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名高き君への献身

73:饗宴のトースト

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 王子様が生きていた。
 正確には、死んだけど蘇った。
 本当に信じられない。
 四人も生きているだなんて。

「ぁ、アーサン。こっちこっち」

 指定されていた店のテラス席にヘンローン様達が既に来ていた。

「遅くなりました」
「時間前だから気にするな。こっちが早く来過ぎた」
「……随分と色男になったな。シ……アーサン」
「本当に……アーサン?」

 エレン様とデコン様……面影が残るお二人に鼻の奥がツンとする。

「そちらが、夫の」
「サミュエルです。皆様の事は、アーサンから聞き及んでおります。命の恩人と」
「はは、まぁそうだが、そんな畏まらなくていい。敬称も要らない。ささ、積もる話もあるだろうが、まずは乾杯だ」

 席に着いて、飲み物を頼んでジョッキを持つ。

「アーサンとその夫サミュエルとの邂逅を祝して、かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」

 私以外、豪快な飲みっぷりを披露していた。サミュエルも久しぶりの飲酒に少しハイになっていた。

「ヘンローン、あまり飲み過ぎるなよ」
「わ、わかってる」
「(ドクターストップかかってる……)」
「ふふ、なんでか蘇生後はみんな太ってて、僕らは痩せたんだけど、ヘンローン兄さんだけこうなっちゃったんだ」

 蘇生って太るんだ。
 なんで? カロリー?
 よくわからないけど、ヘンローンさんは痩せ難い体質らしい。
 エレンさんとデコンさんがぷよぷよとヘンローンさんのお腹に触っている。平和な光景に、またも目頭が熱くなる。

「アーサン、これ僕の本。アーサンに聞いた物語を本にしちゃった。海賊の話と鬼の話」
「ええ! すごい……わぁ!」

 大海賊時代の話と優しい鬼退治の話が本になっていた。
 まだまだ知名度は低いけど、マハマの書店には何処でも置いてある程度には国内人気はあるらしい。

「証拠は無いけど盗作だから、利益は孤児院に寄付してるんだ」
「お気遣いありがとうございます……コレ貰っても?」
「勿論」

 サミュエルと私の分を貰った。サミュエルはマグナさんへのお土産にするつもりらしい。冒険譚は好きだけど、文字読むの得意じゃないから。

「サミュエルさん、アーサンと一緒になってくれて本当に嬉しいよ。ありがとう」
「皆さんがアーサンを守ってくれたおかげで、俺は今もこうして幸せに生きています。一緒になれたのも、貴方方のおかげです。こちらこそありがとうございます」
「はは、出来た夫じゃないか!」
「んへへへ」

 そこから各々の家族事情についての話となった。
 ヘンローンさんは孤児の養子が三人いる。エレンさんは結婚していて子どもが一人、デコンさんは同棲中の彼女が居る。それぞれ順風満帆の日々を過ごしているようだった。

「アーサンも医者になったのか」
「いろいろありまして。エレンさんは、ずっと魔法医の勉強されてましたよね」
「…………もしかして……《特発性とくはつせい脳梁魔石結晶性のうりょうませきけっしょうせい関節症かんせつしょう》の発見者かつ、治療法を編み出した鬼才魔法医の“アーサン”って、お前か?」
「え? あ、はい。恥ずかしながら……私ですね。ついでにその病気に罹ってたのは彼です」
「「「ぉ、おわ~~……」」」

 全員がドラマのエモいシーンを見た時のような反応をした。

「その話詳しく」
「ええ……惚気にしかなりませんよ?」
「あはは、いいじゃないか。お前の幸せは、俺達にとって大いに意味がある」
「うんうん」
「…………サミュエル、良い?」

 一応確認を取っておこうと隣を伺うと、ホクホク顔で私と彼らの会話をツマミに酒を飲んでいた。

「ああ、勿論。けど、程々にな」
「わかった……飲み過ぎないようにね」
「ん」
「「(ドクターストップだ)」」

 長い長い私達の話をした。
 郷土料理のスパイシーな味に舌鼓を打ちながら、三人とも真剣に聞いてくれた。
 結婚までの経緯を話したところで、ヘンローン様が『うっうっ』と嗚咽を零して、ハンカチで涙を拭っていた。

「素晴らしい……やはり、神はいらっしゃるんだ」
「アーサンごめん。コイツ泣き上戸で」
「僕は普通に感動で泣きそう……頑張ってきたんだね。生きててくれて、ありがとう、アーサン」
「ッ……ぃえ、いえ。私が生きてるのは、幸せなのは、皆様が死力を尽くしてくれたおかげで、サミュエルが支えてくれたから、ここまで……ここまでっ!」

 耐えきれずに涙が溢れ出してしまった。今までの喪失感による物とは違う。感慨無量の歓喜が涙となって止めどなく流れ出した。

「生きててくれて、ありがとうございますっ! 本当にッ、どんな形であれ、貴方達が生きててくれて、私、私は、本当に嬉しいんです!」

 サミュエルが、わんわん泣く私の涙を拭って鼻をかんでくれた。みんなが昔と同じように私の頭を撫でるものだから、また涙が溢れてしまう。
 ヘイローンさんが私につられて本格的に泣き始めてエレンさんが忙しそうにしていた。
 騒がしい夜は更けていく。

 お開きになる頃には、私とヘイローンさんが干からびかけていた。デコンさんとエレンさんに水魔法を直に飲まされてから、解散となった。なんと締まりの無い。

「また来ような、アーサン」
「……うん」

 サミュエルにおんぶされながら宿に帰って爆睡した。


※※※

 翌朝

「ぅう……頭痛い」
「アーサンが二日酔いで、俺が看病するなんて……人生わからねえなぁ」
「人の二日酔いで人生感じないで」

 水を飲んで、モソモソと朝食を摂った。本当に……前世合わせても久々の二日酔いだ。辛い。
 
「ごめん……一緒にお出かけする予定だったのに」
「別にいい。昨日で充分元は取れた。それに、こうして二人きりでゆっくりするのは久しぶりだろ」
「……何か、お昼食べたい物ある? 簡易的だけど、共用台所あるみたいだし」
「美味いもん」
「わかった」

 即答する私に本当にわかってんのか? 
って顔されるけど、サミュエルの好物ぐらいわかってる。味の濃い鶏肉料理が好きだ。
 資金は潤沢にある。
 献身的に支えてくれたサミュエルを少しでも労わりたい。感謝を形にしたい。

「……昼は、贅沢に行こう」
「病み上がりで平気か?」
「食べるのは君だ。私は、作りながらつまみ食い」
「俺を肥えさせてどうするつもりだ」
「綺麗にラッピングして美味しくいただくよ。君はもっと太ってもいい。また肋骨が浮いてた」

 私に寄り添っている間、ちゃんと食事が摂れて居なかったんだろう。サミュエルはまた、痩せていた。
 やっと健康体になったのに、私の所為で、サミュエルの体積が減った。責任持って、腹いっぱい食わせないと。

「…………昼まではイチャイチャしよぉ」
「寝てろ」
「ひぃん」

 安静にさせられた。
 まぁ、私も二日酔いの時には彼を寝かせて大人しくさせてた気がする。
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