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おまけ
45:セルフレビューの齟齬
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※サミュエル目線
アーサンと結婚して何が劇的に変わったかと言うと……
「サミュエルって名前、どうやって考えたの?」
「今聞くのか」
夜に営みの時間が出来た事だ。
アーサンが俺のシャツに手をかけながら思い出したように、名前について聞いてきた。
こちとら口から心臓が飛び出そうなのに、呑気にしやがって。
「つい……由来知っておいた方が、呼ぶ時にもっと愛おしくなるかもって」
「~~っ……」
俺の手をとって絵本に出てくる王子のようなキスをするアーサンに、俺はもう答えるしか道がなくなった。
『ちゅっ』
アーサンの仕草は様になっている。本当に絵になる男だ。
「(ああ……クソッ、好きだな)」
「サミュエル」
「わかった。教えるから、手に口付けるな」
「はい」
そんな凝った名前じゃない。最高の名前だと自負はしているが、アーサンからしたら、そこまで深い意味もない。
「お前と……エルデンから、名前貰った。それだけだ」
「ぇ、え?」
エルデンの名が出た瞬間、琥珀の瞳が零れ落ちそうな程、目をかっぴらいた。予想以上に衝撃を受けている様子。
「私の……“サ”と……エルデン君の……“エル”?」
「そうだ」
「は、マジで?? すげぇ……こんな事ある??」
頭を抱えながら、ブツブツと感動に打ちひしがれるアーサン。
「(そんなにか?)」
「ふっく、ぅう」
「泣ッ、くなよ! 人の上で」
「ごめ、感動しちゃって」
「たく……お前は泣き虫だな」
アーサンの泣き顔をよく見ている気がする。昔っから、何故か俺の事になると涙脆い。俺の事好き過ぎるだろ。
「ズビ……じゃぁ、“ミュ”は何処から来たの?」
「俺からだ。自分で考えた場所だ」
「ミュ……?」
首を傾げるアーサンに見つめられて、気恥ずかしくなって顔を背ける。
「どう思う?」
「ミュ……なんか、暖色系の柔らかい音で……その……」
「…………いつもお前が言ってるだろ」
自分の口から言うと、すげぇ恥ずかしいな。
「……可愛いって」
「!?」
「俺は可愛い、から……そういう、響きの音……採用した」
「…………え、ええ? えええ!? か、可愛いから、“ミュ”にしたの!? うっそでしょ!? なにその可愛い理由!! 私が可愛い可愛い言うからついに自覚持ってくれたの!?」
騒がしい。こっちの羞恥も知らずに、クソ!
「ギャーギャーうるせぇ。そうだよ……お前が世界一可愛いって言うから……」
「事実だよ! でも今この瞬間、事実を上回った! 宇宙一可愛いよぉ!」
「うちゅ? 何言ってんだ?」
「ああ~萌えて悶えて動悸息切れ激しいわ今、血管切れそう」
「不穏な単語が聞こえ過ぎて、怖い」
アーサンは俺を抱き締めて「可愛い」と連呼する。
別に自覚を持っているわけじゃない。今でも、自分を可愛いとは思えない。
だけど、アーサンに可愛いって言われるのは悪くない。
いつしか、アーサンに可愛いと言われたいとさえ思うようになった。
「可愛い。サミュエル……サミュエル♡」
「……俺、可愛い?」
「ッッ~~♡♡!! がわぃいい!」
等身大の俺でも、背伸びしてる俺でも、骨と皮になった骸骨のような俺でも、アーサンは迷いなく、ずっとずっと言い続けてくれた。
アーサンの俺へ言う可愛いは、好きとか愛してる、好意全てを内包している。
「私以外にこんな可愛いとこ見せちゃダメだからね!」
「お前以外に俺を可愛いって思うヤツいねえよ」
「……そ、そんな事ないって、言いたいけど、そうでなきゃ困る!」
「(お前も十分可愛いけどな)」
アーサンは知らないらしいが、マグナ曰く、アーサンは馬鹿みたいにモテる。俺に全神経向けてるから、本当に警戒心が無くて、周りが苦労している。
誰にでも優しくて、女っぽいところがあるからか、異性相手の会話も共感力も高い。
職場で男女共にアプローチをかけられても全く気付かないらしい。パンツ取られても笑ってるって言ってた。
「お前は自分の魅力をもっと自覚した方がいい」
「ん? 私の魅力? うーん……魔力コントロール」
「そこじゃない。外見や中身の話だ」
「……自分の事ってさ、可愛く思えないよね」
遠い目して、スッゲェしみじみ言われた。
この自覚の無さ……思ったよりヤバいかもしれない。
その日は、寝るまで可愛い可愛いと名と共に愛られながら就寝した。
後日、定期検診で主治医に相談する事にした。
「アーサンの自己評価が低い」
すると、主治医のマグナは「あー……」と何かを察したような顔をした。
「そうだな……アイツは自分の顔が良い事も知らない。顔面の良さは興味無いんだろう。家柄や地位や名誉にも」
「…………そうだろうな」
「俺の顔見て言うな」
マグナは、認めるのは癪だが凄く顔が良い。アーサンとは別ベクトルで美形だ。
美しく家柄も良い高給取りのマグナではなく、薄汚く何も無い安い稼ぎの俺を一途に求め続けた。生死さえわからない間も。
「それを差し置いても……良い奴だからな。誰にでも優しいし配慮も出来る。最近じゃ、車椅子患者の為にスロープを実費でいろんな場所に設置して……はぁ」
「…………」
「サミュエル。アーサンが既婚者で超の付く愛夫家であっても、言い寄る奴らは多い。ちゃんと自覚持たせないといつか誰かに食われる」
容易に想像出来る。
結構ホワホワしてるからな。俺の事になると激情するけど、自分の事はからっきし。
「職場じゃ俺が守ってやるけど、外じゃお前が守れ。いいな」
「……わかった」
アーサンが自覚を持てるまで、俺達の苦労は続く。
アーサンと結婚して何が劇的に変わったかと言うと……
「サミュエルって名前、どうやって考えたの?」
「今聞くのか」
夜に営みの時間が出来た事だ。
アーサンが俺のシャツに手をかけながら思い出したように、名前について聞いてきた。
こちとら口から心臓が飛び出そうなのに、呑気にしやがって。
「つい……由来知っておいた方が、呼ぶ時にもっと愛おしくなるかもって」
「~~っ……」
俺の手をとって絵本に出てくる王子のようなキスをするアーサンに、俺はもう答えるしか道がなくなった。
『ちゅっ』
アーサンの仕草は様になっている。本当に絵になる男だ。
「(ああ……クソッ、好きだな)」
「サミュエル」
「わかった。教えるから、手に口付けるな」
「はい」
そんな凝った名前じゃない。最高の名前だと自負はしているが、アーサンからしたら、そこまで深い意味もない。
「お前と……エルデンから、名前貰った。それだけだ」
「ぇ、え?」
エルデンの名が出た瞬間、琥珀の瞳が零れ落ちそうな程、目をかっぴらいた。予想以上に衝撃を受けている様子。
「私の……“サ”と……エルデン君の……“エル”?」
「そうだ」
「は、マジで?? すげぇ……こんな事ある??」
頭を抱えながら、ブツブツと感動に打ちひしがれるアーサン。
「(そんなにか?)」
「ふっく、ぅう」
「泣ッ、くなよ! 人の上で」
「ごめ、感動しちゃって」
「たく……お前は泣き虫だな」
アーサンの泣き顔をよく見ている気がする。昔っから、何故か俺の事になると涙脆い。俺の事好き過ぎるだろ。
「ズビ……じゃぁ、“ミュ”は何処から来たの?」
「俺からだ。自分で考えた場所だ」
「ミュ……?」
首を傾げるアーサンに見つめられて、気恥ずかしくなって顔を背ける。
「どう思う?」
「ミュ……なんか、暖色系の柔らかい音で……その……」
「…………いつもお前が言ってるだろ」
自分の口から言うと、すげぇ恥ずかしいな。
「……可愛いって」
「!?」
「俺は可愛い、から……そういう、響きの音……採用した」
「…………え、ええ? えええ!? か、可愛いから、“ミュ”にしたの!? うっそでしょ!? なにその可愛い理由!! 私が可愛い可愛い言うからついに自覚持ってくれたの!?」
騒がしい。こっちの羞恥も知らずに、クソ!
「ギャーギャーうるせぇ。そうだよ……お前が世界一可愛いって言うから……」
「事実だよ! でも今この瞬間、事実を上回った! 宇宙一可愛いよぉ!」
「うちゅ? 何言ってんだ?」
「ああ~萌えて悶えて動悸息切れ激しいわ今、血管切れそう」
「不穏な単語が聞こえ過ぎて、怖い」
アーサンは俺を抱き締めて「可愛い」と連呼する。
別に自覚を持っているわけじゃない。今でも、自分を可愛いとは思えない。
だけど、アーサンに可愛いって言われるのは悪くない。
いつしか、アーサンに可愛いと言われたいとさえ思うようになった。
「可愛い。サミュエル……サミュエル♡」
「……俺、可愛い?」
「ッッ~~♡♡!! がわぃいい!」
等身大の俺でも、背伸びしてる俺でも、骨と皮になった骸骨のような俺でも、アーサンは迷いなく、ずっとずっと言い続けてくれた。
アーサンの俺へ言う可愛いは、好きとか愛してる、好意全てを内包している。
「私以外にこんな可愛いとこ見せちゃダメだからね!」
「お前以外に俺を可愛いって思うヤツいねえよ」
「……そ、そんな事ないって、言いたいけど、そうでなきゃ困る!」
「(お前も十分可愛いけどな)」
アーサンは知らないらしいが、マグナ曰く、アーサンは馬鹿みたいにモテる。俺に全神経向けてるから、本当に警戒心が無くて、周りが苦労している。
誰にでも優しくて、女っぽいところがあるからか、異性相手の会話も共感力も高い。
職場で男女共にアプローチをかけられても全く気付かないらしい。パンツ取られても笑ってるって言ってた。
「お前は自分の魅力をもっと自覚した方がいい」
「ん? 私の魅力? うーん……魔力コントロール」
「そこじゃない。外見や中身の話だ」
「……自分の事ってさ、可愛く思えないよね」
遠い目して、スッゲェしみじみ言われた。
この自覚の無さ……思ったよりヤバいかもしれない。
その日は、寝るまで可愛い可愛いと名と共に愛られながら就寝した。
後日、定期検診で主治医に相談する事にした。
「アーサンの自己評価が低い」
すると、主治医のマグナは「あー……」と何かを察したような顔をした。
「そうだな……アイツは自分の顔が良い事も知らない。顔面の良さは興味無いんだろう。家柄や地位や名誉にも」
「…………そうだろうな」
「俺の顔見て言うな」
マグナは、認めるのは癪だが凄く顔が良い。アーサンとは別ベクトルで美形だ。
美しく家柄も良い高給取りのマグナではなく、薄汚く何も無い安い稼ぎの俺を一途に求め続けた。生死さえわからない間も。
「それを差し置いても……良い奴だからな。誰にでも優しいし配慮も出来る。最近じゃ、車椅子患者の為にスロープを実費でいろんな場所に設置して……はぁ」
「…………」
「サミュエル。アーサンが既婚者で超の付く愛夫家であっても、言い寄る奴らは多い。ちゃんと自覚持たせないといつか誰かに食われる」
容易に想像出来る。
結構ホワホワしてるからな。俺の事になると激情するけど、自分の事はからっきし。
「職場じゃ俺が守ってやるけど、外じゃお前が守れ。いいな」
「……わかった」
アーサンが自覚を持てるまで、俺達の苦労は続く。
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