都合の良いすれ違い

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6:コンビ討伐①

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 スレーブが冒険者ギルドへ顔を出すのは、掃討人としての業務だけだ。
 残り物依頼を完了させるという断定的な物だが、所属ギルド以外にも稀に駆り出される事がある。

「マコロ王国のギルドですか?」
「はい。そこで何十人も冒険者が犠牲になっていまして、そこの掃討人も重傷を負ってしまったそうです」
「それで俺に声がかかっているんですか」
「はい……難易度S級だそうです。他のギルドからもう一人掃討人が招集されているようなので、今回はコンビでの依頼遂行となります」
「……コンビ」

 いつも単機で行動していたが、今回の依頼は二人一組ツーマンセル
 実力も職も知らない掃討人と初対面で手を組まなければならない。
 しかし、スレーブは別段気にした様子は見せなかった。
 
「出立は明後日の朝。馬車をご用意しております」
「わかりました。ありがとうございます」

 相手が誰であれ、掃討人は手練れの強者ばかり。共通の目標があれば、会話は少なくても協力して依頼を遂行出来る。
 スレーブは、そう思っていた。



 マコロ王国の冒険者ギルドに到着したスレーブは、ギルド長に応対室へ案内される。

「……もう一人は?」
「まだ到着されておりません」

 馬車の長距離移動となれば待ち合わせ時間ぴったりとはいかないだろう。
 一時間のズレは覚悟していたが……

『カチ コチ カチ コチ』
「……来ませんね」
「ええ……」

 予定時間を三時間オーバーしていた。
 連絡も何も無く、ギルド長とスレーブの間に長く気不味い沈黙が降りていた。
 そして漸く、こちらへ向かってくる慌ただしくも軽やかな足音が聞こえ始めた。

『バタン』
「遅くなりやしたー! エレメント連合国の掃討人、シャバルナでーす!」

 ボサボサの癖っ毛をそのままに、長い前髪で目を隠し、スレーブよりも無精髭の目立つボロボロのローブを纏った男。
 見た目的には浮浪者だが、国を代表する掃討人で間違いない。

「おお、良かった。道中で何かあったのかと……」
「何も無かった。ただの遅刻。すいやせん」

 軽い謝罪をしてから、スレーブの隣にドカッと座り込む。そして、スレーブの方へと顔を向けた。

「相方さんはこの人かい? こりゃまた随分とゴテゴテな」
「メルデンディアの掃討人をしています。スレーブです」
「スレーブって……あの『殲滅のスレーブ』? うわっすげぇのとコンビ結成しちまった!」
「そういう貴方こそ。『魔眼のシャバルナ』はこちらへも名声は届いています」
「誇張される身にもなってくれ」

 ケラケラと笑う軽薄そうな男を兜のスリット越しに見つめる。スレーブは掃討人の性格を視野に入れていなかった事を後悔した。

「と、ともかく、お揃いになったので、早速依頼の説明をさせていただきますね」

 二人にギルド長から依頼内容を伝えられる。

「マコロ西部にある大森林の入り口に、魔物に分類される植物、ドリームフラワーが根を張ってしまったのです」
「ドリームフラワーって、幻覚を見せる肉食性の魔物か?」
「はい。通常ならば、魔法で幻覚対策を行えばC級の討伐依頼です。ですが、大森林に根付いたドリームフラワーは、何か異様でして……」
「土壌の変化で突然変異したんですか?」

 スレーブの言葉に、ギルド長は難しい顔をして問いに答える。

「これがまた不思議なことに、唯一の生き残りであるうちの掃討人曰く最早別の魔物だったとの事です。亜種化や突然変異などのレベルではないと」
「……マコロの掃討人は遠距離を得意とする魔法士。『早撃ちのサイハラ』が瀕死の重傷を負う程ですから、適正距離は測りかねます」

 根を張って動かないはずの相手に遠距離で対応して瀕死の重傷を負うなど、相手が普通では無いのは明白だ。
 スレーブもシャバルナも同じ事を思ったのか、姿勢を正す。

「僕らが呼ばれた理由ちゅーわけか。近距離最強のスレーブと、魔法職で火力ピカイチの僕」
「他国の掃討人に頼るのは、サイハラの評価にも響くのですが……大森林は西部のライフラインなのです。背に腹には変えられません」
「生きて情報を持ち帰っただけ、彼は立派です。生き残れたのも実力があってこそ」

 サイハラのフォローをしつつ、スレーブは討伐対象の情報を脳内で整理する。

「(ドリームフラワーだが、別種の可能性がある。魔法が効かない可能性もあるか。射出する物理的な遠距離攻撃をしてくるのかもしれない)」
「サイハラと話せる? もっと詳しく聞きたい」
「まだ意識が戻っていません」
「ダメじゃん。あーあ、しゃあねえか。スレーブ、さっさと行こうや」
「はい。わからない事は、現地で確認しましょう」

 掃討人はフットワークが極めて軽い。考えるより先ず行動。
 スレーブとシャバルナは、ギルドを出て地図を広げて進む方向を見定める。

「西部までそっちの馬車乗せてくんない?」
「乗ってきた馬車は?」
「壊れちまった」

 シャバルナが指差す場所には、バラバラの木材と化した馬車がギルド横に積み上がっていた。その側で数人が応急手当の済んだ身体を休めていた。

「……乗ってください」
「サンキュー!」

 何がどうしてバラバラになったのかわからないが、遅刻理由は理解出来た。
 馬車に揺られながら、二人は軽く作戦会議を行う。

「様子見で遠方から僕が一発打ち込むのも、遠距離タイプのサイハラの件もあるから、安易に出来ないなぁ」
「では、俺が身を隠して速攻で近距離打撃を打ち込みます。何かあった際に対応出来るようにサポートを」
「そうだなぁ。そうしよう」

 初動の打ち合わせをしたら、他は出来る事を出し合うだけ。
 作戦を綿密に練ったところで、現場では作戦が役に立たない事が六割。初遭遇の魔物相手だと九割だ。
 その経験から、現場に着いたら臨機応変に対応するのが基本となっている。
 
「……んぅ?」
「?」

 目的地の西部に着くなり、シャバルナがニヤけたまま町越しに森林へ顔を向ける。

「ドリームフラワーの魔力がごちゃごちゃしてんな」
「もう見えるんですか?」
「立ち昇ってる魔力の先っちょだけねー」

 『魔眼』のシャバルナ。異名の所以は、前髪で隠されているその目にある。

「(生物の持つ魔力を視認出来る魔眼の持ち主。魔力に疎い俺には想像の付かない世界を見ているのだろう)」

 スレーブも不可視の魔物を相手に魔力感知の魔道具を使用して看破する事は出来るが、シャバルナ程繊細で高性能な探知は出来ない。
 
「まぁ、普通じゃないな」
「……急ぎましょう」

 西武の町長から情報を貰う為に町役場へ赴くと、二人を見るなり駆け寄ってくる三つ編みおさげの若い女性。

「派遣された掃討人の御二方でお間違い無いでしょうか!?」
「はい」
「あ、ありがとうございます……良かったぁ」

 三つ編みの女性は安堵の息をつくと、本題へ移る為にこほんと咳払いをする。

「問題のドリームフラワーは三ヶ月前に森の出入口で確認されました。通常のドリームフラワーとは違い、幻覚作用の他に物理攻撃を与えているようなのですが……その攻撃を視認出来た者は町民や冒険者含め一人も居らず……サイハラ様は撤退の後、気を失う前に何か申し上げていましたが、意味があるかもわかりません」
「なんと言っていたんですか?」
「確か……セン……カ、チュー。途切れ途切れでしたが、確かそう口にしていました」

 “センカチュー”
 その音に馴染みのない町長は首を傾げていたが、その響きを聞いた掃討人の二人はバッと顔を見合わせた。

「ちゃんと原因わかってんじゃねえかよ」
「まだ断定は出来ませんが、仮定の指針が出来ましたね」
「?」
「センカチュー……潜華蟲せんかちゅうは顕花植物性の魔物に寄生する蟲です」
「ケンカ植物……」

 完全に響きで勘違いしている町長にシャバルナが吹き出した。

「ぷふふ、なっはっは! ケンカじゃなくて、顕花。花を咲かせる植物の事だっての!」
「あ、これは失礼しました」

 ステゴロ花畑から思考を切り替えて、恥ずかしそうに顔を赤らめながら話を続ける。

「ドリームフラワーに、その寄生蟲が居る事によってこのような事態になっているのですか?」
「ああ。体ん中弄られて本来の特性とは全く別の攻撃性を発揮する。けど、潜華蟲にも個性があってさぁ……おんなじ組み合わせでも、同じ症状出ないんだわコレが」

 ケラケラ笑っているが、潜華蟲によって引き起こされるイレギュラーは、冒険者でも手に負えない事態に発展してしまう事がよくある。そして、その厄介さは掃討人達を悩ませる種には変わりなかった。

「未知数に未知数が重なってる。サイハラも遠距離からよく気付けたもんだ」
「……貴方は気付かなかったのですか?」
「ほら、そうやって過大評価のツケが回るんだ。ケッケッ」

 魔眼だって万能じゃないんだ。そう言って珍しい音の舌打ちを漏らしている。

「す、すみません。頼りにし過ぎました」
「便利だと思われてるのは、嫌じゃないが……自分の視界を疎かにすると痛い目に遭うぜ」

 魔眼に頼りすぎている人間はよく居るとシャバルナは言った。スレーブも駆け出しの頃に道具に頼り過ぎた末に起こした失敗の心当たりがありすぎる為、返す言葉も無くカクッと頭を下げた。

「それでは……掃討人の御二方、宜しくお願いします」
「はい」
「はっは、任せてちょーだい!」

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