都合の良いすれ違い

7ズ

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おまけ

17:妹

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※メリッサ目線





 昔の話。

「兄さぁん! 兄さぁああん!」
「はっ……はっ……やめろ、やめろぉ! やめろやめろぉおお!! うわあああああ!!」

 今でも、夢に見る。
 親戚も、両親も、友達も……踏み潰されて、食い貪られて……そして、そのどれかに自分も加わる寸前だった。
 小さな自分とそう変わらない唯一の生き残りの兄に縋るしかなかった。
 魔物の牙が腹を食い破る焼け付くような痛み。振り回される身体が地面に打ち付けられて骨が折れる音が脳に響いた。
 千切れかけの私を抱いて呼吸を忘れたように叫ぶ兄。

「メリッサ、メリッサ! 死ぬな! 死ぬなよ!」

 無茶言うな。死ぬ。もう死ぬ。

「うっ、うう、メリッサ、死なないでくれよぉ」

 生きる為に必要な何かが傷口から流れ落ちる。鉄臭いそれが流れて止まない。
 意識が沈んでいく……最後に見た兄の顔は、泣き叫んでくしゃくしゃになった顔だった。





「……あ、れ?」

 目が覚めるとは思わなかった。

「メリッサ……メリッサ、大丈夫か?」
「大丈夫なわけないだろ。身体千切れかけてんの無理矢理繋げたんだ。コレから継続して治療しないと死ぬ」
「……誰?」
「ぉ、お医者さん! メリッサの事治してくれるから、もう安心して。兄さんが全部、全部なんとかするから」

 医者と言うには、あまりにも……あまりにも、異様な姿。
 そもそも、人間でさえない。兄は私を抱き締めてまた泣き出してしまった。
 私達は臆病で弱虫だから、生き残れたけど……もう運は尽きたのかもしれない。







「スレーブ、気合い入れて走れ!」
「はい!」

 兄さんが医者だって言ってたのに、めちゃくちゃ特訓されてる。
 今日の食事だってまともに確保出来ないような状況でも、毎日毎日扱かれてる。
 それが何の為か、私はわからなかった。

「おれ、じゃなくて、私も頑張る!」
「わたし?」
「こっちの方が印象良いって」
「誰に向けての?」
「国」

 掃討人と言う国で一番危険で高給取り職を、初めて知った。
 私の治療費の為に、医者でも人間でもないベルエムって悪魔に送り出されて、兄は地獄のような場所で日々拳二つで生き抜いていた。

 兄は……スレーブ兄さんは、本当は臆病で、弱虫だったのに。それで良かったのに。
 魔物と……悪魔が……兄を変えた。
 国一番の強者。

「……ねえ、ベルエム。これ治療じゃないでしょ」
『ギク』
「自分の体だもの。すぐに分かる。どういうつもり?」
「…………スレーブには、黙っててくれ」
「なんで? 治療が要らないなら、兄さんは危機な仕事しないで済むんだけど」
「頼む……」

 ベルエムが、兄を騙し始めたのは掃討人になってすぐの頃。
 私の傷は既に完治していた。
 兄がこの悪魔を愛してるのを知ってたから、契約を続けてベルエムを捕まえておく必要もあったから、言う通り黙っていたけど……それが無駄な事だと悟ったのは、私が成人した年。

「やぁ、ぁ……あ、べる、えむ」
「はぁ……スレーブ、口を開けろ」
「んぅ、んっ」

 偶然見てしまった。兄と悪魔の逢引き。
 当人達はバレていないつもりだろうけど、もう愛情がダダ漏れ。実際にお互いにはバレていなかった。
 両想いだと二人の前でバラしても意味がない。
 ちゃんと自分の口で伝えて欲しい。自分で幸せの道を歩んで欲しい。







 現在、私はスレーブ兄さんとベルエムの新居に来ていた。

「はぁ~~……本当に長かったわ」
「心労かけてごめん」
「今日は昔の夢見たから、余計に……私をダシにイチャイチャとさぁ」
「すまなかったメリッサ。けれど、お前のおかげでスレーブとずっと繋がっていれた」
「ふん。あんたが根性出したらもっと早くこうなってたっての」

 ベルエムがしょぼんっと情け無い顔をして机にパイを置いた。
 懐かしい匂いに、目頭が熱くなる。

「(……貧乏で、今日食べる物が無いって程にひもじい思いをしたけど、三人で居るのは楽しかった)」

 あの時のパイは、美味しかった。とても。
 私だって、二人の事が大好きよ。大好きだから、幸せから遠ざかろうとするのが許せなかったし、イライラした。
 小言を言ってしまうけれど、祝福は心の底からしている。感謝だって。

「……昔以上に楽しい毎日が過ごせるようにしなさいよ。ベルエム」
「勿論だ。てゆーか、何回目だそれ」
「私は毎日幸せだし、楽しいよ」
「スレーブっ……!」

 やれやれ。末永くお幸せに。私の大好きなお二人さん。

END
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