大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

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おまけ

46:ビリーフの偏執狂

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※サミュエル視点

 アーサンと出掛けると、観光客によく道を聞かれる。アーサンが。そしてランチも誘われている。

「ああ、ごめんなさい。今から夫と食事に行くので」

 夫……事実だが、そう言ってもらえるとすごく嬉しい。
 しかし、断られてから俺の事を見る相手の顔は信じられないと言いたげな事が殆んどだ。実際に、半数は断る為のジョークだと思って、信じていない。
 
「……アーサン」
「ん?」
「手繋ぎたい」
「私も♡」

 信じられなかろうが、アーサンは俺の夫だ。
 優しく指を絡ませて、手を繋ぐ。
 気功の影響かアーサンは俺よりも少し体温が高いから、手を繋いでいるとポカポカして温かい。

「ふふ」
「どうした?」
「……幸せだなぁと思って」

 突風のような微笑みだ。本当に心の底から、幸せを感じている。
 顔が熱いし、手汗がやばい。

「アーサン、やっぱ手離してくれ」
「やだよ。君の手汗で保湿して」
「気持ち悪い!」

 一気にヒヤッとした。行き過ぎた愛は背筋が冷える。
 しかし、アーサンは俺の事を優先してくれているから、パッと手を離してくれた。

「仕方ないな。腕組みで我慢する」
「!」

 俺の腕に、アーサンの腕が絡む。
 手を繋ぐより、目立つけれどコレはコレで悪くない。
 
「あ、ココだよ」
「異国の雰囲気があるな」
「異国の料理店だから」

 ここら辺の店では見ない、異国風の店だ。
 嗅ぎ慣れない、いい匂いがする。
 アーサンがこのカレー専門店を懐かしそうな表情をして見上げ、少し寂しそうにしていた。

『カランカラン』
「いらっさいマセ!」
「こんにちは」
「お二人サマ。テーブル席どうぞ」

 濃ゆい顔の店員に案内されて、小洒落たメニュー表があるテーブル席に座る。
 
「すごい独特な匂いだな」
「うん。食欲が湧いて仕方ない。はい、メニュー表」
「…………同じ名前の料理なのに、種類が多いな」
「カレーはカレーでも、混ぜる香辛料とか使用する肉で味わいが違ったりするからね」
「詳しいな」

 アーサンは、料理に関しては医学より詳しい。東の刺激的な赤い料理、この南の刺激的な黄色の料理。

「……北の国にも刺激的な料理はあるのか?」
「…………」

 言いたくなさそうに目線を逸らした。

「アーサン?」
「食べたい?」
「いや、気になっただけだ」
「……飲食店でするような話じゃないから調理法は省くけど」

 料理の話を料理の店で出来ないって、どんな調理法だ。

「すげえ刺激臭の料理がある」
「……へぇ」
「食べ方もココでは言えない」
「ええ?」

 なんでそんな料理の事知ってんだ?
 アーサンと何年も暮らしてるけど、俺はアーサンの事をあまり知らない。
 奴隷になる前の記憶が無いと言っていたが、この年齢にしてこの幅広過ぎる知識量は普通ではないと思う。
 今度詳しく聞いてみるか。

「さて、本題の……何カレー食べる?」
「えーっと……」

 字は読めるようになったが、文字の意味がわかるかは別だ。

「……アーサンは、何食べる?」
「バターチキンカレーの甘口二段階」
「(呪文か?)」
「辛さと甘さの段階が選べるなんて、すごい。サミュエルはどうする? 何か気になるのある?」
「…………この、ジョロカレーは辛いのか?」

 唐辛子のマークが並んでいるカレー名を指差すとアーサンはうーんっと腕を組んだ。

「ジョロは唐辛子の種類で三年前に世界一辛いって言われてた」
「せ、世界一」
「元だけど、一度は世界一になってる唐辛子。食べられると思うけど、明日お腹壊しちゃうかも」
「ん、んー……じゃあ、どれが一番良い?」

 もうわからないからアーサンに任せる事にした。

「カレー食べた事ないなら、普通のカレーで自分の位置を把握するといいよ。もっと甘いのがいいか、辛いのがいいのか」
「わかった。スタンダードなカレーにする」

 注文をして、料理が来るまでここ異国感を味わうように内装を見渡す。

「こっちと造りがだいぶ違うな」
「建築方法や内装の配置がお国柄出るよね」
「暑いけど爽やかさのある店内だ」

 そうこうしているうちに、カレーが運ばれてきた。
 焼いたパンに茶色いソースを付けて食べるらしい。

「これがカレー……うn「それ以上言ったら流石の私でも怒るよ」……悪かった」

 見た目の感動がパッと見それだったから、つい先走ってしまった。
 初めてアーサンに睨まれて……う、嬉しいって感情が湧くのって、ヤバいんじゃないか? だって、アーサンは俺に甘々だから厳しく接する事なんてほぼ無かった。

「(……落ち着こう。気持ち悪い思考になってる)」
「美味しい~」
「…………」
『ペト……ハグ』
「ウッ!」

 ッッッマ! なんだコレ! ピリッとしててトロッとしてて、苦いようで甘いような、幾つもの香ばしさが束になって鼻から抜ける。
 いくら食べても飽きない美味さだ。

「私のも一口あげる」

 差し出されたパンについているソースは俺の物よりオレンジ色が強かった。

「あ」

 アーサンの手から食べたそれは、甘くてクリーミーでバターの香りと鶏肉の旨味が脳までぶち抜ける。

「う、まぃ」
「ふふ。食の趣味合うね」
「ああ、そうだな」

 アーサンの食べていたバターチキンカレーは、俺の好みど真ん中だった。

「半分食べたから、交換しよっか」
「ぇ?」
「そっちも食べたい。ねえ、いいでしょ?」

 わがままを言っているようで、俺の表情を察して取り替えをしようとしてくれている。
 仕方ないなと言いつつ、俺はアーサンの好意に甘える。
 ああ、悔しい。いい男だ。

「ぅま……」

 俺の食いさしのスタンダードなカレーを食べたアーサンは、また懐かしそうな、寂しそうな顔をした。

「(もしかして……故郷の味なのか?)」

 大切そうに一口一口堪能しているアーサンを見ながら、俺もカレーを平らげた。

「美味しかったです。また来ますね」
「まってるヨ!」

 店を出たら、微風に肌を涼められる。
 知らないうちに汗をかいていたようだ。

「本当に美味しかったぁ」
「ああ」
「また来ようね。ふふ、甘口好きなんだ」
「……そうだな。好きな味だった」

 俺の返答に、声には出さないが可愛いと言いたげなオーラが出ていた。

「すみません」
「はい」
「ここら辺に新しい飲食店が出来たって聞いて来たんですけど」

 観光客らしい綺麗な女性達に声をかけられて、アーサンはにこやかに先程の店の案内をしている。

「それでしたら、彼方のお店ですね。とっても美味しいのできっといい旅の思い出になります」
「ありがとうございます。お兄さんもご一緒に如何ですか?」
「旅のいい思い出にお兄さんにも居て欲しいなーって」

 俺を無視してアーサンの両側を陣取ったのを見てサッとアーサンの袖口を掴んで、少し後ろに下がる。

「すみません。夫と来ているので」
「えぇ? そんな嘘良いって。お兄さんもちょっと興味あるでしょ?」
「え?」
「お願い~」
『グイグイ』

 腕を組まれて、引っ張られるアーサン。
俺は慌ててアーサンの腕を引き、二人から引き剥がして自分の背後に庇う。

『グン!』
「すみません、人の旦那にあまりベタベタしないでくれ」
「……あ、もしかして……マジだった?」
「ごめんなさい、悪い……事じゃないか、ただの冗談だと思って」
「ああ、同性婚が珍しい感じですか?」
「「「(そうじゃない!)」」」

 俺がアーサンに吊り合ってないって事なんだよ。でも他の国では、同性婚って言うのか。この国では全部ひっくるめて《結婚》だからな。

「珍しい事ではないので変に意識せず、楽しんでってください」
「……チッ」
「威嚇しないの。ふふ、妬いちゃって可愛い」

 アーサンが背後からデレデレ顔で俺の頭をよしよしし始めて、二人がドン引きしている。

「さっさと行け! 見せもんじゃねえぞ!」
「は、はいぃ」
「失礼しました!」

 ナンパされた本人は、能天気だ。あのまま連れて行かれてもすぐに断って戻ってきただろうが、人の夫にベタベタ触られるのがマジでムカつく。俺のアーサンなのに。

「……怒ってる?」
「怒ってる。もっとピシャリと言ってやれよ」
「十分言ってるんだけどな……」

 さっきの睨みが咄嗟に出来たらいいんだけど。

「もっと強く。ナンパなんて突っぱねろ」
「ナンパ? さっきのが?」
「……そうだろ」
「リップサービスじゃないのか……そうか。ナンパか」
「リップサービスにしても、普通はあんなベタベタ触らないんだよ」

 ふーんっと納得してるのか、してないのかわからない。
 無警戒さになんだか気を張ってるこっちが虚しくなってくる。
 俺はアーサンの腕を抱いて、肩に顔を埋めた。

「アーサンは……俺だけの旦那だ。勝手に触らせてんじゃねえよ」
「!?」
「ちょっとは自衛しろ。俺の為に」
「…………わかった」

 あれ? なんかキリッとしてる。
 どこで気合い入ってんだ?
 その日一日は、お願い通りお誘いはピシャッと全部断ってくれた。
 つか、マジでナンパ率やべえ。どうなってんだこの街。観光客増えてるにしても、こうポンポンされるもんか? 
 俺が居ない時、ちゃんと断れるのか心配だ。

 数週間後、チャリティーの手伝いに教会へ行った際、フェンが嬉しそうに俺へ報告しに来た。

「この前ね。アーサン君が教会に来た貴族にナンパされてて、いつも愛想良くして相手調子に乗らせがちなんだけど──」

『私には、生涯を誓った愛しい夫がいるので、申し訳ありませんが触らないでいただけますか? 私は誠実でありたいので』

「──だって! きゃぁ~~愛されてる~~!」
「……アイツ、出来んじゃんか」

 ああ、そうか。自分に無頓着で魅力もわかっていないような奴だ。どう注意喚起しても、大袈裟に言ってるだけって捉えられてた可能性がある。
 だが、アーサンは俺が大好きだ。俺の為ならなんだってしてくれる。
 俺の為に、自分を守るようになってくれたんだ。

「(……なんか、湧いてくるこの気持ちはよくわかんねえけど、帰ったら褒めてやろう。たくさん)」
「けど、略奪に燃えるタイプも居るから気を付けてね」
「度し難いな……はぁ、気を付ける」

 しかし、不思議だ。男は皆、アーサンを可愛がる立場に立ちたがる。
 確かにアーサンは可愛いし、その気持ちはわからんでもないが……

「ただいま」
「おかえり~」
『ちゅっちゅちゅ』
「んっんん……なんだ急に」
「サミュエルの顔見たら猛烈にキスしたくなった」
「うぶ、んんん」

 当のアーサンは俺を可愛がりたくて仕方がない様子だ。
 キスをしながら抱き抱えられて、ベッドに下ろされる。

「ぷは……随分と性急だな」
「職場で君の事話したら、愛しさが溢れてしまって」

 ギラギラと熱っぽい目で見つめ、俺の頬を両手で包む。

「可愛い……ずっと見てられる」
「見てるだけでいいのか?」
「……危ないなぁ。私だって男だよ。煽ったら、止まれなくなっちゃうけど?」

 この雄の顔したアーサンを見せてやりたいが、コレは俺の特権だから誰にも見せたくない。
 アーサンに求められるのが、堪らなく嬉しい。

「いいぞ。自衛してくれてるご褒美だ」
「ッ!!」

 アーサンが勢いよく覆い被さって唇を奪いに来る。舌を絡めながら、体重を掛けられてベッドへ押し倒された。

「はぁ、サミュエル……サミュエル」

 誰にも理解されないかもしれない。
 けど、俺はたった一人の傾向だろうとこの気持ちに嘘は吐かない。

「俺を目一杯可愛がってくれ」
「ぅぐ! なんて煽り方しやがる」
「本心だ」

 アーサンの欲望を一心に受け止めたい。受け入れたい。満たされたい。

「今後も自衛よろしく」
「わかった! 頑張る!」
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