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14:発情期
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薬の服用を始めて一週間が経った。
発情期らしき予兆も無く、俺は内心焦っていたが、なんだか調子が良い。
ホルモンバランスを整える効果はちゃんと出ているらしい。
「最近、変に考え込んだり、落ち込んだりする事が減りました」
「それは、良い事でございますね」
入籍後の必要書類を士郎さんに見てもらいながら記入している。
浮かれているだけかもしれないが、嫌な方へと思考が巡る事が減った。
「発情って、どんな感じなんでしょうか?」
「そうですね……βの私では到底わかりかねる感覚ですが、Ω性の方は大変な苦労があるとお聞きします」
「……怖いです」
この歳になって初めての発情期。他者のは散々見てきたのに自分がどうなるのか、全然わからなくて不安になる。
「では、準備をしておきましょう」
「準備?」
「発情期に備えて」
準備とは何ぞ? と思っていると、リビングを出て戻ってきた士郎さんが俺の目の前に大量の服が置いた。
「これ……」
「全て龍太様のお着物でございます」
「……そうですね」
「何も無い状況より、龍太様の香りが近くにある方が落ち着くはずです」
ああ、そう言えば、龍太が居ない時に枕の残り香で寂しさを紛らわしていたっけ。
十着はあるな。コレだけあれば龍太の香りに包まる事が出来る。
「次に水分。Ωの発情時期の発汗量は通常の三倍になると聞きます。脱水を起こさないように気を付けましょう」
「あ、はい」
それは大事な注意点だ。
寝室と自室に常備しておいてもいいかもしれない。
そういった準備の事を話していたら、書類が書き終わった。
「はい。では、今日の分はお終いです」
「はぁぁ……やっと終わった」
普通の人ならもっと早く終わるだろうが、俺は無知故に固い文章を読み解くのに時間がかかる。それに、わからない単語があると士郎さんに聞いて、勘違いがあったら一からやり直し。
時間がかかってしまった。
一息ついてお茶を飲んでいると、不意に自分の状態に違和感を覚えた。
「……ん?」
「おお、コレは」
「俺、いつの間に、こんな……」
士郎さんが持って来てくれた龍太の服を知らず知らずのうちに掻き集めて纏っていた。
「巣作りですね。」
「ねすてぃんぐ?」
「巣作りと呼ばれる、Ω性特有の行動でございます。好意のある人物、又は番の私物を集めて、巣の様に配置する事がございます」
俺を中心にぐるっと服が纏まっていて、鳥の巣にも見える。
グッと密集させれば、自ずと龍太の匂いが強く感じられた。
なんだか、龍太はここに居ないのに、匂いと温かさに包まれて、安心出来る……。
一枚服を取り出してスンスンと鼻を鳴らしていたら、士郎さんと目が合って笑われた。
恥ずかしくて顔を手で覆い隠しながら、ボフンと衣服に身体を埋めた。
……そのまま夕飯まで眠ってしまったし、帰宅した龍太にも見られた。
※※※
薬の服用二週間目の朝……熱っぽい感覚に目が覚めた。
「……ケホッ」
風邪ではない。
隣で眠る龍太の首元へ顔を寄せる。
「…………俺より先に発情期来てる」
「んぅ……」
αの発情期が来た龍太。
前より咳は出ず、頭がぽやぽやとする。
龍太の香りに嗅ぎ慣れないものが混じっている。
「……コレが……フェロモン」
やはり、強烈なものではない。それは龍太の“運命”は俺じゃないって事の証明だ。
前の俺なら、落ち込んで誰かに龍太を取られてしまうのだろうと悲観しただろう。
でも、今はそんな気持ちは湧いてこない。運命の相手じゃなくても、俺は龍太の番になりたい。
「龍太、起きてください」
「……ぁあ、おはようございます」
「おはようございます」
瞼が上がり、綺麗な深い深い青の瞳で見つめられる。
「三葉……」
「んぅ」
寝起きのキス。触れるだけのそれは心地良いものでしかないのだが、身体が貪欲にも火照り始めた。
「も、と……コホッ」
「はぁ……可愛い」
俺の頬を両手で包み込んで、親指で唇をなぞる。
「ん、ン」
それだけで悩ましい声が漏れて、奥から熱が溢れてくる。身体がどんどん熱くなり、怠くなってくる。
「はや、く」
「……三葉」
綺麗な龍太の瞳に欲が孕み出した。そんな目で見つめられたら、もっと身体が反応してしまう。
龍太と再び唇を交えれば、熱い舌が唇を割って俺の口腔へと入る。厚ぼったい舌が俺の舌の腹を舐め上げ、可愛がるように絡め取る。
……ああ、気持ちいい。
すごく、満たされて、至福の感覚に溺れていく。
「ン……ぁふ……」
「……は……三葉……」
龍太もキスが心地良いみたいだ。俺の舌の動きに合わせて絡ませたり、優しく甘噛みしたりと俺を喜ばせようとしてくれている。
俺に覆い被さる龍太は香りを強めながら、俺のパジャマのボタンを片手で外していく。
一個一個外れるボタンと共に、俺の期待は高まっていく。
「はぁ……ぁ……龍太」
「ん? あれ……香りが」
「ぇ? んぅう……」
顔が近付き、また唇を貪られるのかと身構えていると、首へと顔を寄せられて、そのまま強く吸い付かれていた。
「んッ……ぁ、ぁあ!」
ピリッとした感覚に肩が上がる。だが、それだけでなく甘い痺れが脳を焼き切って、もっとと求めて腰が揺れる。
「まだ、弱いけどフェロモンが出てますよ」
「んっんん……りゅ、た? 俺、発情期、ですかね?」
「はい。本格的に発情する前に一旦終わりましょうか」
「え……」
「準備も無く事に及ぶのは、負担が大きいですから」
この状態でお預け?
龍太の気遣いだろうが、この熱を抱えながら発情期の本格化を迎えるのか?
「……苦しいです。熱くて、切なくて……どうにか、なりそうです……」
「本当にすみません。すぐに戻ります」
引き留めても、スッと俺を置いて駆け足で寝室を出ていった龍太。
俺ばっかり欲しがってるみたいじゃんか。
発情期らしき予兆も無く、俺は内心焦っていたが、なんだか調子が良い。
ホルモンバランスを整える効果はちゃんと出ているらしい。
「最近、変に考え込んだり、落ち込んだりする事が減りました」
「それは、良い事でございますね」
入籍後の必要書類を士郎さんに見てもらいながら記入している。
浮かれているだけかもしれないが、嫌な方へと思考が巡る事が減った。
「発情って、どんな感じなんでしょうか?」
「そうですね……βの私では到底わかりかねる感覚ですが、Ω性の方は大変な苦労があるとお聞きします」
「……怖いです」
この歳になって初めての発情期。他者のは散々見てきたのに自分がどうなるのか、全然わからなくて不安になる。
「では、準備をしておきましょう」
「準備?」
「発情期に備えて」
準備とは何ぞ? と思っていると、リビングを出て戻ってきた士郎さんが俺の目の前に大量の服が置いた。
「これ……」
「全て龍太様のお着物でございます」
「……そうですね」
「何も無い状況より、龍太様の香りが近くにある方が落ち着くはずです」
ああ、そう言えば、龍太が居ない時に枕の残り香で寂しさを紛らわしていたっけ。
十着はあるな。コレだけあれば龍太の香りに包まる事が出来る。
「次に水分。Ωの発情時期の発汗量は通常の三倍になると聞きます。脱水を起こさないように気を付けましょう」
「あ、はい」
それは大事な注意点だ。
寝室と自室に常備しておいてもいいかもしれない。
そういった準備の事を話していたら、書類が書き終わった。
「はい。では、今日の分はお終いです」
「はぁぁ……やっと終わった」
普通の人ならもっと早く終わるだろうが、俺は無知故に固い文章を読み解くのに時間がかかる。それに、わからない単語があると士郎さんに聞いて、勘違いがあったら一からやり直し。
時間がかかってしまった。
一息ついてお茶を飲んでいると、不意に自分の状態に違和感を覚えた。
「……ん?」
「おお、コレは」
「俺、いつの間に、こんな……」
士郎さんが持って来てくれた龍太の服を知らず知らずのうちに掻き集めて纏っていた。
「巣作りですね。」
「ねすてぃんぐ?」
「巣作りと呼ばれる、Ω性特有の行動でございます。好意のある人物、又は番の私物を集めて、巣の様に配置する事がございます」
俺を中心にぐるっと服が纏まっていて、鳥の巣にも見える。
グッと密集させれば、自ずと龍太の匂いが強く感じられた。
なんだか、龍太はここに居ないのに、匂いと温かさに包まれて、安心出来る……。
一枚服を取り出してスンスンと鼻を鳴らしていたら、士郎さんと目が合って笑われた。
恥ずかしくて顔を手で覆い隠しながら、ボフンと衣服に身体を埋めた。
……そのまま夕飯まで眠ってしまったし、帰宅した龍太にも見られた。
※※※
薬の服用二週間目の朝……熱っぽい感覚に目が覚めた。
「……ケホッ」
風邪ではない。
隣で眠る龍太の首元へ顔を寄せる。
「…………俺より先に発情期来てる」
「んぅ……」
αの発情期が来た龍太。
前より咳は出ず、頭がぽやぽやとする。
龍太の香りに嗅ぎ慣れないものが混じっている。
「……コレが……フェロモン」
やはり、強烈なものではない。それは龍太の“運命”は俺じゃないって事の証明だ。
前の俺なら、落ち込んで誰かに龍太を取られてしまうのだろうと悲観しただろう。
でも、今はそんな気持ちは湧いてこない。運命の相手じゃなくても、俺は龍太の番になりたい。
「龍太、起きてください」
「……ぁあ、おはようございます」
「おはようございます」
瞼が上がり、綺麗な深い深い青の瞳で見つめられる。
「三葉……」
「んぅ」
寝起きのキス。触れるだけのそれは心地良いものでしかないのだが、身体が貪欲にも火照り始めた。
「も、と……コホッ」
「はぁ……可愛い」
俺の頬を両手で包み込んで、親指で唇をなぞる。
「ん、ン」
それだけで悩ましい声が漏れて、奥から熱が溢れてくる。身体がどんどん熱くなり、怠くなってくる。
「はや、く」
「……三葉」
綺麗な龍太の瞳に欲が孕み出した。そんな目で見つめられたら、もっと身体が反応してしまう。
龍太と再び唇を交えれば、熱い舌が唇を割って俺の口腔へと入る。厚ぼったい舌が俺の舌の腹を舐め上げ、可愛がるように絡め取る。
……ああ、気持ちいい。
すごく、満たされて、至福の感覚に溺れていく。
「ン……ぁふ……」
「……は……三葉……」
龍太もキスが心地良いみたいだ。俺の舌の動きに合わせて絡ませたり、優しく甘噛みしたりと俺を喜ばせようとしてくれている。
俺に覆い被さる龍太は香りを強めながら、俺のパジャマのボタンを片手で外していく。
一個一個外れるボタンと共に、俺の期待は高まっていく。
「はぁ……ぁ……龍太」
「ん? あれ……香りが」
「ぇ? んぅう……」
顔が近付き、また唇を貪られるのかと身構えていると、首へと顔を寄せられて、そのまま強く吸い付かれていた。
「んッ……ぁ、ぁあ!」
ピリッとした感覚に肩が上がる。だが、それだけでなく甘い痺れが脳を焼き切って、もっとと求めて腰が揺れる。
「まだ、弱いけどフェロモンが出てますよ」
「んっんん……りゅ、た? 俺、発情期、ですかね?」
「はい。本格的に発情する前に一旦終わりましょうか」
「え……」
「準備も無く事に及ぶのは、負担が大きいですから」
この状態でお預け?
龍太の気遣いだろうが、この熱を抱えながら発情期の本格化を迎えるのか?
「……苦しいです。熱くて、切なくて……どうにか、なりそうです……」
「本当にすみません。すぐに戻ります」
引き留めても、スッと俺を置いて駆け足で寝室を出ていった龍太。
俺ばっかり欲しがってるみたいじゃんか。
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