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おまけ2

81:粉骨砕身のプロデュース

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 サミュエル曰く、自然災害や魔物による道の崩壊で馬車や人が容易に入れない場所に救援物資の配達に行く事が増えているようだ。何処にでも届けてくれるサミュエルの知名度は口コミで徐々に上がり、同時に紋章無しである事も知られつつある。

「多くの命を救ってくれてる事も大いにわかってるけど、危険な場所に行っていると思うと私はヒヤヒヤするよ」
「そこは多めに見てくれ」
『ちゅっ』
「……キスで誤魔化されないぞ」

 ソファーでまったりしながら、大分少なくなってしまった二人の時間を堪能する。
 
「強くなったもんだな。俺のキスにメロメロだったクセに」
「い、今でもメロメロだけど、それとこれとは、別の話だ」
「心配してくれるのは、嬉しいし有難いけど、こう毎度毎度言われるとウザい」
「ごめん!!」

 毎日毎日繰り返し心配している私にげんなりしているサミュエル。
 サミュエルが強くなったのは知ってるし、その仕事がとても大事な事なのもわかってる。
 それでも……心配だ。サミュエルは私が守らなくても大丈夫だとわかってても心配だ。彼が痛い思いをするかもしれないと考えるだけで、また気が狂いそうだ。

「頑張ってるのに……私がこれじゃ、逆にプレッシャーになるよね」
「ちゃんと帰ってくるし、また当分は普通の配達に戻る」
「?」
「救援物資を見繕うのも金がそれなりにかかるんだ。人力配達と転送で大分資金浮いてるけど、苦しくなってきた」
「(救援物資も一つ一つは市販の商品だから、そりゃそれなりに……)」

 国から補助金出てるけど、継続して送り続ける場所が増えてるから苦しくなってきたと言う。
 救援物資として商品を纏めてくれる卸業者から配送屋が直々に購入しているから。
 現場の命綱を打ち切るわけにはいかない。救援の為に寄付を募っているが、集まりはよろしくないようだ。

「やっぱり金って、大事だな」
「…………うん」

 サミュエルが当分危険な場所に行かなくていいのは、嬉しいが……一方で、資金不足が足引っ張ってサミュエルの能力が活かされないのは、私にとっても彼にとっても歯痒い事だ。
 私の感情は二の次にして……サミュエルが人の役に立ちたいと思っている事は知っている。
 私がすべき事は、心配して安全地帯に縛り付ける事じゃなくて、サミュエルがしたい事を応援し続ける事だ。

「サミュエル」
「?」
「……私、ちょっと頑張ってみるよ」
「…………何する気だ?」
「良い事」
『ちゅっ』

 お返しのキスをしてサミュエルをソファーに押し倒した。

「明日も仕事だぞ」
「うん。キスだけさせて。頑張る為にサミュエルを充電したい」
「んっ」

 サミュエルの胸元に顔を埋めて、胸板に唇を落とす。彼の匂いを肺一杯に吸い込むと幸せすぎておかしくなりそう。

「愛してるよ」
「……俺も」

 顔を持ち上げて、サミュエルにキスをする。甘くて優しくて痺れる様な幸福感で満たされていく。



 次の日から、病院での仕事の合間に設計図とプレゼン資料を製作して、車椅子の工場へと向かって工場長と技術者に相談へ行った。

「これまたすごい物を」
「……乳母車と違って、乳幼児以降の幼児も乗れますね」

 今は乳母車しかなくて、乳幼児しか乗せれない。
 もう少し幅広い年齢で乗れるベビーカーの提案だ。
 猫の手も借りたい親達にとって、絶大な仏の手だ。
 プラスチックには出来ないから、出来る限り軽い素材で、折り畳み式で女性でも持ち運べるように。
 双子用のベビーカー案も出したが、これは道幅やバランスについて要検討だ。

「えーー続きまして」
「はぇ!? まだあるんですか!?」

 工場長が驚きながらもワクワクとした表情で私の取り出した資料に目を通す。

「…………こ、こんな物、どうやって思い付いたんですか?」
「夫を見ていたら、どうしても作ってあげたくて」
「それにしたって……コレは、最早常識が変わりますよ」

 大袈裟な口振りだが、ただの空調服クールウェアだ。冷風機という魔道具があるが、もっと単純な仕組みにすれば安くなるし安全だ。

「冷風機は風と氷の混合魔法を付与した魔石を使用しているので、魔法の技術料が高いんですよね。ですがコレならば、この扇を回転させるだけで衣服内を風が吹き抜け快適爽快」
「ですが、ココは機械工場なので衣服の取り扱いは……」
「存じております。そして出来上がった物がこちらになります」
「えええ!」
「仕立て屋で既にサンプルは作ってあります。快適な風通りを実現する特殊な作りで」

 この工場で作ってもらうのは、ファンの部分だ。
 話を纏めてから、仕立て屋と連携を取っていこうと思う。
 ベビーカーの特許権は私だが、コレに関しては仕立て屋と工場の合同特許にする予定だ。

「先生、こんなに仕事以外に打ち込んでて大丈夫ですか?」
「仕事でもちゃんと結果出しますよ。今作ってる薬……完成したら、私は億万長者になっちゃうかも」
「「(なんでまだなってないんだろう)」」

 物作りの企画を同時進行しつつ、病院での研究もめちゃくちゃ気合いを入れている。
 
「アーサン先生、本当頑張ってください」
「俺達の未来の為に」
「頼むから投資させて」
「必要な物なんでも言ってくれ!!」
「あははは! 皆さんに負担かけた分、ちゃんと恩を返せるようにしますよ!」

 前世でも完璧な薬は無かった。
 けれど、この世界には魔法がある為、思っていた以上にスムーズに研究が進んだ。
 みんな協力的で必要な物は本当にすぐ取り寄せてくれた。

「あのぉ……アーサン先輩」
「ん? なに?」
「私達にも……その……真逆の薬を」
「勿論、そっちも作る予定だよ。コレより時間かかるけど」
「わぁ! やったぁ!」

 男性陣と女性陣から期待の眼差しを受け続けて、半年後……治験希望者で病院がパンクしかけたから前代未聞の抽選会が行われた。

「あと二回ぐらい調節したら、もう製薬出来ますよこれ」
「一気に二つの新薬とか……鬼才やべえ」
「はぁぁ……空調服も出来たし、ベビーカーも製造ライン出来たし、薬もそろそろ出来る」

 一年以内に出来るとは思わなかったが、これで漸く気を抜ける。




「……アーサン」
「サミュエル~~私すっごい頑張ったよ」
「…………頑張り過ぎだ。職場でもお前の新薬の話で持ちきりだぞ」
「育毛剤と脱毛剤、めちゃくちゃ頑張ったよ。前世でも万人に効果が出る薬なんて無かったから。魔法の偉大さを知ったよぉ」

 皮膚や頭皮の体毛の研究し過ぎて、無駄にアンチエイジング魔法を編み出してしまった。

「全人類のお悩み解決してんじゃねえか」
「そうであればいいんだけれど……まぁ、ひとまずは、寄付金はコレで大丈夫」
「ん?」
「もう、救援物資の費用に困らなくていいし、人件費も賄える額になるはず。サミュエル忙しくなっちゃうね」
「!?」

 私が何の為に頑張ったと思ってるんだよ。すごく驚いてるサミュエルの頬にキスをしながら、ソッと囁く。

「応援してる。でも、ちゃんと帰ってきてね」
「…………ああ……ああっ、帰ってくる。ありがとなアーサン」

 サミュエルにしか出来ない仕事があるのだから、支援は惜しみなくするつもりだ。
 鬱陶しいだろうが、不安や心配は無くないらない。それも私の愛故だ。そこだけは、理解して欲しい。
 
「(……サミュエル……自覚無いけど、顔は悪く無いんだよね。人相悪いけど、表情の変化は可愛いし。ファンは絶対つく。ガチ恋勢が手出し出来ないように、私がしっかりマーキングしないと)」
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