癖の強いBL短編集

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おままごとのその先へ①

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※3P
※二輪挿し



ーーーーーーーーーーーーーーー






「わぁああんあああん」
「うぇええん」
「あーあーあー、どうした?」
「兄ちゃんが僕の玩具とったぁのぉ!」
みるのが叩いたぁぁ!」

 近所の共働き夫婦の双子を家で頻繁に預かる事があった。
 手の空いてる高校生の俺にお世話係が回ってきたのは必然だ。

「あー、はいはい」

 喧嘩してる二人をそれぞれ膝に乗せて背中を撫でる。
 面倒ではあったが、世話を焼くのは嫌ではなかった。

みのるほたるも、喧嘩はやめようね。仲良くしよ」
「だってぇ!」
「やーだー!」

 こういうのはどっちに味方しても問題が出るので客観的に見る事が大事だと思うのだ。

「とりあえず泣き止もうな。はい、チーン」
「「ぢーん」」

 鼻をかんで、背を撫でて胸元に凭れかからせる。

「二人で一個なんて……足りないよな。でも、一人占めはだめ。ココには一個しかないから、順番こ。平等に仲良くしてくれたら……兄ちゃん嬉しいな」
「うっく……でもぉ」
「ママもパパもいっしょにいっしょにっていう! じぶんのほしぃい!」
「そうか……そうだな」

 二人のご両親は共働きだけど、裕福ではない。一緒に仲良く、本音でありお金とスペース節約の建前。悪い事ではないが、幼い二人は納得出来ないだろう。

「じゃ、三人で一緒に遊ぼう」
「さんにんいっしょ?」
「三人だと色々できるぞ? おままごとなら、二人だとママパパ役しか出来ないけど三人ならパパとママも子どもも出来るぞ」

 そう言うと、幼い二人が目を丸くした。二人じゃ取り合うけど、三人なら分け合えるはず。

「じゃヒロ兄ちゃんはママ!」
「僕、パパ」
「やだ! パパは僕がする!」
「はいはい。パパが二人いても良いよ」
「「いいの?」」
「悪い気はしない!」

 おままごとだし、細かい事は気にしなくていいだろう。
 おままごと以外にも、プラレール、ヒーローごっこや本を読んだりしてるうちに双子が二人とも寝てしまう。可愛い寝顔の二人を撫でる俺もウトウトと船を漕ぐ。




 夢から覚めると、俺は一人。暗い部屋で一人、スーツ姿で床に横になっていた。
 柔らかで温かなあの時間……二人は元気だろうか。
 重かったり軽かったり、成長の早い双子の事をぼんやり考えていた。
 社会人になって十数年……不景気に煽られながら、薄給で働いて、サビ残もこなして、慢性な睡眠不足に眩暈を起こしながら頑張ってはいた。

「……髭、伸びてる。剃らなきゃ」

 硬い床で寝ていたせいで身体がギシギシと悲鳴を上げている。
 腹の虫は鳴き、乾燥で口の中がザラつく。外では雪が降っているらしく、曇りガラスにチラチラと白が舞っている。
 鏡の前に立った男の顔は酷いもので……髭を剃ったところで、もう意味はない。

「…………はぁ……」

 手に持った剃刀を置いて、その場にしゃがみ込んだ。
 人員整理。退職金が出るだけありがたいと思わなければならない。
 無職になってしまった。薄給だった故に貯金も数ヶ月で尽きる額だ。
 
「ああ……もう、どうでもいいか」

 その日はスーツの皺も気にせず布団に包まって寝た。

 いつ……どう死んでもいい。そればかりを考える。
 今は何とか生きている、呼吸してるだけの体だった。
 けれど、腹が減る。喉が渇く。欲というのは難儀なものだ。

『グゥゥ……』
「う……」

 体が……脳が、『食い物を寄越せ』と訴える。飯食って酒呑んであわよくばセックスして、自堕落に過ごして楽になりたい。
 

 ぐっすり何日も寝ると、少しだけ気持ちが落ち着いた。
 俺はスマホで求人ページを開いてみる。ブラックとまではいかないが、長時間労働……社蓄はもういやだな。
 結局その日は、ネットサーフィンで終わった。
 俺は夕方頃に買い出しに出かけた。スウェット姿で。
 あからさまに金の無い身なりで、自暴自棄一歩手前の男にしか見えない。実際そうだが。

「お兄さんお兄さん」
「あ?」
「お兄さん、良い仕事アルよ?」

 外国人特有のイントネーションで話しかけられた。
 社会人時代だったら怪し過ぎて関わらないタイプだ。

「……良い仕事って? 薬物とか法に触れてなきゃ、いいけど?」
「ほんとニ! 怪しい事じゃない! あいやぁ、お兄さんとっても素敵だカラ、きっと大丈夫ヨ!」

 何を言われているのか意味が分からないので黙って様子見をしていたら、そのまま路地裏に連れ込まれた。
 そして、スッと何かが書かれた紙を渡された。

「ココに行って、働くって言えば一発。身分証やハンコも忘れずにネ」
「……わかった」

 名刺だった。
 俺は何も考えず、その日のうちにその場へ向かった。
 そこから先の記憶が無い。

※※※

 小さな手を二本握って、俺は夏祭りに行った事がある。
 髪が肌に張り付くような、嫌な暑さの夏だった。
 水風船を膨らませ、チャポチャポと二人が楽しそうに鳴らして揺さぶっていた。

『ジュプン……ズチュ……グプ』
「…………?」

 視界が歪み、水風船は見えなくなったが水音が鼓膜に張り付いている。
 熱い。肌も、体の中も……熱い。
 視界が揺れている。

「ん……んん……」

 唇に何か……柔らかいものが押し付けられ、口の中で何かが蠢く。
 舌を吸われ、腹のあたりに快楽が走る。頭がくらくらする。気持ちいぃ……

『コリュッ』
「っあ!?」

 未知の快感が走り、身体が跳ねて……微睡から覚めた。

「へ?」

 知らない広い部屋、高価そうな調度品、俺に触れている暖かい人肌。全て見覚えの無い……あれ?

「俺は……何を?」
「起きた」
「起きたね」

 頭上から二つの声。誰だ、と思うと同時に身体に震えが走った。

「……っ!」

 混乱していると、身体に力が入らなくなるのを感じる。触れ合っている人肌の正体は、俺を膝に乗せて両足を抱えている男の腕だった。
 そして、内部にある物質の存在感。擦り上げられる為に声が出そうになる。

「(男の、入って……)」
「中、ビクビクし始めた」
「イきそう?」
「うん」

 声が近い。似た声質だ。一人が喋ってるみたいに聞こえる。

「だ、れ……?」
「「広兄ちゃん」」
「……は?」

 俺をそう呼ぶのは、あの子達だけだ。
 なら、どうして、ここにいる?

「なん、で?」

 見上げた視界に二人の姿が映る。成長し、成人した双子。
 嫌な予感しかしない。
 『パンッ』と腰を下から打ち付けられる度に目の前が明滅する。腸内に大きな質量が粘膜を擦り上げる感覚が強すぎる。

「やっ、やめ……な、んで? こんなッああぁ!」
「僕達、大っきくなっても欲しいものが毎回被ってて……今回はお互いに譲れなかったから、一緒に共有する事にしたんだ」
『グプン! ズッ! ゴチュン!』
「あぅ、ぁ、あ、んぁあ! ああぁッ!?」

 欲しいもの? 一緒に共有? どういう意味だ?

「地元出たっきり、全然帰って来ないから、寂しかった」
「でも、ずーっと見てたよ」

 『ジュプン』とねちっこい水音が響く。限界まで引き抜かれ、内臓が引きずり出される感覚……俺の中が抉られる音。壊れそうだ。

「ほた、ほたるぅ……止まって、苦しぃ」

 俺を背後から抱き込んでいる双子の片割れに制止を呼び掛けると、眼前にいる実と顔を見合わせていた。

「すごい。寝起きで僕らを言い当てた」
「母さんだって間違えるのにね」
「ぁ、んん! わか、るだろ」

 一卵性かなんだか知らないけど、コピペしたわけじゃない。それぞれちゃんと特徴がある。

「「嬉しい」」
「とに、かくっ、離せって!」
「広兄ちゃんがイってから」
「ね」

 実が勃っている俺のモノを手で包み込み、蛍は動きを激しくした。

「あああ! まえ、触ったら、ダメ、出る! 出るからぁ!」

 ゴリッ、ゴリッと身体に響く快楽に脳が溶けそうになる。呼吸も段々と浅くなる。

「ーーーーッッ!!」
『ピュル、ピュクン』
 
 声にならない声を上げながら、二人の手で俺はイってしまった。

「いっぱい出たよ」
「溜まってたんだね」
「はぁ……はぁ……」

 身体が重くてダルい……熱いし、思考がぼんやりする……まだ、夢を見ているのか? それともこれが現実なのか?
 あの柔く細かった双子の手が、性的に俺を撫でてくる。おかしい、コイツらは十も離れた子どもで……男なのに。
 放心状態の俺にキスをする実。その間にズルリと中から蛍が抜けて、背後から俺を抱きしめる。

「ん、んん」
「実狡い。僕もキスしたい」
「兄ちゃんに初挿入譲ったんだから、こっちは僕が先」
「…………」

 内容は酷いが、身に覚えのある双子の小さな言い合い。
 
「……なか、よく」
「あ、うん」
「わかってるよ」

 つい口走った言葉に反応すると同時に、二人の手により身体が回転させられて俺を抱いて蛍が腰掛けていたベッドへ仰向けにされた。左右それぞれに実と蛍の覗き込んでくる顔が見える。二人は俺の手をそれぞれ取って、口を寄せる。

「広兄ちゃん……僕らのお嫁さんになって欲しい」
「大事にするから、お嫁さんになってよ」

 すりすりと手を撫でてくる。指先が熱い。指の腹で手の甲をなぞり、指先にキスをして……頬を寄せる姿は幼いが雄の顔をしていた。
 中性的で綺麗な顔立ち、成長し男らしくなった肉体……少し低くなった声に背筋がゾクゾクする。

「……無理だ」
「なんで?」
「なんで無理なの?」

 断ったら一気に機嫌が悪くなった。整った顔が曇って不満そうにする。
 いや、無理だろ。

「男同士は結婚出来ないし……重婚も出来ない、から」
「「……ぉお」」

 大きな眼がパチパチと瞬く。こうしていると可愛らしい、無邪気な子どもの仕草なのに。

「わりと本気で考えてくれてる」
「広兄ちゃん的にはお嫁さんになるのはOKなんだね!」
「……待て……とりあえず、待て。いろいろ、聞きたい事あるから……服着させろ」

 混乱して流されてしまったが、状況を確認したい。何がどうして、こうなった。
 脱ぎ散らかしてある下着とスウェットではなく、肌触りの良いゆったりめのシャツとズボンを着せられた。
 俺はベッドの上で双子に挟まれながら、経緯を説明された。
 どうも、二人は高校を出たらすぐに働きに出たらしい。俺と同じくヤバい会社に就職したが、ブラックの証拠を職員全員で集めまくって労基に提出したら、動いてくれたんだとか。環境は徐々に改善されて、社員の心の余裕は業績に繋がった。
 二人は別部署だったらしいが、成績は優秀で人望も厚い。順調に出世街道を進み、現在は役職持ちのエリート……というわけだ。
 順風満帆で結構な事だ。
 俺の事は、人脈ネットワークで見つけていたらしいが、俺が多忙過ぎて会うタイミングが無かったらしい。
 そんで人雇ってまで自棄で無防備になってる俺を自分達の家へ招き、同意書に判子を押してから……睡眠薬を盛り、何時間も後ろを開発して今に至る、と。

「睡眠薬が多かったから前後の記憶飛んでるみたいだけど、最初も僕らに気付いて驚いてたよ」
「嬉しくて、今すぐ触れたくなっちゃった」
「……だとしてもだな……強引すぎるだろ」

 俺は身動ぎしながら呆れ果てていた。だが、両サイドの双子は納得いかないのか唇を尖らせる。
 
「すぐに同意はしなかっただろうが、睡姦される身になってくれ。こちとら三十路半ばのおっさんなんだ」
「……いずれはしてくれた?」
「…………」

 蛍の言葉に少し、考える。いや、恐らく、俺は受け入れただろう。
 夢にまで見ている癒しの双子達だ。求められたら受け入れたくなる。

「広兄ちゃん?」
「悩むの? 悩んでくれるんだ」

 即答できずにいると、双子は嬉しそうに笑う。選択肢にYESがあるだけマシだと思っているようだ。

「……とにかく、だな。お前らの好意には応えたいが……俺みたいな無職のおっさんがお前達の……なんだ? セフレ?」
「「恋人」」
「余計ダメだろ」
「なんでダメなの? 兄弟仲良く好きな人を共有するって良い事じゃない?」
「……うーん」

 俺はもう自分の扱いや生き方に拘る気力もない。
 
「そういえば、同意書って何の同意書だったんだ?」
「住み込み家政婦。賃金もちゃんと出るよ」
「僕ら二人とも忙しいから、掃除や食事も結構疎かにしちゃうんだ」
「……さっきのも……業務に含まれるのか?」

 後ろがズクリと疼いた。
 快感を教え込まれた身体が無意識に反応してしまう。

「ううん。セックスは業務には入ってないよ。恋人としてのコミニュケーションだから」
「広兄ちゃんも、嫌な時は拒否していいしシたい時は言えばいい。そこは自由意志だからね」
「なら、さっきの睡姦は?」
「「あっはっはっは! ごめんなさーい」」

 笑って誤魔化しやがった。
 そもそもの話だ。俺がこんな将来有望な青年二人を独占して良い訳がない。
 二人共まだ若く、イケメンで高身長……お付き合いする相手はいくらでもいるだろうに。

「お前らさ、本当に俺が好きか?」
「「好き!!」」

 ぎゅぅっと力強く抱きしめられる。息が苦しい、それに熱い。

「子どもの頃から、お嫁さんにしたいってずっと思ってた」
「もう離れたくない……」

 左右から囁かれ、耳に息が吹きかかってくすぐったい。

「……おい、耳はやめろ」

 首を竦めて避けると、双子がムッとして、ほぼ同時に耳を食まれた。

「!? ぁ、やっ」
「ん、……兄ちゃん耳弱いんだ」
「本当……かわいいね」
「噛む、な!」

そのまま、耳たぶを甘噛みしたり舐めたりされる。
 くすぐったさと一緒に……変な快感が沸き上がるのを自覚する。両耳の中に舌が入り込んて、ピチャピチャと音が間近に聞こえる。耳穴を塞がれたせいで……音が籠って脳内に響く。

「ぁ、あ……は、あっ」

水気を帯びた音が脳と精神を揺らし、耳から流れ込む音にも犯されてるみたいで頭がおかしくなる。頭だけじゃなく身体のあちこちがジンジンと痺れて熱が上がる。
 
「やめ、あ、あぁ……んん!」
『ズリュ……』

 耳から舌が引き抜かれ、その感覚だけで身体が震えた。

「はぁ……はぁ……」
「広兄ちゃん、僕らのお嫁さんになってくれる?」
「幸せにするから、一緒にいて」
「…………わかった、から……でも、その、な? 他に良い人が出来たら、遠慮すんなよ?」
「「…………」」

 二人は揃って俺を睨み付け、呆れた様子で顔を見合わせた。

「全然わかってない」
「うん。わかってない」
「?」
「広兄ちゃん……じっくり教えてあげるから」
「今後ともよろしくね」

 不穏なやり取りがあったが、仕事を貰ったからにはしっかりしなければならない。
 お嫁さん……恋人としての行為は、俺の心の整理が付くまで待ってもらおう。

※※※

 住み込みの家政婦として、昔馴染みの双子に雇われたが……あーー……コレは、思ったより……忙しいかも。

「冷蔵庫空っぽ……洗濯洗剤もほぼ無い。家中埃積もってるし……酷いな」
「「ごめんなさい」」
「いいよ。忙しいと家の事ほったらかしになるからな」

 こうなる理由もよくわかる。
 定時上がりでも、仕事は疲れるだろうし、二人居ても二人とも家事が得意じゃないなら仕方ない。

「……とりあえず、買い出し行くか」
「「はーい」」

 近くのスーパーで食品と日用品を買い込む。

「実はこっち。蛍はこっち持って」

 雇い主の双子をこき使う家政婦の俺。側から見れば、親戚の兄ちゃんの手伝いをする兄弟か。

「重たくないか?」
「うん。平気だよ」
「これでも結構力持ちだからね」

 ムキっと力こぶを作って笑う実。
 負けじとポージングを取る蛍。

「ぷ、はは! うんうん大したもんだ」
「でしょ?」
「筋肉は裏切らない」

 ドヤ顔で胸を張る二人。
 まったく……クッソ可愛過ぎるわ!!
 なんでこの子達が俺なんかに欲情しちゃう歪な精神に育っちゃったんだか!
 俺の所為か? 普通に面倒見てたけど、俺が何かしちまったのか??

 家に帰ったら、冷蔵庫に食品を詰め込んで、積み上がってる洗濯物を突っ込んで洗って、掃除機とハンディワイパーで部屋を綺麗にしていく。
 高給取りのエリートなだけあり、マンションでも部屋が多いし広い。
 
「(こりゃ家政婦居るわ)」
「広兄ちゃん、ゴミまとめ終わった」
「こっちも終わった」
「よしよし、上出来」

 スススッと擦り寄ってきた二人の頭を撫でてやれば、二人の表情がパァッと輝く。

「「えへへ」」

 どうも子ども扱いしてしまっていけないなぁ。
 しかし、何年経っても可愛いものは可愛い。それは変わらない。
 そんな可愛い二人に、夕飯を作っていく。
 料理はそんなに得意ではないけど、自炊は節約の為に頑張ってたから少しは出来る。
 小松菜のスープと餃子と白米。

「ん、美味い!」
「本当?」
「久しぶりに手料理食べたぁ」

 双子はホッと頬を緩ませた。本当に可愛いなぁ……俺みたいなのには勿体無いくらいに。
 食後は食器を洗って……

「なんで二人とも一緒に洗ってるんだ? コレ俺の仕事なんだろ?」
「えーーなんか離れたくなくて」
「うんうん。食洗機買おか。食後、もっと一緒にいたい」

 三人並ぶと流石にキツい。
 けど、食洗機はありだな。家事が楽になる。

「風呂、入ってこいよ」
「広兄ちゃんは?」
「俺、最後」
「……一緒に入らないの?」
「狭いだろ?」
「「ええ~~」」

 そんな捨てられた子犬みたいな顔をするな……ぐぬぅ! くっそ可愛い!! いや、いやいやいや!

「絶対やらしい事する気だろ」
「「当たり前じゃん!」」
「下心丸出しでドヤるな!!」

 今日のところは、二人を風呂へ追いやって、洗い物を進める。
 
「はぁ……」

 風呂……一緒に、かぁ。
 別に、風呂を一緒に入るのが嫌な訳じゃないんだ。ただ、やっぱり甘やかして可愛がっていた子ども達が性行為を望んでいるって思うと……心の内がむじゃむじゃする。
 目を覚ました時には既に事が起きてたけど、俺に欲情して、あんな事したんだよな。
 双子のよくわからない心情と俺へ向けられている欲を気色悪いと感じないのは、多分俺も嫌じゃないから。

『カチャン……』
「……おっきぃな」

 薄らと記憶にある二人の茶碗は玩具みたいに小さかったのに、今は俺の掌に収まらない。
 ……背も、抜かれたな。
 ああ、もう子どもじゃないんだよな、あいつらも。

「上がったよー」
「広兄ちゃんのパジャマこれだからね」

 風呂場から出て来た二人は薄手の寝間着を着ていた。肌がうっすら紅潮しているように見える。

「ありがとう実。じゃ、入って──」

 実から寝間着を受け取った瞬間、口付けられた。一瞬で離れたが、唇にはしっかりと柔らかな余韻が残る。

「……っ……おま」
「ああ! 兄ちゃん狡い、僕も僕も!」
「んぐ!」

 便乗して実からも口付けられる。

「ん、んぅ……」

 押し付けられるだけ。寝起きにされたものよりずっと浅く軽いキスなのに、緊張している自分がいる。
 激しくないからこそ、口付けられている感覚や唇の柔らかさを意識してしまって胸がキュッと苦しくなる。

「ん、はぁ……」
「ドキドキした?」
「……あーーしてるしてる」

 ぶっきらぼうに肯定しながら、さっさと風呂へ逃げ込んだ。
 風呂に入りながら、ぼんやり考える。
 俺も、二人も……もしかして、もう後戻り出来ない段階にいるのか?
 キスだけで、俺……心臓ヤバい。バクバクで、逃げ出したいくらい、恥ずかしい。
でも、嫌じゃない。
 そもそも睡姦されたのに嫌じゃない時点で、俺もあいつらの事大分特別に思ってる。
 悶々としながら風呂を出て、寝間着を着る。
 ちょっと大きいが、寝間着だし別に良いか。
 俺の私室として与えられた部屋にベッドがドンっと置かれていて、思わず飛び込んだ。

『ボフン!』
「あっはは! 弾力すげぇ!」

 薄っぺらい敷き布団で長年寝ていたからか、ベッドに年甲斐も無くはしゃいでしまった。
 枕を抱えて、端から端へ寝返りをうっても、身体を受け止めてくれるスプリングの効いたマットレス。まるで夢心地だ。
 
「~~~~ッ……永久就職するぅ!」

 感激のあまり、そんな言葉を口走っていた。
 二人が必要としてくれる間だけでも全力で家政婦をやることにした。



 翌日、俺は仕事へ出掛ける二人の見送りをして、掃除や洗濯をせっせとこなした。
 風呂掃除や本の片付けも。アイツら本の巻数がバラバラでも気にしないらしい。
 書斎の整理でわかったが、IT系の職に就いてるらしい。
 そういう本がめちゃくちゃある。努力家だな本当。

「はぁぁ……アイツら超エリート……」

 同じ男として……なんかもう落ち込むのを通り越して清々しいわ。
 家事を済ませて、二人の帰りを待つ。
 夕飯も慣れないなりに頑張ったが口に合うかどうか。

「ただいま」
「広兄ちゃん、ただいま」
「おかえり。飯出来てるから手洗ってこい」
「「はーい」」
『ちゅっ』

 出迎えた俺の横を通り過ぎる間際に二人して頬に口付けられた。
 
「っ、おい!」
「顔真っ赤っか~」
「可愛い~」
「あーもう! 早く手洗ってこい!」

 食卓に食器を並べ、冷蔵庫からビールを取り出す。
 今日の夕飯は、焼き魚、白米、味噌汁、きゅうりの浅漬けだ。
 何の変哲も無い和食。だが、双子は目を輝かせて喜んでくれた。
 
「美味しい~」
「幸せ~」
「大袈裟だな」

 おかわりまでしてくれて、二人の口に合ったようでホッとした。

「あったかいご飯って心が満たされるね」
「うん」
「はは、お袋さんにもそういうの言ってやれよ」

 俺の何気ない一言に、二人の表情が固くなる。

「……ん? ごめん。何か嫌な事言ったか?」
「あ、いや。うちって共働きだったから」
「母さんのご飯、作り置きの冷たいのばっか。父さんはコンビニ弁当ばっかだったし」
「外食の大衆向け手料理や、自分で作るとなんか違うしね」

 あ。そうだった。
 共働きだったから、俺らに預けられてたんだった。家事の時間もほぼ無かっただろうし、お袋さんや旦那さんも余裕無かったんだろうな。
 家で出される温かい出来立ての料理を知らないんだ。

「ご、ごめん。不躾だった」
「ううん。気にしないで。おかげで広兄ちゃんの手料理何倍も楽しめてるから」
「家に帰ったらあったかいご飯があるって、すごい事なんだから」
「……そう、だな。でも、これからは、あったかいご飯が当たり前になるんだし、毎度毎度感動してたらキリがないぞ」

 軽口を叩いてみたが、二人ともニコニコしながら、俺の頭をわしゃわしゃ撫でてきた。

「なんだ?」
「広兄ちゃんがココに居る実感を噛み締めてる」
「夢じゃない……」
「早く食えー冷めるぞー」

 感情表現が大袈裟な二人。
 そんな二人にこれから美味いもんいっぱい食わせてやりたい。
 料理、頑張ってみるか。

※※※

 家政婦になって三ヶ月。
 俺の料理スキルはクック◯ッドにより、素人にしてはまあまあ上達したと思う。
 豪華ではないが、質素でもない。
 実も蛍も毎度美味しい美味しいと文句一つ言わずに食べてくれる。
 掃除洗濯料理にゴミ出し等の家の仕事はテキパキしたら、すぐに終わってしまう。
 買い出しは二人と土日に行くから、外にもあんまり行かない。
 テレビを観たり、本を読んだり……

「んぅ……んん」
『グプン、ズチュ……』

 自慰をしたり……最近、二人の接触が露骨になってきたから、意識してしまう。
 後孔に指を入れて、くちゅくちゅとローションで搔き回す。
 気持ち、良い。でも……物足りない。
 毎日のようにキスをされて、腰や尻を撫でてくるし、股をまさぐってくる。それに煽られてしまう自分がいる。
 
「あっ、ん、はぁぁ……」
『クチュ、ヌチュ……』

 亀頭や裏筋を触りながら、前立腺も弄って、ナカを擦る。気持ち良いけど、やっぱり足りない。もっと奥まで太いのが欲しい……そんな気分にさせられる。

「ふっ……んん、ぁ……ッ!」
『ピュッ、ピュク』
「っ……はぁ、ぁ、ぁ……」

 ベッドの上に敷いたタオルに白濁を散らす。
 前より、後ろの刺激で達ている気がする。ぷっくりと膨らんだ前立腺を虐める度、頭がふわふわして、再び熱が戻ってくる。
 多分、いや確実に。もう、後ろだけでイける。
 後孔に埋め込んだ指を三本に増やして、再度ナカを抉る。
 さっきよりも強い刺激に、身体が悦ぶ。

「あっ、はぁぁ……ッ! ぁ、あ、あ……」
『ジュプ、グチ……』
「んぁ……っは」

 二人も……俺がこんなふうになるなんて、思ってないんだろうな。
 こんな俺を見たら、幻滅するかな?
 いや、しないだろうな。というか、俺の一人エッチに物申して、セックスに持ち込まれそうだ。

『ビクン!』
「んっ!」

 俺の中に入っていた蛍の熱と質量を思い出して、後ろが締まる。
 あ、ヤバ……イキそう。
 ああ、ダメだ。流石に言い訳出来ない。
 ここまでやってしまったら、流石にわかる。

「はぁ……み、のる……ほた、る」

 後孔に突き立てられる欲望と、抱き竦められて、耳元で二人に囁かれる妄想。
 悪寒にも似た快感が駆け巡る。

『『広兄ちゃん』』
「ひっあ……ぁあ!」
 
 二人に抱かれる妄想で二度目の絶頂を迎えた。頭が真っ白になる。
 もう、これ以上は無理だ。もう、誤魔化せない。
 心の整理が自ずと出来てしまった。
 俺の料理を笑って食べてくれるし、求めるように触れられるのも、毎日二人分のキスを嬉しく思ってるから煽られるんだ。

「ああーーーー……」

 もう……もう……認めるしかない! 俺、二人が好きなんだ! だからドキドキして、今こうやってやらしい事してる!

「……三ヶ月も、待たせてる」

 再会初日以降、身体は重ねていない。俺の意思を尊重してくれているからだろう。

「…………ん」

 俺の方が兄ちゃんなのに、二人にずっと気を遣わせて我慢させて、待たさせている。
 申し訳無いと思う反面、俺がその気になるのを待っているというのも何だか嬉しかった。
 ……好きだと、抱かれたいと、上手く言い出せるだろうか? 恥ずかし過ぎて、考えただけでも死にそうだ。

 ベッドの後片付けをして気を取り直して夕飯を作った。
 豚の生姜焼き、豆腐とわかめの味噌汁、白米、漬物と、食卓の上に並べていく。
 箸を三人分出して、二人が来るのを待つ。

「ただいまー」
「ただいま。あ、いい匂い」
「……おかえり」

 玄関へ出迎えに行き、いつもよりキラキラして見える二人を見て、自覚した途端にこれとは……ちょっと気恥ずかしくなる。

『ちゅっ』
「っ……ちょっと待て」
「「?」」

 いつも通りただいまのキスを頬に落とされた。
 通り過ぎようとした二人の手を掴んで引き留める。

「広兄ちゃん?」
「どうしたの?」
「…………お、俺も……する」
「「ふぁ?」」

 背伸びをして、二人の頬に口を押し付ける。三十路の髭面が何を可愛こぶってんだと思わない事も無いが、今は欲に素直になろう。

「……ひ、広兄ちゃん?」
「今、キス……」
「~~……はい! 飯にするぞ! 話はそれから!」

 羞恥に耐えられず、二人の手を無理矢理引いて洗面台へ押し込んだ。
 ポカンってしてた。可愛かった。してやったりって感じだ。
 すぐに手洗いを済ませた二人が俺の元に駆け寄ってきたが、一先ず着席させて食事を始める。

「広兄ちゃんがキスしてくれるなんて……」
「もぉ信じられない! おかえりのキスとか、もはや新婚だよ! 新婚!」
「ぁ、あーー……うん。あんまり言わないでくれ……」

 恥ずかしさを誤魔化す為に、生姜焼きを口に頬張る。肉の旨味がご飯に合うが、正直今は味を感じられる程余裕がない。
 顔を真っ赤にしてるのは自覚しているし……目の前の二人もニヤニヤしながら俺のこと見てるから。

「それで、どうしたの? 珍しいけど、無理してないよね?」
「ち、がう……」

 蛍の言葉を否定する自分の声の弱々しさにびっくりした。今にも泣きそうな掠れた声が出た。
 二人もびっくりして、箸を止めて俺へ心配の眼差しを向けてくる。
一度深呼吸をして、大きく息を吸い込んで、吐いて……また吸い込む。やっと二人の目をしっかりと見据えられる様になった。

「ぁ……その、二人に伝えたい事があって……」

 上手く舌が回らないけど、そこは勘弁してほしい。

「…………な、なに?」

 実が俺と同じぐらい泣きそうな声で恐る恐る問いかけてくる。

「……俺、さ……」
「「…………」」
「実と蛍の事…………好き、みたい」
『ガッシャーーーン』
「うぇ!?」

 二人が急に椅子から転げ落ちた。

「み、実? 蛍?」
「……うう……っ」

 二人して床に脱力しながら這い蹲って、プルプル震えてる。
 俺も床に降りて二人に声をかける。
 
「急に、好きとか言って、都合が良い事言って、悪いと思ってる……でも、やっぱ、好き、だから、ちゃんと、言いたくて……ごめん」
『ガバッ!』
「うぉあ!」

 何か、居た堪れなくなって謝ったら、床に這い蹲っていた二人が急に起き上がった。
 突然の事に俺もビクッとなったし、実際にびっくりして声が出ちまった。

「ごめんって言わないで広兄ちゃん! 好きって言ってくれてめちゃくちゃ嬉しいよぉ!」
「超幸せ!! うあぁあん! ほんと、本当に嬉しい!」

 『むぎゅう』と俺の身体を引き寄せて、二人に抱き締められる。
 大袈裟だけど、でも本気で喜んでくれるのが嬉しくて堪らない。心がぽかぽかする。
 二人の背に手を回して、抱き締め返す。

「はいはい。ちょっと落ち着いてくれよ。とりあえず、ご飯食べよ。な?」

 泣き出した二人を落ち着かせながら、席に戻って食事を続けた。
 終わったら、食器を食洗機に入れて、ソファーに腰掛ける二人の間に座る。
 俺の定位置だ。

「広兄ちゃん、もう一回言って」
「もう一回聞きたい」
「……好き」

 顔から火が出そう。言っただけでコレって本当に俺どんだけ、この二人の事好きなんだ。

「行動力のある蛍が好きだ。素直で感情的な実が好きだ。二人が好きなんだ……強欲だってわかってるけど……」
「あはは、欲張っていいんだよ?」
「そうそう、俺らも強欲だから!」

 グッと引っ張られて二人とぴったりくっつく。やっぱり体格の差はそこそこあって、腰とか肩を抱く腕の逞しさがちょっと羨ましくなった。

「広兄ちゃん、改めて好きって言ってくれたの……すっげー嬉しい」
「キスしていい?」
「何を今更」
「じゃあ言い方変えるね。エッチなキスしていい?」

 実の真剣な声にドキッとする。

「~ッ……い、いいよ!」

 ソファーの上で横抱きにされて、二人の愛撫が始まった。
 『ちゅぷ』と唾液の混じるキスから始まり、Tシャツを捲られて直接肌を撫でられて、乳首を指先で摘まれる。
 四本の腕が身体の隅々まで撫で回す。

「ふ、んん……んぅ」
「はぁ……抱いていい?」
「ぁ、う、うん」

 二人は俺の返事を聞くや否やズボンを脱がせて来て、俺も脱がし易い様に腰を浮かせた。

「広兄ちゃん……」
「ま、待って」
「?」
「その、“兄ちゃん”って呼び方、やめてくれ」
「嫌なの?」
「そうじゃないけど……広って、呼んで欲しい」

 俺のお願いに面食らいながらもクスクス笑い出した。両手で頬を撫でられる。指の先で輪郭をなぞられて、口付けられる。

「広、可愛い」
「キス気持ちいいね。広」

 呼び捨てられると、胸と下腹部がきゅんきゅんする。
 
「ベッド行こうか」
「っ……ん」

 スッと実に横抱きにされたまま抱き上げられた。
 お、思ったより力持ちなんだな。本当に。
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