……もうちょっと大人でしたね。プリンを口の端に付けたりはしてませんでしたよ」
スッと手を伸ばし、親指で俺の唇に触れてくる。
その仕草と俺を見つめる目付きが妙に色っぽく感じた。
俺に口元に付いていたプリンを取って、自分の口に運ぶ竹葉君に、顔が熱くなるのを感じる。
心臓がバクバクして、頭が真っ白になる。
「ん? 盃さん?」
「…………」
不思議そうな顔をする竹葉君が、なんだか急に近くなった気がした。
俺はこの人を知らないのに、とても懐かしく感じる。
それに、胸の奥で何かが疼く。
俺の異変に気付いたのか、心配そうに竹葉君は俺の手を握ってきた。
心地好い温もりと優しさ、俺に触れる躊躇の無さ……あ、駄目だ。
「(好きだ……)」
呆気なく、簡単に、俺は竹葉君にあっさりと、恋心を抱いてしまった。
「大丈夫ですか? そろそろ休みます?」
竹葉君の言葉に、小さく首を縦に振る。
本当は、まだ離れたくない。もっと触れていたい。
けれど、俺が一方的に好きなだけで、竹葉君の気持ちを無視して蔑ろにしたくない。
彼をもっと知りたい。
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