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13: 喫驚のリクルート

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 案内されたのは、屋根の無い風を凌げるだけの辛うじて廃屋だった名残のある場所。
 そこに子ども三人と成人が近い男女が一組。
 皆痩せている。靴すら履いていない。奴隷に着せられていたボロ布の衣服だけ。

「みんな、飯だぞ」
「おかえりー」
「その人、誰?」

 一斉に私へ視線が集まる。疑心と不安の入り混じった視線は居心地が悪い。

「俺の……古い知り合い」
「古いって……まさか、その子前に居た奴隷商のとこの?」
「まぁ、なんて巡り合わせ。それに白髪で整った容姿の……ずっと会いたいって言ってた子でしょ」
「う、うるさい! コイツからの差し入れだ!」
「「「わぁ!」」」

 どっさりとある食べ物は、彼らにとって何日分の食料になるのだろう。
 皆が食べ物に手をつけていく。最後に彼も口に運ぶ。

「美味しい! こんな食べていいの!?」
「ちゃんとした食事なんて何年振りかしら」
「ああ、ありがとうございます」
「いえ。これは前払いですから」
「は?」

 にこーっと笑いながら、私は彼らにも仕事の手伝いを願い出る。

「毎日美味しい食べ物を食べられて、屋根のある場所で布団で眠れる。仕事もあって金を自分で稼げる……勿論、表に立つ仕事ですよ」
「コレが毎日……」
「すごい……」
「でも……そんな美味い話がある?」

 そう簡単に乗っては来ない。

「別に私の話に乗る必要は無いんです。私はただ……彼に、幸せになって欲しいだけです。彼が気にかけるあなた達にも、飢えずに生きて行ける道があると示したいだけ」
「……ケッ……んで、俺なんかに」
「君は覚えてないかもしれないけど、私があの牢の中で生きていられたのは、君の温もりがあったから。この世界を生きようと思えたのも君の存在があったから。君は、私を人間でいさせてくれたんだよ」

 サラサラと口をついて出てきた台詞が恥ずかしくなった。だが、これが本心だ。
 
「お前……恥ずかしいヤツだな」
「私もそう思ってたところ」
「悪い人じゃないね」
「うん」
「ちょっと考えてみようかな」

 みんな少しづつ乗り気になってきてくれた。

「みんな名前ある?」
「うん。私、トーリ」
「僕、ヒュー」
「私はアオイ」

 子ども達が挙手をしながら教えてくれる。可愛いなぁ。

「私はエルサ」
「俺はココルデ」
「……」
「君は?」

 残っている彼に聞いてもプイッとそっぽを向いてしまう。

「お兄ちゃんね、お名前ずっと無いの」
「要らないって」
「ずっと無いの? 不便じゃない?」
「不便だし、墓に名前が書けないから早く決めろって言ってるんだけど聞かなくて」

 墓に……名前。
 そうか……ああ、そうだよな。この世に存在した最終証明って墓に刻まれた名だ。
 彼らはこのままじゃ仲間内で墓を建てることになるから、自分の名を決めたんだ。
 名付け理由がだいぶ……重いな。

「ねえ、君の名を私は呼びたい。墓の為じゃなくて、私の為に名前決めてよ」
「お前、傲慢過ぎんだろ。ふん、嫌なこった」
「私はアーサンって言うんだ」
「……アーサン?」

 彼が名を呼んでくれた。手足がジタバタ動きそうなぐらい嬉しい。顎の奥がぎゅっとする。

「名前呼ばれた。ふふ、嬉しい」
「大袈裟だな」
「二人とも嬉しそう」

 私達の様子を見て、一番年上であろう男の人が私へ手を差し出した。

「死に場所を探すより、君の話に乗る方が長生き出来そうだ」
「ええ。楽しく生きましょう」
「おい」
「まぁまぁ、いいじゃない」

 男の人の手も握り返す。この好機を見逃してはいけない。逃したくない。
 
「まずは隣町へ行って靴を買いましょうか」
「靴?」
「結構歩くから」

 それからの行動は手早く済んだ。
 靴を全員分、彼に渡した金で買って移動を開始した。
 腹いっぱい食べた子ども達は元気で、若い二人も寄り添い合って足取り軽く道を行く。

「…………」
「……うーん、ポチ」
「犬か」
「タマネギ」
「勝手に名付けようとすんな」

 名がないとやっぱり不便だ。
 道中思いつく限りのふざけた名前を提案して全却下された。私の呼び名を面倒臭がって自分で名乗るかもしれないし。

「三食食べれるなんて夢みたい」
「トーリ、水出せる?」
「うん!」

 この中で魔法がなんとか使えるのはトーリだけだったが、初級の水魔法だけでも使えて良かった。水の確保はトーリと天候次第だったらしい。
 手桶の水に布を浸して身体を綺麗にしていく。
 魔力量が少ないからか、そんなに水量は無い。いつも飲み水として消費されていたから、身体を清める事も出来なかったんだ。

「さっぱり~」
「風がきもちー」

 子どもって無限に走り回ってるよね。すごい体力してる。

「なぁ、アーサン」
「んぅー?」
「……お前、結局俺達に何やらせる気だ?」
「えっとねー、私教会でいろいろ売っててさー。けど、材料費とかバカにならんのよねー。孤児院でやってたジャガイモ畑を広げるのに、人手がいるんだよねー」
「低賃金で働かせるつもりか?」
「いやいや、月給十万ギルに出来高払い。衣食住の提供もあるぞ」

 出来るだけ自給自足で材料費抑えてるけど、それでも生産が追い付かんから畑広げなきゃって神父様言ってたから。

「畑仕事以外には路上紙芝居や訪問紙芝居もある」
「かみ? なんだそれ」
「見たらわかる。教会に来れば、お金の計算や文字の勉強も出来るし、あの子らの将来的にも悪く無いだろ?」
「……美味い話だ」
「いっぱい食わせてやるからな」

 プンッと彼はそっぽを向いてしまったが、話してわかってきたがその仕草は別に拒絶ではない。反応に困る時に顔を背けるようだ。年相応の仕草に胸がホッとする。
 けど、私は立場利用して選択肢の無い選択をさせてる大分嫌なヤツになっているのでサポートが終わったら彼らを見守る体制に入ろう。

「今日で野宿は最後だ。堪能しとけよー」
「もう十分だって」
「一生分したー」

 大人組と交代で火の番をしながら、野宿をした。野宿慣れしているメンバーのお陰で、虫除けの燻し草の事を知った。
 エルサさんのおばあちゃんが教えてくれた知恵袋が抜群に役立っている。

「……アーサン」
「ん?」
「寒い」
「…………私も肌寒い」

 別にそんな事はない。煙いけど快適だ。けれども、そうじゃない。寒いのだから、ひっついても変ではない。
 私達は身を寄せ合って手を重ねた。握らず、ただ重ねただけだが、鼻の奥がツンとする暖かさを感じる。

「おい……泣くな」
「ズッ…………ごめん。ごめんね。遅くなって、ごめん」
「別に待ってねぇし」

 私の涙を拭ってくれる枝のように痩せた指。ぐんぐんと愛おしさが湧き上がってくる。母性と言うには下卑た愛情。

「(なんで、この子にこんな惹かれるんだろう……)」
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