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11・苦手なもの※
しおりを挟む※青斗目線
ルームシェアに置いてメリットは数多くあるし、三人とも潔癖症でも無い。一名若干だらしないが大学時代より許容範囲内に収まっている。
料理も家事も程々に出来て、食の好き嫌いも激しくは無く、ルーティンや個人スペースを侵害する事も無い。
セックスも気軽に出来る。
これ以上無いルームメイト……だが、デメリットは確かに存在する。
《コレは、以前友人達と夜中に肝試しに廃神社へ行った時の映像》
「…………」
「………ぅお」
《おわかりいただけただろうか》
コレだ。リビングのテレビの主導権は多数決。寝室にもテレビはあるし、時幸の部屋にもテレビがあるから三人の見たいものが別々なら各々で散るが、二人が見たい番組が同じだとリビングのテレビはその番組に固定される。
焔と時幸は心霊番組が好きだ。心霊映像や心霊写真、怪談、邦画のホラー映画など……二人でジッと画面を見つめている。
「(何が面白いんだ……)」
そう思いながらも、俺は二人の隣に腰掛けて俯いていた。
俯いていても、無感情なナレーションがどのように何が映っているか説明する所為で嫌な映像が脳裏に浮かぶ。
「……青斗、無理にココに居なくても」
「…………」
「はは、一人が怖いんだよな? わかるわかる」
「…………」
悔しいが、時幸の言う通りだった。
心霊特集番組というタイトルが映った時点で、俺は一人で部屋に篭る事が出来なくなった。
俺は、情けない事に幽霊が苦手だ。
一回意識し始めたら、一人で居る事が怖い。いつもなら気にもならない鏡や戸の隙間に目がいってしまう。
心霊番組が映っていようが、二人の側にいる方がまだマシだ。
「ん」
「!」
焔が横から俯く俺の肩を抱いて、ポスンと膝枕をしてくれる。
「大丈夫だ、怖く無いから」
「……別に怖がってない」
「ああ、そうだな……よしよし」
焔は子供をあやす様に俺の頭を撫でる。
俺は怖くないと言いながら、焔の腹に顔を埋めて、焔の手を取って耳を塞いだ。
何十分そうしていたかわからない。
焔が膝を揺らして、若干寝かけていた俺はビクッとして目を開けた。
「終わったよ」
「はぁぁ~~」
テレビを消して俺を覗き込む焔と、隣で欠伸をしている時幸に俺は大きく溜息を吐く。
「青斗、一人で風呂入れそう?」
「…………」
そうだった。風呂、俺が最後だった。
俺は頭を弱々しく振った。勿論横に。
「ふふ、青斗いい事教えてあげる。シャンプーとかで後ろに気配感じても、背後には何も居ないよ」
「ぉぅ」
「だって、上にいるから」
『ガン』
「いってぇ! グーで頭はダメでしょ!」
「今のは時幸が悪い」
手を出してしまったが、何も後悔はない。
「もぉ怖がり過ぎだって。お化けなんてないさ~お化けなんてうっそさ♪」
「寝ー惚けたひっとが~みまちがーえたーのさ♪」
「だけど、怖いって言ってんじゃねえか」
「「あっはは! 確かに!」」
二人が完全に面白がっている。焔までそっちに行っては味方が居ない。
「もういい! 一人で入る!」
「行ってらっしゃい」
勢いで風呂に入る。
服を手早く脱いで、意識しないうちに身体を洗い、頭を洗う。
『ゾワ』
「(くそ、なんでああいう類見た後はいつも神経が過敏になるんだ!)」
見えない背中側に、何かが居そうな気配を感じる。
上にいる……時幸の言葉を思い出してしまって、動けなくなった。
前には鏡、背後と頭上……嫌な妄想が頭をぐるぐると回り、俺は思わず頭を振った。
「(はぁ、落ち着け俺。幽霊なんて居るわけがない……いない、見えないから怖くない……落ち着けば何も感じないし)」
俺はゆっくり深呼吸をしてシャワーを止めて、顔を上げる。
鏡には当然自分しかいない。
「はぁ~~……」
「青斗、大丈夫か?」
「ぅお……お、おお、大丈夫」
風呂場の曇りガラスの向こう側から焔が声を掛けてきた事に少し驚きながら、俺は返事をする。
「遅いから動けなくなってるのかと思った。大丈夫なら良かった」
焔の声を聞いたらホッと肩の力が抜けた。
お湯に浸かって、身体の力を抜く。不意に天井を仰ぎ見てしまったが、何も無かった。
そうだ。幽霊なんて非科学的なモノはこの世に存在しない。
風呂から出て、寝間着に着替えて寝室に入ると既に寝息が聞こえる。
「おかえり。お化け出た?」
「出てたまるか」
「そっか」
俺を気遣ってか、いつも真ん中にいる時幸が横にずれて、焔との間にスペースを作っていた。
何も言わず、俺は二人の間へ身を滑り込ませた。
「青斗、良い事教えてあげる」
「お前の良い事は良い事じゃないだろ」
「今回はマジで有益だから!」
「……」
俺は時幸の言葉に警戒し、隣の焔に身を寄せる。
「俺達のところに幽霊なんて来ないって。何故なら、幽霊はエロが苦手なんだってさ。エロい俺達のところには寄り付かないよ」
「……本当かそれ?」
「うん」
なら、ラブホに出る幽霊は地縛霊か何かかなんて聞く気になれず、俺はそうかと一応納得して眠りについた。
翌朝
珍しく焔が一番遅起きだった。
「はぁぁ……」
「おはよう」
「おはよう、青斗。んっ」
寝起きで緩々の口にキスをすれば、ふにゃりと焔は笑う。ムラっとして、朝勃ちもしてるが俺はグッと堪える。
「朝から元気だな。昨日の怖がりが嘘みたいだ」
「夜が明ければどうって事ない。でも、焔が風呂で声かけてくれたから、結構気が解れた」
「えっ……俺、すぐ寝たから風呂行ってないよ?」
「……………………………………は?」
え? どういう事だ? 何言ってんだ? は? ちゃんと声聞こえた! 確かに焔の声を聞いた!!
「う、うそ……」
「うん嘘! トイレ行くついでに声かけたよ!」
「ーーーーッッ!?!? てんっっめぇ!!」
「ごめんごめんごめん! 弱々しい青斗って可哀想で可愛くてつい!」
「言って良い事と悪い事があんだろ!!」
ビビった! マジでビビったぁ!!
もうココに居られないかと思った! めちゃくちゃ萎えた!
「はぁ……今晩覚えてろよ」
「うっ……ごめんって」
「朝から元気だな二人共」
「時幸も昨日の脅し覚えてっからな。覚悟しろよ」
「マジかよ……」
こうして、俺達はいつもより賑やかに三人並んで朝飯を食べた。
その夜は有言実行で二人を抱き潰してやった。
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