大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜

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おまけ

42:祝福のスイート

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 披露宴と言っても形式ばった物ではなく、好きに飲み食いしているだけ。

「アーサン! お前髪整えるとマグナ先生並にイケてるんだなぁ!」
「はは! スタイリストさんの手腕ですよ。あのヤバい天然物には及びません」
「人を褒めるか貶すかどちらかにしろ」
「褒めてます褒めてます」

「お兄ちゃんすごく綺麗」
「サミュエルって名前いつ決まったの!?」
「今朝」
「うわぁ、馬鹿じゃないのぉ」

 それぞれの知人に囲まれてワイワイと立食を楽しむ。
 孤児院の子ども達の料理は好評で、みんな良い笑顔だ。

「初めて食べたけど、コレすごい美味い」
「はぁぁ~~夜勤明けでそのまま来たけど、来てよかったぁ。うめぇ」
「飲み物もどぉぞ」
「ありがとう」

 子ども達も食べながら給仕もしている。
 自分達で作ったジュースも料理も美味しいと言われて照れ照れと嬉しそう。
 エルデン君もエリアーデちゃんと料理を堪能している。大仕事後での食事は美味かろう。
 
「良い式だった。だがアーサン、結婚生活に浮かれて寝坊しないように」
「はい、医院長。肝に銘じておきます」

 ジャナル医院長に釘を刺されてしまった。私は確実に浮かれる。そんで夜更かしして寝坊する。浮かれるタイミングはしっかり考えないと。

「アーサン君!」
「聖女様? そんな慌てていかがしました?」

 見えないと思ったら、中庭に慌てて駆け込んで来たフェン様に皆に注目が集まる。

「あの、王室から」
「王室?」
「アーーサーン!」

 教会の表口から子どもの声が聞こえた。ココには絶対居るはずのない子どもの。

「……え!? センフォニア様!?」

 こちらにブンブンと手を振って駆け寄ってくるこの国の第一王子様。お付きの方が慌てて止めようと追いかけているが、追いつく前に、私の腹に飛び込むように抱き付かれてしまった。

『ドフン!』
「う! 王子様、何故このような場所に……」
「名誉の民、アーサンが結婚すると聞いた! だから、王室を代表して祝いのケーキを持ってきたぞ!」
「ケーキ?」

 国の第一王子の登場に皆がどうしたら良いのかアワアワしている。とりあえず、背筋を伸ばして食事の手を止めた。

「えぇっと、ありがとうございます……?」
「なんだ? 嬉しくないのか?」
「兄様、急過ぎて皆さん困惑していますよ」
「リントニア様!」
「唐突に乱入してしまって申し訳ない。手配がギリギリで、訪問連絡を入れるタイミングも無く、このような形になってしまって」

 第二王子様までいらしてさぁ大変だ。
 私は名誉国民だけど一市民でしかない。そんな市民の結婚式に王子様が顔を出すなんてあり得ない。いや、ダメではないけど、危ないって。

「ぉお心遣い感謝致します」
「うむ! 皆と一緒に食べるといい! 王室御用達の店に注文したウエディングケーキだ!」
「ウエディングケーキ!?」

 ウエディングケーキなんてこっちでは、高価な上に運送手段の限られた超高級なケーキだ。

「こちらの机、失礼致します」
「この度は、ご結婚おめでとうございます」

 二人の運送業者がテキパキと動いて、料理の置かれていた机にスペースを作って二人がかりでそのスペースに魔法陣を展開する。

「物質転移召喚」
「及び、低速解凍」
『ブォン!』
「わぁ!」
「すごぉい! ケーキだ!」
「絵本のケーキみたい!」

 魔法陣から、ケーキが転送されて
 その大きさと高さは、一般的なホールの二倍以上。
 しかも、こってりと生クリームでコーティングされた上に、色とりどりのフルーツと砂糖菓子がふんだんに盛り付けられている。金粉を被ったチョコレート装飾の蝶が優雅に羽を休めるようにケーキに止まっている。
 子ども達が大興奮でケーキの周りに集まっていた。大人達も醸し出される甘い香りにゴクリと喉を鳴らした。

「……すごい」

 王室御用達というだけあってめちゃくちゃ高いだろうに……それをちょっと縁のある一市民の為に用意してくれるとは……懐のデカさ北海道か?

「以前、我々が貴方の食事中にお邪魔してしまった際にケーキを分けていただいたので、そのお礼でもあります」
「ええ……お言葉ですが、あまりにお礼が大き過ぎます。このお礼のお返しをしなければならないくらい」
「ふふん。そう言うと思って、コレを準備しておいた」

 センフォニア様にスッと渡されたのは、招待状だった。ああーー……話の続きで手を打ってやるって事か。

「王子様、そろそろお時間です」
「そうか。では、また会える日を楽しみにしているぞ!」
「それでは皆様、どうぞご遠慮なくお楽しみくださいませ。失礼いたしました」

 あまり長居する事はなく、二人は執事の方に急かされながら教会の側に停めていた馬車までバタバタと戻って行った。
 あの……まさか、勝手に来たんじゃないだろうな?
 ケーキの運送業者は迅速に最後の仕上げに私と彼の名をチョコレートプレートにチョコペンで書き込み、ケーキに飾った。
 そして、一礼してから自分達に魔法陣を展開させて、あっという間に帰って行ってしまった。
 残されたウエディングケーキに、私はポカンと口を開けていた。

「アーサン」
「……ああ、ごめん。急にこんな事になって」
「食べていいか?」
「へ?」

 すごい目を輝かせてサミュエルが私の許可を待っている。
 気付けば、子ども達も大人も全員私の許可を待っているようだ。

「……主役の私とサミュエルがチョコプレート貰うからね! 切り分けて、みんなで全部食べる事! さぁ、王子様達の善意に感謝しましょう!」
「「王子様ありがとうございます! いただきまぁす!!」」

 一気につついてぐちゃぐちゃにならないように、ウエディングケーキを神父様が包丁で切り分けて、皆に配ってくれた。

「ほら、アーサン。お前の分貰ってきた」
「ありがとう」
「……人付き合いって、大事なんだな」
「コレでそれ自覚するの現金過ぎるって」

 しみじみとサミュエルがケーキを見ながらそう言うものだから、思わず突っ込んでしまった。

『パク』
「うっっまい」

 甘いクリームとふわふわの生地。フルーツの甘酸っぱさがマッチしてとても美味しかった。
 現代においてもトップクラスのパティシエの粋じゃないか??

「……こんなふんわりしてるのに、優しい癖に、インパクトすごい。なんだコレ」
「あはは、皆君と同じ顔してる」

 口元のクリームを指で拭って行儀が悪いがペロリと舐める。

「甘い」
「…………っ、舐めるなよ」

 あ、照れてる。赤くなっちゃって……可愛いなぁ。

「(食べてしまいたい)」

 ……ああ、そうか。もう良いんだ。我慢しなくて。
 
「……ふぅぅ、理性的に。理性理性」
「?」
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