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6・不幸中の幸い②
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※時幸目線
焼肉屋に着いたら、とりあえず生とサラダバーだ。
肉が届くまでそれでチビチビやるのが定例となっている。
「先行ってきていいよ。待ってるから」
「わかった」
「お先~」
先にサラダを取りに行った二人を見送って、ボーっとスマホを見ながら待っていた。
「おいあれ」
「……人違いだろ」
「いや、絶対そうだって」
「?」
通路側で何やらヒソヒソ聞こえる。
フッと隣を見た。
そこにいる人物を視認した瞬間、俺はスマホを座布団に落っことした。
「あ、ほらやっぱり。西木だ」
「ええー雰囲気変わったなぁ」
「…………ぁ」
前の会社の元同僚達だ。この時間帯にこんな場所に居るって事は、もうあの会社には属して居ないのだろう。
「おいおい、無視すんなよ」
俺の席までフレンドリーな雰囲気を纏ってトコトコとやって来た男達が、座布団に座った俺の前でしゃがんだ。
「……何か用ですか?」
「いや、久しぶりに顔見たから。元気そうで安心したよ」
「俺らもあそこ辞めて転職活動中だ。あんなとこ逃げて正解だ。よくお前も頑張ってたな」
俺の事を気にかけている様な口振りだが、実際のところどう思っているかわからないので、俺は下手な事は言わず愛想良くする事にした。
「はは……また就職先見つかるといいですね」
「そうだな~」
『スリ……」
「っ」
無遠慮に頬を指の甲で撫でられ、背筋に悪寒が走る。目が泳いで冷や汗も出てくる。
「この後暇?」
「こ、の、後は……えっと、煙とニンニク臭くなるんで」
「俺らも同じだし、気にしないぞ? なぁ、頼むよ。久しぶりに身体貸してくれよ」
「優しくするから」
身体が震えそうだ。唇が乾いて、呼吸が浅くなる。
頬を撫でていた指が髪を梳くように撫で上げ、頭皮をグッと鷲掴まれる。
「俺達も西木の事忘れられなくてさ、疼いて仕方ないんだよ」
「でも……俺は」
強い言葉を使ったら何されるかわからない。
拒否の言葉をなんとか絞り出そうと思考を巡らす。
「お前だって嫌じゃなかったんだろ?」
その発言をトリガーに、性処理係の日々が一気にフラッシュバックする。
あれを? 嫌がってなかっと、捉えてるのか??
怒りよりも、得体の知れない生き物と対峙しているような恐怖が身体を支配していく。
「西木、いいだろ?」
──ゾクッ
男の手が首筋を撫で、身体が跳ねる。
鳥肌が止まらない。手つきの一つ一つに嫌悪感を感じる。嫌、嫌だ嫌だ!
俺の中に刻まれた再婚相手とのトラウマまで蘇ってくる。
『ガシッ』
「うちの連れに何してんだ?」
「!?」
俺に触れていた手を戻ってきた青斗が掴んで、ポイッと俺から外した。
「なに? 時幸の知り合い?」
「…………前の、職場の」
「へぇー」
隣に座った焔が俺の肩を抱き寄せて、相手に牽制をする。
「なんだ。もう新しい男見つけてたのか」
「違っ! 友達、だから……」
「あーぁ友達? ふーん。お前が会社でどんな仕事してたか知ってる?」
「あ?」
「やめて、ください」
セフレだが、二人は大事な友達なんだ。幻滅されたくない。
「知らないのか~なら少しだけ……コイツ、性処理係だったんですよ」
「……言いたい事はそれだけですか?」
「ん?」
「言いたい事はそれだけですかって聞いてんだよ」
『ガシ!』
青筋を立てた焔が男の胸ぐらを掴む。
「さっさと消えろ、性犯罪者」
「う、わ ……っんだよ、その態度!」
男達は逃げるようにその場を離れていく。
焔は舌打ちをしながらも俺を抱き寄せる力は、何よりも優しかった。
青斗も俺のグシャついた髪を撫でてくる。俺はまだ恐怖で震えが止まらなかったが、二人が来てくれたお陰で幾分か冷静になれた気がする。
「ごめん……」
「いいよ。時幸は悪くない」
「なんか言い寄られてみたいだが、何言われた?」
「……お、俺さ、会社の業務で帰ってこれない日があったじゃん。俺、普通の仕事以外に、帰れない社員の性処理も任されてて、そういうのを……また、してくれって」
上手く言えないけ。
隠していた事がバレてしまった。二人の顔が見れずに、視線を落としてしまう。
「……ごめん、俺、二人に隠してて……あ、性病とかはもらってないから、はは、大丈夫だか『モサッ』もご!」
ベラベラ動く俺の口に青斗がサラダを突っ込む。
「も、モゴモゴ……青斗?」
「謝んじゃねえよ。隠して当然だ。んな事」
「もっと早く辞めさせれば良かった。あーあ、この世には碌でもねえ会社があるもんだなぁ」
焔が何処かにメールを送っている手元が見えたが、すぐに画面を消して俺の背を摩る。
「大丈夫だ。俺達、お前の事嫌ったりしないよ。ココで肉食って、いつも通り一緒に家に帰ろう」
「……うん」
ポロポロと涙が零れてくる。
今まで溜め込んでいたものが、全部涙になって溢れ出てしまったみたいだ。
「あー焔が泣かせた」
「俺のせいかよ!」
「ふふ……」
肉を運んできた店員にギョッとされたが、気を取り直してサラダを皿に盛りに行ってから、肉に手を付けていく。
「美味しい……うわ、久々の良い肉」
「お高めだからな」
「焔、カルビくれ」
「はいはい」
肉を堪能して、会計を済ませ店を後にする。
「よし、真っ直ぐ帰ろうか」
「うん」
「時幸」
「?」
ふと名前を呼ばれて振り返ると、青斗がこちらに手を伸ばしてきた。
髪を耳に掛けられ、くすぐったいなと思いつつも受け入れる。そのまま手を滑らせ頬を手で撫でられる。なんだろうかと、じっと真っ直ぐに見つめていると顔が近づいてきて……口付けられた。
「!?」
「あれ? 青斗、外じゃ嫌だって言ってなかったっけ?」
「したくなっただけだ」
「暴君かよ」
家出る時に俺のキスを拒絶したの気にしちゃったのか?
青斗も結構、可愛いところあるんだな。
「青斗好き~ちゅ~」
「もうしない! もうしない!」
「ええー!」
「ははは」
後日、ニュースで前の会社が不祥事で何人もしょっ引かれて経営困難となり、倒産したと報道されていた。
急な事だったが、不祥事の発覚なんて大体急だよな。
焼肉屋に着いたら、とりあえず生とサラダバーだ。
肉が届くまでそれでチビチビやるのが定例となっている。
「先行ってきていいよ。待ってるから」
「わかった」
「お先~」
先にサラダを取りに行った二人を見送って、ボーっとスマホを見ながら待っていた。
「おいあれ」
「……人違いだろ」
「いや、絶対そうだって」
「?」
通路側で何やらヒソヒソ聞こえる。
フッと隣を見た。
そこにいる人物を視認した瞬間、俺はスマホを座布団に落っことした。
「あ、ほらやっぱり。西木だ」
「ええー雰囲気変わったなぁ」
「…………ぁ」
前の会社の元同僚達だ。この時間帯にこんな場所に居るって事は、もうあの会社には属して居ないのだろう。
「おいおい、無視すんなよ」
俺の席までフレンドリーな雰囲気を纏ってトコトコとやって来た男達が、座布団に座った俺の前でしゃがんだ。
「……何か用ですか?」
「いや、久しぶりに顔見たから。元気そうで安心したよ」
「俺らもあそこ辞めて転職活動中だ。あんなとこ逃げて正解だ。よくお前も頑張ってたな」
俺の事を気にかけている様な口振りだが、実際のところどう思っているかわからないので、俺は下手な事は言わず愛想良くする事にした。
「はは……また就職先見つかるといいですね」
「そうだな~」
『スリ……」
「っ」
無遠慮に頬を指の甲で撫でられ、背筋に悪寒が走る。目が泳いで冷や汗も出てくる。
「この後暇?」
「こ、の、後は……えっと、煙とニンニク臭くなるんで」
「俺らも同じだし、気にしないぞ? なぁ、頼むよ。久しぶりに身体貸してくれよ」
「優しくするから」
身体が震えそうだ。唇が乾いて、呼吸が浅くなる。
頬を撫でていた指が髪を梳くように撫で上げ、頭皮をグッと鷲掴まれる。
「俺達も西木の事忘れられなくてさ、疼いて仕方ないんだよ」
「でも……俺は」
強い言葉を使ったら何されるかわからない。
拒否の言葉をなんとか絞り出そうと思考を巡らす。
「お前だって嫌じゃなかったんだろ?」
その発言をトリガーに、性処理係の日々が一気にフラッシュバックする。
あれを? 嫌がってなかっと、捉えてるのか??
怒りよりも、得体の知れない生き物と対峙しているような恐怖が身体を支配していく。
「西木、いいだろ?」
──ゾクッ
男の手が首筋を撫で、身体が跳ねる。
鳥肌が止まらない。手つきの一つ一つに嫌悪感を感じる。嫌、嫌だ嫌だ!
俺の中に刻まれた再婚相手とのトラウマまで蘇ってくる。
『ガシッ』
「うちの連れに何してんだ?」
「!?」
俺に触れていた手を戻ってきた青斗が掴んで、ポイッと俺から外した。
「なに? 時幸の知り合い?」
「…………前の、職場の」
「へぇー」
隣に座った焔が俺の肩を抱き寄せて、相手に牽制をする。
「なんだ。もう新しい男見つけてたのか」
「違っ! 友達、だから……」
「あーぁ友達? ふーん。お前が会社でどんな仕事してたか知ってる?」
「あ?」
「やめて、ください」
セフレだが、二人は大事な友達なんだ。幻滅されたくない。
「知らないのか~なら少しだけ……コイツ、性処理係だったんですよ」
「……言いたい事はそれだけですか?」
「ん?」
「言いたい事はそれだけですかって聞いてんだよ」
『ガシ!』
青筋を立てた焔が男の胸ぐらを掴む。
「さっさと消えろ、性犯罪者」
「う、わ ……っんだよ、その態度!」
男達は逃げるようにその場を離れていく。
焔は舌打ちをしながらも俺を抱き寄せる力は、何よりも優しかった。
青斗も俺のグシャついた髪を撫でてくる。俺はまだ恐怖で震えが止まらなかったが、二人が来てくれたお陰で幾分か冷静になれた気がする。
「ごめん……」
「いいよ。時幸は悪くない」
「なんか言い寄られてみたいだが、何言われた?」
「……お、俺さ、会社の業務で帰ってこれない日があったじゃん。俺、普通の仕事以外に、帰れない社員の性処理も任されてて、そういうのを……また、してくれって」
上手く言えないけ。
隠していた事がバレてしまった。二人の顔が見れずに、視線を落としてしまう。
「……ごめん、俺、二人に隠してて……あ、性病とかはもらってないから、はは、大丈夫だか『モサッ』もご!」
ベラベラ動く俺の口に青斗がサラダを突っ込む。
「も、モゴモゴ……青斗?」
「謝んじゃねえよ。隠して当然だ。んな事」
「もっと早く辞めさせれば良かった。あーあ、この世には碌でもねえ会社があるもんだなぁ」
焔が何処かにメールを送っている手元が見えたが、すぐに画面を消して俺の背を摩る。
「大丈夫だ。俺達、お前の事嫌ったりしないよ。ココで肉食って、いつも通り一緒に家に帰ろう」
「……うん」
ポロポロと涙が零れてくる。
今まで溜め込んでいたものが、全部涙になって溢れ出てしまったみたいだ。
「あー焔が泣かせた」
「俺のせいかよ!」
「ふふ……」
肉を運んできた店員にギョッとされたが、気を取り直してサラダを皿に盛りに行ってから、肉に手を付けていく。
「美味しい……うわ、久々の良い肉」
「お高めだからな」
「焔、カルビくれ」
「はいはい」
肉を堪能して、会計を済ませ店を後にする。
「よし、真っ直ぐ帰ろうか」
「うん」
「時幸」
「?」
ふと名前を呼ばれて振り返ると、青斗がこちらに手を伸ばしてきた。
髪を耳に掛けられ、くすぐったいなと思いつつも受け入れる。そのまま手を滑らせ頬を手で撫でられる。なんだろうかと、じっと真っ直ぐに見つめていると顔が近づいてきて……口付けられた。
「!?」
「あれ? 青斗、外じゃ嫌だって言ってなかったっけ?」
「したくなっただけだ」
「暴君かよ」
家出る時に俺のキスを拒絶したの気にしちゃったのか?
青斗も結構、可愛いところあるんだな。
「青斗好き~ちゅ~」
「もうしない! もうしない!」
「ええー!」
「ははは」
後日、ニュースで前の会社が不祥事で何人もしょっ引かれて経営困難となり、倒産したと報道されていた。
急な事だったが、不祥事の発覚なんて大体急だよな。
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