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名高き君への献身
57:欠落者のポシビリティー
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サミュエルがワン先生の元に残ってから、二週間が経過していた。
私は、その間に王室で王子達に物語を聞かせたり、学会に顔を出して研究の近況報告を行ったりもした。
濃いんだよな。毎日が。一個一個のイベントがデカ過ぎて、疲れる。やっぱり、全ての疲れをぶっ飛ばすサミュエルの可愛さを浴びないと、一日がめちゃくちゃ長い。
「……あのぉ、アーサン先生? 工場の廃品置き場に用とはなんでしょうか?」
「馬車は金がかかるし、徒歩じゃ時間がかかってしまいます。金をかけずに移動時間を短縮出来る物が欲しいんですよ」
車椅子工場の破損や不良品で廃品としてゴミになる部品を工場長に許可を得て、ガチャガチャと組み立ていく。
「……自分で運転出来る車輪が、必要」
「ぉお……アーサン先生……これは?」
「自転車」
「じ……自転車? ってなんですか?」
「馬や牛が引かなくて、人の力で動く乗り物です」
「……はぁ」
「ちょっと試運転するんで、工場長さん見ててください」
「はい!」
あ、そうだ。ブレーキも作らないと事故るな。
前世じゃ車持ってなかったから、ずっとお世話になっていた乗り物。
絵を描く時にも、細部までしっかり見て描いてたけど、思ったよりちゃんと覚えてるもんだ。
『ギィコギィコ』
「うーん……」
「ぉ、おお! 素晴らしい! 短距離用の手押し三輪車は有りますが、縦並びの二輪車は初めてです!」
車椅子は小さな補助車輪が付いてるので四輪だ。
「(平にされてない道が多いから、自転車は大分気が早いけど、自分用ならいいでしょ)」
その後、工場長が整備士を呼んでくれて私の廃品自転車を整えてくれた。
「わぁ……なるほど。チェーンで」
「後輪を回して……へぇぇ~」
自転車の構造が面白いみたいで、メモを取りながら、異音の出る原因である歪みを取り払ってくれたので、自転車を再度試運転。
『キィコキィコ』
「おお、いい感じです。スムーズになった。流石本職は腕が良いですね」
「へへ」
「あの、アーサン先生……どうやって乗ってるんですか? 大分難しいと思うんですけど」
自転車の初見って、そう思うよね。
慣れたら便利過ぎて手放せなくなるけど。
「慣れれば誰でも乗れます。まぁ、街中は危険だから乗れないですけど」
歩道も車道も無い道で乗り回せるものじゃない。
けど、見晴らしのいい一本道なら問題は無いだろう。
「ブレーキを着けたいんですけど……えーっと……こういう」
ブレーキの設計を絵に描いて、見せると……何故か畏怖の視線を向けられる。
「こうもポンポンと、思い浮かぶものなんですか?」
「え、いや……」
「アーサン先生って、本当に……何者?」
「……私はただの愛夫家です。産み出してきた物全て夫の為。コレも、一秒でも早く、彼に会いたいから作ってるんですよ」
思えば、チャリティーの品も薬も車椅子も……作る要因は彼だった。
サミュエルの為なら、なんだって出来る。
「「「(……愛って、凄いな)」」」
遠い目をしている工場長達にブレーキを取り付けてもらって、一応完成した。
自転車の耐久実験を仕事帰りに数日行って、いざ実践。
『キコキコキコ』
「……快適~」
前世からの慣れもあって、ダートでも乗りこなせた。
徒歩よりずっと速い。徒歩だと三日かかる道のりが、日を跨ぐ前に目的地に到着出来た。
ずっと漕いでると、流石に疲れるけど……
「アーサン?」
「はぁ……はぁ……サミュエル、進捗どう?」
大好きな人に会う為には、必要な労力だ。
走り込みを涼しい顔で熟しているサミュエルと、見苦しい程息を乱して汗だくの私。
「(気功使うの……忘れてた)」
「大丈夫か? 会いに来てくれたのは嬉しいけど、無茶すんなよ」
「うん……」
自転車を押して、ワン先生のお宅へお邪魔する。
「こんにちは」
「はいはい、こんにちはって、んあ? アーサン、ソレはなんだ?」
「自転車と言う乗り物です。上手く使えば、早く移動出来ます」
「……上手く使えたか?」
「きょ、今日はちょっと下手でした」
まだ肩を上下させて、汗だくの私を見て苦笑しながら、手でシッシと払う動作をする。
「風呂入って来い。汗臭い」
「すみません、お借りします」
ワン先生宅にある風呂場は、修練場の広い風呂とは違って普通のお風呂だ。
「……サミュエル、流石に男二人はキツイよ」
脱衣所までポテポテと後ろにくっついてきたサミュエルに言うが、彼は私の言葉を無視して隣に立つ。
「……俺と二人っきりだぞ? 嬉しくないのか?」
「ぁ、あーー……嬉しいです」
顔に出てはいなけど、私に会えて喜んでくれていたらしい。
察せなかった自分を恥ながらも、甘えてくれたサミュエルを抱き締めようとして……自分の状態を思い出して止まった。
「…………汗、流してから」
「女々しい事言うな」
『ガッ』
「ふぇあ!?」
サミュエルに抱き締められて、首元で深呼吸をされて焦る。
「汗臭いから!」
「アーサンの匂いが濃くなってるだけで、臭くはない」
「あ、ありがとう……でも、脱ぐから離れて」
「背中流してやるよ」
「…………頼もうかな」
久々に二人っきりだし、私も甘えてしまおう。
お湯で汗を流して、身体を洗う。
「…………」
「…………」
沈黙の時間。いろいろ話したい事があったんだけど、この状況で下手に動いたら……愚息が横着しそう。
『バシャン』
「綺麗になったぞ」
「うん、ありがとうサミュエル」
『ピト』
「…………サミュエルさん?」
背中にピッタリとくっつかれて、サミュエルの体温が直に伝わってくる。
気をちゃんと練れているようで、ポカポカと暖かい。
密室で二人っきり。裸でくっ付かれている。
いやいやいや、落ち着け。
私はスッと立ち上がって、背後のサミュエルに向き直る。
「アーサンッ」
「(……あ、あれ? なんか、サミュエルの様子が)」
「ん……」
あ、ダメだ。これスイッチ入ってるわ。
背伸びをして私に口付けて、積極的に舌を押し込んできた。
「……っは、ぁむ……ン」
『クチュ』
「んふ……んぅ」
歯列をなぞられて、舌裏から絡み取るように貪られる。息継ぎをする間もないぐらい激しくて……下腹部に熱が集中していく。
落ち着け……ココで致したら、ワン先生達に顔向け出来ない。
サミュエルの耳を覆うように両手で鷲掴んで、強引に引き離す。
『ピチャ……』
過剰分泌された唾液が、引き抜かれた舌と共に溢れて互いの口元を汚した。
「ん、ふぅ……サミュエル、これ以上は」
「……もっと」
「ああ、サミュエル……君も、私を恋しがってくれてたんだね。とても嬉しいけど……落ち着いて。ココじゃ君をゆっくり愛てあげられない」
トントントンと背を叩きながら、頭を撫でて猛りを沈ませる。
「アーサン……無理だ…………今まで大丈夫だったのに、お前の顔見たら……抑えが利かない」
「本当に、嬉しい事言ってくれるね」
愛されてるなぁ。
私達、新婚だもんなぁ。
♡♡♡中略♡♡♡
「サミュエル、コレ以上は我慢我慢。家に帰ったら、いっぱいシようね」
「……んぅ」
不服そうな顔だが、冷静になってくれたようで、私から離れた。
……けど、手は繋いだまま。
「……アーサン」
「うん?」
「…………なん、でもない」
「ふふ、キスは帰るまでいっぱいしてあげる」
お湯で冷や汗を流してから、服をザッと水洗いして、瞬間乾燥機にかけた。
魔法医を送り込んだガレー・ゼ・ルーラ大病院から、特訓で衣服の洗濯が馬鹿にならない量になるからと瞬間乾燥機三台が贈られてた。魔道具万歳、ものの五分で乾燥した。
「遅かったな」
「すみません。イチャイチャしてました」
「ちょっとは隠せ。サミュエル、走り込みに戻れ」
「……はい」
ワン先生に促されて、少し残念そうに外へと出て行ったサミュエル。
「では、私は夕飯の準備を──」
「アーサン、話がある」
「はい?」
「サミュエルについてだ」
「!」
急にワン先生の神妙な面持ちになる。
一体何の話かと思って、姿勢を正して、ワン先生の話を待つ。
「アッシも魔力量は多くない。ランクはEと最低値。じゃが、サミュエルには魔力が無い」
「はい。そうですね」
「魔力が少ない者ほど、気功の純度が高い傾向にある」
前にも聞いたけど、気功の純度ってなんだ? それによって何か変わるのか?
「気功にも純度があるんですよね。普通の気功とどう違うんですか?」
「純度が高い程、肉体への浸透力は通常とは桁違いだ。素早く、効率良く、肉体へと行き渡る」
なるほど。
けど、そんな事で私にわざわざ話があるなんてワン先生は言わない。
「……サミュエルの気功の純度は、高いんですか?」
「…………長年に渡り、気功師をしとるが……最高純度と言っていい」
「わぁ、すごい!」
「だが、それ故に……危険性も出てくる」
「危険性?」
サミュエルの気功は、魔力等の不純物が一切ない、純度が高い状態。
高純度が故の弊害も存在すると言う。
「サミュエルに護身術を教えているが……護身では済まない威力を、サミュエルは発揮している」
「……え?」
「肉体への浸透性が高過ぎて、身体能力を補助した際に、本人が思っている以上の一撃が出てしまう」
「…………コントロールは……出来ますか?」
「時間をかければな。護身術自体はあと一週間もすれば習得出来る。しかし、気功のコントロールは、最低でもあと三ヶ月は必要だ」
さ、三ヶ月!? 通常の三倍もの特訓時間が必要って事!?
え……ちょ、さん、三ヶ月は長いって。二週間でギブして会いに来てるのに。
「アッシがあの日、お前を説得してサミュエルをココへ残させた時とは訳が違う。お前にコレを拒否させるつもりはない。サミュエルが不用意に相手を、そして自分を傷付けぬようにせねばならん」
「…………サミュエルの為なら……我慢出来ます」
我慢も何も、私に拒否権は無いんだけどね。サミュエルにも拒否権は無いだろうし。
「通いますね。けど、腹いせに……魔法医全員の胃袋ぶっつかんで精神的に追い込みますから……覚悟してください」
「とんでもない、善意の脅しだな」
「ふん! 私とサミュエルは新婚なんですよ! 三ヶ月も……うう……やっぱキツい!」
「今後の為に頑張れ」
「ゔぁい!」
私は、その間に王室で王子達に物語を聞かせたり、学会に顔を出して研究の近況報告を行ったりもした。
濃いんだよな。毎日が。一個一個のイベントがデカ過ぎて、疲れる。やっぱり、全ての疲れをぶっ飛ばすサミュエルの可愛さを浴びないと、一日がめちゃくちゃ長い。
「……あのぉ、アーサン先生? 工場の廃品置き場に用とはなんでしょうか?」
「馬車は金がかかるし、徒歩じゃ時間がかかってしまいます。金をかけずに移動時間を短縮出来る物が欲しいんですよ」
車椅子工場の破損や不良品で廃品としてゴミになる部品を工場長に許可を得て、ガチャガチャと組み立ていく。
「……自分で運転出来る車輪が、必要」
「ぉお……アーサン先生……これは?」
「自転車」
「じ……自転車? ってなんですか?」
「馬や牛が引かなくて、人の力で動く乗り物です」
「……はぁ」
「ちょっと試運転するんで、工場長さん見ててください」
「はい!」
あ、そうだ。ブレーキも作らないと事故るな。
前世じゃ車持ってなかったから、ずっとお世話になっていた乗り物。
絵を描く時にも、細部までしっかり見て描いてたけど、思ったよりちゃんと覚えてるもんだ。
『ギィコギィコ』
「うーん……」
「ぉ、おお! 素晴らしい! 短距離用の手押し三輪車は有りますが、縦並びの二輪車は初めてです!」
車椅子は小さな補助車輪が付いてるので四輪だ。
「(平にされてない道が多いから、自転車は大分気が早いけど、自分用ならいいでしょ)」
その後、工場長が整備士を呼んでくれて私の廃品自転車を整えてくれた。
「わぁ……なるほど。チェーンで」
「後輪を回して……へぇぇ~」
自転車の構造が面白いみたいで、メモを取りながら、異音の出る原因である歪みを取り払ってくれたので、自転車を再度試運転。
『キィコキィコ』
「おお、いい感じです。スムーズになった。流石本職は腕が良いですね」
「へへ」
「あの、アーサン先生……どうやって乗ってるんですか? 大分難しいと思うんですけど」
自転車の初見って、そう思うよね。
慣れたら便利過ぎて手放せなくなるけど。
「慣れれば誰でも乗れます。まぁ、街中は危険だから乗れないですけど」
歩道も車道も無い道で乗り回せるものじゃない。
けど、見晴らしのいい一本道なら問題は無いだろう。
「ブレーキを着けたいんですけど……えーっと……こういう」
ブレーキの設計を絵に描いて、見せると……何故か畏怖の視線を向けられる。
「こうもポンポンと、思い浮かぶものなんですか?」
「え、いや……」
「アーサン先生って、本当に……何者?」
「……私はただの愛夫家です。産み出してきた物全て夫の為。コレも、一秒でも早く、彼に会いたいから作ってるんですよ」
思えば、チャリティーの品も薬も車椅子も……作る要因は彼だった。
サミュエルの為なら、なんだって出来る。
「「「(……愛って、凄いな)」」」
遠い目をしている工場長達にブレーキを取り付けてもらって、一応完成した。
自転車の耐久実験を仕事帰りに数日行って、いざ実践。
『キコキコキコ』
「……快適~」
前世からの慣れもあって、ダートでも乗りこなせた。
徒歩よりずっと速い。徒歩だと三日かかる道のりが、日を跨ぐ前に目的地に到着出来た。
ずっと漕いでると、流石に疲れるけど……
「アーサン?」
「はぁ……はぁ……サミュエル、進捗どう?」
大好きな人に会う為には、必要な労力だ。
走り込みを涼しい顔で熟しているサミュエルと、見苦しい程息を乱して汗だくの私。
「(気功使うの……忘れてた)」
「大丈夫か? 会いに来てくれたのは嬉しいけど、無茶すんなよ」
「うん……」
自転車を押して、ワン先生のお宅へお邪魔する。
「こんにちは」
「はいはい、こんにちはって、んあ? アーサン、ソレはなんだ?」
「自転車と言う乗り物です。上手く使えば、早く移動出来ます」
「……上手く使えたか?」
「きょ、今日はちょっと下手でした」
まだ肩を上下させて、汗だくの私を見て苦笑しながら、手でシッシと払う動作をする。
「風呂入って来い。汗臭い」
「すみません、お借りします」
ワン先生宅にある風呂場は、修練場の広い風呂とは違って普通のお風呂だ。
「……サミュエル、流石に男二人はキツイよ」
脱衣所までポテポテと後ろにくっついてきたサミュエルに言うが、彼は私の言葉を無視して隣に立つ。
「……俺と二人っきりだぞ? 嬉しくないのか?」
「ぁ、あーー……嬉しいです」
顔に出てはいなけど、私に会えて喜んでくれていたらしい。
察せなかった自分を恥ながらも、甘えてくれたサミュエルを抱き締めようとして……自分の状態を思い出して止まった。
「…………汗、流してから」
「女々しい事言うな」
『ガッ』
「ふぇあ!?」
サミュエルに抱き締められて、首元で深呼吸をされて焦る。
「汗臭いから!」
「アーサンの匂いが濃くなってるだけで、臭くはない」
「あ、ありがとう……でも、脱ぐから離れて」
「背中流してやるよ」
「…………頼もうかな」
久々に二人っきりだし、私も甘えてしまおう。
お湯で汗を流して、身体を洗う。
「…………」
「…………」
沈黙の時間。いろいろ話したい事があったんだけど、この状況で下手に動いたら……愚息が横着しそう。
『バシャン』
「綺麗になったぞ」
「うん、ありがとうサミュエル」
『ピト』
「…………サミュエルさん?」
背中にピッタリとくっつかれて、サミュエルの体温が直に伝わってくる。
気をちゃんと練れているようで、ポカポカと暖かい。
密室で二人っきり。裸でくっ付かれている。
いやいやいや、落ち着け。
私はスッと立ち上がって、背後のサミュエルに向き直る。
「アーサンッ」
「(……あ、あれ? なんか、サミュエルの様子が)」
「ん……」
あ、ダメだ。これスイッチ入ってるわ。
背伸びをして私に口付けて、積極的に舌を押し込んできた。
「……っは、ぁむ……ン」
『クチュ』
「んふ……んぅ」
歯列をなぞられて、舌裏から絡み取るように貪られる。息継ぎをする間もないぐらい激しくて……下腹部に熱が集中していく。
落ち着け……ココで致したら、ワン先生達に顔向け出来ない。
サミュエルの耳を覆うように両手で鷲掴んで、強引に引き離す。
『ピチャ……』
過剰分泌された唾液が、引き抜かれた舌と共に溢れて互いの口元を汚した。
「ん、ふぅ……サミュエル、これ以上は」
「……もっと」
「ああ、サミュエル……君も、私を恋しがってくれてたんだね。とても嬉しいけど……落ち着いて。ココじゃ君をゆっくり愛てあげられない」
トントントンと背を叩きながら、頭を撫でて猛りを沈ませる。
「アーサン……無理だ…………今まで大丈夫だったのに、お前の顔見たら……抑えが利かない」
「本当に、嬉しい事言ってくれるね」
愛されてるなぁ。
私達、新婚だもんなぁ。
♡♡♡中略♡♡♡
「サミュエル、コレ以上は我慢我慢。家に帰ったら、いっぱいシようね」
「……んぅ」
不服そうな顔だが、冷静になってくれたようで、私から離れた。
……けど、手は繋いだまま。
「……アーサン」
「うん?」
「…………なん、でもない」
「ふふ、キスは帰るまでいっぱいしてあげる」
お湯で冷や汗を流してから、服をザッと水洗いして、瞬間乾燥機にかけた。
魔法医を送り込んだガレー・ゼ・ルーラ大病院から、特訓で衣服の洗濯が馬鹿にならない量になるからと瞬間乾燥機三台が贈られてた。魔道具万歳、ものの五分で乾燥した。
「遅かったな」
「すみません。イチャイチャしてました」
「ちょっとは隠せ。サミュエル、走り込みに戻れ」
「……はい」
ワン先生に促されて、少し残念そうに外へと出て行ったサミュエル。
「では、私は夕飯の準備を──」
「アーサン、話がある」
「はい?」
「サミュエルについてだ」
「!」
急にワン先生の神妙な面持ちになる。
一体何の話かと思って、姿勢を正して、ワン先生の話を待つ。
「アッシも魔力量は多くない。ランクはEと最低値。じゃが、サミュエルには魔力が無い」
「はい。そうですね」
「魔力が少ない者ほど、気功の純度が高い傾向にある」
前にも聞いたけど、気功の純度ってなんだ? それによって何か変わるのか?
「気功にも純度があるんですよね。普通の気功とどう違うんですか?」
「純度が高い程、肉体への浸透力は通常とは桁違いだ。素早く、効率良く、肉体へと行き渡る」
なるほど。
けど、そんな事で私にわざわざ話があるなんてワン先生は言わない。
「……サミュエルの気功の純度は、高いんですか?」
「…………長年に渡り、気功師をしとるが……最高純度と言っていい」
「わぁ、すごい!」
「だが、それ故に……危険性も出てくる」
「危険性?」
サミュエルの気功は、魔力等の不純物が一切ない、純度が高い状態。
高純度が故の弊害も存在すると言う。
「サミュエルに護身術を教えているが……護身では済まない威力を、サミュエルは発揮している」
「……え?」
「肉体への浸透性が高過ぎて、身体能力を補助した際に、本人が思っている以上の一撃が出てしまう」
「…………コントロールは……出来ますか?」
「時間をかければな。護身術自体はあと一週間もすれば習得出来る。しかし、気功のコントロールは、最低でもあと三ヶ月は必要だ」
さ、三ヶ月!? 通常の三倍もの特訓時間が必要って事!?
え……ちょ、さん、三ヶ月は長いって。二週間でギブして会いに来てるのに。
「アッシがあの日、お前を説得してサミュエルをココへ残させた時とは訳が違う。お前にコレを拒否させるつもりはない。サミュエルが不用意に相手を、そして自分を傷付けぬようにせねばならん」
「…………サミュエルの為なら……我慢出来ます」
我慢も何も、私に拒否権は無いんだけどね。サミュエルにも拒否権は無いだろうし。
「通いますね。けど、腹いせに……魔法医全員の胃袋ぶっつかんで精神的に追い込みますから……覚悟してください」
「とんでもない、善意の脅しだな」
「ふん! 私とサミュエルは新婚なんですよ! 三ヶ月も……うう……やっぱキツい!」
「今後の為に頑張れ」
「ゔぁい!」
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