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第十一話・告白②
しおりを挟む湯船に手をついて腰を突き出してもらい、後ろの孔を確認する。収縮を繰り返す健気な窄まりに指を入れて隙間を少し作れば、精液がお湯と共に溢れてきた。昨日の分もあるようで、結構な量だ。
『とぽ……とぽぽ……』
卑猥すぎる光景を目に焼き付けるように凝視してしまう。
すると、盃さんが羞恥心に顔を染めながら、睨みつけてくる。
「……た、竹葉君の変態」
罵倒してくる盃さんだが、全然怖くない。恥ずかしがってる盃さんにむしろ興奮する。
もう一度犯したい衝動をぐっと堪えて、後ろの後処理をしっかり行う。
これ以上やったら本気で嫌われるかもしれない。
「変態ですよ。貴方限定で」
そう言うと、言葉に詰まって顔を逸らした盃さん。そんな彼の顔に手を添えてこちらに向かせる。
そして、触れるだけの軽いキスをした。
「……盃さん……ご飯食べましょうか」
「…………ん」
複雑な表情で頷く盃さん。
風呂を出て、ザッと髪を乾かしてから昨日の蕎麦出汁にお餅と菜葉を入れたものを二人で胃に入れる。案外美味い。
身体の芯にじんわりと染み渡る優しいお味。気が緩む。
食べ終わった後、机を挟んで向かいに座っていた盃さんが話し始める。
「……あのさ……」
「はい」
「さっきの……俺が、思ってるような人じゃないって話……」
「はい」
少し言い淀んでから、意を決したように口を開く。
「俺、実は……結構……野蛮で……」
「(え?)」
「人と殴り合うのが、その……好きで……趣味で……人と殴り合ってるんだ。マジで」
あれ? もしかて……
「(コレって、あの事言ってる?)」
「向き合って意識が研ぎ澄まされる感覚と、人を……殴り倒すのが、快感で……ぁ、ごめん。マジで俺、頭おかしいんだよ」
意を決して俺に伝えてくれている盃さんの顔色は、緊張から血の気が引いている。
落ち着きなく、腕を摩って視線も定められず泳いでいた。
「(アレ? 盃さん?)」
「だから……SEXする時とかは……まぁ、それなりに気を使ってるけど……いつ、怪我させるかわからないし」
「…………」
「……やっぱり、幻滅するよね? 好きになった男が暴力男なんて……」
なるほど。そういうことですか。
「盃さん。総合格闘技大会出てますもんね」
「うん…………へ??」
「殴り合いって言っても、アレはスポーツですし……」
俺の言葉を聞いて、今までにないほどパッチリと目を見開いた盃さん。
「……え?」
「盃さん……いえ、杯杯多さん。俺は貴方も愛してます。リングで心底楽しそうに笑い、拳を振るって勝ち上がる貴方が好きです」
「竹葉君!? ななな、なん、なんで、知って」
「偶然、大会に行ったら居たので…」
「居ても普通気付かないよ!」
「気付きますよ。あんなに目立ってたら」
殴り合いが好きだと言うのは本当の事だろうけど、無闇に暴力を振るっているわけではない。
「八手 盃さん、貴方が好きです。俺と付き合ってください」
「……」
「ダメなら、俺の事殴ってください」
「……っ!」
『ガタン!』
泣きそうな顔で立ち上がって拳を振り上げる盃さん。
俺は瞬きもせずに真っ向から受ける態勢になる。
衝撃は、まだこない。
拳を構えたまま、盃さんは困惑気味に俺を見下ろしている。
「………なんでガードしないの」
「素人が下手に動くと怪我するので……」
「……はぁ……もう、本当に……君は馬鹿だ」
「知ってます」
俺も立ち上がって、盃さんの振り上げた手を掴んで引き寄せる。
盃さんは大人しく俺の腕の中に収まった。
「俺なんかで良いの?」
「盃さんが良いんです」
「俺、男だし……筋肉あるし……竹葉君よりデカいし……力すげえ強いし……」
「お得ですね!」
「オ、オプション扱いしないで!」
盃さんの気にしてる事は、俺にとっては盃さんを形成する大事な要素でしかない。
思ったよりも、コンプレックスの多い人なんだな。
「盃さんの事たくさん知れて嬉しいです」
「……可愛くもない三十路のおっさんだよ?」
「俺にとっては誰よりも魅力的な人ですよ」
「…………はぁぁ……ふふ」
盃さんは諦めたようにため息をつくと、気が抜けたように、ふんわりと笑った。
その笑顔がとても綺麗で、思わず見惚れてしまう。
盃さんが顔を寄せ、唇が俺の鼻に当てる。すぐに離れてしまったけど、恥ずかしそうに俯く盃さんが、たまらなく愛おしい。
「盃さん……俺の、恋人になってください」
もう一度告白すると、盃さんは小さく首を縦に振ってくれた。
俺は嬉しくて、力いっぱい盃さんを抱き締めた。こんなに幸せな事があるだろうか。
「……君とだけは、今の関係を壊したくないって、思ってた」
「ああ、言ってましたね」
「俺の暴力的な部分知れば、君もきっと俺から離れてくと思ってた……だから、告白なんて聞きたくなかったんだ」
俺の告白を断れば、今まで通りとはいかない。関係は即座に壊れる。逆に受け入れても、格闘家である自分を知られれば関係はいずれ壊れると思ってたようだ。
それならば、現状の肉体関係を続けていた方が盃さん的には平和だったんだろう。
けれど、俺はそんな盃さんの気も知らず、告白に踏み切ってしまった。
でも、俺との現状維持を願っていたということは盃さんも……
「俺も……君が好きだよ」
俺の背に腕を回して抱き締め返してくれる盃さ──
『ミシミシ……』
「ゔぇッ!」
力つっっよ! 腹と背中がくっつきそうだ!
でも、盃さんが手加減無しで抱き締めてくれている。
力強さにコンプレックスを抱いているのに、それを隠さず俺に晒してくれている。
コレはただの力強い抱擁ではない。俺が盃さんにとって信頼出来る恋人となった証でもある。
俺は、盃さんに抱き潰されないよう必死に踏ん張った。
「……竹葉君」
「?」
「ありがとう……」
今にも泣きそうな笑顔だった。
この人の事を精一杯大事にして、この人だけに俺の愛を捧げたい。後悔させない。
そう決意した。
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