大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

7ズ

文字の大きさ
上 下
53 / 77
名高き君への献身

58:忘却のリメンバー

しおりを挟む
「(あーあ……出張が無ければ、もっとしっかりサミュエルの様子見に通えるのに)」

 サミュエルの気功特訓が始まって一ヶ月半が経過した現在……私は出張で、ガレー・ゼ・ルーラ大病院に来ている。
 長距離移動を転移魔法で一瞬で移動させてもらった。転移魔法の交通費は馬鹿にならないが、向こうの経費で落として貰うからいいけど、なんか悪い気がする。
 私が何故、大病院に来てるかと言うと、魔石が脳梁に再形成される事に関して解明が進んだので、出来るだけ多くの魔力障害科医の方々と意見交換がしたいとジャナル医院長に相談したら、大病院でそういう場をセッティングされてしまった。
 しかも、セニア先生もいらっしゃるらしい。

 ガレー・ゼ・ルーラ大病院は、世界一の規模を誇る巨大総合病院。
 故に会議室までの、道のりが……遠い!
 受付を済ませて、フークイ医院長にご挨拶をしてから、会議室へ看護師に案内されるが、すごい道のりだった。
 もう帰り道わかんない。迷子になる。

「アーサン先生」
「あ、セニア先生ご無沙汰しております」
「こんにちは。彼はもう全快?」
「お陰様で。気功を習える程には」
「そうか。良かった」

 端的な挨拶を済ませて、会議室に入ってプレゼンの準備をする。
 パワポなんてないから、資料のめくり芸だ。
 時刻前に大病院に所属していた魔力障害科医が会議室に集まり始めた。
 一人一人と挨拶をしながら、堅苦し過ぎない程度の空気感を作る。
 私よりずっと優秀な方々だ。

 魔力欠落体質者による特発性とくはつせい脳梁魔石結晶性のうりょうませきけっしょうせい関節症かんせつしょうに置いて、脳梁に魔石が再生成される原因についての資料を見てもらう。
 マウス実験を主にした魔力の流れ方についての図と人間の魔力がどのように巡っているか照らし合わせると、ほぼ同じ魔力回路である。様々な動物とも類似性が見られた。
 しかし、魔物の魔力の巡り方は、人間のものとは全く違うものである。生きた魔物を研究している魔物専門の生物学者の意見と提供資料を交えて、皆の意見を貰う。

「こんなに違うんですね」
「例外は居るが、魔力は全生物共通で持っている。しかし、魔石が発生しているのは魔物と呼ばれている魔法を扱う生物のみ」
「その魔物には魔物の魔力回路が存在してます。そして、主に魔石を保有する部位もほぼ同じです」
「……心臓ですか」

 魔物の魔石は主に胸の当たり。心臓部付近に存在する。

「…………なるほど」
「あー……そうですよね」

 説明する前に察し始めてる先生方。
 まぁ、魔力障害科医ならハッとする内容だ。

「魔力は血液と同じです。魔力を巡らせ、送り出す心臓部が存在するのです」
「魔物は胸部、その他の生物は頭部に魔力の心臓があると?」
「その理論だと、患者だけではなく我々の頭部にも魔石が出来るのでは?」
「そこなんですが……次の資料を見てください」

 魔物に魔石が出来て、人間や他の動物に出来ない理由は魔力回路にもう一つ違いがあるからだ。

「……身体への巡り方が異なるのか」
「魔物は心臓部を中心に魔力回路が多いのに、末端は少ないですね」
「マウスや人間は一定の魔力回路が血管のようにぐるりと回っている……ほぉ」
「魔石の生成は魔力密度に比例してるように見える」
「いや、魔力を行き渡らせる為に生成されるのか?」
「魔石結晶性以外で人体に魔石が確認されないわけだ」

 魔石を食べる文化圏の者達の中でも、魔石結晶性関節症を発症する成人の報告はされていない。記録にあるのは、前例の二件だけだ。その二件も、病になる程の魔力量であったとしても、関節以外に魔石は発生していなかったと死亡解剖で報告されている。
 
「先程出た、滞った魔力を行き渡らせる為に魔石が生成されるのではないかと言う意見ですが、重要なポイントだと思います」

 そもそも魔道具で使用される魔石は、大気中の魔力を取り込んで溜めておく物ではなく、魔道具に魔力を巡らせる役割を担っている。

「魔石を摂取した者に一定量の魔力が無い場合。摂取した魔石が消化、小腸で吸収された後、空の魔力回路を巡り、心臓部の脳の中心、脳梁に再生成されてしまう。極めて稀な症例ですが、紋章の無い魔力欠落体質者に対して魔石を食べさせる民間療法がある以上、特発性とくはつせい脳梁魔石結晶性のうりょうませきけっしょうせい関節症かんせつしょうを患う方は確実に存在しています」

 悲しい事に、この病気を根絶するには紋章無しに対する意識改革が必要となる。

「人の手で起こり得る、じわじわと死に至る病。発症患者のデッサンを見ていただければ、深刻性は伝わると思います」
「…………あの、アーサン先生」
「はい」
「このデッサンはアーサン先生が?」
「はい。私が描かせていただきました」

 少しざわついたのは、全員がデッサンの被写体の患者が私の夫だと知っているからだ。
 目を背けたくなる程の痛々しい姿をこれでもかと繊細に描いた物に複雑な表情を浮かべる先生達。

「はぁぁ……難易度は高いが、治療法はアーサン先生によりほぼ確立された。しかし、病の原因が差別意識とは……問題が大き過ぎる」
「魔力欠落の障害を無くしたい気持ちはわからなくも無いですが、最早個性としか言いようがない体質です」
「ぁぁぁぁ……別ベクトルの難病ですよコレ」

 魔力障害科の領域を越えて、地域に根ざしてしまった差別意識の改革という社会問題に踏み込む根幹治療が必要である。
 方法として様々な意見が出て来たが、コレは各々持ち帰って他の分野の先生とも話し合わなければならない問題である。
 
 有意義な時間であった。
 もし、地域の差別問題をどうにか出来れば、病の根絶は可能だ。あの長ったらしい病名も言わずに済む。

「アーサン先生」
「ああ、モルガン先生」

 会議室を出た後、魔力障害科医のモルガン先生が声を掛けてくれた。同い年ぐらいで、絵に描いたように典型的な好青年の風貌だ。

「お疲れ様でした。お帰りの前に、よろしければ病院内を見学されていきませんか?」
「いいんですか?」
「フークイ医院長から、是非にと」
「ありがたいです。最新技術の震源を見れるなんて」

 嬉しいと思えるあたり、私も医者になったものだ。
 そして、改めて……最新技術の医療魔道具を編み出しているガレー・ゼ・ルーラ大病院は、とんでもねぇ場所だった。
 病院内には、数多くの最新の医療魔道具が動いている。魔法による手術を行う機器や高度な生命維持装置の魔導具もあると言うのだから驚きだ。

「アレは?」
「ああ、アレは事故やストレスで記憶障害を起こされた患者の記憶を正常に再生する機械です」
「へぇ……! そんな事が出来るんですね」

 VRゴーグルのような形の機械は記憶に携わる医療具だと言う。

「逆に、精神ストレスの原因となる記憶を抑え込む事も出来ます。一時的に記憶喪失になってしまうのでまだまだ改良の余地がありますが、退役軍人や戦争孤児には効果覿面です」

 そういえば、私はこの世界で生まれてから奴隷になるまでの記憶が無いんだよね。
 いや、思い出さなくても別に困らないけど……ちょっと気になるじゃん。

「アーサン先生?」
「……あのぉ、実は──」

 私の記憶の欠落について話したところ、モルガン先生は驚きつつもカウンセリングを経てからなら、と提案してくれた。

「いつから記憶が無いかわかります?」
「産まれてから、凡そ……六年ぐらい? 何一つ覚えて無くて」
「住んでいた土地も、親の事も、周囲の事も、自分の事も……全般性健忘の症状ですね」

 解離性健忘症の一種である全般性健忘は自分の経験や世界の事も情報全てを失った状態。
 もしかしたら、極度のストレス状態にあったのかもしれないと言われた。
 奴隷商に売られたのは確実なんだし、嫌な記憶であってもおかしくない。
 
「もし、ストレスによる全般性健忘の場合、あまり記憶の再生はおすすめ出来ません。受け止めきれずに、脳が封じている事柄ですので……強いショックで、精神に異常をきたしてしまうかもしれません」
「……そうですか」

 最もな診断だ。
 気になってはいるが、好奇心は猫を殺す。今が幸せなんだから、辛い記憶をわざわざ思い出す必要性は何一つ無い。
 この生活を壊す程の価値は無いだろう。
 気になるけど、めちゃくちゃ気になるけど……!!

「我慢します」
「経過観察ですね」

 結局、VRゴーグルは使う事なく、モルガン先生の案内は滞りなく終えられた。

「ありがとうございました。大変勉強になりました」
「こちらこそ、為になるお話と今後の課題も見えました。お互いにこれからも頑張りましょう」
「はい」

 モルガン先生に見送られて、受付で退去のサインをしている最中に、私の視界が何かに覆われた。

『ガン!』
「きゃあ!」
「ぇ、なに!?」
「紋無しの肩担ぎめ!!」

 理不尽な怒声を浴びせられながら、私は強制的に記憶の再生をされた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

この道を歩む~転生先で真剣に生きていたら、第二王子に真剣に愛された~

乃ぞみ
BL
※ムーンライトの方で500ブクマしたお礼で書いた物をこちらでも追加いたします。(全6話)BL要素少なめですが、よければよろしくお願いします。 【腹黒い他国の第二王子×負けず嫌いの転生者】 エドマンドは13歳の誕生日に日本人だったことを静かに思い出した。 転生先は【エドマンド・フィッツパトリック】で、二年後に死亡フラグが立っていた。 エドマンドに不満を持った隣国の第二王子である【ブライトル・ モルダー・ヴァルマ】と険悪な関係になるものの、いつの間にか友人や悪友のような関係に落ち着く二人。 死亡フラグを折ることで国が負けるのが怖いエドマンドと、必死に生かそうとするブライトル。 「僕は、生きなきゃ、いけないのか……?」 「当たり前だ。俺を残して逝く気だったのか? 恨むぞ」 全体的に結構シリアスですが、明確な死亡表現や主要キャラの退場は予定しておりません。 闘ったり、負傷したり、国同士の戦争描写があったります。 本編ド健全です。すみません。 ※ 恋愛までが長いです。バトル小説にBLを添えて。 ※ 攻めがまともに出てくるのは五話からです。 ※ タイトル変更しております。旧【転生先がバトル漫画の死亡フラグが立っているライバルキャラだった件 ~本筋大幅改変なしでフラグを折りたいけど、何であんたがそこにいる~】 ※ ムーンライトノベルズにも投稿しております。

転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】

リトルグラス
BL
 人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。  転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。  しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。  ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す── ***  第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20) **

騎士団長を咥えたドラゴンを団長の息子は追いかける!!

ミクリ21
BL
騎士団長がドラゴンに咥えられて、連れ拐われた! そして、団長の息子がそれを追いかけたーーー!! 「父上返せーーー!!」

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします

muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。 非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。 両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。 そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。 非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。 ※全年齢向け作品です。

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった

無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。 そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。 チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

処理中です...