18 / 18
おまけ
17:妹
しおりを挟む※メリッサ目線
昔の話。
「兄さぁん! 兄さぁああん!」
「はっ……はっ……やめろ、やめろぉ! やめろやめろぉおお!! うわあああああ!!」
今でも、夢に見る。
親戚も、両親も、友達も……踏み潰されて、食い貪られて……そして、そのどれかに自分も加わる寸前だった。
小さな自分とそう変わらない唯一の生き残りの兄に縋るしかなかった。
魔物の牙が腹を食い破る焼け付くような痛み。振り回される身体が地面に打ち付けられて骨が折れる音が脳に響いた。
千切れかけの私を抱いて呼吸を忘れたように叫ぶ兄。
「メリッサ、メリッサ! 死ぬな! 死ぬなよ!」
無茶言うな。死ぬ。もう死ぬ。
「うっ、うう、メリッサ、死なないでくれよぉ」
生きる為に必要な何かが傷口から流れ落ちる。鉄臭いそれが流れて止まない。
意識が沈んでいく……最後に見た兄の顔は、泣き叫んでくしゃくしゃになった顔だった。
「……あ、れ?」
目が覚めるとは思わなかった。
「メリッサ……メリッサ、大丈夫か?」
「大丈夫なわけないだろ。身体千切れかけてんの無理矢理繋げたんだ。コレから継続して治療しないと死ぬ」
「……誰?」
「ぉ、お医者さん! メリッサの事治してくれるから、もう安心して。兄さんが全部、全部なんとかするから」
医者と言うには、あまりにも……あまりにも、異様な姿。
そもそも、人間でさえない。兄は私を抱き締めてまた泣き出してしまった。
私達は臆病で弱虫だから、生き残れたけど……もう運は尽きたのかもしれない。
「スレーブ、気合い入れて走れ!」
「はい!」
兄さんが医者だって言ってたのに、めちゃくちゃ特訓されてる。
今日の食事だってまともに確保出来ないような状況でも、毎日毎日扱かれてる。
それが何の為か、私はわからなかった。
「おれ、じゃなくて、私も頑張る!」
「わたし?」
「こっちの方が印象良いって」
「誰に向けての?」
「国」
掃討人と言う国で一番危険で高給取り職を、初めて知った。
私の治療費の為に、医者でも人間でもないベルエムって悪魔に送り出されて、兄は地獄のような場所で日々拳二つで生き抜いていた。
兄は……スレーブ兄さんは、本当は臆病で、弱虫だったのに。それで良かったのに。
魔物と……悪魔が……兄を変えた。
国一番の強者。
「……ねえ、ベルエム。これ治療じゃないでしょ」
『ギク』
「自分の体だもの。すぐに分かる。どういうつもり?」
「…………スレーブには、黙っててくれ」
「なんで? 治療が要らないなら、兄さんは危機な仕事しないで済むんだけど」
「頼む……」
ベルエムが、兄を騙し始めたのは掃討人になってすぐの頃。
私の傷は既に完治していた。
兄がこの悪魔を愛してるのを知ってたから、契約を続けてベルエムを捕まえておく必要もあったから、言う通り黙っていたけど……それが無駄な事だと悟ったのは、私が成人した年。
「やぁ、ぁ……あ、べる、えむ」
「はぁ……スレーブ、口を開けろ」
「んぅ、んっ」
偶然見てしまった。兄と悪魔の逢引き。
当人達はバレていないつもりだろうけど、もう愛情がダダ漏れ。実際にお互いにはバレていなかった。
両想いだと二人の前でバラしても意味がない。
ちゃんと自分の口で伝えて欲しい。自分で幸せの道を歩んで欲しい。
現在、私はスレーブ兄さんとベルエムの新居に来ていた。
「はぁ~~……本当に長かったわ」
「心労かけてごめん」
「今日は昔の夢見たから、余計に……私をダシにイチャイチャとさぁ」
「すまなかったメリッサ。けれど、お前のおかげでスレーブとずっと繋がっていれた」
「ふん。あんたが根性出したらもっと早くこうなってたっての」
ベルエムがしょぼんっと情け無い顔をして机にパイを置いた。
懐かしい匂いに、目頭が熱くなる。
「(……貧乏で、今日食べる物が無いって程にひもじい思いをしたけど、三人で居るのは楽しかった)」
あの時のパイは、美味しかった。とても。
私だって、二人の事が大好きよ。大好きだから、幸せから遠ざかろうとするのが許せなかったし、イライラした。
小言を言ってしまうけれど、祝福は心の底からしている。感謝だって。
「……昔以上に楽しい毎日が過ごせるようにしなさいよ。ベルエム」
「勿論だ。てゆーか、何回目だそれ」
「私は毎日幸せだし、楽しいよ」
「スレーブっ……!」
やれやれ。末永くお幸せに。私の大好きなお二人さん。
END
17
お気に入りに追加
46
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
捨て猫はエリート騎士に溺愛される
135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。
目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。
お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。
京也は総受け。
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
俺は勇者のお友だち
むぎごはん
BL
俺は王都の隅にある宿屋でバイトをして暮らしている。たまに訪ねてきてくれる騎士のイゼルさんに会えることが、唯一の心の支えとなっている。
2年前、突然この世界に転移してきてしまった主人公が、頑張って生きていくお話。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる