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7:コンビ討伐②
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軽快にスキップをしながら大森林へ向かうシャバルナの隣を歩くスレーブ。
「潜華蟲の魔力は見えるんですか?」
「ああ……言われてみればって感じ。けど、何かおっかしいなー」
額に手を当てて、目を細めながらシャバルナは断定しない。掃討人たるもの、思い込みで動いては死に直結する。
「スレーブ、潜華蟲以外の可能性はなんだと思う?」
「……わからない」
「僕も」
模索しても、わからないものはわからない。
「作戦はそのままでいいか」
「はい。よろしくお願いします」
「……お前真面目でかったいなぁ。もうちょっと緩くてもいいんじゃねぇの? 天下の掃討人だろ? 威張っても誰も口出しできないってのに」
「俺は、シャバルナさんのように感情豊かな方ではありません。公私混同を分けるのも、得意ではありません」
「なんか必死だな。まっ」
シャバルナはパンッと手を叩いて快活に笑う。そして、スレーブに向けて笑いかけながら『バーン』と鉄砲を撃つ仕草をする。
「折角のツーマンセルだしな! 楽しく行こうや」
楽しむ余裕があるのか疑問だと思いながら、問題の大森林の出入り口が遠目に見えた。森林の木々よりも背の高い一輪の花、ドリームフラワーの姿も見える。
「……うっわ」
「?」
「スレーブ、初撃で戦闘の流れが決まるぞ。負け確か、勝ち確か」
「…………なら、勝ちましょう」
スレーブがその場に身を屈め、短距離走行に適した体勢を取る。
それを見たシャバルナも小振りな杖を取り出し、補助魔法と攻撃魔法を多重展開し、戦闘態勢に入る。
──ドンッ!
砲弾が撃ち放たれたような重い音を響かせ、スレーブが走り出した。
瞬時に鋼と化した花弁を撃ち出し、スレーブを迎撃するが、シャバルナが的確に全て魔法で相殺した。
『パァンッ!』
「(結界!?)」
ドリームフラワーをガラスドームのように覆う結界が張られていた。
スレーブの拳は結界を貫いたが、体を捻じ込める程の穴は開いていない。
スレーブのコンマ数秒の隙を見逃す事なく、腕を食いちぎらんと結界を一気に修復する。
『パキン!』
しかし、甲高い氷結音を立てて氷が修復部位を凍て付かせた。
すぐさま腕を抜き去り、足元の踏ん張りを効かす。
「フン!!」
『バリン!!』
もう一方の拳を結界に突き立て、内部に爆弾を放り込んだ。
すぐさま距離を取り、結界を擦り抜ける花弁の斬撃を躱す。
「(コレで)」
『カン!』
結界の中に放り込んだ爆弾が、何者かによって結界の外へと弾き出された。
『ボォオン!』
「!」
事態を察したスレーブは、回避を取りながら動き続け周囲の気配を探る。
「(幹に妙な膨らみがある。寄生されているのは確かだが、爆弾を弾いたモノは結界の外から入ってきた。即ち、結界はドリームフラワーと潜華蟲の物ではなく、第三者の術者が結界を展開している)」
シャバルナがドリームフラワーを眺めて首を傾げていた原因だと、スレーブは勘付きながら一時的に距離を取る。
花弁の弾幕はシャバルナがほぼ防いでくれていたが擦り抜けてくる攻撃があった。
寸前で回避を行えば、地面に斬撃の染みが広がる。
「(ッ……水)」
属性魔法の使い手であり、透明な水の刃では射撃位置が掴みにくい。
「(…………仕方ない。役割分担だ。意思疎通の出来ない今、お互いの判断力に委ねるしかない)」
スレーブは、回避を辞めて結界へ拳の連打を叩き込む。
ひび割れた結界の大穴に身を投じれば、幻覚作用を持つドリームフラワーの花粉が舞い満ちていた。
呼吸を止め、目を瞑り、自分の感覚を信じて両手を合わせた状態で突き刺すように伸ばす。
『ドシュ!』
太い茎に指先から肘まで繊維に突っ込み、身を捩じ込まん力技で、ドリームの茎を左右真っ二つに引き裂いた。
不自然な膨らみから、ズリョンと大きな芋蟲が裂けた茎から零れ落ちる。
潜華蟲の落っこちる手応えを感じたスレーブは、ドリームフラワーの萼まで茎を掴んで駆け登った。
そこで漸く目を開けて、花の状態を目視した。
「(潜華蟲の支配が無くなった途端、弄られた箇所が一気に腐ってる。鋼の花弁もやわやわだ……哀れな)」
『ドゴォン!』
潜華蟲に貪られ皮だけになったドリームフラワーは、スレーブの拳一発で潜華蟲諸共地面にその身を沈めた。
「(シャバルナさんは……ッ)」
スレーブが顔をあげた瞬間、眼前に水の刃が砂埃に隠れて迫っていた。
気付くのが遅れ、ダメージを最小限に抑えようと身体を捻る。
『パァン』
「!」
しかし、スレーブの鎧も身も傷付ける前に水の刃は上空から放たれた魔法で相殺された。
発射地点を見上げると、後方の浮遊魔法で空に立つシャバルナが居た。
魔眼の視線は大森林の中腹部へと注がれている。
「……すごいお手前じゃん。人間だったら、勧誘してたところだ」
『キィィ……ン』
『パシュン!』
魔力を圧縮し、光の球が幾重にも分岐し、目標へと向かい不規則な軌道を描く。
「二キロも離れた位置からの結界展開に加えて、とんでもない飛距離と速度の水刃。魔眼で魔力探知して見極めなけりゃ、スレーブも僕も危なかったな」
『パァアアン!』
大森林の中腹部で破裂音が響き渡ると、ドリームフラワーを囲っていた結界がボロボロと崩れ消えていく。
そしてフヨフヨと何かこじんまりとした物がシャバルナの元へ運ばれて行く。
スレーブが地面に降り立つシャバルナに駆け寄ると、ウッと驚きの声を上げた。
「……なんですかソレ」
「ホブゴブリンの頭。コイツが遠くから邪魔してたみたい。ホブゴブリンにしてはヤケに賢くて強い個体だった」
「ややこしくしていた原因ですね」
「おん……はぁ、一瞬だったけど、疲れたわぁ」
「援護、ありがとうございました」
スッと頭を下げて礼を言うスレーブに、シャバルナは腰に手を当てて言葉を受け取った。
「確かに僕のお陰でもあるな! フン!」
「魔法での相殺はお見事でした。最後の魔法は美しい花火のようで」
「やめろい! 一言でいいんだよそういう褒め言葉は! あんたが早々に潜華蟲の排除に動いたから僕もすぐホブゴブリンに的を絞れた。ほい、もうお終いお終い」
褒められて照れ臭くなったのか、シャバルナは頭を搔きながらマジックボックスにホブゴブリンの頭を突っ込んでさっさと歩き始めてしまった。
「(……無事に終わってよかった)」
「潜華蟲の魔力は見えるんですか?」
「ああ……言われてみればって感じ。けど、何かおっかしいなー」
額に手を当てて、目を細めながらシャバルナは断定しない。掃討人たるもの、思い込みで動いては死に直結する。
「スレーブ、潜華蟲以外の可能性はなんだと思う?」
「……わからない」
「僕も」
模索しても、わからないものはわからない。
「作戦はそのままでいいか」
「はい。よろしくお願いします」
「……お前真面目でかったいなぁ。もうちょっと緩くてもいいんじゃねぇの? 天下の掃討人だろ? 威張っても誰も口出しできないってのに」
「俺は、シャバルナさんのように感情豊かな方ではありません。公私混同を分けるのも、得意ではありません」
「なんか必死だな。まっ」
シャバルナはパンッと手を叩いて快活に笑う。そして、スレーブに向けて笑いかけながら『バーン』と鉄砲を撃つ仕草をする。
「折角のツーマンセルだしな! 楽しく行こうや」
楽しむ余裕があるのか疑問だと思いながら、問題の大森林の出入り口が遠目に見えた。森林の木々よりも背の高い一輪の花、ドリームフラワーの姿も見える。
「……うっわ」
「?」
「スレーブ、初撃で戦闘の流れが決まるぞ。負け確か、勝ち確か」
「…………なら、勝ちましょう」
スレーブがその場に身を屈め、短距離走行に適した体勢を取る。
それを見たシャバルナも小振りな杖を取り出し、補助魔法と攻撃魔法を多重展開し、戦闘態勢に入る。
──ドンッ!
砲弾が撃ち放たれたような重い音を響かせ、スレーブが走り出した。
瞬時に鋼と化した花弁を撃ち出し、スレーブを迎撃するが、シャバルナが的確に全て魔法で相殺した。
『パァンッ!』
「(結界!?)」
ドリームフラワーをガラスドームのように覆う結界が張られていた。
スレーブの拳は結界を貫いたが、体を捻じ込める程の穴は開いていない。
スレーブのコンマ数秒の隙を見逃す事なく、腕を食いちぎらんと結界を一気に修復する。
『パキン!』
しかし、甲高い氷結音を立てて氷が修復部位を凍て付かせた。
すぐさま腕を抜き去り、足元の踏ん張りを効かす。
「フン!!」
『バリン!!』
もう一方の拳を結界に突き立て、内部に爆弾を放り込んだ。
すぐさま距離を取り、結界を擦り抜ける花弁の斬撃を躱す。
「(コレで)」
『カン!』
結界の中に放り込んだ爆弾が、何者かによって結界の外へと弾き出された。
『ボォオン!』
「!」
事態を察したスレーブは、回避を取りながら動き続け周囲の気配を探る。
「(幹に妙な膨らみがある。寄生されているのは確かだが、爆弾を弾いたモノは結界の外から入ってきた。即ち、結界はドリームフラワーと潜華蟲の物ではなく、第三者の術者が結界を展開している)」
シャバルナがドリームフラワーを眺めて首を傾げていた原因だと、スレーブは勘付きながら一時的に距離を取る。
花弁の弾幕はシャバルナがほぼ防いでくれていたが擦り抜けてくる攻撃があった。
寸前で回避を行えば、地面に斬撃の染みが広がる。
「(ッ……水)」
属性魔法の使い手であり、透明な水の刃では射撃位置が掴みにくい。
「(…………仕方ない。役割分担だ。意思疎通の出来ない今、お互いの判断力に委ねるしかない)」
スレーブは、回避を辞めて結界へ拳の連打を叩き込む。
ひび割れた結界の大穴に身を投じれば、幻覚作用を持つドリームフラワーの花粉が舞い満ちていた。
呼吸を止め、目を瞑り、自分の感覚を信じて両手を合わせた状態で突き刺すように伸ばす。
『ドシュ!』
太い茎に指先から肘まで繊維に突っ込み、身を捩じ込まん力技で、ドリームの茎を左右真っ二つに引き裂いた。
不自然な膨らみから、ズリョンと大きな芋蟲が裂けた茎から零れ落ちる。
潜華蟲の落っこちる手応えを感じたスレーブは、ドリームフラワーの萼まで茎を掴んで駆け登った。
そこで漸く目を開けて、花の状態を目視した。
「(潜華蟲の支配が無くなった途端、弄られた箇所が一気に腐ってる。鋼の花弁もやわやわだ……哀れな)」
『ドゴォン!』
潜華蟲に貪られ皮だけになったドリームフラワーは、スレーブの拳一発で潜華蟲諸共地面にその身を沈めた。
「(シャバルナさんは……ッ)」
スレーブが顔をあげた瞬間、眼前に水の刃が砂埃に隠れて迫っていた。
気付くのが遅れ、ダメージを最小限に抑えようと身体を捻る。
『パァン』
「!」
しかし、スレーブの鎧も身も傷付ける前に水の刃は上空から放たれた魔法で相殺された。
発射地点を見上げると、後方の浮遊魔法で空に立つシャバルナが居た。
魔眼の視線は大森林の中腹部へと注がれている。
「……すごいお手前じゃん。人間だったら、勧誘してたところだ」
『キィィ……ン』
『パシュン!』
魔力を圧縮し、光の球が幾重にも分岐し、目標へと向かい不規則な軌道を描く。
「二キロも離れた位置からの結界展開に加えて、とんでもない飛距離と速度の水刃。魔眼で魔力探知して見極めなけりゃ、スレーブも僕も危なかったな」
『パァアアン!』
大森林の中腹部で破裂音が響き渡ると、ドリームフラワーを囲っていた結界がボロボロと崩れ消えていく。
そしてフヨフヨと何かこじんまりとした物がシャバルナの元へ運ばれて行く。
スレーブが地面に降り立つシャバルナに駆け寄ると、ウッと驚きの声を上げた。
「……なんですかソレ」
「ホブゴブリンの頭。コイツが遠くから邪魔してたみたい。ホブゴブリンにしてはヤケに賢くて強い個体だった」
「ややこしくしていた原因ですね」
「おん……はぁ、一瞬だったけど、疲れたわぁ」
「援護、ありがとうございました」
スッと頭を下げて礼を言うスレーブに、シャバルナは腰に手を当てて言葉を受け取った。
「確かに僕のお陰でもあるな! フン!」
「魔法での相殺はお見事でした。最後の魔法は美しい花火のようで」
「やめろい! 一言でいいんだよそういう褒め言葉は! あんたが早々に潜華蟲の排除に動いたから僕もすぐホブゴブリンに的を絞れた。ほい、もうお終いお終い」
褒められて照れ臭くなったのか、シャバルナは頭を搔きながらマジックボックスにホブゴブリンの頭を突っ込んでさっさと歩き始めてしまった。
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