【R18】乾き潤いワッハッハ!【BL】

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番外編②

第二話・家族

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 竹葉と三連休の予定を立てながら、充実した日々を送っていた。
 そんなある日のこと。

『ピリリリ! ピリリリ!』
「!……はい、もしもし?」
『あ、もしもし盃?』
「母さん? どうしたの?」
『実は……あんたに見合いの話が来ててね……今度の三連休、忙しいかい?』
「…………」

 見合い?
 昔の事件以降、結婚について一切言ってこなくなった母親から、何故そんな話が出るのか。

『ごめんなさいね。一度お断りを入れたんだけど、お相手の方がどうしてもって……言うものでねぇ……』
「会うだけ……なら」

 母親の困り果てた声に心が痛む。
 まぁ、しっかり断ればいい。
 三連休の一日が潰れるが、一日だけなら仕方ないか。

「竹葉、ちょっと」
「ん?」
「三連休の一日目に実家に行かなきゃいけなくなった」
「え……」

 俺の言葉を聞いて、寂しそうな表情を浮かべた恋人の頭を優しく撫でる。

「お見合い話があってさ」
「ふぁ!?」
「断ってくるから」
「……う、うん」
「不安なら、一緒に来る?」

 いっそ両親に竹葉を紹介して……いや、それは竹葉の気持ちも考えて慎重に。

「いいのか!? じゃ、ご挨拶に何持ってたらいいかな!? 息子さんを僕にくださいって頭下げた方がいい!?」
「この突貫野郎。愛してる」

 嬉々として、どんな服で行くべきか、菓子折りは、花束はと相談する竹葉は、もうすっかりその気になっていた。
 この勢いでは、俺が見合い相手と会う前に実家へ突撃されそうだ。
 俺と竹葉の交際を家族に報告するのはいい。俺の性的指向も打ち明けてあるし、受け入れられている。
 けれど、そうなるとどうしてもと言って見合いに来た相手が完全アウェイになる可能性がある。それはあまりに不憫だ。

「挨拶は見合い終わりにして」
「わかった!」

 こうして俺は、久しぶりに実家へ帰る事になった。

※※※

 土曜日。
 身なりを整え、竹葉と共に朝早く家を出て、電車に乗り込む。
 普段よりも早い時間だというのに、三連休の影響か車内はそれなりに人が居た。
 座席に座って窓の外を眺めていれば、ビルが減っていき、見覚えのある見渡しのいい景色になっていく。セピア色の記憶が蘇り、懐かしさが込み上げる。じんわりと胸に沁みるが、嫌な事も俺の脳裏を掠めていく。

「…………どうした?」
「ぇ、あ……いや、昔の事思い出して」
「まぁ、実家だからって良い思い出ばっかじゃないよな。うんうん」
「そうだね……綺麗な思い出ばっかじゃないなぁ」

 大人になった自分の手に視線を落とす。暗い記憶が、昨日の事のように蘇ってくる。
 この記憶とは、きっと一生付き合っていかなければならない。
 
「はぁ~~……帰りてぇ」
「よしよし、憂鬱だな」

 竹葉の肩に寄り掛かって弱音を吐くが、無情にも目的の駅に到着した。
 電車を降りて改札を抜ければ、ごく普通の住宅街に出る。
 竹葉が物珍し気にキョロキョロしながら辺りを見回している。

「特に変わったものないよ?」
「いや、盃の地元だと思うとソワソワして……」

 可愛い奴め!
 ギュッと抱きしめてキスをしたくなるが、ここは外なので我慢しておく。

「駄菓子屋だ」
「あーまだやってたんだ」

 駄菓子屋の店先では、店主であるお婆ちゃんがのんびりと座って店番をしていた。
 百円握りしめて友達とよく来たなぁ……
 俺が幼い頃に見た光景と全く同じだった。
 懐古に浸っていると、竹葉が俺の袖を引っ張った。
 竹葉が何やら困った表情をして、とある方向を指差す。

『グルゥゥゥ!』
「嘘だろ……」

 ココらの小中学生の天敵。誰彼構わず吠え散らかす大型犬が、ご健在で俺は目を疑った。
 もう十年以上経ってるのに……

「(あれ? 毛並みが似てるけど違う……まさか、子ども?)」
「盃、あの犬なんであんな威嚇してくるんだ?」
「……さぁ?」

 竹葉は俺の背中に隠れながら、怯えたようにチラチラと番犬の様子を伺っていた。
 何年も吠えられ続けて何度も泣かされてきた俺は、そこを無心で通り抜ける。

『バウッバウ!!』
「びゃっ!?」

 竹葉が悲鳴を上げながら俺の歩幅に合わせて、吠える犬の前をなんとかやり過ごした。

「こっわ……」
「竹葉、犬苦手?」
「……昔、大型犬に引き摺り回されて車に頭部轢かれかけた」
「こっわ!!」

 ゾッとする体験談を聞いて、思わず声が出た。
 犬に付属した恐怖がデカすぎる。俺だってそんなのトラウマになる。

「お! すげぇ!」

 竹葉はまたも何か見付けたようで、パッと表情を明るくさせ、前方の大きな家を指差した。

「日本家屋の豪邸だ! ヤクザの棟梁が住んでそう」
「あれ俺んち」
「へぇーーーーごめんなさい」
「許す」

 竹葉が言ったように、俺の実家はデカい。横に。
 母屋と離れがあり、広い庭と家をぐるっと塀が囲っている。
 門扉を開けて敷地内に入ると、手入れされた植木と砂利道が出迎えてくれる。

「うへぇ、めちゃくちゃ広いじゃん」
「敷地だけは無駄にあるから」

 俺は慣れ親しんだ玄関のインターホンを鳴らす。すると、バタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。

『ガラガラ』
「盃、おかえり」

 出迎えたのは、道着姿の中年男性……俺の兄・一器かずきだった。

「ただいま。相手は?」
「まだだ。ん? そっちは誰だ?」
「ああ、俺の付き添い」
「お、お邪魔します」

 一器は興味なさげに頷いて、俺の手をガシッと掴む。

「見合い前にひと勝負だ」
「いや、いやいやいや!」
「駄々を捏ねるな」
『グイグイグイ!』
「するなら見合い後、見合い後に道場行くから!」

 馬鹿力で引っ張られ、咄嗟に見合い後と提案してしまった。

『パッ』
「見合い後だな。では、道場で待つ」

 俺の言葉を聞いて手を離した一器はさっさと道場看板が掲げられた離れ兼道場へと歩いていった。

「え、なに今の」
「兄ちゃんの一器だ。俺の家、中国武術の八極拳を殺意高めに独自分派させたご先祖が立ち上げた道場を代々受け継いでてさ。さっきの人が八手流武術の師範代」
「へぇ……盃が中国武術に長けた選手って聞いてたけど、出自で納得だ」

 幼少期から兄達とボコボコにされ続けて覚え込まされたからな。
 特に俺は筋が良かったらしく、足し算覚える前に受け身覚える程の英才教育を施されてた。
 特訓を思い出して口の中がしょっぱくなる中、竹葉を俺の私室へ案内する為に廊下を歩く。
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