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12:家族 END
しおりを挟む「うッ……喉が」
「アレだけ啼けばな」
喉を抑えたスレーブが水を求めて上半身を起こす。
「……ベルエム」
「ん?」
「あ、いや……その」
口ごもるスレーブに、ベルエムはクイっと片眉を上げた。
「どうしたんだ?」
スレーブが意を決した様にベルエムの方を向いて正座をした。つられてベルエムも向かい合って姿勢を正す。
大きな深呼吸を一つして、スレーブはゆっくり口を開く。そしてはっきりとした声で話し始めた。
「子どもが出来たら……私と、正式に、か、かぞ、家族に、なって……欲しい」
「……今すぐにでもならないか?」
「うぇ!? 今から!?」
「そうだ」
スレーブの手を取り、薬指に口付けて何やら呪文を唱えると。
『キンッ』
甲高い金属音と共に現れたのは、美しい宝石が嵌め込まれた銀の指輪。
「遅くなって悪い。スレーブ、俺と結婚してくれ」
「…………」
子作りや家族宣言までしておいて、いざ真正面から純粋にプロポーズをされるとなると、スレーブは信じられないと言う表情で固まってしまった。
「…………………お、俺でいいのか?」
「お前がいい」
「……本当に?」
「お前しかいないんだ」
「……………」
指輪の嵌った指を絡めて手を握る。鍛錬の積まれたスレーブのゴツゴツした手の感触が心地良い。
「……あ、りがとう」
「結婚してくれるか?」
「うん」
「不安と苦労かけた分、幸せにしてやる」
「わた、私も、幸せにするから!」
スレーブは感極まり、ベルエムに抱き着いた。力強い抱擁を受け止め、スレーブの背中を軽く叩く。
「メリッサに報告しないと。驚くだろうな」
「……そ、そうだな」
互いにメリッサが背を押していた事を知らない。スレーブよりも、どつき回されていたベルエムの方はメリッサの驚く顔より、呆れた顔がすぐさま浮かんだ。
そして、案の定……
「はぁぁぁ……やっと一緒になる気になったんだ」
「え? え? そんな感じ? もっと感激するかと」
職場から帰ってきたメリッサに報告すると、深い溜め息を吐きながら豪勢な料理が並ぶ食卓の椅子に腰を下ろした。
「感激する時期には十年遅いって。ずっと見てたから知ってたよ。両片想いの事」
「「え?」」
「こっちからチクるわけにもいかないし、天下の掃討人と万能な悪魔が女々しくウダウダウダウダウダウダしてるのを見せ付けられたこっちの身にもなってよ。焦った過ぎて、もう焦がす身も無いわ」
肩の荷が降りたとばかりのメリッサから告げられるすれ違い歴。
目を合わせる二人はだいぶ間抜けな顔をしていた。
「けど、おめでたいのは本当だし、お祝いはしましょう。ほら、座って座って」
準備したのは二人のはずなのに、メリッサにあれよあれよと座らされ、祝杯のムードへ。
「二人の婚約にかんぱ~い」
『カチン』
ワインを煽るメリッサは上機嫌だ。呆れながらもちゃんと喜んでくれていた。
「……メリッサ、いろいろ心労かけたな。お前の為にって言い訳して、自分のエゴを隠しちまって。結局は自分の為でしかなかったよ」
「兄さんが危険な仕事して大金稼いでくれたおかげで生きてるのは事実だし、私を出しにベルエムに抱いてもらっていたとしても、半分は本当に私の為だったでしょ? お釣りがくるぐらい兄さんには恩があるから気にしないで」
「俺も随分と世話をかけた」
「あんたはマジでヘタレで姑息な悪魔だわ」
「スレーブに比べてすげえ態度の違いだな!」
パスタを巻くベルエムがメリッサに言い返すが、特に返答変わらず。
「兄さんに危険な仕事させて無意味に貢がせ続けてたのは何処の誰よ。自分は動かず甘い汁だけ啜って、まさしく悪魔の所業だったじゃないの」
「メ、メリッサ、言い過ぎだろ」
「くっ、良いんだスレーブ。事実でしかない」
「コレから二人でしっかり幸せにならないと許さないんだから」
「「……はい」」
一番自分達を気にかけてくれていたメリッサから祝福の釘を打たれてしまった。
コレは是が非でも幸せに暮らさなければならないなっと机の下でスレーブの手を握るベルエム。
「私もそろそろ結婚するから、丁度いいタイミング。今度、彼氏連れてくるから時間空けといて」
「……え!? け、結婚!?」
「もう適齢期なんだからそんな驚かないでよ。恥ずかしい」
大人の女性であるメリッサが、交際していた男性と結婚するとの知らせを聞いて驚くスレーブを、当の本人はやれやれといった感じで戒めた。
「俺も同席していいのか?」
「家族なんだから、いいに決まってるでしょ。それに悪魔の目利きは頼りにしてる」
結婚して豹変する男性は悲しい事にまぁまぁ多い。そこを見極められる悪魔の目利きは非常にうってつけだ。
「任せろ。欲望を見るのは慣れている」
悪魔らしい笑顔を浮かべるベルエムにメリッサは鼻で笑い、スレーブはときめいていた。
掃討人スレーブと悪魔ベルエムの弟となるメリッサの彼氏の胃が頑丈である事が願われる。
※※※
スレーブとベルエムが結婚して二十年の月日が過ぎた。
スレーブはとある大討伐の任務を終えてからは弟子の育成に励み、掃討人を引退した。
現在、相変わらずレベルの高い依頼が舞い込むメルデンディアの掃討人は二名。
「ルーブル、これ母ちゃんから伯父さんにって」
「おお、ロゼッタ。ありがとう。父さん達に渡しとくよ」
双方、齢十七にして国から認められた歴代最年少の掃討人。
ハーフデビルの拳闘士、ルーブル。
人間離れした魔力量を誇る魔法士、ロゼッタ。
姿が随分と違うが、従兄妹である二人は仲が良い。
「ロゼッタは、今から討伐?」
「ううん。シャバルナさんから新しい転移門の設置を手伝って欲しいって伝達来たから、エレメントの方に行く」
「そうか。事故らないように気を付けろよ」
「うん」
時代は進み、国と国を行き交うのも日を跨ぐ事がない。
様々な物が道具に置き換わり、便利な世の中になりつつある。
そんな変動を繰り返す時代の流れに、特に振り回されず不変を貫く者達がいる。
「スレーブ、体調はどうだ?」
「大丈夫だって。毎度過保護だな」
「まだ三人目だ。油断はできない」
ベルエムとスレーブは月日に反して老いは見られず、変わらず愛し合っていた。
「メリッサは双子ちゃん含めて五人も産んでるのに、毎度臨月までバリバリ仕事してるんだぞ」
「メリッサの頑丈さは治療の影響だ。比べるんじゃない。それに男のお前に何かあったら俺しか対応出来ない」
まだ控えめな膨らみの腹部を撫でながら、愛おしそうにベルエムはスレーブの頬に口付けた。
「……そうだな。けど、ベルエムも私に構ってばかりいたら、またロブロイがヘソを曲げるぞ」
「学校から帰ってきたら、遊んでやるさ」
「頼むよ」
スレーブもベルエムの頬へ口付けを返す。
何年経とうが、二人の間に甘い空気はまだまだ溢れ、枯れる気配はない。
『ガチャ』
「ただいま~……また真昼間からイチャイチャしてんの?」
「おかえりルーブル。怪我は無い?」
「平気平気。コレ、叔母さんから」
「……懐かしい臭いだ」
ルーブルが持ち帰ってきた手土産は、メリッサが焼いたパイだった。
「…………あの店が無くなって随分経つけど、昨日の事のように思い出せるよ」
「父さん達の思い出の品ってヤツ?」
「ああ。ロブロイが帰ってきたらみんなで食べよっか」
「ええー今食っても良いじゃん」
「我慢しなさい」
掃討人として立派に活躍しているルーブルも親の前では、まだ子どもだ。
「じゃ、ロブロイが帰ってくるまで手合わせしてよ」
「しょうがないな」
ベルエムが腕を回して庭へと出て行く。
我が子と笑い合うその姿を見守るスレーブは、まだまだ幸せの真っ只中に居ると実感した。
「……怖いくらいだ。君が産まれたらもっともっと幸せになってしまうんだから」
変わらぬ愛と際限ない幸福に満たされながら、スレーブはベルエムとルーブルが庭を壊さぬよう釘を刺しに行った。
END
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